2016年から2024年の33件に共通するのは「承認を超えた情報が医師に届いた」という一点だ。直接の言明もあれば、「一般論として」「保険査定を受けない」「海外では適応がある」といった迂回表現も多い。MRが意図的に行った例も、添付文書や承認情報への理解不足から気づかずに踏み越えた例も混在する。伝え方の巧拙や悪意の有無は関係ない。医療関係者が受け取った情報が承認範囲を逸脱していれば、それが問題となる。
澪「結衣、このカテゴリーの事例を30件以上読んで、何か気づいたことはあった?」
結衣「未承認の効能をそのまま説明した例が目立ちましたが、それより多かったのが『仄めかし』というか、言い方を変えているケースでした。『一般論として』とか『海外ではこういう使い方もあります』みたいな。」
澪「そうだね。直接言わなければセーフだと思っているのかもしれない。でも、審査者としてはどう判断する?」
結衣「医師が聞いた後に承認外の効能効果を認識できる状態になっていれば、言い回しに関係なく問題になる、ということでしょうか。」
澪「正しい。それからもう一つ、気になったパターンはなかった?」
結衣「『保険査定を受けない』という説明が複数の事例に出てきていました。糖尿病治療薬とかパーキンソン病治療薬とか。保険で弾かれないなら問題ないという理屈で、適応外処方を勧めているように見えました。」
澪「保険査定と薬機法上の承認、この二つは別の話だよね。査定されないことは、適応外使用が承認された使い方だという意味にはならない。資材審査でこの理屈が出てきたら?」
結衣「通しません。保険請求が通ることと、添付文書の承認範囲内かどうかは別の問題です。」
澪「もう一点確認したい。01-25や01-26は、薬剤師や医師から求められてもいないのに承認前の情報を提供した事例だった。これはどこが問題?」
結衣「薬機法68条の2の情報提供義務の観点から、求めなく未承認情報を出すのは範囲外ですし、承認前製品の広告にあたる可能性もあるので68条も関係しますね。」
澪「そう。求めに応じた適正な範囲での情報提供と、販促目的で承認外の内容を押し込むことは全然違う。資材や説明の中に、医療関係者が求めていない承認外情報が含まれていないか、それが審査の出発点になる。」
報告書からの実例 33 件
01-012016年度高リン血症治療剤MR による口頭説明
何が起きたかA社のMRが副作用として知られる栄養成分の過剰蓄積を「補充効果」として積極的に説明し、既存の補充療法が不要になると示唆した。承認効能(リン抑制)の説明に続けて副作用を治療効果として転用した点が問題となった。
当局見解副作用を効能効果として積極的に推奨している(承認範囲を超える効能効果を示してい る)。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手添付文書の副作用欄と審査報告書の承認効能を照合し、副作用を治療効果として言及している箇所を具体的に指摘して是正を求める。
01-022016年度統合失調症薬MR によるプレゼンテーション(口頭説明・スライド)
何が起きたかB社のMRが院内採用説明会のスライドに「**機能改善」を記載し、他剤との差別化点としてアピールした。PMDA審査報告書にはヒトでの改善を支持する記載がなく、製品情報概要にも同内容は存在しなかった。
当局見解承認されていない効能効果を、非臨床データを用いて積極的に紹介している(承認範囲を 超える効能効果を示している) 。
切れた力知識・インテリジェンス
次の一手スライドの各効能・作用機序の記載をPMDA審査報告書と突き合わせ、承認外の特性が差別化訴求として使われていないか製品説明会ごとに確認する。
01-032016年度糖尿病治療薬製品情報概要の臨床試験結果紹介
何が起きたかC社のウェブサイトで、糖尿病治療薬の臨床試験結果として「血圧降下作用」を示すグラフが「参考情報」と小さく表示されながら主要・副次評価項目と同じレイアウトで並列掲載されていた。当該データはPMDA審査対象外であった。
当局見解承認審査の対象となっているデータと対象外のデータを並列し、 承認外の作用について効 能効果だと誤認する恐れのあるプロモーションを行っている (承認範囲を超える効能効果 を示している) 。
切れた力リスク検知力・インテリジェンス
次の一手ウェブ掲載資材でPMDA審査対象外のデータが主要評価項目と視覚的に同等の扱いを受けていないか、レイアウト・文字サイズ・配置順を含めて確認する。
01-042016年度抗リウマチ薬医療関係者向け情報提供サイトでの企業配信動画
何が起きたかD社が医療関係者向けサイトに公開した動画で、初期投与量として添付文書の1日300mgではなく1日100mgを推奨し、他剤との比較グラフでは棒グラフの色変化・点滅により差を強調していた。
当局見解承認されていない用法用量を推奨している。また、対象薬との比較を強調するプロモーシ ョンを行っている(「医療用医薬品製品情報概要等に関する作成要領」 (日本製薬工業協会) では、 「対照薬(プラセボを含む)との比較や投与前後の違いを示す図表においては、矢 印等を用いて差を強調しないこと。また、文字の大きさや色使いなどで差を強調しないこ と」としている)。 このような未承認の効能効果や用法用量を示した事例を踏まえ、医療関係者は、製薬企 業からプロモーションを受ける際には以下の点に注意することが必要である。 効能効果や用法用量については、承認された範囲内のものであることを添付文書等で確 認する。 特に、副次的な作用等については、承認審査の評価結果を PMDA の審査報告書で確認す ることが望ましい。
切れた力知識・伝達力
次の一手動画・スライド資材の用法用量が添付文書と一致しているか逐語確認し、比較グラフの視覚的強調(色変化・点滅・矢印等)が作成要領に抵触していないかチェックする。
01-052017年度便秘関連治療薬MR による口頭説明
何が起きたかA社のMRが複数のモニター医療機関で、承認効能を超える「便秘を訴える患者に広く使用可能」「海外適応は日本より広い」等の発言を繰り返した。同趣旨の説明が広範囲に及んでいることが複数施設からの報告で確認された。
当局見解承認されていない効能効果を積極的に紹介している。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手承認効能の文言と実際の口頭説明の内容を照合し、「将来の適応拡大」や「海外との比較」を使って現在の承認外効能を示唆する発言パターンを特定して指摘する。
01-062017年度ホルモン剤MR による口頭説明
何が起きたかB社のMRが自費診療かつ薬価未収載であることを根拠に「保険査定がないため添付文書通りに使われない」と説明し、承認外の投与タイミングを医師の裁量として紹介した。当該投与方法に関するエビデンスの提示はなかった。
当局見解査定がないことを理由に、承認されていない用法用量を紹介している。
切れた力知識・インテリジェンス
次の一手保険適用外・自費診療であっても薬機法上の用法用量遵守義務は変わらない点を確認し、査定回避を理由に承認外使用を提示するロジックを明示的に問い返す。
01-072017年度潰瘍性大腸炎治療薬MR によるプレゼンテーション(口頭説明・パンフレット)
何が起きたかC社の製品情報概要で、潰瘍性大腸炎治療薬のサブグループ解析グラフのデータ掲載順序がインタビューフォームから変更されており、全大腸炎型の結果が先頭に配置されていた。原著論文では全大腸炎型はn数不足で統計解析なしとされているが、その旨の記載は概要中に存在しなかった。
当局見解グラフ中のデータの掲載順を変えることで、 承認されていない効能効果をほのめかしてい る。
切れた力インテリジェンス・リスク検知力
次の一手製品情報概要のグラフ構成をインタビューフォームおよび原著論文と照合し、データの掲載順・省略・強調に意図的な誘導がないか確認する。
01-082018年度抗真菌薬企業担当者による口頭説明
何が起きたか新薬ヒアリングで企業担当者が「適応外疾患からの移行事例が少なくない」と述べた上で、根拠を示さずに「おそらく効果があると思われる」と適応外疾患への有効性を示唆した。
当局見解適応症以外に対する有効性を、根拠なく説明した。
切れた力知識・第六感
次の一手「おそらく」「思われる」等の根拠を欠いた推測発言に対し、その場でエビデンスの提示と承認状況の確認を求める。
01-092018年度糖尿病治療薬企業担当者による口頭説明
何が起きたか配合剤のヒアリングで企業担当者が各配合成分の特性を「相性が良い」と表現した後、本剤が体重に及ぼす影響を「参考情報」として言及し、承認外の体重減少効果を示唆する印象を与えた。
当局見解承認範囲外の効能効果を仄めかした。
切れた力リスク検知力・インテリジェンス
次の一手「参考情報」として提示されるデータが承認外の効能を示唆していないか、説明の流れとセットで判断する。体重など患者に訴求力のある指標には特に注意する。
01-102018年度抗血栓薬企業担当者による口頭説明
何が起きたか採用を断られた企業担当者が、代替案として既採用の3.75mgを粉砕して用量調節する方法を提案した。これは添付文書に記載のない適応外使用の粉砕投与であった。
当局見解適応外使用の粉砕投与を勧奨した。
切れた力知識・第六感
次の一手採用交渉の場で粉砕・懸濁など変形投与が提案された場合は即座に添付文書の製剤的注意を確認し、承認外使用の提案として記録に残す。
01-112018年度鎮痛薬企業担当者による口頭説明
何が起きたか製品説明会で企業担当者が「適応外である」と前置きした上で「他院では呼吸抑制に使用している医師もいる」と述べ、承認外使用の事例を紹介することで暗にその使用を促した。
当局見解適応外使用の事例を紹介し、暗にこれを推奨した。
切れた力リスク検知力・第六感
次の一手「適応外と断った上で」という前置きを免責として使う説明パターンを識別し、他施設事例の紹介を通じた間接的な適応外使用勧奨として指摘する。
01-122018年度脂質異常症治療薬プレゼンテーション用スライド、企業担当者による口頭説明
何が起きたか院内勉強会で「一般論」と題したスライドが有効性データの間に挿入され、糖尿病患者への適応外使用を示唆する流れが作られていた。別の施設では「本剤に限りなく近い物質」として適応外の血糖関連効果を説明する発言があった。複数施設から同様の報告が寄せられた。
当局見解本剤との関連性を示すデータがないにもかかわらず、 「一般論」や「本剤に限りなく近い 物質」等として説明を行い、本剤の承認範囲外の効能効果を仄めかした。
切れた力インテリジェンス・リスク検知力
次の一手スライド全体の流れを通して情報の配置意図を読み、「一般論」「類似物質」等の間接表現が承認外効能への誘導として機能していないか構造的に確認する。
01-132018年度パーキンソン病治療薬企業担当者による口頭説明
何が起きたかパーキンソン病治療薬について、企業担当者が「投与間隔に明確なエビデンスはなく、短縮しても保険査定を受けない」と説明し、添付文書に明記された併用禁忌薬との投与間隔規定を事実上無視した処方を暗示した。同様の説明が地域の複数医療機関で行われていた。
当局見解保険の査定を受けないことを紹介し、添付文書の記載内容に反する処方を暗に勧奨した。
切れた力リスク検知力・知識
次の一手添付文書の投与間隔規定とその安全上の根拠を文書で確認し、当該説明を行った担当者および管理者に対して書面で是正を申し入れる。
01-142018年度慢性便秘症治療薬医療関係者向け情報サイト上の Web 講習会
何が起きたか「薬剤性便秘を防ぐ」と題したWebセミナーで慢性便秘症治療薬が取り上げられたが、薬剤性便秘が本剤の適応外であることは注釈に留められ、本文中では薬剤性便秘への使用を否定する説明が行われなかった。参加者が適応外使用を推奨されているような印象を受ける内容だった。
当局見解承認範囲外の効能効果を仄めかした。
切れた力リスク検知力・知識
次の一手講演タイトルと本剤の承認適応の乖離を具体的に指摘し、本文中で適応外であることを明示するよう企業に書面で求める。
01-152018年度脂質異常症治療薬企業担当者による口頭説明
何が起きたか脂質異常症治療薬について、企業担当者が「他剤の安い後発品を処方して患者に飲まないよう伝えれば保険査定を受けずに単剤で使用できる。実際そうしている医師もいる」と発言し、適応外の単剤使用を明示的に誘導した。
当局見解適応外使用の単剤使用を勧奨した。
切れた力知識・信頼密度
次の一手発言内容を具体的に記録し、保険請求上の不正および適応外使用誘導の問題として薬事担当部署と医療機関管理者に報告する。
01-162019年度抗がん剤企業担当者による口頭説明
何が起きたかB抗がん剤治療後の患者における本剤の有効性データが存在しない状況で、企業担当者が「他剤でも同様のデータがないため問題ない」という論理で、その患者への二次治療としての本剤使用を口頭で推奨した。
当局見解エビデンスなく、抗がん剤の 2 次治療として本剤使用を推奨した。
切れた力知識・インテリジェンス
次の一手有効性データの不在が使用根拠にならないことを明示し、エビデンスが存在する承認適応の範囲内でのみ情報提供を行うよう担当者に書面で申し入れる。
01-172019年度慢性便秘症治療薬企業担当者による口頭説明(企業の製品説明会の場において)
何が起きたか慢性便秘症治療薬の製品説明会で、企業担当者が「食後投与でも問題ない」「頓用でも効果がある」「朝夜半量ずつの使用例がある」などと、添付文書の「1日1回食前投与」とは異なる用法を繰り返し紹介し、適応外使用を暗に推奨した。
当局見解適応外使用を紹介し、暗にこれを推奨した。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手説明会での具体的発言を記録し、承認用法からの逸脱が適応外推奨に該当すると判断して企業の法令遵守部門に書面で申し入れる。
01-182019年度腎性貧血治療薬企業担当者による口頭説明
何が起きたか腎性貧血治療薬の後発品切り替え説明において、企業担当者は薬価収載の事実のみを説明し、先発品と後発品の適応症が異なる点について全く触れなかった。
当局見解先発医薬品と後発医薬品の適応症の違いについて全く説明を行わなかった。
切れた力知識・伝達力
次の一手先発品と後発品の適応症の差異を記載した文書を企業に要求し、切り替え対象患者に後発品の適応外疾患が含まれないか処方単位で確認する。
01-192019年度組織接着剤企業担当者(医療材料企業)による口頭説明
何が起きたか製薬企業と医療材料企業の合同説明会で、医療材料企業の担当者が組織接着剤の適応外使用(縫合可能な舌癌切除後への使用)を写真入り資料で詳細に説明した。製薬企業側の担当者はその説明を否定せず、実質的に適応外使用の説明を黙認した。
当局見解製薬企業・医療材料企業の合同説明会で、医療材料企業が適応外使用に関する詳細な説 明を行い、製薬企業もその説明内容について否定等をしなかった。
切れた力リスク検知力・関係構築力
次の一手製薬企業に対し、合同開催に伴う共同責任を明示した上で、適応外説明を否定しなかった事実の是正と今後の合同説明会における対応方針の提示を書面で求める。
01-202019年度うつ症状治療薬企業の製品説明会
何が起きたかうつ症状治療薬の製品説明会で、添付文書の「1日1回就寝前」に反して「朝夜半量ずつ服用する方が眠気が抑えられるという医師もいる」という説明が行われ、承認外の用法を暗示した。
当局見解適応外使用の事例を紹介し、暗にこれを推奨した。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手発言内容を記録し、承認用法と異なる事例紹介が適応外推奨に該当すると明示した上で、説明内容の訂正を担当者に書面で求める。
01-212019年度鎮痛剤企業担当者による口頭説明
何が起きたか鎮痛剤の薬剤部説明会で、企業担当者が「適応外ではあるが」「海外ガイドラインでは」と前置きしながら、参加者からの質問がないにもかかわらず自発的に呼吸困難・咳嗽症例への効果と第一選択薬としての可能性を詳細に説明した。
当局見解医療関係者からの質問がないにもかかわらず、適応外の使用を推奨した。
切れた力リスク検知力・第六感
次の一手「適応外」との前置きがあっても自発的な詳細説明は推奨と判断されると指摘し、当該担当者の上長に対して書面で申し入れを行う。
01-222019年度慢性便秘症治療薬企業担当者による口頭説明
何が起きたか慢性便秘症治療薬について「他の下剤より作用発現が最も短い」という企業担当者の説明が契機となり、消化器処置前の前処置薬として頓用でクリニカルパスに採用されてしまった。適応外であることに気づいた病院薬剤師が是正を行った。
当局見解承認された用法とは異なる用法(頓用)での使用推奨につながる説明をした結果、医療機 関での適応外使用の推奨につながった。
切れた力リスク検知力・行動変容誘因力
次の一手適応外使用の疑いが生じた段階で薬事委員会または処方委員会に情報提供するプロセスを医療機関内に整備し、クリニカルパス採用前の確認を標準化する。
01-232019年度抗菌薬ウェブセミナー
何が起きたか抗菌薬のWebセミナーで、糖尿病性足病変患者を除外基準に含む臨床試験のデータを提示した上で「糖尿病性足病変にも効果が期待できる」との解説が行われた。試験の除外基準に当たる疾患への有効性を示唆するものだった。
当局見解対象疾患が除外されている臨床試験等のデータ等を用いながら、承認範囲外の効能効果 を仄めかした。
切れた力知識・インテリジェンス
次の一手引用試験の除外基準を確認した上で、除外症例への効果を示唆する説明が承認範囲外に当たることを明示し、企業に書面で説明内容の是正を求める。
01-242019年度抗精神病薬企業担当者による口頭説明
何が起きたか院内勉強会の直前に医療関係者から使用動向を質問されたところ、企業担当者が「添付文書上の適応症Aではなく、適応症外の疾患B・疾患Cの経口摂取困難な患者によく使われている」と、質問の範囲を超えて適応外使用が一般的であるかのように説明した。
当局見解医療関係者からの質問の範囲を逸脱し、適応症以外の疾患への投与が一般的になされて いるかのような説明を行った。
切れた力リスク検知力・伝達力
次の一手回答が質問範囲を逸脱し適応外使用を一般化した点を具体的に記録し、今後は承認適応の範囲内で回答するよう担当者に書面で申し入れる。
01-252019年度抗がん剤企業担当者による口頭説明
何が起きたか抗がん剤A・Bの併用療法について、薬事承認の前日にもかかわらず製薬企業側から面談を申し入れ、情報提供を行った。薬剤師側が医薬品情報管理室での対応を求めたにも関わらず、企業は個室での情報提供を希望した。
当局見解薬事承認前であるにもかかわらず、併用療法についての情報提供を行った。
切れた力リスク検知力・知識
次の一手承認前の情報提供申し入れは時点を確認し、承認日前であれば即座に断る。面談場所の変更要求にも状況的リスクを読む。
01-262019年度認知症治療薬企業担当者による口頭説明
何が起きたかMRが後発品の話題を自ら振り、薬剤師が製品名を口にした瞬間を「医療関係者からの問い合わせ」として利用し、承認前の認知症治療薬についてプロモーションを行った。薬剤師は誘導された印象を受けた。
当局見解あたかも医療関係者から情報提供を求められたかのように装って、承認前の製品に関す る情報提供を行った。
切れた力第六感・リスク検知力
次の一手MRが話題を誘導していると感じた時点で会話を止め、承認状況を確認してから改めて対応する。自発的問い合わせか否かを自分で判断し記録する。
01-272020年度アルコール依存症治療薬企業担当者による口頭説明
何が起きたかアルコール依存症治療薬の処方条件(医師・看護師等の研修受講義務)について企業の情報提供窓口に問い合わせたところ、「医師さえ研修を受ければ他職種の受講がなくても処方している例がある」と添付文書の条件を無視しても問題ないと受け取れる口頭説明を受けた。
当局見解処方のための条件を無視しても問題ないと説明した。
切れた力知識・伝達力
次の一手添付文書に定められた処方条件は変更できない。口頭での例外説明は受け入れず、文書による根拠提示を求め、疑義があれば規制当局へ確認する。
01-282020年度抗精神病薬オンライン面談にて、企業担当者による説明
何が起きたか注射剤のみに適応追加が承認された抗精神病薬について、企業担当者が「内用薬にも同じ適応がある」と口頭で誤って説明した。実際には内用薬への適応追加は認められていなかった。
当局見解注射剤にのみ適応が追加されたにもかかわらず、当該適応が内用薬にもあるような説明 をした。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手剤形ごとの承認適応を添付文書で独立して確認する。担当者の口頭説明が製品情報概要と一致するかをその場で照合し、不一致は即座に指摘・記録する。
01-292020年度抗インフルエンザ薬医薬品卸の営業担当者による説明
何が起きたか医薬品卸の営業担当者が、未承認の適応拡大が「承認される見込み」と説明したうえで、抗インフルエンザ薬の在庫確保を促した。
当局見解未承認の効果効能を示した。
切れた力リスク検知力・知識
次の一手卸担当者による承認見込み情報は未承認情報と同様に扱う。在庫提案の根拠が未承認効能に基づく場合は購入判断から切り離し、実際の承認を確認してから対応する。
01-302021年度SGLT2 阻害剤企業担当者による説明
何が起きたかSGLT2阻害剤の担当者が、医療関係者の求めなく、「HFpEF患者への適応はないが慢性腎臓病の病名をつけて処方しやすくなった」と医師が述べているとして、承認外使用を示唆する説明を行った。提示された論文は他社製品のデータだった。
当局見解適応追加を機に、企業担当者が承認外の使用を促しているかのように受けとられる説明 を行った。
切れた力リスク検知力・第六感
次の一手担当者が「医師の話として」間接的に承認外使用を示唆する説明は直接の勧奨と同等に受け止め、内容を記録し適正使用推進担当者に報告する。
01-312022年度モノクローナル抗体製剤企業担当者による説明
何が起きたか院内宣伝許可の事前説明の場で、企業担当者がモノクローナル抗体製剤について「かゆみの後に生じる皮疹にも効果が認められている」と説明した。当該効能は承認された適応には含まれておらず、後の確認で国内第Ⅲ相試験の副次評価項目に基づく情報とわかった。
当局見解副次評価項目に関する情報提供は問題ないものの、その結果をもって未承認の効能効果 を説明することは適応外使用の推進にあたり不適切である。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手副次評価項目のデータは有益な参考情報だが、それをもって未承認効能の説明に使うことは認めない。院内宣伝許可審査の段階で適応外の記述を発見したら許可を保留し、根拠の文書提出を求める。
01-322023年度皮膚炎治療剤企業担当者による説明(直接対面)
何が起きたか病院薬剤部でのヒアリング中、企業担当者(MR)が「本剤は透析患者の掻痒に対して使用されている」と説明した。当該適応は承認されておらず、根拠となるデータを求めたところ「データはない」と回答した。
当局見解未承認の効能効果を説明することは適応外使用の推奨になりかねない不適切な説明であ る。
切れた力知識・伝達力
次の一手適応外の使用実態を「使われている」と述べるだけでも誤認を招く。その場でデータ提示を求め、データがない場合は事例を記録して企業のコンプライアンス部門への照会を促す。
01-332024年度抗悪性腫瘍剤企業担当者による説明(直接対面)
何が起きたか抗悪性腫瘍剤の院内製品説明会で、学術担当者が「将来はすべての固形がんに使えるようになる」「適応拡大予定であり今後どちらでも使用可能になる」と、医療従事者から求められていないにもかかわらず未承認の効能効果について言及した。
当局見解医療従事者からの求めがないにもかかわらず、未承認の効能効果を言及した。
切れた力リスク検知力・知識
次の一手学術担当者による「将来承認予定」の言及も未承認情報の提供と同等に扱う。説明会中に気づいた場合は発言を止め、承認範囲外の言及があった旨を記録に残す。
しくじりの解剖 ── カテゴリー一覧(全 8 区分)
- 01. 未承認・適応外の効能効果・用法用量を示す(33件)(本カテゴリー)
- 02. エビデンスなし・信頼性を欠く説明(69件)
- 03. データの抜粋・改変・恣意的加工(33件)
- 04. 誇大・事実誤認の表現(28件)
- 05. 有効性のみ強調・安全性を軽視した情報提供(22件)
- 06. 他社製品の誹謗・中傷(28件)
- 07. 利益相反(COI)の不開示と講演・処方誘導の逸脱(10件)
- 08. 分類横断・手続き不全による複合違反(4件)
この区分の要点
- 「一般論として」「海外適応を参考に」「保険査定を受けない」などの迂回表現であっても、医療関係者が承認外の効能効果・用法用量を認識できる状態になれば、直接言明と同様に問題となる。
- 保険請求が査定されないことは、適応外使用が承認範囲内であることを意味しない。二つの制度は独立しており、「査定なし=適法」という論理は資材審査で認められない。
- 医療関係者から求められていないのに未承認・承認前製品の情報を積極的に提供することは、薬機法68条(承認前の広告禁止)および68条の2(情報提供義務)に抵触しうる。
出典・参考
- 厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業(旧:広告活動監視モニター事業)報告書」(2016〜2024年度)。
- 販提G 第1の3 原則(2) 禁止行為① — 承認等を受けていない効能効果・用法用量に関する情報提供の禁止
- 薬機法66条 — 誇大広告等の禁止(虚偽・誇大な記事の広告禁止)
- 薬機法68条 — 承認前の医薬品等の広告の禁止
- 薬機法68条の2 — 医療用医薬品に関する情報提供義務(求めに応じた適正範囲)