01クラウド上位 3 社が金融のインフラの 73% を占める

イングランド銀行と FCA が 2024 年 11 月に公表した英国金融サービスにおける AI 調査の第 3 回結果は、集中の度合いを数字で示した。回答 118 社が利用するクラウドプロバイダーのうち、上位 3 社が関係全体の 73% を占めた。AI モデルの提供者では上位 3 社が 44%、データ提供者では 33% だった。AI のユースケースのうち第三者による実装が占める比率は 33% に達し、2022 年の 17% から倍増した。

この数字が意味するのは、金融機関が AI を外部に依存する度合いが急速に高まっていること、そしてその外部先が少数の事業者に集中していることの二つである。FSB は 2024 年 11 月の報告書「The Financial Stability Implications of Artificial Intelligence」で、第三者依存とサービス提供者の集中を、AI がもたらす金融安定上の主要な脆弱性の一つに挙げた。

図 1 少数への依存がシステミックリスクに変わる経路
集中の形成単一障害点波及個社が効率を求め同じ事業者を選択クラウド上位 3社に 73% が集中一社の障害が業界横断で同時発生システミックリスク個社の管理では制御不能集中の形成単一障害点波及個社が効率を求め同じ事業者を選択クラウド上位 3 社に 73% が集中一社の障害が業界横断で同時発生システミックリスク個社の管理では制御不能
金融機関が個別に最適な選択をした結果、業界全体として少数の事業者への集中が形成され、一社の障害がシステミックリスクに転化する。

02一社の障害が業界全体を止める構造が問題になっている

集中の何が問題かは、実際の障害が示した。2024 年 7 月 19 日、CrowdStrike の Falcon Sensor に対する設定更新の不具合が、世界で約 850 万台の Microsoft Windows 端末に影響を与えた。銀行のオンラインバンキングと ATM が停止し、ロンドン証券取引所グループのワークスペースが使えなくなり、カード決済網に障害が広がった。金融部門の損失は推定 11.5 億ドルに達した。Fortune 500 企業全体では直接損失が 50 億ドルを超えたとされる。

2025 年 10 月 20 日には、AWS の US-EAST-1 リージョンで DynamoDB の DNS 管理の障害が発生し、約 15 時間にわたって 1,000 社以上が影響を受けた。決済サービスや銀行アプリが停止し、ユーザーからの障害報告は世界で 650 万件を超えた。経済的損失は 10 億ドル超と推計されている。下流の SaaS 事業者に障害が連鎖し、一社のクラウド障害が多層的に増幅される構造が可視化された。

03FSB は 4 つの脆弱性を特定し、監視の枠組みを提案した

FSB の 2024 年 11 月報告書は、AI の急速な導入が金融部門の脆弱性を増幅しうるとして、4 つの領域を特定した。第一に第三者依存とサービス提供者の集中、第二に市場の相関、第三にサイバーリスク、第四にモデルリスク・データ品質・ガバナンスである。生成 AI が金融詐欺や市場における偽情報を増加させる可能性にも言及した。

2025 年 10 月の後続報告書では、各国当局が AI の導入状況と関連する脆弱性を監視するための指標の枠組みを提案した。直接指標と代理指標を組み合わせ、AI 導入の規模、第三者への依存度、市場の相関、サイバー脅威、モデルガバナンスの 5 領域をカバーする。G20 南アフリカ議長国の要請に応えたもので、監視を各国当局の裁量ではなく共通の枠組みで行う方向に踏み込んだ。

04DORA は 19 社を「重要」と指定し直接監督を始めた

EU のデジタル・オペレーショナル・レジリエンス法(DORA、Regulation (EU) 2022/2554)は 2025 年 1 月に適用を開始した。金融機関に対して ICT リスク管理、インシデント報告、第三者リスクの管理、レジリエンステストを義務づける。DORA の核心は、第三者の集中リスクを金融規制の対象に引き入れたことにある。

2025 年 11 月 18 日、欧州銀行監督機構(EBA)・欧州保険・年金監督機構(EIOPA)・欧州証券市場監督機構(ESMA)の三機関は、重要 ICT 第三者プロバイダー(CTPP)19 社を初めて指定した。AWS、Google Cloud、Microsoft、Oracle、SAP、Deutsche Telekom を含む。指定の基準は 4 つある。大規模な運用障害時のシステミックな影響の可能性、依存する金融機関のシステム上の重要性、依存の集中度、そして代替可能性である。指定された CTPP は欧州監督機構の直接検査を受ける。リストは毎年更新される。

図 2 AI サプライチェーンの 3 層集中構造
AI サプライチェーン第 1 層: GPU 半導体設計は事実上 1 社第 2 層: クラウドインフラ上位 3 社で大半第 3 層: ファウンデーションモデルクラウドと資本関係AI サプライチェーン第 1 層: GPU 半導体設計は事実上 1 社第 2 層: クラウドインフラ上位 3 社で大半第 3 層: ファウンデーションモデルクラウドと資本関係
半導体・クラウド・モデルの 3 層すべてで集中が起きており、層同士が資本・運用で連動するため、一点の障害が複数層を貫く可能性がある。

05英国は AWS・Google・Microsoft・Oracle の監督を 2026 年 7 月に開始する

英国では、イングランド銀行・PRA・FCA が 2024 年 11 月に SS6/24「Critical third parties to the UK financial system」の最終方針を公表した。HM Treasury が重要第三者(CTP)を指定し、規制当局が当該事業者の特定サービスを直接監督する枠組みである。2026 年 7 月から、AWS、Google Cloud、Microsoft、Oracle の 4 社に対する監督が始まる。

イングランド銀行の金融政策委員会(FPC)は 2025 年 4 月の会合で、AI に関する 4 つの重点領域を示した。銀行・保険会社の中核的な金融意思決定における AI 利用の拡大、金融市場における AI 利用の拡大、AI サービスプロバイダーに関するオペレーショナルリスク、そしてサイバー脅威環境の変化である。FPC は、広く使われるモデルに共通の弱点があれば、多くの金融機関が特定のリスクを同時に見誤り、信用の配分を歪める可能性があると指摘した。

枠組み対象集中リスクへの対応適用時期
DORA(EU)金融機関と ICT 第三者CTPP 19 社を指定、直接検査2025 年 1 月適用開始
SS6/24(英国)重要第三者の特定サービスAWS 等 4 社を 2026 年 7 月から監督2024 年 11 月最終方針
FSB 監視枠組み各国当局の AI 監視集中度の指標を 5 領域で提案2025 年 10 月報告
IMF サイバーノートAI とサイバーの交差領域共有インフラの相関障害を警告2026 年 5 月公表

06AI のサプライチェーンは 3 層で集中している

AI の集中リスクが金融にとって厄介なのは、集中が単一の層にとどまらないからだ。第一層は半導体で、GPU の設計は事実上 1 社が支配している。第二層はクラウドインフラで、上位 3 社が金融機関のクラウド利用の大半を占める。第三層はファウンデーションモデルで、金融機関が利用する大規模言語モデルの提供者は限られており、しかもその多くが第二層のクラウド事業者と資本関係や運用上の結びつきを持つ。

この三層が連動することで、一つの障害や脆弱性が複数の層を同時に貫く可能性がある。IMF は 2026 年 5 月のノート「Artificial Intelligence and Cybersecurity in the Financial Sector」で、高度な AI モデルが脆弱性の発見とその攻撃に要する時間とコストを大幅に下げると指摘した。広く使われるシステムの弱点が AI によって同時に発見・攻撃されるリスクは、共有インフラの集中度が高いほど大きくなる。製薬の治験データ管理や医療情報システムも同じクラウド基盤を使っており、金融と同様の第三者集中リスクを抱えている。

図 3 集中リスク管理の 4 段階
可視化備え検証目標第三者依存を台帳化集中度を定量測定代替手段を確保マルチクラウド・OSS モ…シナリオテスト実施障害時の業務継続可視化備え検証目標第三者依存を台帳化集中度を定量測定代替手段を確保マルチクラウド・OSS モデルシナリオテスト実施障害時の業務継続
依存の可視化から始め、定量測定、代替確保、シナリオテストの順で集中リスクへの耐性を高める。

07集中リスクに対応するための 4 つの実務

第一に、AI を含む第三者依存の台帳を整備する。どのクラウド、どのモデル、どのデータ提供者に、どの業務が依存しているかを一覧にする。DORA 第 28 条が求める ICT 第三者のレジスターは、AI モデルの提供者にも拡張して適用できる。

第二に、集中度を定量的に測定する。特定のプロバイダーへの依存度を、業務の重要度で重みづけして算出する。イングランド銀行と FCA の調査が示した「上位 3 社で 73%」のような指標を、自社の依存構造にも適用する。

第三に、代替手段と切替手順を確保する。マルチクラウド構成の採用、オープンソースモデルの並行評価、プロバイダー障害時のフォールバック手順の整備がこれに当たる。2025 年 10 月の AWS 障害では、マルチクラウド構成をとっていた企業の復旧が速かったと報告されている。

第四に、シナリオテストを実施する。主要クラウドプロバイダーの長時間停止、モデル提供者のサービス終了、サイバー攻撃による同時障害といったシナリオで、業務継続が可能かを検証する。FCA は CrowdStrike 障害の後、金融機関に対して 2025 年 3 月までに「深刻だが起こりうるシナリオ」への耐性を証明するよう求めた。

01

第三者依存の台帳

可視化する

クラウド・モデル・データの提供者ごとに、依存する業務・責任者・契約条件を一覧化する。

02

集中度の定量測定

測定する

業務の重要度で重みづけした依存度指標を算出し、特定プロバイダーへの偏りを把握する。

03

代替手段の確保

備える

マルチクラウド、オープンソースモデルの並行評価、プロバイダー障害時のフォールバック手順を整える。

04

シナリオテスト

検証する

主要プロバイダーの長時間停止やサイバー攻撃による同時障害を想定し、業務継続の可否を確かめる。

08AI の集中リスクは契約と技術の両面で管理する必要がある

従来の第三者リスク管理は、外注契約に基づく統制が中心だった。委託先の選定基準、SLA、監査権、再委託の制限といった契約条項でリスクを管理する。しかし AI モデルの利用には、契約関係を伴わない第三者リスクが含まれる。オープンソースの事前学習済みモデルをダウンロードして使う場合、提供者との契約は存在しない。モデルのバージョン変更やサポート終了を通知する義務も、提供者にはない。

技術面では、モデルの出力が業務判断に与える影響の経路を文書化し、モデルの変更が業務に及ぼす影響を事前に評価する手順が必要になる。DORA は ICT リスク管理の枠組みの中でこれを求めているが、AI モデルに特化した詳細な技術基準はまだ策定途上にある。金融庁が 2024 年 12 月のモデル・リスク管理プログレスレポートで課題として残した「外部ベンダーの大規模言語モデルをどう位置づけるか」は、集中リスクとモデルリスクが交差する論点であり、第 6 回で扱ったモデルリスク管理の延長線上にある。

09製薬のデータ基盤も同じクラウド集中の構造下にある

クラウドとモデルの集中リスクは金融に限らない。治験データの管理、電子症例報告、医薬品の安全性情報のデータベースは、金融と同じ少数のクラウド事業者の基盤上で動いている。FDA が規制する電子記録・電子署名(21 CFR Part 11)の要件を満たすクラウド環境の選択肢は限られており、結果として特定の事業者への依存度が高い。

治験中にクラウド障害が発生すれば、データの収集と報告が中断し、規制当局への報告期限に影響が及ぶ。金融の決済停止と同様に、一社の障害が業界横断で波及する構造がここにもある。DORA が金融に対して導入した第三者集中リスクの監視と管理の枠組みは、製薬や医療のデータ基盤にも応用可能な考え方を含んでいる。

Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 金融機関のクラウド利用は上位 3 社に 73% が集中し、AI モデルの第三者実装は 2022 年の 17% から 2024 年の 33% に倍増した。2024 年の CrowdStrike 障害(金融損失 11.5 億ドル)と 2025 年の AWS 障害(損失 10 億ドル超)は、集中がもたらす同時障害の規模を実証した。
  2. DORA は 2025 年 11 月に重要 ICT 第三者プロバイダー 19 社を指定して直接監督下に置き、英国は 2026 年 7 月から AWS 等 4 社の監督を開始する。FSB は各国共通の監視指標を、IMF は AI がサイバーリスクを増幅する経路を提示した。
  3. 集中リスクへの対応は、第三者依存の台帳整備、集中度の定量測定、代替手段の確保、シナリオテストの 4 つが基盤になる。契約関係のない AI モデルの利用を含め、技術と契約の両面で管理する必要がある。
結語

金融が少数のクラウドとモデルに依存する構造は、効率の追求が生んだ副産物である。個々の金融機関がそれぞれの判断で同じ事業者を選んだ結果、業界全体として単一障害点が形成された。DORA の CTPP 指定と英国の CTP 監督は、この構造的リスクを個社の自助努力ではなく規制の枠組みで扱う転換点になる。次回の第 10 回では、AI をめぐる金融規制の全体像を、中央銀行と規制当局の視点から整理する。

出典·参考文献
  1. Financial Stability Board. The Financial Stability Implications of Artificial Intelligence. November 2024. https://www.fsb.org/2024/11/the-financial-stability-implications-of-artificial-intelligence/
  2. Financial Stability Board. Monitoring Adoption of Artificial Intelligence and Related Vulnerabilities in the Financial Sector. October 2025. https://www.fsb.org/2025/10/monitoring-adoption-of-artificial-intelligence-and-related-vulnerabilities-in-the-financial-sector/
  3. Bank of England. Financial Stability in Focus: Artificial Intelligence in the Financial System. April 2025. https://www.bankofengland.co.uk/financial-stability-in-focus/2025/april-2025
  4. Bank of England / FCA. Artificial Intelligence in UK Financial Services – 2024. November 2024. https://www.bankofengland.co.uk/report/2024/artificial-intelligence-in-uk-financial-services-2024
  5. European Banking Authority / EIOPA / ESMA. Designation of Critical ICT Third-Party Providers under DORA. November 18, 2025. https://www.eba.europa.eu/publications-and-media/press-releases/european-supervisory-authorities-designate-critical-ict-third-party-providers-under-digital
  6. IMF. Artificial Intelligence and Cybersecurity in the Financial Sector (IMF Notes 2026/005). May 2026. https://www.imf.org/en/publications/imf-notes/issues/2026/06/29/artificial-intelligence-and-cybersecurity-in-the-financial-sector-576706
  7. Bank of England / PRA / FCA. SS6/24: Critical Third Parties to the UK Financial System. November 2024. https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/letter/2026/response-to-tsc-inquiry-report-on-ai-in-financial-services
  8. OrboGraph. CrowdStrike Outage: Financial Institutions Experience an Estimated $1.15B Loss. July 2024. https://orbograph.com/crowdstrike-outage-financial-institutions-experience-an-estimated-1-15b-loss/
  9. Financial Executives International. AWS October 2025 Outage: What Financial Executives Must Learn About Cloud Risk Management. October 2025. https://www.financialexecutives.org/FEI-Daily/October/aws-outage-2025-cfo-cloud-risk-management.aspx