医薬品卸売販売業者(卸)は、製造販売業者と医療機関の間に位置し、日々の医薬品流通を支える。その活動のなかには販売情報の提供も含まれるが、卸の情報提供は製造販売業者の資材をそのまま届けることが主であり、独自の情報を生み出す場面は限られる——第4章6節はこの現実を起点に、卸に適した規律を設計している。
GLは製造販売業者に対し、審査・監督委員会の設置と資材の事前審査を義務づけている(第2の2)。卸に対しては委員会の設置が「望ましい」とされているが、一定条件のもとで設けなくても「差し支えない」と整理されている。ただし差し支えないとされるのは条件付きであり、卸独自の資材については別途の審査義務がある。
01委員会設置が「差し支えない」とされる理由
なぜ卸には委員会設置の義務が緩和されるのか。理由は二点だ。
第一に、卸の活動は製造販売業者の活動に則して行われるのが通常であること。処方薬の販売促進情報は製造販売業者が作成し、卸はそれを医療機関に届ける役割を担う。
第二に、卸が独自に情報を生み出して提供することは一般に想定されないこと。新薬の臨床データを独自に収集して資材を作成し、医師に情報提供するという行為は、卸のビジネスモデルの範囲外だ。
So what(意味すること): 卸は製造販売業者の資材をそのまま使う活動に終始する限り、自社で審査・監督委員会を設けなくても差し支えない。これは卸のリスクプロファイルが製造販売業者と異なることへの合理的な対応だ。
So why(なぜそう定めるか): 規制は実態に即していなければ機能しない。卸が独自情報を持たず製造販売業者の資材を流通させるだけであれば、その資材はすでに製造販売業者の委員会の審査を通過している。二重の委員会審査を義務づけても、安全性への付加価値は乏しく、流通コストが増えるだけになる。
02製造販売業者の資材をそのまま使う場合——卸での審査は不要
製造販売業者が作成した資材を、卸が改変せずにそのまま使用して活動する場合、卸での審査は不要とされている。ただし、この取扱いは前節(特例5)の適用がない場合に限る。
「そのまま」という言葉が重要だ。製造販売業者の資材に卸が情報を加えたり、一部を削除して使ったりすれば、それはもはや「そのまま」ではない。改変があれば、改変した部分を含む資材全体について卸の監督部門が審査する必要が生じる。
So what(意味すること): 卸が製造販売業者の資材に一切手を加えずに使うなら審査不要。一文でも付け加えたら、その資材は「卸が作成した資材」として扱われ、監督部門の審査が必要になる。
So why(なぜそう定めるか): 製造販売業者が審査・承認した資材は、そのままの形であれば製造販売業者の品質管理が効いている。卸が内容を変えた瞬間に、製造販売業者の審査の前提が崩れる。審査義務の境界を「改変の有無」に置くことで、責任の所在を明確にする。
03卸が作成する資材——原則は事前審査
卸が独自に作成する資材については、卸の監督部門が事前に審査しなければならない。例外はない——ただし、次の条件をすべて満たす比較資材についてのみ、事後審査が認められる。
事後審査が認められる比較資材の三条件
複数の医薬品を公平・客観的に比較することを目的とした資材は、次の三条件がそろう場合に限り、使用後速やかに審査を受けることで事前審査に代えることができる。
条件① 医薬関係者から特定項目の比較を求める要請があり、その要請に応じて作成したものであること。担当者が自主的に作成した比較資材は対象外だ。
条件② 予め監督部門の了承を得て社内に周知された基準に基づいて作成されていること。基準なき即席作成は許されない。
条件③ 比較対象となった項目について、添付文書・告示・通知の内容に変更がなく、かつそれらを正確に転記していること。独自の解釈や要約を加えてはならない。
So what(意味すること): 医師から「A薬とB薬の〇〇を比べてほしい」と求められ、添付文書の記載を正確に比較した資材を作成した場合——かつ社内の事前承認済み基準に従っている場合——に限り、その場で渡した後に審査を受けることが認められる。この三条件のどれか一つでも欠ければ、事前審査が必要だ。
So why(なぜそう定めるか): 医療関係者のその場のニーズに応えるためには、資材作成から提供までのタイムラグをゼロにする必要がある場合がある。しかし完全な野放しは資材の質を担保できない。三条件——要請に基づく、事前承認された基準による、公式情報の正確な転記——によって内容の客観性を担保しつつ、タイミングの柔軟性を与えている。
卸に対するGLの設計思想は「実態に即した比例原則」だ。情報の発信源が製造販売業者にある限り、卸は二重の審査から解放される。しかし卸が自ら情報を生み出す瞬間に、審査の網がかかる。事後審査という例外は、医療関係者のリアルタイムの情報ニーズに応えるための必要最小限の譲歩であり、三条件という柵で囲まれている。