有効性の訴求に力を入れる一方で、副作用・禁忌・RMP記載リスクの説明を省く、または矮小化する事例が2016年から2024年にかけて22件確認されている。薬機法68条の2が課す積極的安全性情報提供義務と、販提G原則(3)の三積極義務が問われる区域だが、現場では「聞かれなかったから話さなかった」「一過性なので問題ない」という言い訳が繰り返される。使用上の注意を「認識していなかった」ケース、RMPを確認しないままプロモーションを行ったケース、守秘義務契約や同意書を盾に安全性資材の提供を拒んだケースまで、手口は多様だが根底にある構造は同じだ——安全性情報はコストで、有効性情報は利益、という倒錯した取引感覚である。

「05-03の高血圧治療薬の事例、報告書には『副作用事例があるにもかかわらず安全性には問題がないとPRした』とある。結衣さん、まずどこに引っかかった?」

結衣「副作用がすでに出ているのに『問題ない』と言い切っているところです。データがあるのに否定している。」

「そう。でもMRの側から見ると、どう聞こえていると思う? 処方を増やしたい、医師に安心してもらいたい——その気持ちから出た言葉かもしれない。問題は動機じゃなくて何?」

結衣「根拠です。その副作用事例が存在する以上、『問題ない』と断定できる根拠がない。」

「正確に言うと、根拠のない断定が薬機法68条の2の問題になる。情報提供義務は『聞かれたら答える』じゃない。積極的に正確な安全性情報を伝える義務だから、副作用事例があると知っていて黙るのも義務違反になる。——05-07を見て。抗がん剤で『安定性データの提供に守秘義務契約が求められた』。これはどう読む?」

結衣「安全性に必要な情報にアクセスするのに条件をつけている……。情報提供義務を形式上は満たしているように見えて、実質的に妨げている?」

「そう捉えた審査員は正しい。販提G原則(3)は積極提供を求めている。守秘義務契約という障壁を設けた時点で、積極提供とは言えない。では05-11の鎮痛薬。高用量時の副作用を『一過性である』と説明している。何が問題?」

結衣「添付文書にそう書いてあれば問題ないはずですが……添付文書に書いていない場合は、根拠のない安全性の矮小化になりますよね。」

「報告書では添付文書の根拠が確認できない事例として指摘されている。資材審査で気をつけるのは、言っていることが正しい可能性があっても、根拠を資材の中で確認できなければ審査者は止められない。根拠の所在を問うのが仕事。——最後に05-19。RMPの『重要な潜在的リスク』に記載された安全性情報を、有効性の観点から説明した事例。これはどういう状況だと想像する?」

結衣「RMPの記載を知っていて、でも医師に聞かれたとき安全性の文脈で答えず、有効性に話をすり替えた……ということですか。」

「そう。知識はあった。でも伝え方を選んだ。それが一番たちが悪い。審査者が見るのはそこなんだ——担当者が知っていたかどうか、ではなく、知っていたうえで何をしたか。」

報告書からの実例 22 件

05-012016年度骨粗鬆症治療薬MR によるプレゼンテーション(口頭説明)
何が起きたかM社MRが骨粗鬆症治療薬の勉強会で「血清カルシウム値の測定は必須ではない」と認識したまま説明し、別の医療機関では「急性期に副作用がなければ慢性期の副作用はない」と発言していた。添付文書の使用上の注意と乖離した口頭説明が複数施設で確認された。
当局見解副作用や安全性に関する理解・情報提供が十分でない。
切れた力知識(安全性情報の正確な理解)・伝達力(添付文書記載事項の正確な伝達)
次の一手添付文書の「使用上の注意」とRMP記載の副作用情報を勉強会資料に明示し、MRが誤認した場合に修正できるDIへの問い合わせ経路を院内に整備する。
05-022016年度乾癬治療剤製品情報概要
何が起きたかN社の乾癬治療剤は胚胎児毒性を理由に妊婦禁忌・投与前8項目チェックリストが定められているにもかかわらず、製品情報概要に「投与前のスクリーニングや臨床検査を必要としない」と記載されており、禁忌・安全確認手順との矛盾が生じていた。
当局見解禁忌及び投与前のスクリーニングと整合しない安全性を軽視したプロモーションを行っ ている。
切れた力リスク検知力(資材と添付文書の整合確認)・知識(禁忌・投与前確認事項の把握)
次の一手製品情報概要の安全性記載を添付文書・適正使用ガイドと照合し、矛盾箇所を特定してメーカーに書面で是正を求める。
05-032016年度高血圧治療薬MR による口頭説明
何が起きたかO社MRが未採用の高血圧治療薬を説明する際、添付文書や医薬品リスク管理計画(RMP)に副作用が明記されているにもかかわらず、「安全性はまったく問題ありません」と断言した。安全性情報の提供は一切なかった。
当局見解副作用や安全性を軽視したプロモーションを行っている。 医薬品の優劣とは関連しない“治療指針の掲載順”をPRする一方、安全性に関する情報提 供が一切なかった事例【再掲】
切れた力知識(RMP・添付文書の副作用記載の理解)・伝達力(安全性情報の均衡ある提供)
次の一手RMPに記載された重要な特定リスク・潜在的リスクの具体的内容をMRから書面で入手し、口頭説明との整合性を確認する。
05-042017年度抗ウイルス薬MR によるプレゼンテーション(口頭説明)
何が起きたかX社MRは抗ウイルス薬の製品説明会で、RMPに重要な潜在的リスクとして記載された**機能障害について「安全に使用できる」と受け取れる説明を行った。医療関係者が他剤との併用リスクを懸念しても、MRはRMPを理解せず安全性を過小評価した説明を続けた。
当局見解副作用や安全性に関する理解・情報提供が十分でない。
切れた力知識(RMP内容の正確な理解と運用)・リスク検知力(潜在的リスクを医療現場に伝える義務の認識)
次の一手RMPの重要な潜在的リスク項目を製品説明会の必須説明事項として文書化し、説明会後に医療関係者から受けた懸念を社内に報告するよう企業に求める。
05-052017年度潰瘍性大腸炎治療薬MR によるプレゼンテーション(口頭説明・スライド・パンフレット)
何が起きたかY社MRは潰瘍性大腸炎治療薬の説明会で「副作用発現症例数は約10%」と説明したが、添付文書では約55%に副作用が認められていた。第Ⅲ相試験で主な副作用が評価対象外とされた経緯はパンフレットに注記されていたものの、MRは自発的に説明せず、RMPの重要な潜在的リスクについても触れなかった。
当局見解副作用を過小評価するような情報のみ提供している。
切れた力知識(試験デザインの限界と添付文書記載の副作用頻度の正確な把握)・伝達力(副作用情報の均衡ある能動的開示)
次の一手添付文書の副作用発現頻度と第Ⅲ相試験の評価対象外事象の理由をMRに書面で確認し、説明資料がその差異を適切に説明しているかを審査する。
05-062017年度鎮痛剤MR による口頭説明
何が起きたかZ社MRが鎮痛剤について「**機能が低下している患者にも使いやすい」と口頭説明したが、添付文書では当該患者は慎重投与対象かつ血中濃度が正常者より高くなると記載されていた。比較対象を示さず使いやすさのみを強調し、安全性について誤解を生じさせる説明だった。
当局見解配慮が必要な患者について安全性を誇大に見せている。 ⑧その他
切れた力伝達力(比較文脈を明示しない誤解を招く説明の排除)・リスク検知力(慎重投与対象患者への安全性情報の確実な伝達)
次の一手添付文書の慎重投与と薬物動態データをMRから改めて書面で入手し、当該患者群に対するモニタリング指針を確認する。
05-072017年度抗がん剤MR による情報提供
何が起きたかAA社の抗がん剤は保存剤を含まないため希釈後15時間以内の投与が必要だが、infusion reaction発生時の再投与規定を考慮すると15時間超過が現実的に想定された。医療機関が安定性データを要求したところ、AA社は「社内秘データのため守秘義務契約なしに提供できない」と回答し、臨床上必要な情報が速やかに入手できなかった。
当局見解臨床上必要な情報提供については、医療関係者に提供することが必要。
切れた力伝達力(臨床上必要な安全性データへの適時アクセスの確保)・関係構築力(医療機関との信頼関係を損なう情報提供制限の回避)
次の一手15時間制限が臨床上遵守困難なケースを文書化し、AA社に安定性データの提供方法(守秘義務契約の簡素化を含む)の改善を書面で求める。
05-082017年度C 型肝炎治療薬MR による情報提供
何が起きたかBB社MRはC型肝炎治療薬の適正使用ガイドを求めた医療機関に対し、同意書の提出を条件として提示した。公式サイトには適正使用ガイドを参照する旨の記載があったが、ダウンロードページには当該資料が掲載されておらず、医療現場からのアクセスが事実上制限されていた。
当局見解臨床上必要な情報提供については、医療関係者に提供することが必要。 (2)不適切なプロモーション活動の例 本事業及び平成 28 年度事業で得られた疑義報告事例、事例検討会で検討結果等をもとに、 製薬企業のプロモーションにおいて不適切として挙げられた主な行動を以下にまとめた。 ①MR による口頭説明について (承認範囲外の効能効果や用法用量をほのめかす説明)  海外での効能効果を紹介する 例)「日本の効能効果は限定的だが、海外では**も効能効果として認められている」  将来的な適応範囲の拡大を示唆する 例)「今後は日本でも**が効能効果に認められるだろう」  副作用を効能効果のように紹介する 例)「(成分**が過剰となる副作用の医薬品ついて)**の上昇が期待できる」  レセプト審査で査定されにくい用法用量を紹介する 例)「適応外だが**という使い方であればレセプト審査で査定されない」 (効能効果や安全性等を誇大に見せる説明)  他の医療機関の評判や製造販売元の考えを、科学的根拠を示さずに伝聞調で紹介する 例)「他院では**と評判である」、「製造販売元では**と言われている」  他の医薬品の特徴を本剤の特徴のように紹介する 例)「自社では**な医薬品を製造しているので、この製品も**である」  関連性のない事実を根拠に優位性を主張する 例)「ガイドラインの掲載順が他剤よりも前である」 、「AG と後発医薬品における溶出 性の差は効能効果に影響がある」  対照薬と一対一で対応していないデータや事実に基づき、優位性を主張する 例)「(有効成分は同じだが剤型が異なる対照薬のデータを示して)有効成分も剤型も 同じ対照薬に対して優位性がある」、 「(活動期では既存薬Aのみ、寛解期では既存 薬Bのみに対して非劣性が示された事実について)活動期も寛解期も既存薬に比 べて非劣性が確認できた」  医薬品リスク管理計画(RMP)の記載内容や副作用について情報提供しない ②プロモーション資料について (信頼性に欠けるデータを用いた資料)  承認時資料や査読を受けた論文以外のデータを紹介する  症例数が少ないデータで優位性を主張する 例)当該医薬品を採用している 1 医療機関でのデータ、症例数が 9 例のデータ  臨床データと関連がない非臨床データを紹介する  優位性を顕著に示せる臨床試験結果のみを紹介する  統計手法や統計解析の結果を記載しない  承認されていない用法用量や効能効果に関するデータを紹介する (引用文献の図表を加工した資料)  軸の最大値を調整したり、軸の尺度を変更して差を強調する  補助線や矢印の追加、着色等を行い差を強調する  引用文献の図表のうち優位な部分のみを抜粋する 例)対照薬と自社製品の比較結果から自社製品のみを抜粋する、3 時点での比較結果か ら最も差の大きい 1 時点のみを抜粋する、複数の対照薬との比較結果から特に優 位性が示せたり論旨に合う対照薬のデータのみを抜粋する  引用文献にないデータを追記する 例)引用文献には自社製品群とプラセボ群のデータのみであったが、新たに群間差の データを追記して差を強調する  引用文献のデータの掲載順を変更する 例)複数のデータを示した棒グラフにおいて、効能効果が誇大に見えるデータや副次 的な効果を示すデータを目立つ位置に変更する  引用文献の補足事項をもとにデータを修正する 例)引用文献では盲検期・非盲検期を合わせたデータ(非盲検期に関する補足事項あ り)だったが、差が大きくなるように盲検期のみのデータに変更する (事実誤認の恐れのある構成・表現を用いた資料)  製品説明会の趣旨とは異なる内容について説明する 例)適応追加に関する説明会で“従来の適応”に関するデータを混在させる、製品説 明会の対象でない医薬品を推奨する  明確に区別すべき情報(承認審査の対象データと非対象データ、主要評価項目と副次 評価項目、参考情報等)を区別せずに記載したり並列に扱う  データを誇張したかのような見出しやタイトルを付ける 例)当該データでは示唆できない内容について「**のような傾向を示す」と見出し をつける  利益相反があることを明示しない
切れた力伝達力(適正使用に必要な情報への障壁のない提供)・信頼密度(情報入手に不要な手続きを求めることによる信頼の毀損)
次の一手適正使用ガイドへのアクセス制限を企業に指摘し、同意書なしで入手できる方法(サイトへの直接掲載等)を確保するよう書面で要請する。
05-092018年度糖尿病治療薬医療関係者向け情報サイト上の座談会記事
何が起きたか糖尿病治療薬の配合剤について医療関係者向け情報サイトの座談会記事が、添付文書で注意喚起されている腎機能障害患者への投与リスクを記載せず、RMPの重要リスクである多尿・頻尿についても「投与後1週間で問題ない」と過小評価する記述を掲載していた。
当局見解添付文書や RMP に記載のある重要な注意事項を軽視し、適切な情報提供を怠った。
切れた力リスク検知力(WEB資材のRMP・添付文書との整合確認)・知識(配合剤の各成分に関わる安全性リスクの把握)
次の一手座談会記事の内容をRMPおよび添付文書と対照し、腎機能障害の注意喚起と多尿・頻尿リスクの記載が欠落していることを企業に文書で指摘し修正を求める。
05-102018年度慢性便秘症治療薬企業担当者による口頭説明
何が起きたか慢性便秘症治療薬(新薬)の勉強会で企業担当者が「投与量を調節すれば長期投与も可能」と処方日数制限に反する説明を行い、「小児領域でも有用、医師に勧めてほしい」と発言した。同薬の留意事項として定められた「他の治療薬で効果不十分な場合にのみ使用」という限定条件については説明がなかった。
当局見解新薬の処方日数制限に反する使用方法を勧奨し、安全性についても偏った説明を行った。
切れた力知識(新薬の処方日数制限と使用条件の正確な把握)・伝達力(使用制限事項を含む均衡ある情報提供)
次の一手新薬の処方日数制限と「他の治療薬で効果不十分な場合のみ」の条件をDIで確認し、企業担当者の説明内容を記録として残したうえで、当該医師へ正確な使用条件を案内する。
05-112018年度鎮痛薬医療関係者向け情報サイト上の製品紹介動画
何が起きたか医療関係者向け情報サイトの製品紹介動画が、鎮痛薬の高用量使用に伴うALT上昇を「一過性で慣れがある」と説明した。原著論文ではALT上昇が著しく脱落例が複数あり、添付文書にも高用量への警告が記載されていたため、当局は安全性を軽視した記述と判断した。
当局見解十分に注意すべき副作用を「一過性である」等とし、安全性を軽視した。
切れた力リスク検知力(動画資材の原著論文・添付文書との整合確認)・知識(バイオマーカー解釈の限界と高用量警告の正確な把握)
次の一手動画で引用されている原著論文を入手して脱落例の詳細を確認し、添付文書の高用量警告と動画説明の乖離を企業に文書で指摘して修正を要求する。
05-122018年度抗がん剤企業担当者による口頭説明
何が起きたか最適使用推進ガイドラインが発出されている抗がん剤について、企業担当者が2度にわたる製品説明で有効性情報のみを提供し、安全性情報を一切提供しなかった。
当局見解2 度にわたり安全性に関する情報提供を怠った。
切れた力伝達力(有効性・安全性の均衡ある情報提供)・行動変容誘因力(適正使用ガイドライン遵守を促す情報提供の徹底)
次の一手2回目の説明時点で安全性情報の提供がないことを記録し、最適使用推進ガイドラインの安全性要件を明示したうえで企業に書面で情報提供の是正を求める。
05-132018年度緑内障・高眼圧症治療薬企業担当者による口頭説明
何が起きたか新薬ヒアリングの場で、企業担当者が「1本処方すれば1か月使用できる」と説明し、14日処方制限を無視した使用方法を医療従事者に勧めた。
当局見解新薬の処方日数制限に反する使用方法を勧奨した。
切れた力知識(承認条件・処方日数制限の正確な理解)・リスク検知力(制限逸脱の勧奨がもたらす患者安全リスクへの感度)
次の一手当該発言の記録を保全し、処方日数制限に反する使用方法の勧奨として薬事コンプライアンス部門へ速やかに報告する。
05-142022年度糖尿病治療薬企業担当者による説明(オンライン)
何が起きたか糖尿病治療薬のオンライン説明会で、企業担当者が自社品のみのグラフを提示しながら口頭で他剤との比較に言及し、RMPで重要な潜在的リスクに指定されている乳酸アシドーシスについて「リスクが少ない」とアピールする説明を行ったが、該当する安全性情報は提供しなかった。
当局見解RMP の重要な潜在的リスクに挙げられているにもかかわらず、リスクが少ないことのみ を強調した情報提供を行ったが、安全性に関する情報も合わせて提供すべき。なお、動物 実験の結果を示すこと自体は問題ない。
切れた力知識(RMPの重要な潜在的リスク項目の把握と情報提供義務の理解)・リスク検知力(安全性を伏せた有効性強調が医療従事者に与える誤認リスクへの感度)
次の一手説明会の記録と使用スライドを確認し、RMPの重要な潜在的リスクに対応する安全性情報が提供されなかった事実を記録した上で、適切な是正情報の提供を企業に求める。
05-152022年度先天性代謝異常症治療薬企業担当者による説明(直接対面)
何が起きたか先天性代謝異常症治療薬の添付文書改訂説明で、企業担当者が「投与速度の上限がなくなった」と説明したが、改訂後も「infusion reactionのおそれがあるため初回投与速度は0.25mg/分以下とすること」という注意事項が用法・用量に関連する注意に残っており、その点を伝えなかった。
当局見解安全性の観点から周辺情報も併せて提供しないと誤解を与えかねない情報提供であり、 不適切といえる。
切れた力知識(改訂添付文書の全体像と残存する注意事項の正確な把握)・伝達力(選択的な情報提示が誤解を生む構造への意識)
次の一手添付文書の改訂内容を全文確認し、残存する投与速度に関する注意事項を含む正確な情報を企業担当者が次回訪問時に補足説明するよう求める。
05-162022年度その他の循環器官用薬企業担当者による説明(オンライン)
何が起きたか循環器官用薬の薬事委員会ヒアリングで、企業担当者が「日本人では腎不全への進展抑制効果が弱い可能性がある」という添付文書記載の情報を自発的に説明せず、医療従事者からの質問があって初めて別スライドで示した。
当局見解十分な説明時間を病院側が確保したにもかかわらず、ネガティブな情報提供を敢えて行 わなかったことが疑われる情報提供であった。販売情報提供活動ガイドラインにおいて は優越性を示せなかったことについてもきちんと情報提供をすることと定められている。
切れた力リスク検知力(ネガティブデータの能動的開示義務に対する感度)・行動変容誘因力(不利な情報を隠す行動が信頼を損なうことへの認識)
次の一手説明資料に含まれなかった日本人部分集団データについて、企業担当者に販提Gに基づく自発的情報開示の義務を確認させ、次回ヒアリングでは最初から提示されるよう改善を求める。
05-172023年度糖尿病治療薬企業担当者による説明(直接対面)
何が起きたか糖尿病治療薬のヒアリングで、企業担当者が「参考情報」と明記されたスライドを用いて脂質への効果を有効性として説明したが、審査報告書では脂質への影響は安全性情報として評価されており、承認範囲を逸脱した説明であった。
当局見解安全性情報として提供すべき内容を有効性の観点から説明しており、安全性を軽視した 情報提供となっている。また、説明資材や製品情報概要などに「有効性評価項目」を記載 する場合、医療従事者に誤解を与えないよう、そもそも「有効性評価項目」とはどのよう なものか合わせて説明を入れておくことが望ましい。
切れた力知識(審査報告書における有効性・安全性の区別と承認内容の正確な把握)・リスク検知力(承認逸脱の説明が医療従事者に与える誤認リスクへの感度)
次の一手使用されたスライドの「参考情報」欄の記載内容が承認外の有効性主張に当たるかを添付文書・審査報告書と照合し、問題がある場合は企業に資材の使用停止と修正を求める。
05-182023年度高カリウム血症改善剤企業担当者による説明(直接対面)
何が起きたか高カリウム血症改善剤の担当MRが医師に対して他社製品との比較でカリウム値低下効果をアピールしたが、本剤使用時に必要なカリウム値のモニタリングについて一切説明しなかった。
当局見解有効性に関する情報だけではなく安全性に関する情報提供を行うことが必要である。
切れた力知識(安全使用に必須のモニタリング要件の把握)・リスク検知力(モニタリング説明の省略が患者安全に与えるリスクへの感度)
次の一手当該MRに、カリウム値モニタリングを含む安全性情報の提供が有効性説明とセットで必要である旨を記録し、企業の医薬情報担当部門への報告と追加説明の実施を求める。
05-192023年度糖尿病治療薬企業担当者による説明(直接対面)
何が起きたか糖尿病治療薬の説明で、企業担当者が医療従事者からの質問に対し「海外では抗肥満への投与量の多い規格が使われている」と回答し、日本では未承認の抗肥満適応について申請中である旨も自発的に説明した。
当局見解本剤は抗肥満についての適応外使用が問題視されている薬剤の一つであることから、効 能効果及び副作用(体重減少)に関する説明は、特に慎重に行うことが求められている。 「体重減少に関連する安全性」が重要な潜在的リスクとして設定されており、降圧作用と 併せて利点としてではなく安全性情報として適切に提供すべき内容である。
切れた力知識(未承認適応に関する情報提供の禁止事項と体重減少の安全性リスクの把握)・リスク検知力(適応外使用を示唆しうる情報提供が医療従事者に与える誤認リスクへの感度)
次の一手未承認適応に関する言及がなされた事実を記録し、体重減少に関連する安全性情報(RMPの重要な潜在的リスク)が適切に伝えられていないことも合わせて企業コンプライアンス部門へ報告する。
05-202023年度抗ウイルス剤電子メールによる DM
何が起きたか抗ウイルス剤のメール一斉配信で、学会ガイドラインの薬物相互作用表から自社品の相互作用の大半を省いて他社品の相互作用のみを抜粋掲載し、さらに禁忌(eGFR30未満)を明示せずに「さまざまな背景のHCV患者に一貫した治癒が期待できる」と有効性のみを強調した。
当局見解自社品の副作用が他社品と比較し少ないかのような印象を与える情報提供や、「さまざま な背景の患者」という表現を用いた情報提供を行い、禁忌など安全性に関する情報を軽視 した情報提供を行った。
切れた力知識(禁忌を含む安全性情報の開示義務とガイドライン引用の公正性要件の把握)・リスク検知力(選択的引用と禁忌未記載が医療従事者に与える誤認リスクへの感度)
次の一手当該メールを証拠保全した上で、禁忌の未記載と薬物相互作用表の選択的引用を誇大広告・安全性軽視の観点から整理し、企業に配信停止と是正資材の送付を求めるとともに、必要に応じ監督官庁への報告を検討する。
05-212024年度代謝性医薬品企業担当者による説明(直接対面)
何が起きたか代謝性医薬品の小児投与量制限緩和に際し、MRが「30mgまで投与できるようになった」という情報だけを伝え、増量の根拠や安全性情報を提供しなかった。医療従事者が根拠データと安全性情報を求めると「すぐには回答できない」と述べ、2週間後に付箋付きインタビューフォームを渡すだけにとどまった。
当局見解投与量の制限が緩和されたという情報提供だけではなく、安全性についてもセットで情 報提供を行うことが求められる。
切れた力知識(投与量変更に伴う安全性情報および改訂副作用情報の把握)・伝達力(増量の根拠と安全性をセットで説明する構成力)
次の一手投与量制限緩和の根拠データと改訂された副作用情報を企業の医薬情報部門から文書で入手し、安全性情報とセットで医療従事者に提供されたことを確認した上で記録に残す。
05-222024年度循環器官用薬企業担当者による説明(直接対面)
何が起きたか循環器官用薬の製品説明会で、担当MRが国際共同試験での全体集団における心血管・腎複合エンドポイントのリスク低下のみを約20分間説明し、日本人部分集団で腎不全イベントのハザード比が1を上回るという承認経緯上の重要な注意喚起事項について一切言及しなかった。
当局見解有効性に関する情報だけではなく、安全性に関する情報も提供することが必要である。
切れた力知識(承認経緯に関わる日本人集団データと添付文書の注意喚起事項の把握)・リスク検知力(ポジティブデータのみの提示がもたらす偏った情報提供リスクへの感度)
次の一手説明会の記録を整備し、添付文書に記載された日本人集団に関する注意喚起が提供されなかった事実を確認した上で、企業に対して当該情報を含む補足説明の実施を求める。

しくじりの解剖 ── カテゴリー一覧(全 8 区分)

  1. 01. 未承認・適応外の効能効果・用法用量を示す(33件)
  2. 02. エビデンスなし・信頼性を欠く説明(69件)
  3. 03. データの抜粋・改変・恣意的加工(33件)
  4. 04. 誇大・事実誤認の表現(28件)
  5. 05. 有効性のみ強調・安全性を軽視した情報提供(22件)(本カテゴリー)
  6. 06. 他社製品の誹謗・中傷(28件)
  7. 07. 利益相反(COI)の不開示と講演・処方誘導の逸脱(10件)
  8. 08. 分類横断・手続き不全による複合違反(4件)
この区分の要点
  1. 安全性情報の不提供は、薬機法68条の2が定める積極的提供義務の違反であり、「聞かれなかった」は免責事由にならない。
  2. 守秘義務契約・同意書など手続き的障壁を課して安全性資材へのアクセスを制限する行為も、情報提供義務の実質的な妨害と判断される。
  3. RMPや添付文書に記載された安全性情報を有効性の文脈に置き換えて説明する行為は、知識があったうえでの意図的な矮小化として、より重く評価される。
出典・参考
  1. 厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業(旧:広告活動監視モニター事業)報告書」(2016〜2024年度)。
  2. 薬機法第68条の2(医薬品等の情報提供義務)
  3. 販提G 第1の3 原則(1):正確性・公正性・品位の確保(4要件)
  4. 販提G 第1の3 原則(3):安全性情報の積極的提供を含む三積極義務