「作成要領」とは、正式には「医療用医薬品製品情報概要等に関する作成要領」を指す。製薬協(日本製薬工業協会)の医療用医薬品製品情報概要審査会がまとめた実務マニュアルで、現場では「とらのまき」とも呼ばれる。2015年に策定され、2017年・2019年などの改定を経て、現在の最新版は2023年10月版である。このページは、その全体像と各階層への入口をまとめたハブにあたる。

要領を一言でいえば、上位の規範を「資材をどう作るか」という具体に翻訳した手引きである。広告まわりには適正広告基準があり、製薬協コードがあり、その背後に薬機法がある。これらは「やってよいこと・いけないこと」の原則を示すが、実際にパンフレットやスライド、Web資材を一枚作ろうとすると、原則だけでは判断がつかない場面が無数に出てくる。要領はそこに踏み込み、項目・順序・文字サイズ・図表の作法といった水準まで降りて指針を与える。

本サイトは要領の条文をそのまま写したものではない。原本は無断複製が禁じられているため、ここでは各規定の趣旨と意味を編集し直して解説している。実際の資材を作るときは、必ず最新版の原本にあたってほしい。

01三部構成 ― 媒体の性格で章を分ける

要領は大きく三つの部に分かれる。並びには理由がある。同じ「正確に、誤解させずに」という要求でも、媒体の性格が変われば守り方が変わるからだ。冊子のように紙幅をたっぷり取れるものと、一枚の広告のように削ぎ落とすものとでは、必須記載の落とし方も、強調の効き方も違う。

対象性格
Ⅰ 製品情報概要個々の製品を医療関係者に伝える基幹資材要領の中核。総合版は16項目を定型・順序付きで網羅
Ⅱ 専門誌(紙)掲載広告医療関係者向け専門誌の広告(学会プログラム・企業刊行物・Web掲載を含む)記載内容で通常広告・品名広告・記事体広告に大別
Ⅲ その他の資材上の二つにあたらない資材(全11章)媒体ごとに章立て。規定外は上位規範で判断

媒体の性格ごとに章立てしているのが要領の構造的な特徴だ。スライド、講演会記録、学会場のポスター、お知らせ文書、疾患解説、患者向け資材、製品一覧、配合変化表、学会発表要旨、文献別刷、文献要旨集 ― Ⅲ部はこれらを十一の章に分け、それぞれに固有の作法を与えている。

02土台 ― 序章の精神と科学の規律

三部の上に、明文化されていない「土台」がある。要領の序章『はじめに』と、その前提となる科学の規律だ。ハブからは、いきなりⅠ部に飛び込む前に、まずこの土台を踏むことをすすめたい。なぜそう求められるのかが分かると、個々の規定が暗記すべきルールではなく、筋の通った要求として読めるようになる。

序章は要領全体の憲法

序章は短いが、ここに要領全体を貫く原則が凝縮している。企業には正確な情報を医療関係者へ伝える義務があること。誤解させずに伝えることの重要性。そして決定的な一語 ― 適正使用情報の基本はあくまで電子添文であり、製品情報概要などはそれを「補完」するものだ、という位置づけである。

「補完」の一語は重い。製品情報概要は電子添文の下位にあり、原本は承認内容そのものだ。だから資材は承認の範囲を一字も超えられない。効きそうに見せる工夫がどれほど巧みでも、承認の外に出た瞬間に違反になる。

「誤解させず」は偽らないこととは別の義務

序章は「誤解させず正確に」と言う。これは「嘘をつくな」とは別の要求だと読むべきだ。一つひとつのデータが事実であっても、見せ方によって受け手に誤った像を結ばせれば、それは違反になる。事実だが誤解させる ― この穴を塞ぐことが、要領の細かな図表ルールの動機になっている。

網羅していない、しかし自由ではない

序章はもう一つ重要なことを認めている。要領は基本的な事項を示すもので、すべてを網羅してはいない、と。だが「書いていない=やってよい」ではない。規定外の資材であっても薬機法・適正広告基準・販売情報提供活動ガイドライン・製薬協コードの対象であり続ける。要領を答え集のように使うことを、序章自身が封じている。

科学の規律 ― なぜエビデンスに階層があるのか

資材が扱うのは臨床データだ。だから要領を読むには、その背後にある証拠の評価のしかたを知っておく必要がある。証拠には質の階層がある。メタ解析や系統的レビューが上位にあり、ランダム化比較試験(RCT)が続き、観察研究(コホート・症例対照)、症例報告、専門家の意見や総説と下がっていく。査読を受けているかどうかが質の分水嶺になる。試験管内(in vitro)や動物のデータは、種差・用量・系の違いがあるため、そのまま臨床に直結させてはいけない。

試験設計の語彙も要領のあちこちに顔を出す。ランダム化は既知・未知の偏りをならすため。二重盲検は期待や主観のバイアスを排除するため。対照はプラセボなら絶対的な効果を、実薬なら位置づけを測るために置く。そして検証的試験(あらかじめ立てた一つの仮説を確かめる)と探索的試験(仮説を探す)では、結果の重みがまるで違う。

有意差は臨床的な意味と同じではない。 p値は「差がないと仮定したときに偶然この差が出る確率」を示すだけで、効果の大きさや臨床的な価値は語らない。大規模試験ではごく小さな差でも有意になりうるし、逆に「有意差なし」は「同等」を意味しない。95%信頼区間は効果がどの範囲に収まりそうかという精度を示す。だからハザード比は、信頼区間と絶対差を併せて読むのが筋だ。

通底する三本柱

土台を貫く設計思想は三本に整理できる。第一に、「事実だが誤解させる」表現を塞ぐこと。第二に、バランスを実装すること ― 安全性の文字サイズ、根拠頁、参考情報を全体の四分の一までに抑えるといった具体の形でバランスを担保する。第三に、検証可能性を構造で担保すること ― 出典、統計手法、作成・改訂年月を残し、後から誰でも辿れるようにする。安全性は、たとえ自社に不利でも開示しなければならない。これは有効性とは非対称な、開示の義務である。

03逆引きの降り方 ― このハブの使い方

このサイトは、土台から始めてⅠ・Ⅱ・Ⅲへと降りていく構成になっている。おすすめの順序は次のとおりだ。

  1. まず土台を読む。序章の精神と科学の規律を押さえると、以降の規定が「なぜ」とともに頭に入る。
  2. Ⅰ部 製品情報概要へ。第1章の基本的留意事項(全資材に効く土台)、第2章の総合製品情報概要(16項目)、第3章の特定項目製品情報概要、の順に降りる。
  3. Ⅱ部 専門誌広告へ。製品情報概要と地続きの考え方を、紙幅の狭い広告でどう守るかを見る。
  4. Ⅲ部 その他の資材へ。手元の資材がどの章にあたるかを探し、固有の作法を確認する。どの章にもあたらなければ、土台に戻って判断する。

関連する上位規範として、適正広告基準製薬協コードも併せて参照するとよい。要領はこれらの原則を実務へ翻訳したものなので、迷ったときは原則に立ち返ると筋が見える。

結び

作成要領は、禁止事項を並べた規則集ではない。「正確に、誤解させずに」という一つの要求を、媒体ごとに、項目ごとに、文字サイズや図表の作法にまで翻訳した手引きである。三部構成はその翻訳先の地図であり、土台はその翻訳の原理だ。

個々の規定で迷ったら、序章の精神 ― 電子添文が原本で資材は補完にすぎないこと、偽らないだけでなく誤解させないこと、規定がなくとも上位規範で律されること ― に立ち返ってほしい。そこにほとんどの答えの種がある。次は土台、そしてⅠ部から降りていこう。

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