「究極の」「唯一の」「優れた」——承認審査で認められていない修飾語を資材やスライドに潜り込ませた28事例がここに並ぶ。データそのものを改変したわけではない。しかし、見出しの選び方、形容詞一語、論理の飛躍一段が、受け手に実際の証拠を超えた印象を与えた。有意差のない結果に「効果がある」と書き、副作用の見出しを「軽微」と括り、1施設の診療方針をガイドラインと誤認させた事例もある。表現の問題は「ニュアンスの差」で片付けられがちだが、その積み重ねが医師の処方判断を歪める。薬機法66条が禁じる誇大広告の核心は、ここにある。
澪「結衣、04-19を読んでみて。抗菌薬の事例。担当者は何を言ったの?」
結衣「『究極の』という表現を使って抗菌活性を説明した、とあります。でも……それって言葉の問題ですよね。数字は合っていたんですよね?」
澪「そこ。『言葉の問題』と思った瞬間にこのカテゴリーの本質を見失う。承認された効能効果の範囲内で、裏付けのない最上級表現を使うこと自体が薬機法66条の誇大広告になる。数字が正しくても、表現が証拠を超えたら違反よ。」
結衣「04-05だと、有意差が見られないデータなのにタイトルで効能効果をPRしていますね。これは数字の問題ではなく……タイトルの付け方の問題?」
澪「正確には両方。有意差なしのデータを持ち出す判断自体がエビデンスの問題。タイトルで積極的にPRする行為が表現の問題。審査者はその二層を分けて指摘できないといけない。」
結衣「04-10が気になりました。飛躍した論理展開で安全性を誇張、と。1施設の診療方針をガイドラインであるかのように見せた、とも書いてあります。」
澪「それを読んだ医師はどう思うか、想像した? 『ガイドライン推奨』と思って処方を決める可能性があるでしょ。事実誤認の問題はデータの話よりも、受け手の意思決定に何が起きるかを起点に考える。」
結衣「04-23は患者向け資材での誇大表現ですね。医療関係者向けと基準が違うんですか?」
澪「基準の枠は同じ。でも患者向けは情報の非対称性がさらに大きい。薬の評価基準を持たない受け手に『効果が高い』と書いた時の影響は、医師に書く時よりずっと大きい。それを資材審査者として意識できているかが問われる。」
結衣「04-27は、副次的評価項目の結果をもとに『唯一の』治療薬と書いた事例ですね。主要評価項目で有意差が出ていれば使えたんでしょうか?」
澪「主要評価項目で証明された効果でも、『唯一の』という最上級は他剤との全比較なしに書けない。承認審査の結論と、営業資材の表現の間には、常に差分がある。その差分を埋めようとする力が事例を生む。」
結衣「つまりこのカテゴリーの共通点は、証拠が示せる範囲を表現が超えている、ということですか。」
澪「そう。データを改変した03のカテゴリーとここの違いはそこ。数字は触っていない。でも言葉が証拠の外に出た。審査者としてその境界線をどこに引くか、毎回判断を迫られる。」
報告書からの実例 28 件
04-012016年度代謝調節剤MR によるプレゼンテーション(スライド・口頭説明)
何が起きたかH社のMRが追加適応の勉強会で、従来適応の比較試験データを用いて「既存薬より優位性がある」と説明した。追加適応では非劣性データしか存在せず、文脈と切り離されたスライド1枚が誤認を招いた。
当局見解誤解を生じさせやすいスライドの構成やデータによって、効能効果を示している。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手使用されたスライドの適応と引用データの適応が一致しているか確認し、不一致があれば資材の差し替えを要請する。
04-022016年度造影剤MR による口頭説明
何が起きたかI社のMRがモニター医療機関に対して「非イオン性造影剤の後発品メーカーで副作用調査を実施しているのは自社だけ」と説明したが、実際には他社でも調査が行われており、事実と異なる情報が提供された。
当局見解誤った事実に基づくプロモーションを行っている。 医薬品の優劣とは関連しない“治療指針の掲載順”をPRする一方、安全性に関する情報提
切れた力知識・伝達力
次の一手競合他社の安全性調査実施状況を客観的資料で確認し、「自社のみ」という表現の根拠を文書で求める。
04-032016年度精神神経用剤MR によるプレゼンテーション(口頭説明)
何が起きたかJ社のMRが勉強会で「今日の治療指針」の記載順を根拠に自社薬の第一選択性を強調したが、記載順は優劣を意味しない。また、高齢者向けガイドラインが推奨する慎重使用に関する安全性情報は提供されなかった。
当局見解医薬品の優劣とは無関係なことをプロモーションに用い、効能効果を誇大に見せている。 また、安全性を軽視したプロモーションを行っている。 症例数の少ないデータや理論上あり得ない数値を用いたPRや、リスクを軽視した製品説明
切れた力知識・リスク検知力
次の一手記載順を優劣と結びつける表現の根拠を確認し、高齢者の慎重使用など安全性情報が資材に含まれているかを点検する。
04-042016年度抗アレルギー薬MR によるプレゼンテーション(口頭説明・スライド)
何が起きたかK社のMRが抗アレルギー薬の説明会で、10例程度のデータに基づき理論上あり得ない数値を示して優位性を主張した。さらに、医薬品リスク管理計画書への未記載を「他剤よりリスクが少ない」証拠として誤用し、アナフィラキシーリスクを軽視した説明を行った。
当局見解症例数が少ないデータを用いて不適切な説明を行ったり、安全性を軽視したプロモーショ ンを行っている。 未審査の臨床試験結果を用いて、血圧降下作用を効能効果のように示した事例【再掲】
切れた力知識・リスク検知力
次の一手症例数と数値の妥当性を統計的観点から検証し、リスク管理計画書の未記載を安全性の優位性と同一視する論理の誤りを指摘して資材修正を求める。
04-052017年度抗がん剤MR によるプレゼンテーション(スライド・パンフレット)
何が起きたかQ社のMRが抗がん剤のサブグループ解析結果を紹介するパンフレット・スライドで、実際のデータが支持するには厳しい内容を「全生存期間および無増悪生存期間を延長する傾向が示された」とタイトルに記載した。グラフには観察期間もp値も示されていなかった。
当局見解データの示す効能効果をタイトルによって誇大に見せている。
切れた力知識・インテリジェンス
次の一手グラフのタイトルとデータの乖離を具体的に指摘し、観察期間・p値の明示と、タイトル表現の修正を要請する。
04-062017年度利尿薬製品情報概要
何が起きたかR社の製品情報概要で「80歳未満と80歳以上で有害事象は変わらなかった」という見出しを掲げたが、同ページの表には高用量投与時に高齢者で高ナトリウム血症の発生率が約5%高い旨が示されており、見出しだけを読むと安全性を誤認するリスクがあった。
当局見解副作用の発症率について過小評価しかねない内容をタイトルにしている。
切れた力リスク検知力・伝達力
次の一手見出しと本文データの整合性を確認し、高齢者への高用量投与リスクを見出しレベルで明示するよう資材の修正を求める。
04-072017年度抗てんかん薬、直接経口抗凝固薬MR によるプレゼンテーション(口頭説明・スライド)
何が起きたかS社のMRが抗てんかん薬の説明会で、T社のDOACについて「全般的に相互作用が少なく安全」と説明したが、抗てんかん薬はすべてのDOACと相互作用がなく、T社製品だけが安全なわけではない。同様の説明が複数の医療機関で行われ、広範な活動が疑われた。
当局見解安全性について誇張した表現を用いて、プロモーションを行っている。
切れた力知識・インテリジェンス
次の一手相互作用比較表の正確性と、特定製品のみを優遇する表現の根拠を確認し、他社製品を不当に劣位に置く説明が複数施設で行われていないか調査を求める。
04-082017年度糖尿病治療薬パンフレット(2017 年 9 月作成)
何が起きたかU社のパンフレットで自社糖尿病薬の実績として「延べ1億人以上の処方実績」と記載したが、算出根拠(処方回数・処方錠数等)が示されておらず、日本未上市の配合剤データも含まれていた。
当局見解データの算出根拠を示さないことで、使用状況を誇大に見せている。
切れた力知識・インテリジェンス
次の一手「1億人以上」の算出根拠資料を要求し、日本未上市製品のデータが含まれていることを明示しない表記の修正を求める。
04-092018年度抗菌薬企業担当者による口頭説明、ヒアリング用資料
何が起きたか企業担当者が薬剤部ヒアリングで製品名の語源に「卓越した」という意味があることを示し、「卓越した効果をもつ薬剤」と強調した。臨床試験では対照薬に対する非劣性が示されたに過ぎず、製品名を効能の根拠として用いた説明は誇張にあたる。
当局見解根拠が十分でない製品名の由来をプロモーションに用いた。
切れた力知識・伝達力
次の一手臨床試験の結論(非劣性)と「卓越した効果」という表現の乖離を文書で指摘し、製品名の語源をエビデンスとして使用しないよう是正を求める。
04-102018年度抗血栓薬製品紹介パンフレット
何が起きたか製品紹介パンフレットで「DIC診療のアルゴリズム」として本剤と類薬を並記したが、原著論文には類薬のみが記載されており本剤への言及はなかった。1施設の診療方針をガイドラインのように見せる構成で、出所の示し方も原著論文の一部改編にとどまっていた。
当局見解1 施設の診療方針をガイドラインであるかのように誇張して見せた。
切れた力知識・インテリジェンス
次の一手原著論文の記載内容と資材の図表を照合し、本剤が原著に記載されていないにもかかわらず並記されている箇所の削除・修正を要請する。
04-112018年度血友病治療薬プレゼンテーション用スライド
何が起きたか血友病治療薬の臨床試験結果が「良好だった」という見出しで紹介されたが、対照群のないシングルアーム試験であり、「良好」の判断基準を問うと「専門医の見解による」との回答で、客観的基準は存在しなかった。スライドの配布もなかった。
当局見解医師個人の見解をもとに、 「良好」という表現でシングルアーム試験の結果を紹介した。
切れた力知識・伝達力
次の一手「良好」の根拠となる客観的指標と比較対象の明示を求め、シングルアーム試験結果に限定した適切な表現への変更を要請する。
04-122018年度抗がん剤製品紹介パンフレット
何が起きたか抗がん剤のパンフレットで他剤とのVEGFR阻害作用を比較するグラフを掲載したが、原著論文の縦軸表記「Less potent」「More potent」を「軽微な阻害作用」「著明な阻害作用」と翻訳し、本剤のみが著明な阻害作用を持つという印象を与える構成になっていた。
当局見解原著論文からの翻訳表現が不正確である。
切れた力知識・インテリジェンス
次の一手原著論文の縦軸表記と翻訳表現を対照し、「著明な阻害作用」が原著の意図と一致するかを確認した上で、不正確な翻訳の修正を求める。
04-132018年度抗アレルギー薬雑誌掲載広告
何が起きたか抗アレルギー薬の雑誌広告に「STRONG」というキャッチフレーズが使用されたが、本剤が他剤より有効性が高いとするエビデンスは存在せず、比較試験も実施されていなかった。この表現により、医療従事者が他剤と比べて有効性が高いと誤認する可能性があった。
当局見解他剤よりも有効性が高いというエビデンスなしに、 「STRONG」という表現を用いた。
切れた力知識(エビデンスと表現の整合性判断)・リスク検知力(誤認リスクの事前察知)
次の一手キャッチフレーズ審査時は、そのフレーズが比較優位を暗示しないか確認し、比較優位を示す根拠試験の有無を必ずエビデンス表に照合する。
04-142018年度鎮痛薬製品紹介パンフレット
何が起きたか鎮痛薬のパンフレットが「血圧への影響が少ない→高血圧リスク低下→腎障害リスク低下」という論理で腎安全性を訴えていたが、NSAIDsによる腎障害の主因は虚血性の急性腎障害であり、血圧データのみで腎障害リスク軽減を主張するには論理的飛躍があった。本剤は重篤な腎障害患者に禁忌であるにもかかわらず、安全性が誇大に表現されていた。
当局見解飛躍した論理展開をもとに安全性を誇張した。
切れた力知識(薬理・病態と安全性根拠の整合評価)・リスク検知力(論理飛躍による誇大表現の検出)
次の一手安全性訴求の論理チェーンを一段ずつ分解し、各ステップに対応する直接エビデンスが存在するかを確認する。禁忌との矛盾がある場合は表現修正を求める。
04-152018年度緑内障・高眼圧症治療薬宣伝用チラシ
何が起きたか緑内障・高眼圧症治療薬(後発医薬品)のチラシに「優れた眼圧下降効果」というキャッチフレーズが使用されていたが、後発品として先発品と同等性を示すに留まる位置づけであり、「優れた」を裏付けるエビデンスの記載もなかった。
当局見解根拠なく「優れた」という表現を用いて効果を誇張した。
切れた力知識(後発品の承認根拠と表現許容範囲の理解)・リスク検知力(根拠なき優位性表現の検出)
次の一手後発品資材では「優れた」「高い」等の比較表現に対して根拠エビデンスを必ず要求し、提示がない場合は表現を同等性の範囲内に修正させる。
04-162019年度鎮痛剤製品紹介パンフレット、企業担当者による口頭説明
何が起きたか鎮痛剤のMRが「直接比較試験はない」と前置きしつつも、作用機序上の解離半減期の差異のみを根拠に本剤の副作用が他剤より少ないと断定的に説明した。一方、審査報告書では両剤の主な有害事象の発現割合は同程度と記載されており、説明内容と審査結果が矛盾していた。
当局見解作用機序上の理由のみで、他剤よりも副作用が少ないと断定した説明を行った。
切れた力知識(機序論と臨床データの区別)・インテリジェンス(審査報告書の有害事象データとの照合)
次の一手作用機序による副作用比較説明を受けた場合、審査報告書の安全性データと照合し、臨床試験での発現割合と一致しているかを確認して矛盾があれば是正を求める。
04-172019年度経腸栄養剤プレゼンテーション用スライド、企業担当者による口頭説明
何が起きたか経腸栄養剤の院内説明会で、スライド冒頭に「経口患者に適した製剤である」と提示されたが、本剤の臨床試験は経管投与患者のみで実施されており、経口投与に関する客観的データは存在しなかった。適応外ではないものの、データのない投与方法を製品の筆頭特徴として積極的に提示していた。
当局見解試験データのない投与方法を積極的に提示して説明を行った。
切れた力知識(臨床試験デザインと適応根拠の範囲理解)・リスク検知力(データなき積極訴求の誤認リスク検知)
次の一手説明スライドの優先順位付けを確認し、試験データの裏付けがない投与方法や用途を製品の主要特徴として前面に出していないかをチェックする。
04-182019年度抗菌薬企業担当者による口頭説明
何が起きたか抗菌薬のMRが複数菌種に対する抗菌活性比較グラフを示しながら「いずれの細菌に対しても他剤と比較して高い抗菌活性を有していた」と口頭説明したが、提示したグラフ内には明らかに他剤の抗菌活性が高い細菌が含まれていた。
当局見解他剤の方が抗菌活性が高い細菌があるにもかかわらず、 「いずれの細菌に対しても他剤と 比較して高い抗菌活性を有していた」という誇大な表現を用いた。
切れた力知識(グラフデータと口頭説明の整合確認)・リスク検知力(一部事実の抹消による誇大化の検出)
次の一手比較グラフを含む資材は、口頭説明の文言がグラフ全体のデータと一致しているかをグラフ各点と突き合わせて確認し、不一致があれば説明文の修正を求める。
04-192019年度抗菌薬ヒアリング用資料
何が起きたか薬剤部ヒアリングで製薬企業の学術担当者が、本剤の作用機序の新規性と良好な成績を理由に「究極の○○剤」と表現して情報提供を行った。採用審査の場において、客観的根拠を伴わない誇大な形容を使用していた。
当局見解製薬企業の学術担当者が「究極の」という誇大な表現を用いて説明した。
切れた力知識(採用審査場面における適正表現の基準)・伝達力(事実に基づく情報提供と誇大表現の区別)
次の一手ヒアリング用資料と口頭説明の双方で使用される形容詞を点検し、「究極」「最強」等の絶対的優位性を示す語に対してその根拠を求め、根拠がなければ削除させる。
04-202020年度抗精神病薬オンライン面談にて企業担当者による説明
何が起きたか抗精神病薬のオンライン面談で、本剤と類薬をそれぞれプラセボと比較した独立した試験結果を用い、「本剤と類薬の有効性は同等」と説明した。資料には「本剤と類薬の直接比較ではない」旨の注意書きが明記されていたにもかかわらず、その制約を無視して同等性を断定した。
当局見解有効性を比較するために行ったものではない試験の結果をもとに、類薬と同等の有効性 があると説明した。
切れた力知識(試験デザインと比較可能性の限界理解)・リスク検知力(注意書きを無視した断定説明の問題検知)
次の一手資材上の注意書きと口頭説明が矛盾していないかを確認し、試験デザインが直接比較でない場合は同等性・優越性の断定表現を認めない。
04-212020年度抗がん剤対面の面談にて、企業担当者による口頭説明
何が起きたか抗がん剤の製品説明会で、主要評価項目の判定は中央判定を優先するという試験計画であったにもかかわらず、「中央判定では有意差なし、担当医師判定では有意差あり」と二次的な評価を併せて提示し、有効性の印象を上乗せした。
当局見解試験計画とは異なる評価について説明することにより、有効性を説明した。
切れた力知識(事前規定評価項目の優先順位とその意味の理解)・リスク検知力(プロトコル外評価の提示による誤誘導の検出)
次の一手有効性説明で一次評価と二次評価の両方が示される場合、試験計画上の優先順位を確認し、一次評価が非有意であることを先行して明示するよう資材・説明を修正させる。
04-222021年度糖尿病薬企業担当者による説明・説明スライド
何が起きたか糖尿病薬について、日本人サブグループ解析で有意差がないにもかかわらず「日本人でもしっかりと差が出ている」と説明された。有意差のないことを指摘すると、特定の教授の発言を引用して有効性を正当化するEBMに基づかない対応がなされた。また、配布資料に製品名の誤記があり、会社として使用している資料と思われた。
当局見解事実と異なる説明がなされた。それを指摘すると、患者データに基づかない専門家個人の 意見をもって妥当性を説明する、EBM に基づかない販売情報提供活動が行われた。
切れた力知識(統計的有意差の解釈とEBMの原則)・インテリジェンス(指摘への応答において専門家個人意見への依存を見抜く力)
次の一手サブグループ解析結果の説明では有意差の有無を正確に確認し、有意差がない結果を有りとする表現は認めない。指摘への応答として個人見解を持ち出す場合は根拠論文の提出を求める。
04-232022年度解熱鎮痛消炎剤患者向け資材
何が起きたか解熱鎮痛消炎剤(全身作用型貼付剤)の患者向け資材において、経口薬や局所作用型貼付剤と比較して効果が強く広範囲に及ぶかのような印象を与える図が掲載されていた。色の濃淡・図の範囲・文字サイズの組み合わせによって視覚的に優位性を印象付けるデザインが使用されていた。
当局見解患者向け資材に、経口薬や局所作用型貼付剤と比較して、 全身作用型貼付剤である本剤が、 効果が強く広範囲に及ぶかのような印象を与える図を掲載した。
切れた力リスク検知力(テキスト外の視覚表現による誤認リスクの検出)・知識(患者向け資材における適正表現基準)
次の一手患者向け資材の審査では図・色・文字サイズ等の視覚要素がテキストと独立して優位性を印象づけていないかを確認し、根拠なき視覚的誇大表現は修正を求める。
04-242023年度腎性貧血治療薬企業作成の製品パンフレット
何が起きたか腎性貧血治療薬のパンフレットが「早期に目標ヘモグロビン値を達成→良好な腎予後→本剤を検討」というストーリーで構成されていたが、引用論文は12週以内の目標達成を推奨するものではなく観察研究に留まっていた。また、同機序の他剤と比べ早く貧血を改善できるエビデンスもないまま「早く貧血を改善したい患者」を適応患者例として掲載し、さらに腎性貧血限定の内容と全般的な貧血の内容が混在して読者に混乱を与える構成になっていた。
当局見解パンフレットの流れが見る人に事実誤認を与えかねないものとなっている。また、エビデ ンスのない内容を記載している箇所もあり、改善が望まれる。
切れた力知識(観察研究の限界とエビデンスレベルの評価)・リスク検知力(ストーリー構成全体を通じた誤認誘導の検出)
次の一手パンフレット審査では個別の記載だけでなくストーリー全体の論理構造を追い、引用論文の結論とパンフレットが誘導する結論が一致しているかを確認する。対象疾患の定義が途中で変わる場合は構成の修正を求める。
04-252023年度高脂血症治療薬製薬企業担当者(オンライン)
何が起きたか高脂血症治療薬の製品説明会で、重度喘息患者を対象とした海外アンケート調査のデータを用い、投与頻度・投与場所の好みが本剤の対象患者にも当てはまるかのように説明した。調査対象疾患・医療保障制度が異なるため、結果をそのまま本剤に適用すると事実誤認を招く恐れがある。
当局見解医療制度や患者属性等も異なる海外文献のグラフから、自社製品に都合の良い部分を抜 粋して資料を作成し、これに基づき、事実誤認の恐れのある情報提供を行った。
切れた力インテリジェンス・リスク検知力
次の一手グラフ出典の文献を確認し、対象疾患・国・医療制度が本剤と一致するか照合してから資材使用の可否を判断する。
04-262024年度末梢神経系用薬企業担当者による説明(対面)
何が起きたか末梢神経系用薬の説明会で、担当MRが有意差検定を実施していない副次評価項目の結果を根拠に「優位な差がある」と説明した。医療従事者から指摘を受けた後も同じ表現を繰り返し、統計的に不適切な優越性の主張を続けた。
当局見解当該薬剤で実施された非劣性試験における、有意差検定の行われていない副次評価項目 の結果を用いて優越性がある旨のプロモーションを行った。MR は統計解析の意味を理解 した上で適切な説明を行うことが必要である。
切れた力知識・伝達力
次の一手副次評価項目に有意差検定が行われているかを試験報告書で確認し、未検定の結果を用いた優越性表現が資材に含まれていないか点検する。
04-272024年度糖尿病用剤企業担当者(オンラインによるグループ面談)・製品パンフレット
何が起きたか糖尿病用剤の国際共同第Ⅲ相試験説明で、担当MRおよび製品パンフレットが「生命予後の改善を示した唯一の薬」と紹介した。しかし生命予後に関するデータは副次的評価項目(全死亡までの期間)の結果であり、主要評価項目での検証ではなかった。
当局見解副次的評価項目(全死亡までの期間)の結果を用いて生命予後の改善を示した唯一の薬で あるといった説明は、誇大な表現である。
切れた力知識・リスク検知力
次の一手試験の評価項目の位置づけ(主要・副次・探索的)を資材内の有効性表現と照合し、副次項目を根拠に最上級・唯一表現を使っていないか確認する。
04-282024年度末梢神経系用薬企業担当者による説明(対面)
何が起きたか新薬説明会で担当MRが他社製品B剤の副作用全体の発現率と、自社製品A剤の傾眠のみの発現率を並べて比較し、A剤の副作用が少ないかのように説明した。実際には傾眠の発現率はB剤のほうが1%以下と低く、事実誤認を招く内容だった。
当局見解他社製品について副作用全体の説明を行い、本剤については副作用の一部のみを説明し、 あたかも本剤の副作用が少ないかのような誤認を与える説明を行った。
切れた力リスク検知力・伝達力
次の一手競合品との副作用比較を含む資材では、同一の評価軸(同一症状・同一集計方法)で数値が揃っているか確認し、軸がずれた比較表を差し戻す。
しくじりの解剖 ── カテゴリー一覧(全 8 区分)
- 01. 未承認・適応外の効能効果・用法用量を示す(33件)
- 02. エビデンスなし・信頼性を欠く説明(69件)
- 03. データの抜粋・改変・恣意的加工(33件)
- 04. 誇大・事実誤認の表現(28件)(本カテゴリー)
- 05. 有効性のみ強調・安全性を軽視した情報提供(22件)
- 06. 他社製品の誹謗・中傷(28件)
- 07. 利益相反(COI)の不開示と講演・処方誘導の逸脱(10件)
- 08. 分類横断・手続き不全による複合違反(4件)
この区分の要点
- 「優れた」「究極の」「唯一の」といった最上級・絶対的表現は、それを支える直接比較データまたは承認審査の結論がない限り誇大広告(薬機法66条)にあたる。
- 有意差のない試験結果・副次評価項目・1施設の事例を、あたかも確立した効果であるかのようにタイトルや見出しで示すことも同様の問題を生じる。
- 患者向け資材は情報の非対称性が大きく、医療関係者向け以上に表現の影響が大きい。審査者はターゲット読者の理解度と意思決定への波及を常に意識する必要がある。
出典・参考
- 厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業(旧:広告活動監視モニター事業)報告書」(2016〜2024年度)。
- 薬機法第66条(誇大広告等の禁止)
- 販提G 第1の3 原則(1) 正確な情報提供の4要件(科学的根拠に基づくこと)
- 販提G 第1の3 原則(2) 七つの禁止行為(誇大な広告表現の禁止)