このカテゴリーには2018年から2024年にわたる28件が収録されている。事例に共通する構造は単純だ。自社製品との直接比較データが存在しないにもかかわらず、「他社製品よりも安全」「他剤が出せなかった特徴」などと説明し、競合を貶める形で自社を押し上げようとするパターンである。バイオシミラーや後発医薬品に対して不利益情報を積極的に流す事例、薬理作用の差異だけで安全性優位を断定する事例、競合品で起きた事象を「異常事態」と表現して切替を迫る事例まで、手口は多様だが根底にある問題は同じだ。比較の根拠がない。事実に基づかない競合比較は、薬機法66条が禁じる誇大広告に該当し得るとともに、販提ガイドライン(以下、販提G)第1の3 原則(2)が列挙する七つの禁止行為の第5号「医薬品等の品質、有効性及び安全性に関して他の医薬品等を誹謗し、中傷すること」に直接触れる。

「結衣、この28件を一通り並べてみて、どんな傾向が目についた?」

結衣「"他社製品より安全"とか"他剤と比べて優れている"という説明が多いですね。でも直接比較の試験データが提示されていないものがほとんどで……。なぜこれが問題なのか、感覚的にはわかるんですが、言葉にしようとすると難しくて」

「比較は、何があれば許されると思う?」

結衣「……根拠、ですよね。同じ条件で比較した臨床試験のデータとか」

「そう。販提Gの原則(1)が求める4要件の一つは正確性。比較先を明示しても、比較を裏付けるデータがなければ正確とは言えない。さらに原則(2)の禁止行為の5番目が、他の医薬品を誹謗・中傷することを明示的に禁じている。この2つがセットで機能しているんだよ」

結衣「06-18の事例で、"他社が出せなかった特徴"という表現がありました。これも同じ問題ですか?」

「典型例。自社製品を褒めているように見えて、実質は競合を貶めている。こういう間接的な誹謗中傷が審査で見落とされやすい。資材の文言がポジティブに見えても、その裏にある含意を読む習慣をつけることが大切だね」

結衣「06-27は少し違いますよね。他社製品で起きた有害事象を"異常事態"と表現して切替を促している。事実を言っているとも言えるのでは?」

「事実の一部を使っていても、文脈と表現が問題になる。"異常事態"という言葉は不安を煽るための選択だよね。中立的な表現で伝えることが求められているのに、切替誘導を目的として感情的な言語を選んだなら、それは誹謗中傷と変わらない。薬機法66条が禁じる誇大性の問題にもつながってくる」

結衣「バイオシミラーへの不利益情報提供(06-01、06-02)は少し性質が違うと感じました。競合というより、自社の先発品を守ろうとしている?」

「鋭い。動機は違っても、規制上の評価は同じ。後発品やバイオシミラーも"他の医薬品"だから、根拠のない不利益情報を積極的に流せば禁止行為に該当する。先発・後発の区別は規制の適用範囲に影響しない」

結衣「審査では、比較の主張が出てきたら"その比較を裏付けるデータが資材に添付されているか"を必ず確認する、ということですね」

「そこが第一歩。加えて、資材にデータがあっても直接比較試験かどうか、患者背景が揃っているかも見る。作用機序の違いを根拠に安全性差を主張している事例が多いけど(06-14など)、機序の差はデータの代替にならない。それが審査者として押さえるべき一線だよ」

報告書からの実例 28 件

06-012018年度抗がん剤企業担当者による情報提供
何が起きたか抗がん剤のMRが問い合わせのないにもかかわらず、自社製品のバイオシミラーが海外で承認されなかった事実や「効果は疑問」「精製が悪い」といった根拠不明の発言を含む複数の不利益情報を、複数医療機関にわたって積極的に提供した。切り替えができないという誤った説明も含まれていた。
当局見解本剤のバイオシミラー(及びバイオシミラー一般)にとって不利益となる情報提供を積極 的かつ広範に行った。
切れた力リスク検知力・知識
次の一手提供された各情報について根拠資料の開示を求め、事実と異なる説明(特に切り替え禁止の誤情報)はその場で記録し、モニタリング機関への報告要否を確認する。
06-022019年度そう痒症治療薬企業担当者による情報提供
何が起きたかそう痒症治療薬の先発品MRが、後発医薬品への切り替えが決定した後、「他県で保険査定されている」として再考を促す説明を病院と周囲の保険薬局に広く行った。
当局見解本剤の後発医薬品にとって不利益となる情報提供を積極的かつ広範に行った。
切れた力リスク検知力・知識
次の一手査定事例の具体的な根拠(審査機関名・件数・日付)を求め、裏付けが示されない場合は情報の信頼性を明示的に保留したうえで切り替え判断の記録を維持する。
06-032019年度抗がん剤企業担当者による情報提供
何が起きたか抗がん剤の切り替えを検討していた医療機関に対し、自社製品MRが「他施設では切り替え後に有害事象で元の製品に戻っている」と説明したが、詳細な調査内容には一切言及しなかった。
当局見解本剤からの切り替えが検討されている他社製品にとって不利益となる情報提供を行った。
切れた力リスク検知力・知識
次の一手施設名・事象の詳細・調査報告書の提示を求め、開示できないならその旨を記録し、切り替え検討の判断材料として当該情報を採用しないことを明示する。
06-042019年度パーキンソン病治療薬企業担当者(MR)による口頭説明
何が起きたかパーキンソン病治療薬のMRが、他社製品との比較データが存在しないにもかかわらず、テープ貼付時の使用感において自社製品の方が優れていると口頭で説明した。
当局見解他社の同効薬との比較データがないにもかかわらず自社製品の方が優れていると説明し た。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手優劣を主張する比較データの開示を求め、データが存在しない場合は「根拠なき比較説明」として記録し、以降の情報提供では裏付けのある資料の提示を条件とする。
06-052019年度COPD 治療薬プレゼンテーション用スライド、企業担当者による口頭説明
何が起きたかCOPD治療薬のMRが「喘息合併COPDは基本的に全例が本剤の対象」と記載したスライドを使用し、肺炎リスクの増加という副作用については口頭で一切説明しなかった。
当局見解副作用に関して説明せず、有効性のみ強調した情報提供を行った。
切れた力リスク検知力・知識
次の一手スライドの記載内容と添付文書の副作用情報(肺炎リスク)を照合し、説明の欠落を指摘・記録するとともに、安全性情報の補足説明を企業に求める。
06-062019年度慢性便秘症治療薬医療関係者向け情報サイト上の Web 講習会
何が起きたか慢性便秘症治療薬のWeb講習会で、審査報告書が高齢者への十分な観察を要求しているにもかかわらず、高齢者における有効性のみを強調し安全性情報は提供されなかった。
当局見解審査報告書等では副作用の発現に留意した十分な観察が必要とのスタンスであるにもか かわらず、こうした情報提供がされないまま有効性のみを強調した情報提供を行った。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手審査報告書・添付文書と講習内容を照合し、高齢者への安全性注意事項が抜けている箇所を特定して記録し、補足資料の提供を企業に要請する。
06-072019年度腎性貧血治療薬企業担当者による口頭説明
何が起きたか腎性貧血治療薬の悪性腫瘍リスクについて質問したところ、MRは競合製品のRMPにも同様の記載があるから問題ないという回答をし、自社製品固有のリスクを軽視した説明を行った。
当局見解他剤を引き合いに出し、本剤の持つリスクに関して大きな影響はないという安全性を軽 視した説明を行った。
切れた力リスク検知力・伝達力
次の一手「他社も同じ」という相対化の回答は安全性の評価として不十分であることを明示し、本剤固有のリスク規模・頻度・管理方法を改めて文書で確認する。
06-082019年度抗アレルギー薬企業サイト上の Web 講習会
何が起きたか抗アレルギー薬の企業サイトWeb講習会(20分)において、重要な基本的注意事項や禁忌の説明がなく、安全性情報は最後に添付文書を10秒ほど投影するのみで終わった。
当局見解企業サイト上の Web 講習会で重要な基本的注意事項や禁忌等、安全性に関する説明は添 付文書の投影のみで、有効性に偏った情報提供を行った。
切れた力リスク検知力・知識
次の一手講習の時間配分と安全性項目の扱いを記録し、添付文書の投影のみでは説明義務を果たしていないとして企業への申し入れと、受講履歴への注記を行う。
06-092019年度パーキンソン病治療薬企業担当者による提供資料
何が起きたかパーキンソン病治療薬の製品説明会で、RMPのリスク最小化計画に定められた適正使用ガイド等の資材に関する説明が行われず、安全性に関する情報提供が不足した。
当局見解RMP に定められたリスク最小化計画(添付文書及び患者向医薬品ガイドによる情報提供) が実施されず、安全性に関する説明が不足していた。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手RMPに定められたリスク最小化活動(適正使用ガイド等)が説明されたか確認し、未説明であれば記録し企業に実施を求める。
06-102019年度慢性心不全治療薬企業担当者による提供資料
何が起きたか慢性心不全治療薬の製品説明会で、適応患者・潜在リスクのリスクベネフィット説明が不足していたうえ、RMPのリスク最小化計画の実施も不十分だった。
当局見解RMP に基づいた情報提供及び具体的な適応患者に関する説明が不足していた。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手適応患者のリスクベネフィット情報とRMP実施状況の両方を確認チェックリストとして用意し、説明会後に未達項目を記録して企業への補足説明を要請する。
06-112020年度DMD 治療薬対面の面談にて、企業担当者による資料提供
何が起きたかDMD治療薬のMRが、臨床試験で有害事象が認められなかった点のみを根拠として「安全性が高い」と説明した。試験規模や観察期間等の文脈には言及がなかった。
当局見解臨床試験で有害事象が認められなかった点のみを根拠として、安全性が高いとの説明を 行った。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手該当臨床試験の規模・期間・評価方法を確認し、有害事象ゼロを安全性の積極的根拠として受け入れない旨を記録したうえで、添付文書の安全性情報との整合性を確認する。
06-122020年度抗菌薬オンラインのグループ面談にて、企業担当者による説明
何が起きたか抗菌薬のオンライングループ面談で、スライド資料は成分名のみの表記だったが、口頭説明では他社製品名を何度も具体的に挙げて自社製品との比較を行った。
当局見解本剤との比較を行う際、他社の製品名を具体的に挙げた。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手口頭で他社製品名が具体的に挙げられた事実を記録し、資料と口頭説明の乖離として申し送るとともに、根拠データの有無も併せて確認する。
06-132020年度腎性貧血治療薬オンライン面談にて、企業担当者による説明
何が起きたか腎性貧血治療薬のオンライン面談で、他剤との安全性比較データが存在しないにもかかわらず、担当者が「国内臨床試験で副作用が認められていないため他剤より安全」と説明した。副作用ゼロという事実を選択的に強調することで、根拠のない他剤との安全性優位を主張した。
当局見解臨床試験で副作用が認められなかった点のみを強調し、他剤に比べて本剤が安全と説明 した。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手「副作用なし」と「他剤より安全」は論理的に別命題であることを指摘し、直接比較試験の有無と添付文書の安全性記載内容を確認した上で説明の撤回を求める。
06-142020年度腎性貧血治療薬オンライン面談にて、企業担当者による説明
何が起きたか腎性貧血治療薬のオンライン面談で、担当者がA剤との比較スライドを用いながら、定量的データのないままB剤に対するHb上昇の緩やかさを薬理作用の違いのみで説明した。臨床データを伴わない薬理作用だけによる他剤比較が行われた。
当局見解薬理作用の違いのみを根拠に他剤との優位性を説明した。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手薬理作用の差異が臨床的優位性を直接意味しない点を確認し、B剤との定量的比較データが存在するか問い、データがなければその説明の根拠を撤回させる。
06-152020年度眼科用 VEGF 阻害剤オンライン面談にて、企業担当者による説明
何が起きたか眼科用VEGF阻害剤のオンライン面談で、有意差が認められた副次評価項目についてのみ説明があり、主要評価項目についてはスライド資料も口頭説明も一切行われなかった。試験全体のバランスある情報提供が欠如していた。
当局見解有意差が認められた副次評価項目のみを説明し、主要評価項目について説明しなかった。
切れた力知識・伝達力
次の一手主要評価項目の結果を提示するよう求め、なぜスライドが準備されていなかったかを確認する。副次評価項目だけでは試験全体の評価はできないと明示した上で、主要評価項目を含む説明資料の提出を要請する。
06-162021年度片頭痛予防薬オンライン面談時における企業担当者の説明(企業担当者の上司同席)
何が起きたか片頭痛予防薬のオンラインヒアリングで、担当者が質問もされていないのに他社製品(A剤)の初回倍量投与の必要性やB剤の便秘副作用を自ら持ち出し、自社製品の優位性を訴えた。上司も同席しており、組織的に行われていた可能性が高い。
当局見解根拠なく他社製品を誹謗中傷し自社製品の優位性を訴えた。
切れた力リスク検知力・関係構築力
次の一手他社製品の欠点を根拠なく列挙した点を指摘し、各発言の科学的根拠資料の提示を求める。上司が同席していた事実を記録し、組織的関与の有無として疑義報告に記載する。
06-172021年度糖尿病治療薬製品パンフレット
何が起きたか糖尿病治療薬の製品パンフレットで、安全性評価を主目的として設計された国内第三相試験の結果について、冒頭に副次評価項目(有効性)の結果を記載し、主要評価項目(安全性)を後に示す構成とすることで有効性を強調していた。同様の順序変更は医療者向けウェブサイトやインタビューフォームにも及んでいた。
当局見解当該薬剤は、 「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」に準じて臨床試験 が計画・実施されていた。製品パンフレットにおいて、安全性を評価するためにデザイン された臨床試験にも関わらず、その結果の表示順は、冒頭に副次評価項目(有効性)に関 する結果を示し、有効性を強調した。まずは、有効性を評価するために計画された臨床試 験結果を示すべきである。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手試験デザインのガイドライン要件(主要評価項目が安全性)を根拠として、記述順の変更を求める文書を企業に送付し、ウェブサイトおよびインタビューフォームの修正も併せて要請する。
06-182021年度腎性貧血治療薬企業担当者による説明
何が起きたか腎性貧血治療薬の訪問説明で、担当者が本剤の鉄利用亢進効果を臨床試験で証明された事実として述べた後、「他社が出せなかった特徴」と他社を引き合いに出した。自社データの説明自体は問題ないが、他社への言及が誹謗中傷にあたる。
当局見解他社を誹謗中傷する内容に言及する説明がなされた。
切れた力リスク検知力・伝達力
次の一手他社への言及部分について根拠データの提示を求め、データがなければその発言の撤回を要請する。自社製品の特性説明と他社比較は切り分けて行うよう注意を促す。
06-192021年度片頭痛予防薬オンライン面談時における企業担当者の説明
何が起きたか片頭痛予防薬のオンライン面談で、担当者が他社製品にはローディング投与が必要だが自社製品には不要であることを説明し、「臨床上優れている」と発言した。ローディングの有無は用法用量の違いであり、臨床上の有用性を直接示すものではないため、根拠のない優位性の主張にあたる。
当局見解用法用量の違いを根拠なく「臨床上優れている」と表現し、自社製品の優位性を強調する 説明がなされた。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手「臨床上優れている」と断言した根拠を問い、ローディング不要が直接的な有効性・安全性の差を示す臨床データと連動しているかを確認する。データがなければ表現の撤回を求める。
06-202021年度心不全治療薬オンライン面談時における企業担当者の説明
何が起きたか心不全治療薬のオンライン説明会で、担当者が有意差を示した海外第三相試験のみを説明し、有意差を示せなかった国内第三相試験の結果については一切触れなかった。同様の偏った説明が複数施設で確認された。
当局見解一部の都合のよい海外第三相試験結果のみを説明し、有意差を示せなかった国内第三相 試験結果については全く説明をせず、有効性を強調する偏った情報提供がなされた。特に、 承認審査時に重要な評価資料となる国内第三相試験については言及する必要がある。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手国内第三相試験の結果を明示するよう要請し、なぜ説明から除外されたかを確認する。承認審査の重要資料である国内試験の結果は省略できない旨を明示した上で、複数施設での同一パターンを疑義報告に記録する。
06-212021年度血圧降下剤スポンサー企業が情報サイト会社にて開催するオンラインセミナーの動画コンテンツ
何が起きたかスポンサー企業が関与するオンラインセミナーで、演者が血圧降下剤の適応疾患における特定の症候に絞ったサブグループ解析結果を示し、その症候を持つ患者への有効性を強調した。審査報告書や原著論文でも議論されていない解析を根拠として用いており、臨床試験で有用性が検証されたかのような誤解を招く内容だった。
当局見解審査報告書や原著論文で議論されていないサブグループ解析結果を紹介し、当該薬剤の 適応疾患での特定の症候を有する患者に対しての有効性を強調した。なお、スポンサー企 業が関係する演者の講演スライド等は、スポンサー企業によるチェックが必要である。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手当該サブグループ解析が審査報告書・原著論文に記載されているか確認し、記載がなければ事前チェック体制の不備としてスポンサー企業に指摘する。講演スライドの事前確認プロセスが機能していたかを確認する。
06-222022年度その他の腫瘍用薬企業担当者による説明(オンライン)
何が起きたか腫瘍用薬のオンライン面談で、担当者が他社製品名を出しながら「他社製品ではここまでのデータは出ていない」と述べ、直接比較データを示さないまま医療従事者に他社製品への批判的意見を促した。担当者自身が誹謗中傷を口にするのではなく、医療従事者から引き出す形で誘導した点が問題。
当局見解医療従事者から他社製品の誹謗中傷意見を引き出すような情報提供を行うのは不適切で ある。
切れた力リスク検知力・第六感
次の一手誘導的な質問であることを認識し、他社との直接比較データの有無を確認する。比較データがない場合はその旨を伝え、自社製品のデータのみで説明するよう求め、誘導の意図があった点を記録する。
06-232023年度耳鼻科用剤企業担当者による説明(オンライン)
何が起きたか耳鼻科用剤の新薬ヒアリングで、担当者が他社製品に耐性化の懸念があると説明したが、その根拠となる感受性データは存在しなかった。問い返した結果、当該剤の抗菌活性の経時変化を把握するデータ自体が存在しないことが判明した。
当局見解エビデンスなく、他社製品の誹謗中傷と思われる情報提供を行った。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手耐性懸念の根拠となる感受性サーベイランスデータを提示するよう求め、データが存在しない場合はその発言の撤回を要請する。エビデンスのない他社製品への懸念提示は誹謗中傷にあたる旨を明示する。
06-242023年度漢方製剤企業担当者による説明(直接対面)
何が起きたか漢方製剤の対面説明で、担当者が他社製品には含まれない特定成分に抗うつ作用があると説明した。問い返したところ、その根拠は動物実験データのみでヒトにおける有効性データは存在しないことが判明した。ヒトデータであるかのような印象で説明が行われた。
当局見解他社製品との比較データがないにもかかわらず誹謗中傷と思われる情報提供を行った。
切れた力知識・伝達力
次の一手動物実験データとヒト臨床データを明確に区別した説明を求め、ヒトデータがない段階でヒトへの効果を示唆する説明は不適切であると指摘する。次回以降の説明では根拠のエビデンスレベルを冒頭に明示するよう求める。
06-252023年度抗ウイルス剤電子メールによる DM
何が起きたか抗ウイルス剤のMRが、日本肝臓学会ガイドラインの薬物相互作用表から自社品の相互作用情報を大半省略し、他社品の相互作用のみを抜粋したメール一斉配信を行った。また、科学的根拠を示さないまま「多剤を服用の患者さんには薬物相互作用が少なく使いやすい」と他社品との比較優位を主張した。
当局見解他社品との比較を強調し、自社品の優位性をアピールした情報提供を行った。
切れた力知識(引用表を恣意的に加工した科学的根拠の不在)・リスク検知力(偏った情報提供が医師の処方判断を誤らせるリスクを見逃した)
次の一手引用文献を使用する資材審査では、省略・加工の有無を原典と照合し、自社品と他社品の双方向のデータが対等に示されているか確認する。
06-262024年度混合生物学的製剤(ワクチン)企業担当者による説明(オンライングループ面談(院内))
何が起きたかワクチンのMRが、医療従事者からの求めなく、他社製品(B剤)が用時調製を要するバイアル・シリンジ混合製剤であることを挙げて自社品(A剤)の利便性を強調した。一方で自社品の有効期限が短い等の不利な点は提供せず、他社品に不利な情報のみを恣意的に選択した説明であった。
当局見解製剤の比較情報は医療従事者にとっても必要な情報であり、医療従事者の求めによって、 企業が自社製品と他社製品を比較した説明を行うことは「医療医薬品の販売情報提供活 動に関するガイドラインに関する Q&A について(その 4) 」でも認められている。ただ し、提供する情報は「他社製品にとって不利となる情報のみを恣意的に選択しないこと」 とされている。
切れた力知識(販提Gが定める比較情報提供の要件—双方の情報を均衡に示す義務—の理解不足)・伝達力(不利情報を省いた選択的な説明で医療従事者の意思決定を歪めた)
次の一手比較資材・口頭説明を審査する際は、他社品の不利な点だけでなく自社品の不利な点も同等に示されているかを確認し、恣意的な選択がないかを点検する。
06-272024年度他に分類されない代謝性医薬品企業担当者による説明(対面)
何が起きたか代謝性医薬品のMRが、B剤(他社製品)使用患者で有害事象が発生し手術が必要になった例が県内で2件あるという口コミ情報を医療機関に伝え、B剤との因果関係が確認されていない段階で「異常事態」と表現して自社品への採用切替を求めた。
当局見解他社製品で発生した事象を「異常事態」と表現し、自社製品への切替をアピールした。 「医 療用医薬品の販売情報提供に関するガイドライン」の「科学的又は客観的な根拠なく恣意 的に、特定の医療用医薬品の処方、使用等に誘引すること」 「他社製品を誹謗、中傷する こと等により、自社製品を優れたものと訴えること」に該当する不適切な販売情報提供活 動である。
切れた力インテリジェンス(因果関係未確認の口コミ情報を事実として扱い医療機関に伝えた)・リスク検知力(科学的根拠のない情報提供が誹謗中傷に該当するリスクを見落とした)
次の一手他社製品の有害事象情報を含む資材・説明の審査では、因果関係の確認状況と出典の科学的信頼性を必ず確認し、客観的根拠のない表現は差し戻す。
06-282024年度抗悪性腫瘍剤企業担当者による説明(直接対面)
何が起きたか抗悪性腫瘍剤の製品説明において、学術担当者が他社製品(A剤)は骨髄抑制が強くG-CSFが必要と言及し、自社品はほとんど骨髄抑制がないと優位性を主張した。しかし自社品でも骨髄抑制は重大な副作用の一つとして添付文書に記載されており、副作用の中から自社品に有利な点のみを選択した説明であった。
当局見解副作用の中から自社製品に有利な点のみを取り出して自社製品の優位性を言及した。
切れた力知識(自社品の重大副作用を正確に把握せず説明に臨んだ)・リスク検知力(副作用の選択的提示が誹謗中傷および安全性の軽視に該当するリスクを見逃した)
次の一手副作用比較を含む説明資材を審査する際は、自社品の添付文書記載の重大副作用と説明内容が整合しているかを照合し、他社品との比較で都合の良い項目のみが抽出されていないかを確認する。

しくじりの解剖 ── カテゴリー一覧(全 8 区分)

  1. 01. 未承認・適応外の効能効果・用法用量を示す(33件)
  2. 02. エビデンスなし・信頼性を欠く説明(69件)
  3. 03. データの抜粋・改変・恣意的加工(33件)
  4. 04. 誇大・事実誤認の表現(28件)
  5. 05. 有効性のみ強調・安全性を軽視した情報提供(22件)
  6. 06. 他社製品の誹謗・中傷(28件)(本カテゴリー)
  7. 07. 利益相反(COI)の不開示と講演・処方誘導の逸脱(10件)
  8. 08. 分類横断・手続き不全による複合違反(4件)
この区分の要点
  1. 直接比較試験のデータが存在しない状態で他社製品との優劣を断定する説明は、販提G 原則(2)禁止行為第5号(誹謗・中傷の禁止)と原則(1)の正確性要件の双方に抵触し得る。
  2. 作用機序の違いや単施設データ、個人の意見を根拠とした競合比較は「比較」の体をなしていても根拠として不十分であり、審査では比較を裏付ける直接データの有無を必ず確認する。
  3. バイオシミラー・後発医薬品への不利益情報提供や、競合品の事象を「異常事態」と表現して切替を促す行為も、動機・表現の形式にかかわらず誹謗・中傷として同様の規制評価を受ける。
出典・参考
  1. 厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業(旧:広告活動監視モニター事業)報告書」(2016〜2024年度)。
  2. 薬機法第66条(誇大広告等の禁止)
  3. 販提G 第1の3 原則(2) 七つの禁止行為 第5号(他の医薬品等の誹謗・中傷の禁止)
  4. 販提G 第1の3 原則(1) 4要件(正確な情報に基づく適正な情報提供)