01金融機関の 75% が AI を使い、2% だけが完全自律で動かしている

英国の中央銀行(Bank of England)と金融行為規制機構(FCA)が 2024 年 11 月に公表した第 3 回 AI 調査では、回答した金融機関 118 社のうち 75% が AI を業務に導入済みと答えた。2022 年の同調査では 58% だった。増加は急だが、完全自律で判断を委ねている用途は全体のわずか 2% にとどまる。残りの 55% は部分的な自動化を含みつつ人間が最終判断を担い、24% は半自律型で要所に人間が介在する。

同じ 2024 年 11 月、FSB は G20 向けの報告書「The Financial Stability Implications of Artificial Intelligence」を公表し、AI の急速な普及が金融安定性にもたらす脆弱性として、(1) 第三者依存とサービス提供者の集中、(2) 市場相関の増幅、(3) サイバーリスク、(4) モデルリスクとデータガバナンスの 4 点を挙げた。AI は金融の業務効率を上げる一方で、同じモデルに多くの機関が依存する構造的なリスクを生んでいる。

図 1 金融 AI 導入の現状 ── 普及から制御へ
導入は進んだだがしたがって金融機関の 75%が AI 導入英国 2024 年調査完全自律型は2%FSB が 4 つの脆弱性を指摘集中・相関・サイバー・モデル制御の仕組みが次の課題導入は進んだだがしたがって金融機関の 75% が AI 導入英国 2024 年調査完全自律型は 2%FSB が 4 つの脆弱性を指摘集中・相関・サイバー・モデル制御の仕組みが次の課題
AI の導入率は高いが、判断の委譲は限定的であり、FSB はシステム全体の脆弱性に注意を促している。

02与信判断で AI は承認率を 20〜30% 伸ばし、デフォルト率を下げた

AI が最も定着した領域の一つが与信判断である。従来のロジスティック回帰モデルに対して、機械学習モデルは ROC-AUC を約 2 ポイント改善する。数字としては小さく見えるが、数百万件の審査に適用すると、承認できる層が変わる。Zest AI の事例では、変数を従来の 10 倍以上に拡張したモデルで、クライアント金融機関の承認率が 20〜30% 上昇し、リスク水準は維持された。

金融包摂への効果も確認されている。MIS Quarterly に 2024 年に掲載された研究では、5,000 万人以上の顧客を持つ銀行がルールベースモデルから AI モデルに切り替えた結果、従来スコアリングの対象外だった層の承認率が上がり、同時にデフォルト率が下がった。また、CreditVidya は信用情報の薄い 2,500 万人に与信を提供し、同リスク水準で延滞率を 33% 低減した。

ただし金融庁の AI ディスカッションペーパー(第 1.0 版、2025 年 3 月)は、AI を用いた与信判断における説明可能性と公平性を論点として挙げている。モデルが「なぜこの人を否決したのか」を説明できなければ、苦情対応も規制対応も成り立たない。精度の向上と説明責任の両立が、与信 AI の次の課題である。

03不正検知は AI の最古参分野だが、不正も AI で進化している

BioCatch が 2024 年 1〜2 月に金融機関の 600 人を対象に実施した調査では、73% が不正検知に AI を使い、74% が金融犯罪の検知に AI を導入していた。地域差がある。EMEA(欧州・中東・アフリカ)では 86% が導入済みだが、アジア太平洋では 67% にとどまる。さらに 22〜23% が 6 か月以内の導入を予定しており、不正検知は金融 AI の中で最も普及した用途と言える。

技術の内訳を見ると、高度な機械学習を使う機関が 83%、自然言語処理が 72%、深層学習が 67% である。不正検知は「分類」の問題であり、従来型の教師あり学習が得意とする領域だ。不正か否かを高速に判定するモデルは、すでに実用段階を超えて基盤技術になっている。

しかし攻撃側も AI を使う。2024 年の米国における金融サービスの本人確認詐欺・関連不正の損失は 125 億ドルに達し、前年比 25% 増だった。合成 ID(実在しない人物の身元を生成する手法)が主因の一つとされる。銀行は検証試行の 20 件に 1 件を不正の疑いとして検出しているが、不正資金の流れ全体のうち捕捉できているのは推定 2% にすぎない。AI による防御の高度化と、AI による攻撃の高度化が並走している。

図 2 判別型 AI と生成 AI の二層構造
従来の機械学習(判別型)…生成 AI ──全用途の 17%スコアリング与信・リスク評価異常検知不正取引の分類パターン予測市場・行動分析説明の生成否決理由・報告書顧客対話個別応答・要約文書処理非構造データの読解従来の機械学習(判別型)── 全用途の 83%生成 AI ── 全用途の 17%スコアリング与信・リスク評価異常検知不正取引の分類パターン予測市場・行動分析説明の生成否決理由・報告書顧客対話個別応答・要約文書処理非構造データの読解
判別型モデルが判断の核心を担い、生成 AI はその出力を人間に伝える層として機能する。
領域従来の機械学習(判別型)生成 AI が加える機能
与信判断スコアリング、デフォルト予測否決理由の自然言語説明、非構造データの統合
不正検知異常パターンの分類・即時判定合成 ID 生成の検出、詐欺シナリオのシミュレーション
資産運用ポートフォリオ最適化、価格予測市場レポートの自動生成、シナリオ分析の言語化
顧客対応チャットボットのルール応答、FAQ 分類自然言語での対話、パーソナライズされた助言の下書き

04生成 AI と従来の機械学習は競合ではなく、層を成す

金融における AI を論じるとき、「生成 AI」と「従来の機械学習」を混同すると議論がずれる。従来の機械学習は判別型であり、入力を分類する。不正か否か、デフォルトするか否か、買いか売りか。生成 AI は生成型であり、テキスト・コード・シナリオを出力する。

英国の 2024 年調査で、基盤モデル(生成 AI の中核技術)が全 AI 用途に占める割合は 17% だった。残りの 83% は回帰分析、決定木、従来型のニューラルネットワークである。不正検知や与信スコアリングの核心部分は依然として判別モデルが担い、生成 AI は「その結果を人間に説明する層」「非構造データを読み取る層」として上に載る。

2026 年時点で最も効果を上げている金融 AI の実装は、判別モデルによるスコアリングと異常検知の上に、生成モデルによる言語処理・要約・顧客コミュニケーションを重ねた二層構造である。どちらか一方では足りない。

05資産運用と顧客対応 ── 金融 AI の残る 2 領域

資産運用における AI は、ポートフォリオ最適化とリスク管理が中心である。BIS のワーキングペーパー(2024 年 6 月)は、AI が金融仲介、保険、資産運用、決済の 4 機能に影響を及ぼすと整理した。資産運用では、市場データのパターン認識と予測が従来型 ML の主な用途であり、生成 AI は市場コメンタリーの自動作成やシナリオ分析の言語化に使われ始めている。

顧客対応では、チャットボットが最も見えやすい用途だが、本質的な変化はその先にある。ECB の調査では、欧州の金融機関が AI を顧客プロファイリングと顧客サポートに最も多く使っていると報告された。生成 AI により、顧客からの問い合わせに対して定型文ではなく、口座情報や取引履歴を踏まえた個別の応答を生成できるようになった。ただし、完全自律型の顧客応答はまだごく少数である。英国調査の「完全自律 2%」という数字が示すように、金融機関は顧客接点での AI の自律性に慎重だ。

06製薬・医療分野にも同じ構造が現れている

金融の 4 領域で起きている AI 導入の構造は、製薬・医療にも通じる。FDA は 2016 年から 2023 年にかけて、AI を含む 500 件以上の申請を受理し、2025 年 1 月にはAI に関するドラフトガイダンスを公表した。臨床試験における AI 関連の論文数は 2019 年から 2024 年にかけて 444% 増加し、年平均成長率は 40% に達する。2024 年末時点で、AI を用いて創出された分子のうち 75 以上が臨床段階に進んでいる。

金融と製薬に共通するのは、従来型 ML が「判別・予測」を担い、生成 AI が「言語処理・文書生成・説明」を担うという二層構造である。臨床試験データの解析は判別型モデルの領域であり、患者選定の最適化や副作用シグナルの検出がその用途にあたる。一方、規制当局への申請文書の下書き、臨床試験報告書の要約、安全性情報の整理といった業務には生成 AI が入り始めている。

もう一つの共通点は「説明可能性」の要求である。金融では与信判断の否決理由、製薬では治験の判定根拠。どちらも規制当局が説明を求め、ブラックボックスのままでは許容されない。FSB が指摘したモデルリスクの問題は、金融固有ではなく、規制産業全般に当てはまる。

07金融庁・FSB・BIS は何を見ているか

金融庁は 2025 年 3 月に AI ディスカッションペーパー(第 1.0 版)を公表し、130 社へのアンケートを基に、与信判断での AI 利用、金融商品の販売・勧誘における AI 活用、新たな展開への対応の 3 つを主要論点に据えた。2026 年 3 月にはこれを第 1.1 版に改訂し、2025 年 6〜12 月の AI 官民フォーラムでの議論を反映した。金融庁の姿勢は「チャレンジしないリスク」を強調しつつ、ガバナンスの自主的な整備を求めるものだ。

FSB は 2025 年 10 月のフォローアップ報告で、AI 導入のモニタリング指標の体系化と、少数の第三者 AI プロバイダーへの依存リスクを詳しく分析した。BIS は 2024 年 6 月の年次経済報告で、AI が生産性・消費・投資・労働市場を通じて物価安定と金融安定の双方に影響すると述べ、中央銀行自身が AI を政策目的に使い始めていることも報告した。

図 3 導入済み組織が取るべき行動
次にそして判別型と生成型を分けて管理モデルリスクの粒度を保つ第三者依存を棚卸し単一障害点の特定説明可能性を信頼構築に使う規制対応 + 顧客関係次にそして判別型と生成型を分けて管理モデルリスクの粒度を保つ第三者依存を棚卸し単一障害点の特定説明可能性を信頼構築に使う規制対応 + 顧客関係
AI ガバナンスを一括りにせず、モデルの種類・依存先・説明責任の各層で管理を設計する。

08導入済みの組織が次に取るべき 3 つの行動

第一に、判別型モデルと生成型モデルの役割を分けて管理する。与信スコアリングや不正検知の核心を担う判別モデルには、従来のモデルリスク管理(バックテスト、感度分析、説明可能性の確保)を適用する。生成モデルには、出力の事実確認と人間によるレビューの工程を設計する。二つを一括りにして「AI ガバナンス」と呼ぶと、管理の粒度が粗くなる。

第二に、第三者依存のリスクを定量化する。自社の AI がどの外部プロバイダーのモデル・データ・インフラに依存しているかを棚卸しし、単一障害点を特定する。FSB の 2025 年報告が指摘したとおり、少数の AI プロバイダーへの集中は、個社のリスクではなくシステミックリスクになりうる。

第三に、説明可能性を「規制対応のコスト」ではなく「顧客との信頼構築」として位置づける。与信の否決理由を顧客に説明できることは、規制要件であると同時に、顧客の信頼を得る手段でもある。製薬における治験判定の説明と同じ構造であり、説明可能性への投資は長期的に事業価値を持つ。

09AI 導入率 75% の先に残された論点

金融機関の AI 導入は、もはや先進的な取り組みではない。75% が導入済みという数字は、AI を使わないことがむしろ例外になりつつあることを意味する。しかし、完全自律型が 2% にとどまるという事実は、金融機関が AI に判断を委ねることの重さを認識していることも示している。

この先の論点は、本シリーズの第 2 回以降で扱う。第 2 回ではアルゴリズム取引と市場の安定、第 5 回では規制の具体的な枠組み、第 6 回ではモデルリスク管理、第 9 回では同じモデルへの依存がもたらすシステミックリスクを検討する。金融における AI の問題は、技術の能力ではなく、技術をどう囲い込むかにある。

Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 英国の 2024 年調査で金融機関の 75% が AI を導入済みだが、完全自律型は全用途の 2% にすぎない。AI の普及と、AI への権限委譲は別の問題であり、金融機関は意図的に人間の介在を残している。
  2. 与信判断では承認率 20〜30% の向上とデフォルト率の低下が複数事例で確認され、不正検知では 73% の金融機関が AI を導入済みである。ただし攻撃側も AI を使い、2024 年の米国の関連損失は 125 億ドルに達した。AI による防御と AI による攻撃は並走する。
  3. 生成 AI は全 AI 用途の 17% を占め、従来の判別型モデルの「上の層」として機能し始めている。スコアリングと異常検知は判別モデルが担い、説明・要約・顧客対話は生成 AI が担う二層構造が、2026 年時点の実効的な実装形態である。
結語

金融における AI は、実験の段階を過ぎた。FSB、BIS、英国中央銀行、金融庁のいずれの報告も、AI が金融業務に定着しつつある現実を前提として書かれている。次の問いは「導入するかどうか」ではなく、「導入したモデルをどう管理し、どこまで判断を任せ、何が壊れたときにどう復旧するか」である。本シリーズはこの問いを、資本市場、規制、モデルリスク、システミックリスクの各側面から 10 回にわたって検討する。

出典·参考文献
  1. Financial Stability Board. The Financial Stability Implications of Artificial Intelligence. FSB, November 2024. https://www.fsb.org/2024/11/the-financial-stability-implications-of-artificial-intelligence/
  2. Bank of England & FCA. Artificial Intelligence in UK Financial Services 2024. Bank of England, November 2024. https://www.bankofengland.co.uk/report/2024/artificial-intelligence-in-uk-financial-services-2024
  3. 金融庁. AI ディスカッションペーパー(第 1.0 版)── 金融分野における AI の健全な利活用の促進に向けた初期的な論点整理. 金融庁, 2025 年 3 月. https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250304/aidp.pdf
  4. BioCatch. 2024 AI Fraud & Financial Crime Survey. BioCatch, 2024. https://www.biocatch.com/ai-fraud-financial-crime-survey
  5. Bank for International Settlements. Intelligent Financial System: How AI Is Transforming Finance. BIS Working Papers No. 1194, June 2024. https://www.bis.org/publ/work1194.pdf
  6. Financial Stability Board. Monitoring Adoption of Artificial Intelligence and Related Vulnerabilities in the Financial Sector. FSB, October 2025. https://www.fsb.org/2025/10/monitoring-adoption-of-artificial-intelligence-and-related-vulnerabilities-in-the-financial-sector/
  7. European Banking Authority. Special Topic: Artificial Intelligence. EBA, 2025. https://www.eba.europa.eu/publications-and-media/publications/special-topic-artificial-intelligence
  8. MIS Quarterly. The Effect of AI-Enabled Credit Scoring on Financial Inclusion: Evidence from an Underserved Population of over One Million. MISQ, Vol. 48, No. 4, 2024. https://misq.umn.edu/misq/article/48/4/1803/2314/The-Effect-of-AI-Enabled-Credit-Scoring-on
  9. 金融庁. AI ディスカッションペーパー(第 1.1 版). 金融庁, 2026 年 3 月. https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20260303/aidp_version1.1.pdf