01この事業は何を記録してきたのか
本事業の目的は、報告書に一貫して同じ言葉で書かれています。「広告違反に該当する行為を早期に発見し、行政指導等の必要な対応を図るとともに、製薬企業や業界団体等による自主的な取組を促すこと等により、製薬企業による医療用医薬品の販売情報提供活動の適正化を図ること」。取締だけを目的にしていないことが、この事業の性格を決めています。
仕組みはこうです。厚生労働省が全国の医療機関からモニター医療機関を選び、そこの医療従事者が、MR・MSL・卸の MS などから受けた販売情報提供活動のうち「適切性に疑義がある」と感じたものを事務局(三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング)経由で報告します。有識者と専門委員で構成する事例検討会が個々の事案を評価し、厚生労働省が法令違反に当たるかを行政上判断し、必要に応じて地方自治体と連携して行政指導を行う。あわせて業界団体に自主規範の見直しを依頼する ── この 6 段階です。
令和元年度からは、モニター医療機関以外の医療機関からも報告できる一般報告窓口が設けられました。母集団が広がったことで、報告件数の年次比較には注意が要ります。調査期間も年度によって 3 か月から 9 か月まで異なります。件数の増減をそのまま「違反が増えた/減った」と読んではいけないのは、この事業の数字を扱ううえでの前提です。
0210 年の推移 ── 数字が示す重心の移動
| 年度 | 調査期間 | 疑義報告のあった医薬品等 | 違反が疑われた項目 | 最多の違反疑い項目 |
|---|---|---|---|---|
| 平成 28 年度 | 3 か月 | 39 | 64 | (集計区分が後年と異なる) |
| 平成 29 年度 | 5 か月 | 52 | 67 | 事実誤認の恐れのある表現(41.8%) |
| 平成 30 年度 | 8 か月 | 45 | 74 | エビデンスのない説明(14.9%) |
| 令和元年度 | 8 か月 | 39 | 57 | エビデンスのない説明(24.6%) |
| 令和 2 年度 | 8 か月 | 14 | 17 | エビデンスのない説明(29.4%) |
| 令和 3 年度 | 9 か月 | 20 | 26 | エビデンスのない説明(38.5%) |
| 令和 4 年度 | 9 か月 | 17 | 23 | エビデンスのない説明(39.1%) |
| 令和 5 年度 | ─ | 18 | 26 | エビデンスのない説明(46.2%) |
| 令和 6 年度 | ─ | 18 | 23 | 事実誤認の恐れのある表現(21.7%) |
| 令和 7 年度 | ─ | 6 | 11 | エビデンスのない説明(36.4%) |
表から読めることは 2 つあります。第一に、「エビデンスのない説明」が平成 30 年度以降ほぼ一貫して首位であり、令和 5 年度には全項目の 46.2% に達したこと。第二に、令和 2 年度以降は件数の水準が一段下がり、令和 7 年度は 6 医薬品 11 項目まで減ったことです。ただし令和 2 年度の急減はコロナ下で面談機会そのものが減ったことの影響が大きく、令和 7 年度の減少については当局がガイドラインの浸透によるものと評価しています。
03平成 28 年度 ── 事業の初年度
- 高リン血症治療剤(MR の口頭説明) ── 自社製品に特有の副作用(特定の栄養成分が過剰になること)を注意喚起するパンフレットを用いながら、「この薬を使用すれば血液透析患者の症状に対し当該成分の補充が可能になる」「臨床検査値の上昇が期待できる」と、副作用を効能効果として逆手に取るプロモーションを行った。当該医療機関では実際に補充療法を実施しており、それが不要になるという説明は処方への影響が懸念された。
- 抗リウマチ薬(医療関係者向けサイトの企業配信動画) ── 添付文書の用法用量は 1 日 300mg 開始であるのに、動画では 1 日 100mg からの開始を推奨。あわせて併用群の優位を示すグラフで、棒の色を変える・点滅させるなどの強調を加えていた。
- 統合失調症薬(院内説明会のスライドと口頭説明) ── 承認された効能効果は統合失調症のみであるのに、スライドに「機能改善」を併記し他剤との違いとして訴求した。当該受容体への作用は他の抗精神病薬も有し、PMDA の審査報告書にヒトでの改善が見込まれる旨の記載はない。製品情報概要には当該記載がなく、説明会でのみこの説明がなされていた。
- 気管支拡張剤(企業主催 Web セミナーの図表) ── 主要評価項目のグラフについて、スライド上でのみ縦軸の一部を拡大し差を大きく見せた。製品情報概要には通常のグラフが掲載されており、スライドだけが視覚的に差を強調していた。
初年度の 4 事例のうち 3 事例が、「審査を通った資材は正しいのに、その場で使われたスライド・動画・口頭説明だけが逸脱している」という同じ形をしています。製品情報概要には書かれていない効能が説明会で語られ、製品情報概要では通常のグラフがスライドでは拡大される。違反は資材そのものではなく、資材と現場運用のあいだに発生していました。この構造は 10 年を通じて繰り返し現れます。
もう一つの特徴は、副作用を効能効果に読み替える事例です。注意喚起の資材を持参しながら、その注意喚起の内容を利益として語る。資材の存在が、かえって逸脱の入口になっています。
健康被害への重大性および悪質性等の観点から、ただちに取締を実施するまでの明白な事例はなかったと整理されました。3 か月という短い調査期間で 39 医薬品・64 項目の疑義が上がったこと自体を、まず可視化することに主眼が置かれた年度です。
行政指導だけでなく、製薬企業および業界団体による自主的な取組を促すことが事業目的に明記されました。報告案件の評価結果を業界団体に伝え、自主規範の見直しを依頼するという回路が、この年度から動き始めます。
04平成 29 年度 ── データ加工の技術が具体化した年
- 便秘関連治療薬(口頭説明) ── 「将来的に既存薬剤に置き換わる」「海外での適応は日本よりも広い」「便秘を訴える患者に広く使用可能」と、承認外の効能効果をほのめかす発言を重ねた。他のモニター医療機関でも同様の説明が確認され、広範囲での活動が疑われた。
- 抗がん剤(スライドと口頭説明) ── PFS のグラフに、インタビューフォームにも製品情報概要にもない補助線を、対照群との差が大きい 12 か月時点に追加。片群 200 例以上の試験で 12 か月時点に残っていた症例はわずか 11 例と 5 例だった。補助線の理由を尋ねると「最長観察期間に入れた」と説明したが、最長観察期間が 21 か月のグラフでも 12 か月に線が引かれており、説明は矛盾していた。
- 抗菌薬(ホームページと MR 提供資料) ── 比較試験の結果であるにもかかわらず、引用論文にある対照薬の結果を削除して掲載。非劣性・優越の判断を行ったとの記載はあるが、その評価結果は示されていなかった。
- 局所麻酔薬(口頭説明) ── 「データとして明確に提示できるものはないが」と前置きしたうえで、「他剤と比べて痛みが少ないと評判」「肌に優しいと言われている」と伝聞調で他社製品を貶め、優位性を主張した。インタビューフォームにも自社 HP にも根拠は確認できなかった。
- 利尿薬(製品情報概要) ── 「80 歳未満と 80 歳以上で全有害事象および重篤な有害事象は変わらなかった」という見出しの下に、高用量群では高ナトリウム血症の発生率に約 5% の差があることを示す表と注意書きが置かれていた。同じページ内で注意喚起はしているが、見出しだけを読めば安全性を誤認する構成だった。
- 抗リウマチ薬(プロモーション許可申請資料) ── 「類薬の特徴的な副作用の発現が少ない」の根拠を尋ねると、「それぞれの医薬品の添付文書に記載された副作用発現頻度を単純比較した」との回答だった。
- 潰瘍性大腸炎治療薬(説明会) ── 「副作用発現症例数は全体の 10% 程度」と説明。添付文書には約 55% に副作用が認められると記載されていた。紹介された第 III 相試験は、主な副作用である特定の血中濃度減少を盲検性の理由で評価対象外としたものだった。MR から自発的な説明はなく、RMP の重要な潜在的リスクにも触れなかった。
この年度の事例は、データ改変の手口が「消す」と「足す」の二方向に整理できることを示しました。引用元に存在する対照群を消す(抗菌薬)、引用元に存在しない補助線を足す(抗がん剤)。どちらも「引用した」という体裁を保ったまま結論を動かします。
もう一つは、比較の土俵をすり替える類型です。添付文書の副作用発現頻度を薬剤間で単純比較する、副作用を評価対象から外した試験の数字を全体像として語る。数字そのものは実在するのに、比べてよい数字ではない。「事実誤認の恐れのある表現」が全体の 41.8% を占めたのは、この形が多かったためです。
この年度中の平成 29 年 9 月 29 日、厚生労働省は医薬品等適正広告基準を改正(薬生発 0929 第 4 号)し、同日付で解説・留意事項通知を発出しました。デジタル媒体への明示的な言及、比較広告・推薦利用・患者証言の整理が含まれます。監視事業で可視化された類型が、基準の改正へ折り返された年度です。
引用の際にデータの抜粋・修正を行うこと、科学的に明確な理由なく補助線を引くことは、いずれも許容されない。引用は元データの構造を保ったまま行うという原則の徹底が求められました。
05平成 30 年度 ── 「口頭説明」が主戦場になった年
- パーキンソン病治療薬(口頭説明) ── 添付文書が併用禁忌薬剤との投与間隔を明記しているにもかかわらず、「明確なエビデンスがあるわけではなく、短縮しても保険の査定対象とならない」と説明。同様の説明が地域の医療機関で広く行われている様子だった。
- 脂質異常症治療薬(説明スライド) ── 審査報告書では 3 群比較試験であるところ、有効性のグラフで 1 群または 2 群の結果のみを抽出。低用量群とプラセボ群だけを示しており、増量しても結果に大きな差がないという事実が伝わらない構成だった。
- 酸分泌抑制薬(口頭説明) ── 維持療法での使用が想定されていない 5mg 製剤について、「医師の判断で減量が可能」を根拠に使用を勧奨。さらに「20mg 1 日 1 回より 10mg 1 日 2 回が効果が高い」という記載を外挿して「10mg 1 日 1 回より 5mg 1 日 2 回が効果が高い」と説明した。裏付けとなる研究はなかった。
- 抗菌薬(口頭説明・ヒアリング資料) ── 製品名に含まれる「卓越した」という語の由来を示し、「卓越した効果をもつ薬剤」と強調。臨床試験で検証されたのは対照薬に対する非劣性にすぎない。
- 抗がん剤(情報提供) ── 問い合わせがないのに「本剤のバイオシミラーが海外で承認されなかった」と情報提供。詳細は「入手していない」。複数のモニター医療機関から同種の報告があり、外挿による適応取得を強調する、「同等/同質」だが「同一」ではないと強調する、「切り替えることはできない」(実際には禁止されていない)などの説明も確認された。
- 緑内障・高眼圧症治療薬(口頭説明) ── 新薬の 14 日処方制限を理由に採用が困難と伝えたところ、「1 本処方すれば 1 か月使用できるので 1 か月ごとの来院間隔でも可能」と説明した。
- 鎮痛薬(サイト上の製品紹介動画) ── 安全性の根拠として引用した論文の責任著者が、当該企業の「医学専門アドバイザー」として報酬を得ていたが、動画中にCOI の表示はなかった。
違反の入手経路が「企業担当者の口頭説明」48.9% に集中しました。審査可能な資材から、審査できない発話へという重心の移動です。同時に「エビデンスのない説明」が初めて首位に立ちました。
この年度に固有の類型が 2 つあります。一つは制度の抜け道を教える説明 ── 保険で査定されない、処方日数制限は 1 本で回避できる。添付文書に反する使い方を、規制ではなく運用の話にすり替えています。もう一つはバイオシミラーへの組織的な牽制で、複数施設で同じ内容が確認されており、個人の逸脱では説明がつきません。
この年度中の平成 30 年 9 月 25 日、厚生労働省は「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」を発出しました(平成 31 年 4 月 1 日適用)。広告か否かの線引きではなく、販売情報提供活動そのものを対象とし、経営陣の責務、販売情報提供活動監督部門による資材の事前審査、担当者へのモニタリングと監督指導を求める枠組みです。口頭説明が主戦場になったことへの制度的な応答でした。
ガイドラインは、資材の適切性を担当者個人の判断に委ねず、監督部門による事前審査と定期的なモニタリングという組織の仕組みで担保することを求めました。「MR が言ってしまった」を組織の設計問題として扱う出発点です。
06令和元年度 ── 事業名が変わり、窓口が広がった年
- 鎮痛剤(口頭説明) ── 「適応外ではありますが」「海外のガイドラインでは」と前置きしつつ、会場からの質問がないにもかかわらず、呼吸困難症例や咳嗽症例への効果、腎機能低下患者での第一選択薬になりうる旨を説明した。
- 抗菌剤(説明会スライド) ── 複数の臨床試験の結果を合算して記載。主要評価項目と副次評価項目を同列に置き、適格基準の異なる試験や用量設定試験も混ぜ、個々の症例数を示さず、非劣性試験でありながら対照群の記載がなかった。
- 腎性貧血治療薬(口頭説明) ── 国内第 III 相試験で除外されていた関節リウマチ患者に対して「効果が期待できる薬剤」と説明した。
- 鎮痛剤(パンフレット・口頭説明) ── 「直接比較した試験はない」と断りつつ、解離半減期の差異を根拠に副作用が少ないと断定。審査報告書には、主な有害事象の発現割合は同程度と記載されていた。
- 抗がん剤(情報提供) ── 他剤への切替を検討していたところ、「他の施設では血管痛等の有害事象により採用品が元に戻っている」と伝聞で情報提供。詳細な調査内容には一切触れていなかった。
- COPD 治療薬(スライド・口頭説明) ── 「喘息合併の COPD は基本的に全例が本薬の対象」と記載。実際には肺炎リスク増加の観点から推奨されないケースがあるが、口頭でも副作用の説明は一切なかった。
- 入眠剤(Web 講習会) ── COI スライドは提示されたが、瞬きの間に消える程度の時間しか表示されず、内容を確認できなかった。
ガイドライン適用初年度です。事業名も「広告活動監視モニター事業」から「販売情報提供活動監視事業」へ変わり、モニター医療機関以外からも報告できる一般報告窓口が設けられました。啓発動画も作成・公開されています。
事例に共通するのは、「求められていないのに語る」という形です。質問がないのに適応外に言及し、問い合わせがないのに他社製品の不利な伝聞を持ち込む。ガイドラインは医療従事者からの求めに応じた情報提供に一定の余地を残しますが、その入口を自ら作りにいく行為が問題視されました。
COI の事例も重要です。「表示したか」ではなく「読める時間、表示したか」が問われた最初の年度でした。
報告経路を広げ、医療関係者への啓発を事業に組み込みました。違反の発見を、限られたモニター医療機関の観測に依存させない構造への転換です。
情報の受け手である医療従事者が、不適切と思われる情報提供を受けた場合にその場で適切な情報提供を求めること。この相互作用そのものが適正化の手段だという考え方が、以降の報告書で繰り返し述べられます。
07令和 2 年度 ── 面談がオンラインに移った年
- アルコール依存症治療薬(口頭説明) ── 添付文書に処方の条件として研修受講が定められているのに、「医師さえ研修を受けていれば他の職種が受けていなくても処方している例はある」と、条件を無視してよいと受け取れる説明を行った。
- 抗リウマチ薬(口頭説明) ── 審査報告書上は本剤と他剤の投与を切り替えて行った試験であるのに、インタビューフォームや総合製品情報概要の試験デザイン図には他剤の投与に関する記載がなく、本剤単剤への切替と誤解を招く図になっていた。
- 抗リウマチ薬(オンライングループ面談) ── 臨床効果を比較した試験がないにもかかわらず、「選択性が高く、既存の同効薬より優れている」と説明した。
- 抗精神病薬(オンライン面談) ── 資料下部に「本剤投与群と類薬投与群との比較を示したものではない」と注記があるにもかかわらず、各群のプラセボに対する優越性検証の結果を用いて類薬と同等の有効性があると説明した。
- 抗菌薬(オンライングループ面談) ── スライドには成分名しか書かれていないが、口頭でのみ他社の製品名を何度も挙げて比較を行った。
- 腎性貧血治療薬(オンライン面談) ── 比較データがないのに「国内臨床試験にて副作用が認められていないため、他剤と比べて安全な薬剤である」と説明した。
- Web セミナー ── いずれの発表者も COI 開示を行わなかった。発表者によれば、メーカーから COI 開示を求められなかったためであった。
入手経路が一気に反転しました。オンライン個人面談 35.7% が最多となり、直接対面は 21.4% にとどまります。これに伴い、「資料には書かず、口頭でだけ言う」という分離がはっきり現れます(抗菌薬の他社製品名、抗精神病薬の注記の無効化)。文書は審査を通り、音声は残らないという非対称が利用されています。
Web セミナーの COI 非開示は、演者の不作為ではなく主催企業が求めなかったことが原因でした。責任の所在が企業側にあることを示した事例です。
なお、疑義報告は 14 医薬品 17 項目まで減りましたが、これは面談機会そのものの減少を大きく反映しており、適正化の証拠として読むことはできません。
ガイドラインは媒体を問わず販売情報提供活動全般に適用されます。オンラインであることは適用除外の理由になりません。
企業主催のセミナーについては、登壇者に COI 開示を求めることを含め、企業側が場の適切性に責任を持つことが求められました。
08令和 3 年度 ── 誹謗中傷が急増した年
- SGLT2 阻害剤(説明) ── 求めがないのに「HFpEF に対する適応はないが有効性が論文で報告されている。慢性腎臓病が適応追加されたため、HFpEF の患者に対しても慢性腎臓病の病名をつけて処方がしやすくなったと医師が言っている」と言及した。
- 皮膚炎用薬(オンライン面談の資料) ── 本剤群と A 剤群の直接比較を行わない試験デザインであるのに、原著論文にはない群間差推定値を両群間に追記。総合製品情報概要と企業 HP にも同じ記載があり、直接比較したかのような印象を与えていた。
- 腎性貧血治療薬(説明) ── 血栓塞栓症が少ないという事実がないのに「緩徐な Hb 値上昇が特徴であり血栓塞栓症リスクが低い」と発言した。
- 糖尿病薬(説明・スライド) ── 日本人サブグループ解析で有意差がないのに「日本人でもしっかりと差が出ている」と説明。指摘されると「○○教授も十分な効果が期待できると言っている」と権威の言葉に切り替えた。
- 片頭痛予防薬(オンライン面談・上司同席) ── 共有された比較表自体に問題はなかったが、質問していないのに「A 剤は初回倍量投与しなければいけない」「B 剤は便秘が多い」と他社製品を誹謗。上司も同席しており、組織的に行っている可能性がうかがわれた。
- 心不全治療薬(オンライン説明会) ── 有意差が示された海外第 III 相試験の結果のみを説明し、有意差を示せなかった国内第 III 相試験の結果を全く説明しなかった。複数施設で同様のことが確認された。
「他社製品の誹謗・中傷」が 19.2% へ急増しました。注目すべきは組織性の徴候です。上司同席の場で行われる、複数施設で同一の説明が確認される ── 個人の逸脱では説明できません。
もう一つは「語らないことによる誇張」です。心不全治療薬の事例では、虚偽の陳述は一つもありません。有意差の出た試験だけを説明し、出なかった試験を説明しない。この年度以降、「有効性のみを強調した」という区分が、積極的な誇大と並ぶ主要類型になっていきます。
SGLT2 阻害剤の事例は、適応追加を適応外使用の入口として使う形を示しています。病名の付け替えという運用に言及した時点で、承認の枠は実質的に無効化されます。
原著論文にないデータをグラフ作成時に追記することは「書きすぎ」であり、直接比較していない群間の推定値を示すことは事実誤認を招くと評価されました。
組織的に不適切な販売情報提供活動を行っていると疑われる事例について、製薬会社・業界団体が自らコンプライアンス遵守の徹底を図ることが求められました。
09令和 4 年度 ── 患者向け資材と「誘導型」誹謗
- 解熱鎮痛消炎剤(患者向け資材) ── 全身作用型貼付剤である本剤の効果を、経口薬・局所作用型貼付剤より強く広範囲に見せる図を掲載。本剤は濃い色で全身末端まで着色し「全身」の文字を強調する一方、経口薬は「全身に働く」としながら薄い色・狭い範囲で描き、「全身」の強調もしていなかった。
- 無機質製剤(オンライン説明会) ── 電子添文が生理食塩液以外の輸液を使用しないと定めているのに、質問がないなかで「他施設では生食 50mL に溶解している」「5% ブドウ糖液で溶解して問題はなかったと聞いている」と伝聞で投与方法を紹介した。
- モノクローナル抗体製剤(説明) ── 適応はそう痒に限られるのに「かゆみの後に生じる皮疹にも効果が認められている」と説明。根拠は国内第 III 相試験の副次評価項目だった。副次評価項目の情報提供自体は問題ないが、それをもって未承認の効能効果を説明することは適応外使用の推進にあたる。
- 糖尿病治療薬(オンライン説明会) ── 本剤群のみのグラフを示しつつ、「スライドには示しておりませんが、他剤群では濃度依存的な乳酸値の増加が確認されており、本剤は乳酸アシドーシスのリスクが少ないことが期待されます」と口頭で他剤群を補った。RMP では「乳酸アシドーシス」が重要な潜在的リスクに設定されている。
- 腫瘍用薬(オンライン面談) ── 他社製品のデータやグラフを示さずに製品名を出し、「他社製品の臨床試験結果ではここまでのデータは出ていませんでしたが、先生、どのようにお考えでしょうか」と医療従事者から誹謗の意見を引き出そうと誘導した。
- 骨粗鬆症治療剤(説明) ── レビュー論文の概念図を示し「アナボリックウインドウが良く優れている」と説明。概念的な考え方を示した図であって、実際の臨床効果を示すものではなかった。
この年度の特徴は 3 つあります。第一に、患者向け資材が事例に登場したこと。色の濃さ、着色範囲、文字の大きさという、文言としては何も誤っていない要素だけで優劣の印象が作られています。
第二に、誘導型の誹謗です。自分では他社を貶めず、医療従事者に言わせようとする。発言主体を移すことで形式上の違反を避ける構えです。
第三に、スライドと口頭の役割分担が明確な意図をもって使われたこと(糖尿病治療薬)。書かない、しかし言う。令和 2 年度に現れた分離が、より計画的な形をとっています。
副次評価項目の情報提供は問題ないが、その結果をもって未承認の効能効果を説明することは適応外使用の推進にあたり不適切である ── この線引きが明示されました。
適切な資料やデータを用いること。概念図と臨床効果を示すデータを混同しないこと。RMP に記載されたリスクを、有効性の説明のなかで打ち消さないこと。
10令和 5 年度 ── 「エビデンスのない説明」が半数に迫った年
- 高脂血症治療薬(オンライン説明会の資料) ── 製剤特性の好みに関するアンケートを提示したが、対象は重度の喘息患者で本剤の投与対象ではなく、しかも医療保障制度の異なる海外の調査だった。さらに出典元グラフから自社に都合の良い部分のみを抜粋していた。
- 抗ウイルス剤(メール一斉配信の DM) ── 相互作用の比較グラフから、原著論文にあったノンインタラクション(どちらを選んでも変わらない)群を削除していた。
- 耳鼻科用剤(オンライン説明会) ── 「第 3 相試験の効果安全性評価委員会に本県の医師が複数名参加しており、その先生方からも『よく効く、期待している薬剤』であるとの評価をいただいています」と、治験の評価に関わった医師の感想を根拠として提示した。
- 抗悪性腫瘍剤(直接対面) ── 「日本人のみの治験データで副作用発生数が外国人に比べて多いのは、日本の医師がまじめなので報告が多く上がるから」と説明。審査報告書には当該事象について注意が必要である旨の記載があり、MR がそれを認識していないことが示唆された。
- 皮膚炎治療剤(直接対面) ── 「透析患者の掻痒に対して使用されている」と説明。データを求めると「データはない」との回答だった。
- 腎性貧血治療薬(製品パンフレット) ── 「早期に目標値へ到達させれば良好な腎予後をもたらす → 本剤は早期に改善できる」というストーリー構成。引用論文は観察研究で、12 週時点までの到達を求める結論は示されておらず、検証には RCT が必要と限界が明記されていた。他剤より早く改善できるエビデンスもないまま「早く貧血を改善したい患者さん」を対象例に挙げていた。
- 糖尿病治療薬(直接対面) ── 規格が多い理由を尋ねると「抗肥満で使用されることを想定している」と回答し、質問がないのに申請中である旨も説明した。「体重減少に関連する安全性」は重要な潜在的リスクに設定されている。
「エビデンスのない説明」が 46.2% と、10 年で最も高い比率になりました。この年度の事例が示すのは、根拠として持ち出されるものの質です。評価委員の医師の感想、日本の医師の勤勉さ、対象の異なる海外アンケート ── いずれも「何かを根拠にしている」体裁は保たれています。空白ではなく、代用品が置かれている。
媒体としてはメール一斉配信の DM が新たに現れました。個人宛ての配信は面談より外形的な統制が効きにくく、しかも原著の一部削除という古典的な改変が行われています。
腎性貧血治療薬の事例は、個々の記述に虚偽がなくてもパンフレット全体の流れが誤認を生むことを示しています。審査の単位を文単位から構成単位へ広げる必要を突きつける事例です。
原著論文等から図表を引用する際にデータの抜粋・修正等を行うことはガイドライン違反である、と明記されました。また、治験の評価に関わった医師や権威者の感想を引用して科学的・客観的な根拠がない情報提供を行うことは適切ではない、とされています。
この年度の翌年(令和 6 年 2 月 21 日)、厚生労働省は「販売情報提供活動ガイドラインに関する Q&A(その 4)」を発出し、他社製品との比較情報についてどのような情報提供であれば問題がないかを明確にしました。
情報提供に過度に慎重になり、製品情報概要に記載済みの情報以外を出さなくなるという萎縮も問題である ── 当局はこの点を繰り返し述べています。求められているのは沈黙ではなく、根拠を伴う誠実な情報提供です。
11令和 6 年度 ── 企業主催講演会という抜け道
- 糖尿病用剤(オンライングループ面談・製品パンフレット) ── 「本剤は生命予後の改善を示した唯一の治療薬です」と説明。根拠は全死亡までの期間という副次的評価項目だった。パンフレットにも同じ記載があった。
- 中枢神経系用薬(オンライングループ面談) ── 「18 か月以降も投与を継続することで、この差がさらに開くものと予想されます」と説明。長期投与試験の中間解析結果は公表されていない状況だった。
- 抗悪性腫瘍剤(直接対面) ── 学術担当者が「標的とする蛋白質はほぼすべての固形がんに発現が認められており、そのうち、すべてのがん種に使えるようになる」「お互いとも適応拡大予定であり、今後どちらでも使用可能になる予定である」と希望的観測を述べた。
- 末梢神経系用薬(直接対面) ── 睡眠障害の発現率について、他社 B 剤は 10 数パーセント、自社 A 剤は 2.4% と説明。実際には B 剤は副作用全体の発現率、A 剤は傾眠のみの発現率であり、傾眠の発現率は B 剤のほうが 1% 以下と低かった。
- 代謝性医薬品(直接対面) ── 小児への投与量制限緩和について「30mg まで投与できるようになった」とだけ伝え、背景も安全性情報も一切提供しなかった。根拠を求めると「すぐには回答できない」、2 週間後の来院でも付箋を貼ったインタビューフォームの提供のみだった。
- ワクチン(オンライングループ面談) ── 求めがないのに「B 剤は用時調製が必要だが A 剤は不要」と、他社製品の不利な点のみを抽出して比較した。自社の有効期限が短いといった不利な点は示さなかった。
- 代謝性医薬品(対面) ── 他社 B 剤で有害事象が発生し手術が必要になった患者が県内で 2 名出たという口コミを伝え、「これは異常事態と考えられるので当社の A 剤に採用を変更してほしい」と述べた。
- 漢方製剤(製品説明資材) ── 記載要領改訂の経過措置が令和 6 年 3 月 31 日に終了した後も、旧様式の添付文書を掲載した資材を配布していた。
- アレルギー用薬(企業主催講演会のスライド) ── 演者の医師が承認された用法用量と異なる短時間投与法・少量長期投与を繰り返し紹介し、他社 B 剤について「A 剤と B 剤は全く同じものだから切り替えても安全」と説明。最終スライドには「A 剤は安全、簡単、患者メリット大」と記載されていた。これらの資料は販売情報提供活動監督部門による事前審査を経ないまま配信され、発覚後も受講者全員を対象とする訂正活動は行われなかった。
この年度で決定的なのは、企業主催講演会が新しい経路として現れたことです。演者は社外の医師であり、企業の従業員ではありません。しかし資料の事前審査は企業の責任であり、それを行わないまま配信し、事後の訂正も不十分だった。報告書は原因として、演者へのガイドライン説明における理解度の確認不足と、社内の複層的なレビュー体制の不備を挙げています。個別事例の紹介にとどまらず原因分析まで踏み込んだ、この年度の特徴です。
もう一つ、「医療従事者の不安を煽る表現」という新しい類型が立ちました。「異常事態」という一語で採用変更を求める行為です。データによる説得でも他社の欠点の指摘でもなく、感情への働きかけが手段になっています。
末梢神経系用薬の事例は、比較の分母をずらす技法の完成形です。数字は両方とも実在し、出典も添付文書。しかし片方は全体、片方は特定の事象。「嘘をつかずに誤認させる」形の典型といえます。
講演会事例について、報告書は「一連の行動は企業としてのコンプライアンス意識の欠如が強く疑われる」と踏み込んでいます。またガイドライン「3 販売情報提供活動の原則」が、添付文書の禁忌情報や RMP 等の適正使用に必要な情報提供を前提として求めているにもかかわらず、RMP に関する情報提供が不十分な事例が見られたことについて、「ガイドラインの原則が徹底されていない事態を重く受け止め」、あらためての徹底を「強く要望したい」としています。
あわせて、競合が激しい医薬品などについて、一部の企業で組織的に不適切な販売情報提供活動を行っていると疑われる事例が散見されたと明記されました。
- 社内体制の整備、資材の適切性の確保、教育とモニタリング、手順書の作成、不適切な活動への迅速な対応による再発防止。
- MR 教育。ガイドラインの周知に加え、基礎的な統計の知識を身につけ、有効性・安全性・統計処理結果をセットで説明できるようにすること。「間違っていました、すみません」で終える対応のなかには、指摘されたら謝ればよいと意図的に不適切な情報提供を行っていると疑われるものもあり、その場合は極めて悪質として注視するとされています。
- 企業主催セミナーについて、登壇する医師・薬剤師にもガイドラインを理解してもらい、スライド内容を企業も確認すること。
- 製薬企業の情報提供が萎縮しないこと。医療従事者が求める情報には誠実に対応することが望まれる、と繰り返し述べられています。
12令和 7 年度 ── 10 年目、件数は減り、論点は講演会へ
- ワクチン類(医薬品卸会社 MS の口頭説明) ── 見積書を持参した卸会社の MS が「このワクチンは『終生免疫』がつくワクチンなので、一度だけで大丈夫です」とプロモーション。長期的な追跡データは存在しない。
- 眼科用剤(口頭説明) ── 症例数が少なく統計学的検討もされていない海外第 II 相試験を紹介したうえで、「臨床試験に携わられた大学の先生によりますと……とおっしゃっています」と、高名な学者の感想で有効性を説明した。
- 呼吸器官用薬(企業主催講演会) ── 演者の医師が、学会診療ガイドラインが推奨するステップワイズな治療選択によらず、重症度の高い患者向けの選択肢を未治療患者に適用することを推奨する内容を、印象的なフレーズとともに紹介した。企業のスライドチェックを経ていたにもかかわらず適正化されておらず、司会者からの訂正もなかった。複数の医師が同趣旨の講演を複数回行っていた。
- 精神神経用剤(院内製品説明会) ── 「○○型の症に対する唯一の薬であり、他社の薬で効果がない場合にも効果が高い」と説明。確定診断の要否を問われると「診断がついていない患者でも使用可能であり、その他の精神神経疾患のせん妄患者に対しても効果が期待できる」と返答した。適応疾患以外に対するエビデンスはない。病院担当 MR・疾患領域専門 MR・学術担当者が複数名同席していたが、誰も不適切という認識を持たなかった。
- 呼吸器官用薬・ワクチン類(企業主催講演会) ── 演者が、適応を有していないウイルス性疾患への抗ウイルス効果、適応症と異なる認知症・心血管イベントのリスク低下効果に言及した事例が多数認められた。類似事例が複数の医師・複数の講演会で確認され、合計件数は相当数に上った。
- 代謝性医薬品(企業主催講演会) ── 国内未承認の適用が欧米では承認されている医薬品について、海外ガイドラインの推奨事項を紹介する形で未承認の内容を情報提供。その紹介を発表内容に必ず含めることを企業が演者に依頼し、スライドも企業が提供していた。国内承認の効能効果を併記していても、それだけで可とされるものではない。
- 中枢神経系用薬(オンライングループ面談) ── 「欧州の診療ガイドラインには、同作用薬の中で唯一本剤だけが載っている」と説明。理由を尋ねると「欧州では他の同作用薬が発売されていないためである」と即答した。薬剤師が理由を尋ねなければ優位性の印象だけが残る説明だった。
- 眼科用剤(オンライン個人面談) ── 安全性データを問われ「主要評価項目以外に関して説明してはいけないことになっている」と前置きしたうえで、頻度比較ができないため副作用発現率が高いとはいえないと回答した。ガイドラインについての理解不足の可能性がある。
報告件数はモニター報告・一般報告の双方で大きく減少し、特に他社製品の誹謗・中傷が減りました。一方で、残った事例の中身は 3 点に集約されます。
第一に、講演会経由の未承認効能。企業がスライドを提供し、海外ガイドラインの紹介を発表内容に含めるよう依頼していた事例まで確認されています。演者が社外の医師であるという外形は、もはや遮蔽になっていません。
第二に、担い手の拡大。卸会社の MS による誇大表現が事例に入りました。MR の訪問が減り MS からの情報提供が増えた医療機関があるとの指摘もあります。
第三に、「劇場型」と当局が名付けた形式です。オンライン説明会で、MR の説明後にカメラオフだった学術担当者がカメラオンにし、医療従事者からの求めに応じた形をとりつつ、実際には資料が一連のものになっている。ガイドラインを意識し、それを回避する形式を整えた情報提供です。
眼科用剤の「主要評価項目以外は説明できない」は、萎縮と誤認が結びついた事例です。ガイドラインを理由に安全性情報を出さない ── 目的から最も遠い運用が、規則の名の下で起きています。
報告件数の減少について、報告書はガイドラインの普及・浸透により販売情報提供活動の適正化が進んだことがうかがえると評価しました。事例検討会では、尋ねられる前に自らリスクを提供する、自社製品のデメリットを説明する、MR と MA を明確に分離する、部下の適応外情報の提供を上司が止めた、といった肯定的な評価も具体的に記録されています。
他方で、講演会における承認範囲外の効能効果への言及については、ガイドライン違反にとどまらず、医薬品医療機器等法第 68 条(未承認医薬品の広告の禁止)に直接抵触すると明言されました。そして、演者が企業の従業員でなくとも、企業が主催し依頼して行われる講演については、事前審査を含め企業が相当程度関与しているのが通常であるため、原則として製薬企業による販売情報提供活動・広告行為とみなされ、企業による違反行為となる場合があると整理されています。国内外で承認範囲が異なる場合や海外大規模試験の結果を紹介する場合は、違反に該当する可能性が高いとされました。
- RMP を含むガイドライン原則の徹底。説明時間が短いことを理由に有効性のみを説明し安全性に触れないことは、とりわけリスクが喚起され慎重な投与が求められる医薬品において「不誠実であり不適切」とされました。
- 講演会への企業責務の認識。自社の MR・MSL による情報提供だけでなく、外部の医師に依頼して行う講演会にも法令・ガイドライン遵守が求められることを深く認識し、これまで以上に慎重な対応をとること。
- 医療従事者側への周知。ガイドラインの内容と一般報告窓口の認知度が低いことが課題とされ、関係団体・学会での講習会、具体的な不適切事例とその場での対応例の提示、都道府県から医療機関への周知が期待されています。疑問を感じたらその場で質問する ── その過程で不適切な情報提供が改善される環境づくりが重要だとされました。
- メール配信・プレスリリースへの慎重な対応。ガイドラインは媒体を問わず適用されます。プレスリリースの記事自体は広告に該当しないものの、それを用いて営業活動を行う場合は販売情報提供活動に該当する可能性があるとされました。
- テクニカルに終始しない教育。企業内の研修が技術面に終始している懸念があるとし、担当者がガイドラインの目的を理解し、自社製品にとって不利な部分も含めて誠実な情報提供を行うことが強く望まれる、と結ばれています。そうした活動は結果的に企業への信頼・評価につながり、本事業でも誠実な活動に関する情報収集・提供を行っていくことが望ましい、と付されました。
1310 年を通して見えるもの
年度ごとの事例を並べると、違反の形が入れ替わりながらも、いくつかの構造が変わらずに残っていることが分かります。
第一に、審査の届かない場所へ移動し続けていること。製品情報概要が正しくなれば説明会のスライドへ、スライドが審査されれば口頭説明へ、対面が減ればオンラインの口頭へ、そしてメール DM と企業主催講演会へ。10 年の推移は、統制の網が張られるたびにその外側へ出ていく動きの記録でもあります。令和 7 年度の「劇場型」は、その到達点として当局が名指ししたものです。
第二に、虚偽よりも「選択」が主流であること。10 年で最も多い類型は「エビデンスのない説明」であり、次いで「有効性のみを強調した」です。存在しない数字を作る事例はほとんどありません。実在するデータのどれを見せ、どれを見せないかで結論が動く。だからこそ、審査の単位は文言ではなく構成でなければならない ── 令和 5 年度の腎性貧血治療薬のパンフレット事例が、それを最も明瞭に示しています。
第三に、個人の逸脱と組織の設計が繰り返し混在すること。上司同席での誹謗(令和 3 年度)、複数施設での同一説明(平成 30 年度・令和 3 年度)、企業がスライドを提供し発表内容を依頼した講演(令和 7 年度)。当局が「組織的」という語を使うのは、こうした徴候が観測されたときです。逆に、部下の適応外情報の提供を上司が止めたという肯定的事例も同じ報告書に記録されています。組織は、逸脱の増幅装置にも抑制装置にもなります。
第四に、萎縮もまた問題とされていること。当局は繰り返し、情報提供に過度に慎重になることへの懸念を書いています。求められているのは沈黙ではなく、根拠を伴う誠実さです。令和 7 年度の「主要評価項目以外は説明できない」という誤解は、規則の理解が目的の理解に届かないとき、規則がかえって医療従事者から情報を奪うことを示しています。
資材審査に携わる立場からこの 10 年を読むと、確認すべき問いは 3 つに絞られます。この資料は、引用元の構造を保っているか。有利な情報と不利な情報が同じ重みで載っているか。そして、審査を通ったこの資料が、実際にはどのように語られるのか。3 つ目は資材の中に答えがありません。だからこそ、10 年間ずっと最も多い違反類型であり続けています。
医薬品等の広告規制について(厚生労働省) ── 各年度の「概要」「報告書」PDF はこのページから取得できます。
平成 28 年度/平成 29 年度/平成 30 年度/令和元年度/令和 2 年度/令和 3 年度/令和 4 年度/令和 5 年度/令和 6 年度/令和 7 年度 の各「概要」および「報告書」。事務局は三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社(厚生労働省 医薬局 監視指導・麻薬対策課 委託事業)。