データの信頼性と正確性は、医療用医薬品の販売促進資材に掲載できるデータを絞り込む最初の関所だ。どれほど有利な数字であっても、その数字が事前に決めた問いに答えたものかどうか——この一点で、掲載できるかどうかが分かれる。「論文に載っている」「査読を通っている」という事実は、信頼性の必要条件ではあっても、十分条件ではない。

統計解析には二種類ある。研究を始める前に「この仮説を確かめる」と決めた検証的解析と、データを見てから「面白そうな傾向」を掘り下げる探索的解析だ。作成要領第1章2節は、この区別を採否の条件そのものに据えている。序章が掲げる「誤解を塞ぐ」と「検証可能性」は、まさにここに根を持つ。

01検証的解析と探索的解析——区別が採否の条件になる理由

臨床試験は通常、開始前に解析計画書(SAP)を定める。主要評価項目、副次評価項目、検定の多重性の調整方法、あらかじめ想定するサブグループなど、「何を確かめるか」をデータを見る前に固定する。これが事前規定だ。

事前規定がなければ、統計的に何でも証明できてしまう。20のサブグループを切ってどれかが有意になれば、5%水準の検定を使うだけで1つは偶然に有意になりうる。探索的解析は仮説を生む場所であって、仮説を確認する場所ではない——この原則を、作成要領は「事前規定された解析かつ科学的妥当性のある結果を除いては記載しない」という形で条文化している。

サブグループ解析の位置づけ

サブグループ解析を記載する場合は、解析計画にその統計解析手法があらかじめ記載されていることが要件となる。「試験後に患者を細かく分けたら特定の集団で有意差が出た」という成績は、事後の探索に相当し、検証的な根拠にはなれない。掲載するとしても、後述する事後解析の扱いに従う必要がある。

02事後解析——掲載できる条件と必要な表示

事後解析が一切掲載不可というわけではない。情報提供の意義が高い場合——重要な副作用のリスク因子を示唆する成績、あるいは患者数が限られるオーファン薬の有効性根拠として使用された集計など——には、掲載が認められる。ただし、条件がある。

事後解析を掲載する場合は、該当成績の冒頭に「事後解析である旨」と「なぜここに載せるのか(掲載理由)」を明記する。かつ表現は控えめにする。断定的な有効性の主張ではなく、「示唆する」「傾向が見られた」といったトーンで記す。

この要件が求めるのは、読み手が「これは仮説確認の結果か、仮説生成の結果か」をページ上で即座に判別できることだ。事後解析を検証的成績と並べて区別なく示せば、読み手は誤った確信を持ちかねない。序章の「誤解を塞ぐ」義務は、まさにここに働く。

03メタ解析——システマティックレビューであることの意味

メタ解析は複数の試験を統計的に統合するため、個別の試験より大きな検出力を持つように見える。しかし統合の質は、文献の収集と選択がどれだけ系統的かで決まる。恣意的に有利な文献を集めれば、メタ解析は偏りを拡大するだけだ。

作成要領はこの点を明確にする。メタ解析として掲載できるのはシステマティックレビューに基づくものに限る。さらに以下の情報を記載することが求められる。

なぜこれだけの情報が必要か。読み手(あるいは後の検証者)が「どこを探し、何を選び、何を落としたか」を追えるようにするためだ。検索過程を開示しないメタ解析は、どの文献が意図的に除外されたかを確かめる術がない。これは序章の検証可能性を、エビデンス統合の手順にまで貫いたものだ。

04「論文化されていれば事前計画と同格」という落とし穴

承認申請時に行われた臨床試験が後から論文化されることがある。論文が査読を経た事実は、その解析の信頼性を高める。しかし、論文化の過程で当初の解析計画と異なる再解析が行われていた場合、その論文成績は「事後解析」として扱われる

これは実務上の盲点になりやすい。「査読を通った原著論文だから使える」という判断は、一見もっともだ。しかし、査読は論文の論理的整合性や記述の妥当性を評価するものであり、「申請時の解析計画との一致」までは保証しない。承認申請時の試験が論文化される際に再解析を行ったものは、論文であっても事後解析として扱い、検証的根拠には用いない。

この規定は、「査読を通過した」という外形的な品質保証と、「事前に決めた問いに答えた」という統計的な誠実さが、別の評価軸であることを示している。論文掲載の事実が、事前計画の代替にはならない。

05正確性の三つの禁止——歪曲・選別・切り取り

信頼性が「どのデータを使うか」の問題だとすれば、正確性は「使うデータをどう示すか」の問題だ。作成要領は次の三点を禁じる。

① 元情報を意図的に歪めない

試験結果が示す数値・方向性・文脈を、資材の中で変形させてはならない。絶対リスク減少が小さくても相対リスク減少だけを強調する、信頼区間を見えにくくする、といった「見かけの操作」も歪曲に含まれる。

② 様々な解析を行い、解釈に都合のよい結果のみ提示しない

複数の解析を行ったうえで、有利な結果だけを選んで提示することは禁じられる。これはいわゆるチェリーピッキングだ。主要評価項目が有意差に達しなかったにもかかわらず、探索的に行ったサブグループ解析の有意な結果を前面に出すような構成は、この禁止に抵触する。

③ 原著論文の図表から都合のよい部分を切り取って提示しない

論文の図表を資材に転用する際、全体の傾向や対照群の成績を省いて、自社薬に有利な部分だけを切り出すことは許されない。グラフの縦軸をゼロ起点から外す、時系列の一部だけを示すといった視覚的な操作も、切り取りと同質の問題だ。

三つの禁止は形は違うが同じ構造を持つ。科学的に正しい事実を素材にしながら、配置・選択・切断によって読み手の判断を誘導する——これが「事実だが誤解させる」表現であり、作成要領が最も警戒するパターンだ。

結び

⑧データの信頼性・正確性が問うのは、「科学的に正しいか」という一点ではない。「事前に決めた問いへの答えか」「開示すべき文脈を省いていないか」という、より厳しい基準だ。論文化された事実、メタ解析という形式、図表という視覚的な根拠——どれも、それ単独では信頼性の証明にならない。

事前規定された解析と事後の探索を区別し、メタ解析の収集・選択過程を透明にし、「都合のよい部分だけ」という誘惑を三方向から遮断する。この規律が、序章の「誤解を塞ぐ」と「検証可能性」を、データ掲載の現場で具体化している。