カテゴリー01から07のいずれにも収まりきらない、あるいは複数類型を同時に満たした4件を集めたのがこのカテゴリーだ。骨粗鬆症治療剤・アレルギー用薬・代謝性医薬品・漢方製剤と薬効群は異なるが、4件を通じてみえる構造は共通する。資材や講演の内部確認体制が実質的に機能していない、経過措置期間終了後も旧様式の添付文書を使い続けるなど、コンテンツの中身以前に「プロセス自体の欠陥」が出発点になっている点だ。08-02は「①から⑥のいずれの項目にも該当する」と記録されており、一つの講演の中に未承認効能の言及・エビデンス不足・誇大表現・安全性情報の軽視が重なっていた。また08-03の「異常事態」という表現は、他社誹謗と誇大広告の両方に同時に抵触し、カテゴリー06と本カテゴリーをまたいで参照されている。類型が「その他」であっても、審査者が問うべき論点は他のカテゴリーと変わらない。

「結衣、vol.8 を眺めて最初に何を感じた?」

結衣「正直、"その他"ってまとめ方が引っかかりました。4件しかなくて、薬効群もバラバラで……なぜ独立したカテゴリーになっているんだろうと」

「そのバラバラ感が、実はこのカテゴリーの核心を突いている。4件のうち、コンテンツの中身より"手続きそのもの"に問題の起点がある事案はどれだと思う?」

結衣「08-02 です。担当部門による審査が不十分なまま講演が行われたとあるので。あと 08-04 の旧様式の添付文書も、資材の運用管理の問題ですよね」

「その通り。08-02 には"①から⑥のいずれの項目にも該当する"と記されている。一つの講演の中に、未承認効能の言及・エビデンス不足・誇大表現・安全性情報の欠落が同時に存在した。なぜそれが起きたと思う?」

結衣「内部審査が名ばかりで、実質的に内容を確認する関門として機能していなかったから、だと思います」

「そう。内部審査は通過させるための手続きじゃない。複数の問題を一度に防ぐ最後の砦として機能しなければ、今回のような複合違反が生まれる。次に 08-03 を見て。"異常事態"という言葉が出てくるけど、どの条文に引っかかると思う?」

結衣「不安を煽って他社製品から切替を誘導しているから……薬機法 66 条の誇大広告等の禁止? それと他社誹謗として販提G 原則(2)の禁止行為にも抵触する?」

「両方正解。この事例がカテゴリー06-1(他社誹謗)の参照事例として同時に挙がっているのはそのためよ。"不安を煽る"という手法は単なる表現上の誇張ではなく、66 条が禁じる誇大広告として扱われる。最後に、08-04 の旧様式添付文書——薬機法でいうとどこが問題になると思う?」

結衣「68 条の 2 の情報提供義務です。最新かつ正確な情報を提供する義務があるのに、経過措置期間が終わった古い様式をそのまま使い続けていたということですね」

「そう。この 4 件を並べると、違反の"場所"は異なっていても、審査者として問うべき問いは共通していることがわかる。『この情報は最新か』『内部でどう確認されたか』『表現が受け手に与える印象は適正か』。カテゴリーが"その他"でも、この三つの問いは変わらない」

報告書からの実例 4 件

08-012022年度骨粗鬆症治療剤企業担当者による説明
何が起きたか骨粗鬆症治療剤の担当者が院内での宣伝許可取得のため薬剤部に概念図を示し、「本剤はアナボリックウインドウが優れ、骨吸収を過度に起こさない」と他剤に対する優越性を説明した。提示した概念図はレビュー論文に掲載された概念的考え方を示すものであり、実際の臨床効果を直接示したデータではなかった。
当局見解レビュー論文があるのでエビデンスがないとまでは言えないが、概念図のみで効果が優 れていると説明するのは適切ではなく、概念図の大元となった文献(臨床効果を直接的に 示す臨床試験のデータ)をもとに説明すべきである。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手概念図の出典論文を入手し、臨床試験データが優越性を直接支持しているかを審査する。臨床効果の比較根拠として概念図だけでは不十分であることを担当者に書面で確認させる。
08-022024年度アレルギー用薬講演会における説明スライド
何が起きたか製薬企業主催の講演会で演者の医師が承認外の投与法を繰り返し紹介し、エビデンスなく他社製品Bと本剤Aは「全く同じ」と主張した。講演資材は監督部門の事前審査を経ておらず、事案発覚後も受講者全員への訂正を行わないなど是正措置が不十分だった。
当局見解企業主催の講演会で、演者作成のスライドの確認が不十分なまま、ガイドラインの複数の 項目について違反する内容が含まれる講演を行った。
切れた力リスク検知力・行動変容誘因力
次の一手演者作成資料を含むすべての講演資材について、開催前に監督部門が承認外用法の記載および他社製品の誹謗に当たる表現がないか逐項目で審査する体制を確立する。
08-032024年度他に分類されない代謝性医薬品企業担当者による説明(対面)
何が起きたか代謝性医薬品のMRが、他社製品Bを使用した患者で手術を要する有害事象が県内に2名発生したという口コミ情報を「異常事態」と表現し、自社製品Aへの採用変更を求めた。当局は、医療従事者の不安を煽るこの表現が不適切な情報提供に当たると判断した。
当局見解他社製品で発生した事象を「異常事態」と表現し、自社製品への切替をアピールした。 「異 常事態」という医療従事者の不安を煽る表現を用いており、不適切な情報提供である。
切れた力第六感・リスク検知力
次の一手「異常事態」といった不安を煽る表現が販提Gの禁止行為に該当することを担当者に確認し、他社製品の安全性に関する口コミ情報は正式な安全性報告チャネル以外では提供しないよう指導する。
08-042024年度漢方製剤製品説明資材
何が起きたか漢方製剤のMRが2024年下期の製品説明会で、2024年3月31日に経過措置期間が終了した旧様式の添付文書を掲載した製品説明資材を配布した。最新の添付文書様式への更新が資材に反映されていなかった。
当局見解旧式の添付文書は 2024 年 3 月 31 日で経過措置期間が満了となっているが、旧式の添付 文書を使った製品説明資材を用いて情報提供を行った。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手資材内の添付文書が現行様式かどうかを監督部門が使用承認時に確認するチェック項目に追加し、経過措置終了後も旧様式資材が現場に残っていないか棚卸しを実施する。

しくじりの解剖 ── カテゴリー一覧(全 8 区分)

  1. 01. 未承認・適応外の効能効果・用法用量を示す(33件)
  2. 02. エビデンスなし・信頼性を欠く説明(69件)
  3. 03. データの抜粋・改変・恣意的加工(33件)
  4. 04. 誇大・事実誤認の表現(28件)
  5. 05. 有効性のみ強調・安全性を軽視した情報提供(22件)
  6. 06. 他社製品の誹謗・中傷(28件)
  7. 07. 利益相反(COI)の不開示と講演・処方誘導の逸脱(10件)
  8. 08. 分類横断・手続き不全による複合違反(4件)(本カテゴリー)
この区分の要点
  1. 「その他」類型の事案は単一の規制条項に収まらず、複数の違反類型を同時に満たすケースが含まれる。審査者は「どの一つのルールを破ったか」ではなく「何が同時に発生しているか」を問う必要がある。
  2. 内部審査プロセスの形骸化が複合違反の温床になる(08-02)。資材や講演の事前確認が実質的に機能していなければ、コンテンツ上の複数の問題を一度に見落とすことになる。
  3. 経過措置期間終了後に旧様式の添付文書を使用し続けることは、薬機法第68条の2が定める情報提供義務に反する(08-04)。資材の有効期限管理は安全性情報の提供と同じ水準で管理されなければならない。
出典・参考
  1. 厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業(旧:広告活動監視モニター事業)報告書」(2016〜2024年度)。
  2. 薬機法第66条(誇大広告等の禁止)——「異常事態」等の不安を煽る表現による誇大・誤解招致広告に適用(08-03)
  3. 薬機法第68条の2(情報提供義務)——経過措置期間終了後の旧様式添付文書使用による最新情報提供義務違反に適用(08-04)
  4. 販提G 第1の3 原則(2)七つの禁止行為——他社誹謗・不安煽動表現・不適切資材使用に適用(08-01・08-02・08-03)