01全体の見取り図 ── 三つの面と、12 の部品

まず全体を見ます。部品は 12 あります。三つの面に分けて置きます。面とは、役割の種類ごとの置き場です。

一つ目は「材料をそろえる面」です。資材と、比べる相手になる書類を、決まった形に固定します。二つ目は「判定する面」です。白黒がつく検査と、頭に残る絵の差から、指摘を作ります。三つ目は「学ぶ面」です。人間の最後の判定を受け取り、見逃しを数えます。図2 がその配置です。

① 材料をそろえる面 ── 事実を決まった形に固定する② 判定する面 ── 決めるのはプログラム、意味を読むのは AI③ 学ぶ面 ── 人間の判定を戻し、見逃しを数える取り込み係冊子 → 文・図・注記の地図手順承認事実の保管庫公式の説明書・審査報告書・安全対策の計画手順ルール改定の追跡係改定を見つけ、検査項目を更新両方決まりごとの照合係白黒がつく検査 694 項目手順像を作る係四通りの読み方で「頭に残る絵」を作るAI差を取る係絵 − 承認事実 → 指摘手順社会の目決まった顔ぶれで読み直すAI例外の受付理由つきでだけ落とす手順まとめと採点重さ × 確からしさ × 目立ち方手順仮想の審査会60 人が議論と投票AI記録と判例のノート経路と過去の判断を残す手順見逃しの台帳人間の判定と突き合わせ、割合を数える手順人間の審査担当者最終判定と責任指摘の一覧・記録判定と理由を戻す検査項目と閾値を直す
図2 部品の配置。三つの面に 12 の部品を置く。①の面は事実を決まった形に固定し、②の面は白黒がつく検査と「頭に残る絵」の差で指摘を作り、③の面は人間の判定を台帳に戻して見逃しを数える。破線は直した検査項目が戻る流れ。

面を分ける理由は、直すときの影響を閉じ込めるためです。法律や指針が改定されたら、動くのは材料をそろえる面だけです。AI を新しい製品に替えたら、試験を受けるのは判定する面の AI を使う部品だけです。人間の判断の基準が変わったら、積み上がるのは学ぶ面のノートだけです。面が違えば、他の面に手を入れずに済みます。

02部品どうしの約束 ── 判定の言葉と、指摘の形

部品は、決まった約束でつながります。約束は二つです。

一つ目は、判定に使う言葉です。法律の側の札は五段階です。「明らかな違反」「上位のルールに触れる」「隙間を突いた逸脱」「ルールの精神に反する」「問題なし」です。社会の目の側の札は四段階で、「経営層へ」「人間へ」「記録に残す」「問題なし」です。二つの札は混ぜません。法律の札で軽くても、社会の目の札で重いことはあります。指摘の種類も決まっています。承認の範囲を超えている、安全性を軽く見せている、効果を大げさに言っている、ほのめかしている、他社をけなしている、根拠がおかしい、必要な記載が無い、社会の常識に反する、の八つです。

二つ目は、指摘の形です。どの指摘にも、次のものが必ず付きます。資材のどこか(引用)。どの検査項目に当たったか。ルールの原文のどこか。どの「頭に残る絵」の、どの差か。どの読み方で作った絵か。似た資材に対する過去の判断。どの部品の、どの版が判定したか。これらが一つでも欠けた指摘は、プログラムが受け付けません。約束が固まっているので、部品は取り替えられます。

03材料をそろえる面 ── 取り込み係、承認事実の保管庫、ルール改定の追跡係

取り込み係は、資材の PDF やウェブページを、機械が読める地図に変えます。地図には、文・図・注記が一つずつ載り、それぞれの位置、大きさ、目立ち方、どの図にどの注記が付いているか、が書き込まれます。段組みの判定や、途中で切れた文のつなぎ直しもここで行います。読み取れなかったものは捨てません。「人間に確認」という印を付けて残します。動くのはプログラムです。

承認事実の保管庫は、比べる相手になる書類を、決まった形で持ちます。書類は三つです。公式の説明書(電子添文)。国の審査報告書。安全対策の計画書。差を取る係が絵を照らす相手は、常にこの三つです。どの版の書類を使ったかは、審査ごとに記録されます。動くのはプログラムです。

ルール改定の追跡係は、法律や指針の改定を見つけ、検査項目を更新し、正解つきの試験問題で確かめ、すでに通した資材の見直しを始めます。改定を見つけるのはプログラム、改定の内容を検査項目に落とす下書きは AI、承認は人間です。

04判定する面 ── 決まりごとの照合係

決まりごとの照合係は、白黒がつく検査を先に済ませます。検査項目は全部で 694 あり、その半分ほどは AI に聞かなくても答えが決まります。使ってはいけない語が入っていないか。グラフの縦軸がゼロから始まっているか。症例の数が基準を満たしているか。必ず書くべき記載が欠けていないか。こうした検査は、同じ資材を入れれば必ず同じ答えになります。動くのはプログラムです。

この係には、もう一つ仕事があります。検査の結果を、次の係への手がかりとして渡すことです。「この図は縦軸がゼロから始まっていない」という事実は、「効果が実際より大きく見えるかもしれない」という絵の候補を、像を作る係に示します。プログラムが見つけた事実が AI の読みを導き、AI の読みをプログラムが裁く。この順番が、この仕組みの背骨です。

05判定する面 ── 像を作る係と、差を取る係

像を作る係が、この設計の中心です。像とは、資材を読み終わった人の頭に残る絵のことです。この係は、資材の地図を受け取り、四通りの読み方で絵を作ります。一文だけを読む。隣り合う二つを続けて読む。冊子を最初から最後まで読む。図だけを切り取って見る。読み方ごとに、AI に三回別々に絵を作らせ、出てきた内容を全部合わせます。一回でも出てきた含みは残します。多数決で消しません。見逃しを防ぐためです。動くのは AI です。

絵の中の一つひとつの文には、印が付きます。資材にはっきり書いてあることか、並べ方から読める含みか。どの文や図の組み合わせから生まれたか。「表題の『治療』という言葉と安全性の話が並んでいる」「他社の副作用と自社の軽さが並んでいる」「相対的な数字だけあって実際の数字が無い」といった、誤った絵が生まれやすい並びは、この係が近くを読むときの注意の向け先として持っています。

差を取る係は、四つの絵を承認事実の保管庫と照らします。承認事実に無いこと。承認事実より軽く言っていること(安全性の薄め)。承認事実にあるのに絵に無いこと(安全性の抜け)。この三種類が差です。差にどの札を付けるかは、決まった規則でプログラムが決めます。認められていない病気に効くと、はっきり書いてあれば最も重い札。ほのめかしなら二番目の札。安全性をはっきり保証している、認められていないことを認められていると書いている、グラフの軸をいじっている、の三つは、文脈にかかわらず最も重い札です。隣を読んだとき、全部を読んだときに絵が悪くなっていれば、札を一段重くします。同じ絵にいくつもの文や図が関わっていれば、指摘は一つで、経路が複数になります。動くのはプログラムです。

06判定する面 ── 社会の目と、例外の受付

社会の目は、ルールの文面に当たらなかった資材を、それでも「問題なし」にしないための部品です。資材全体の絵を、決まった顔ぶれの人物に読ませます。患者本人、その家族、記者、役所の担当者、競合他社、弁護士、医師、株主、五年後の自分、などです。誰かが強い違和感を持ち、過去の事件に似ていれば、社会の目の札が付きます。顔ぶれは版で管理し、どの版で読んだかを指摘に残します。この札は、資材を止める力を持ちません。人間へ渡すか、経営層へ渡すかを決めるだけです。動くのは AI です。

例外の受付は、指摘を落とせる唯一の場所です。落としてよいのは、決まった三種類だけです。引用した臨床試験の説明で、使う量や間隔が公式の説明書と違うだけのもの。「国内で認められた量を超えた量を含む」といった決まった注記が付いた成績。開発の段階がはっきり書かれた初期の試験の記述。落とすときは、理由と、どの規則の版で落としたかを記録します。注記があっても、効果や対象の病気を広げている、安全性を薄めている、統計のやり方をごまかしている、の三つは落としません。動くのはプログラムです。

07判定する面 ── まとめと採点、仮想の審査会、記録と判例のノート

まとめと採点は、同じ絵への重なった指摘を最も重い札に一本化し、点数を付けます。点数は、重さ × 確からしさ × 目立ち方、です。重さは札の段階で決まり、承認の範囲を超えるものと安全性を軽く見せるものは一段重くします。目立ち方は、患者向けやウェブ公開なら高く、医療者限定なら低くします。資材全体の評価は、最も高い点数を基本にして、指摘の数で補正します。最も重い札が一つでもあれば、資材の評価は自動的に最低になります。社会の目の札は点数に入れず、旗を立てるだけです。動くのはプログラムです。

仮想の審査会は、重い指摘だけを、60 人の仮想の審査員にかけます。どの指摘をかけるかは規則で決まっています。社会の目と倫理の指摘は全部。法律の札で上から二段までは、確からしさが半分以上のもの。討論の 30 人(審査の経験者、公式説明書の専門家、広告規制の弁護士が 10 人ずつ)は、直すべき理由と直さなくてよい理由の両方と、少数意見を必ず出します。投票の 30 人(安全対策、承認審査、広告監視の担当が 10 人ずつ)の過半数で、「直すべき」の候補になります。全員一致に見えるとき、僅差のとき、機械の重さと食い違うとき、AI が答えを出さなかったときは、必ず「人間に確認」の印を付けます。審査会は、指摘を消したり軽くしたりしません。動くのは AI です。

記録と判例のノートは、二冊のノートを持ちます。一冊目は記録です。入力の資材、使った検査項目・規則・顔ぶれ・AI の版、指摘ごとの経路、落とした操作とその理由を、審査ごとに書き足します。二冊目は判例です。人間の最終判定(直す/直さない)と理由を、絵と差の型に結びつけて保存します。次の審査で似た絵が出たら、この判例を指摘に添えます。前の判定と今回の候補が食い違うとき、ルールの版か判例のどちらが変わったかを示せなければ、人間へ回します。動くのはプログラムです。

08学ぶ面 ── 見逃しの台帳

見逃しの台帳は、学ぶ面にある唯一の部品です。人間の最終判定が戻ってくると、機械の候補と突き合わせます。人間が「直す」とした箇所で機械が黙っていたものが見逃しです。機械が指摘して人間が「直さない」としたものが行き過ぎです。見逃しは台帳に載り、反応すべきだった検査項目、作るべきだった読み方、参照すべきだった判例が書き足されます。

台帳は週ごとに集計します。最も重い札の見逃しが 1% を超えたら、二番目の札の見逃しが 5% を超えたら、本稼働を止めます。超えなくても、見逃しの型ごとに、検査項目や閾値や AI への指示の直し方を下書きします。下書きは人間が承認し、正解つきの試験問題で確かめてから、判定する面に戻ります。集計はプログラム、下書きは AI です。

この部品が無ければ、「見逃しを最も重い失敗とする」は宣言のままです。あれば、宣言は毎週の数字になります。

09部品表

部品することの一言受け取る → 出す動くのは通る関門
① 取り込み係資材を地図にするPDF・ウェブページ → 文・図・注記の地図プログラム入り口
② 承認事実の保管庫比べる相手を固定する説明書・審査報告書・安全対策の計画 → 決まった形の承認事実(版つき)プログラム入り口
③ 決まりごとの照合係白黒がつく検査を先に地図 → 指摘 + 次への手がかりプログラム根拠・再現
④ 像を作る係四通りの読み方で絵を作る地図 + 手がかり → 四つの絵AI(三回)もれ・独立
⑤ 差を取る係絵と承認事実の差に札を付ける四つの絵 + 承認事実 → 指摘(経路つき)プログラム根拠・再現
⑥ 社会の目決まった顔ぶれで読み直す全体の絵 + 顔ぶれの版 → 社会の目の札AI(三回)独立
⑦ 例外の受付理由つきでだけ落とす指摘 + 規則の版 → 指摘(落とした理由つき)プログラム消すとき
⑧ まとめと採点一本化して点数を付ける指摘 → 一覧と評価(旗つき)プログラム再現
⑨ 仮想の審査会重い判定の候補を固める争点 → 討論・投票・人間に確認AI独立
⑩ 記録と判例のノート経路と人間の判断を残す審査 → 記録/人間の判定 → 判例プログラム根拠・追いかける
⑪ 見逃しの台帳見逃しを数え、直し方を作る人間の判定 + 候補 → 割合・直し方の下書き・試験問題プログラム + AI続ける・追いかける
⑫ ルール改定の追跡係改定を見つけ検査項目を直すルールの原文 → 検査項目の差分 → 試験 → 見直しプログラム + AI続ける

12 の部品のうち、AI が働くのは、像を作る係・社会の目・仮想の審査会の三つと、下書きにだけ使う二つです。残りはプログラムが決まった手順で動きます。判定の言葉と指摘の形は部品の外にある約束なので、約束を守るかぎり部品は取り替えられます。関門(条件を満たさないと先へ進めない検査)の八つは、設計思想編の最後に並べたものと同じです。この配置がどの順番で動くのかは、続く実行プロセス編で追います。