── 仕組みを「働く人たち」に置き換えて、一気に俯瞰する ──

登場人物 — AI社で働く 9 人

01
プロンプトさん
お客さん / 質問を持ってくる人
「これお願いします!」
02
コンテキストウィンドウ係
受付 / 入れる人数を管理
「ここに入れるのは 128k トークンまで!」
03
トークン工員
工場ライン / 文章を破片に切る
「単語じゃなく、"破片" で扱うのがコツ」
04
エンベディング職人
数値翻訳 / 言葉を数字に変える
「"犬" は数字で言うと、こうなります」
05
アテンション部長
優先順位 / 何を重視するか決める
「ここは大事、ここは無視!」
06
モデル本社の社員
推論エンジン / 次の単語を予測
「次は... こいつだ!」
07
RAG司書さん
外部資料 / 調べ物担当
「ちょっと社外資料庫、見てきますね」
08
エージェント主任
外部ツール / 道具を呼び出す
「電卓も API も叩けますよ」
09
ハルシネーション君
自信満々の新人 / 要注意人物
「たぶん、こうです!」(根拠なし)

物語 ── ある日のAI社、お客さんが来てから答えが出るまで

1. 朝、お客さんが来店

ガラス張りのオフィスに、一人のお客様がやってきました。プロンプトさん。今日彼女が持ち込んだ依頼は、こんな質問です。

プロンプトさん:「製薬企業の存在意義について、200 字でまとめてほしいんです」

2. 受付で人数チェック

入口で迎えるのは コンテキストウィンドウ係。彼の仕事は、お客様の言葉と社内資料が、今日の許容量に収まるか確認すること。「トークン」というのは、文章を細かく刻んだ "破片" のことです。

受付係:「了解です! 質問は 25 トークン、社内資料は... まだ余裕ありますね。英語の方が少ない破片で済むんですけどね」

3. 工場ラインで、文章を "破片" に切る

要望はすぐに工場ラインへ流されます。ベルトコンベアの前に立つのは トークン工員さんたち。彼らは文章を、私たちが思う「単語」ではなく、もっと細かい "文字片" に切り分けます。「製/薬/企業/の/存在/意義...」── 一見おかしな切り方に見えるけれど、これが AI の流儀。

4. 言葉を、数字に変える

切られた破片は、エンベディング職人 のもとへ。「"製薬" を数字に変換すると... 768 次元のベクトル、はい!」 言葉は、巨大な数字の塊として、次のステップへ流れていきます。AI は文字を読んでいるのではなく、ずっと 数字を計算している のです。

5. 何を重視するか決める

ここで登場するのが アテンション部長。全ての情報を平等に扱うのではなく、何に注目するかを瞬時に決めます。

部長:「今回は "存在意義" がキー! "製薬企業" との関係に強く重み付けします!」

6. 次に来る言葉を、ひたすら予測

満を持して動き出すのが、モデル本社の社員たち (実は数千億人います)。過去に世界中の文章を読み込んで覚えた知識を総動員し、"次に来る単語" を予測しはじめます。「製薬/企業/の/本質/は/患者/の/信頼/...」── 一文字ずつ、いや一トークンずつ、答えが生まれていく。これが AI の正体、次トークン予測 の現場です。

7. 知らないことは、図書館に駆け込む

途中、ある社員が困った顔をしました。「あれ、これ最新の規制の話を聞かれたら、自分たちの知識じゃ古いかも...」 そこで呼ばれるのが RAG司書さん

司書さん:「ちょっと社外資料庫、見てきますね!」 ── 図書館 (外部 DB) から最新の情報を引っ張ってきて、社員たちに渡してくれます。これが RAG (検索拡張生成)

8. 道具を使うのは、頼れる主任

「あ、計算が必要なら言ってくださいね」と エージェント主任。電卓、検索エンジン、メール送信、外部 API ── いろいろな道具を呼び出せる頼れる先輩。「応答するだけの AI」から「実際に作業する AI」へと進化させたのは、彼のおかげです。

9. しかし、隅にいる新人くんに、皆が注意

オフィスの隅にいる新人くんに、皆が注意の視線を送っています。ハルシネーション君。聞かれてもいないのに、自信満々で答え始めるクセがあるのです。

ハルシネーション君:「製薬の信頼度ランキング、1 位はアステラス製薬です!」
周りの社員:「ちょ、根拠は!?」
ハルシネーション君:「いえ、なんとなく、それっぽいかなと...」

これが、AI の ハルシネーション の正体。もっともらしい誤りは、悪意ではなく、AI の構造そのものから生まれます。だからこそ、人間の検証が要る。

10. 出来上がった答えを、お渡し

最後、出来上がった回答を コンテキストウィンドウ係 が受け取り、プロンプトさんに渡します。「お待たせしました!」── テキストが画面に流れ出す。これが、AI社の一日の流れです。

用語の正体 — 登場人物 ↔ 実際の AI 用語

登場人物実際の用語一言
プロンプトさんプロンプト質問・指示そのもの
コンテキストウィンドウ係コンテキストウィンドウ一度に扱える最大トークン数
トークン工員トークン化文章を AI が扱える単位に分割
エンベディング職人エンベディング言葉を数値ベクトルに変換
アテンション部長アテンション機構情報の重要度を決める仕組み
モデル本社の社員推論 (Inference) / 次トークン予測過去の学習から次の単語を確率で予測
RAG司書さんRAG (検索拡張生成)外部知識を参照して回答する
エージェント主任AI エージェント外部ツールを呼び出して動く AI
ハルシネーション君ハルシネーションもっともらしい誤情報の生成
ここまで読めた方は、もう ChatGPT が画面の向こうで黙々と動いている "巨大なオフィス" の姿が、なんとなく見えてきたはずです。 ベンダー資料に「トークン上限が...」「RAG で社内文書を...」「エージェント機能で...」と書かれていても、もう怖くない。 社員それぞれの仕事を、思い出してみてください。

第二回・第三回 (公開中)

第二回は 体験型 ── 句構造文法で "出典と整合する文書を AI と作る"。読むだけでなく、手元の AI と一緒に 10 ステップでプロンプトを組み立てます。
第三回は 「メール・議事録・要約 ── 毎日 30 分の AI 活用」。毎月 22〜33 時間を取り戻す 3 つの基本フローを実践型で。