
2026年9月16日、カリフォルニア州知事が SB 1050 に署名し、生成AIで作った出演者を目立つ形で使う広告に、分かりやすい開示を義務づけた。広告に生成AIの出演者を使ったとき、開示の責任は誰が負うのか。作って公表させた者が負う。配信する側は、裁判所の命令を受けた後に動くにすぎない。
01生成AIの出演者を使う広告は、2027年から開示が要る
先に答えを置く。責任は制作の側にある。SB 1050 は2027年1月1日から、合成された出演者を目立つ形で含む広告に、分かりやすい開示を求める。義務を負うのは、その広告を作り、広告媒体で公表させた者である。媒体の側は、条件を満たす裁判所の命令を受け取った後に、違反する広告の配信を止める立場に置かれている。
この置き方は、実務の順序を一つ決めてしまう。公表した後で表示を足せば足りる、という作業にはならない。開示が要るかどうかは、何をどこまで生成したかによって決まり、その判断の材料は制作の工程にしか残らないからだ。公開の後になってから、当時どこまでを機械に作らせたかを再構成するのは難しい。
だから、作る側が動かすべきものは公表後の表示欄ではない。公開前に、使った生成物の範囲と、それを公表すると決めた人を記録に残せるかどうかである。以下、条文が何を違法としているか、どの業種に掛かるか、なぜこの形になったか、何を確かめれば足りるか、そして判断が分かれる三点を順に見ていく。
02法が縛るのは制作物ではなく、開示のない公表である
責任が制作の側にあると言うからには、条文が何を違法としているかを見ておく必要がある。条文は、合成された出演者を目立つ形で含む広告を、分かりやすい開示なしに作り、広告媒体で公表させることを違法とする。合成された出演者とは、生成AIによって全部または一部が作られた人物の姿・声・表現で、実在の特定の個人とは認識されないものを指す。
この書き方は、規制の対象を一点に絞っている。生成すること自体は制限されていない。流通一般も制限されていない。違法になるのは、目立つ形で含む広告を、開示なしに公表させた段階である。
絞り方には意味がある。技術の使用そのものを禁じれば、翻訳も、音声の合成も、字幕の生成も一緒に止まる。公表の一点に義務を置けば、止まるのは、そうした出演者を目立たせた広告を開示なく公表する場面だけになる。規制の対象は作る行為ではなく、受け取られ方をめぐる行為に置かれている。
03開示の義務は業種を選ばず、販促資材を作る現場にも掛かる
開示のない公表が違法だとして、次に確かめるのは、それが誰の仕事に掛かるかである。条文は商品・サービスの広告一般を対象にしており、業種を限定していない。除外は二つだけ。翻訳とアクセシビリティのためだけに生成AIを使う場合と、映画・テレビ・ゲームなどの表現作品の宣伝で、その作品と整合する使い方をする場合である。
| 見るところ | 開示が要る | 除外される |
|---|---|---|
| AIの使い道 | 人の演技に見える出演者を作る | 翻訳とアクセシビリティだけに使う |
| 広告の対象 | 商品・サービス一般 | 表現作品の宣伝で、その作品と整合する使い方 |
| 責任を負う人 | 作って公表させた者 | 媒体は裁判所の命令を受けてから |
この線引きは、使った技術ではなく使った目的で引かれている。同じ生成の仕組みを使っても、翻訳のために使えば除外に入り、人の出演者に見える人物を作るために使えば開示が要る。判断の材料は出力の中にはなく、何のためにそれを作ったかという工程の側にある。
販促資材を作り、その適否を審査する現場も、この規則の外にはいない。カリフォルニアで配信する広告であれば、業種による例外はないからだ。ただし、医薬品の販促物に固有の規制と、この州の取引法上の開示義務は別の体系である。一方を満たしても、もう一方が自動的に満たされるわけではない。
04労働の保護と欺瞞の防止が、一つの条文に束ねられた
業種を選ばない広さは、この法がどこから出てきたかを説明しない。署名は俳優の労働組合の本部で行われた。州の側は、この法を、創作の仕事を守るためのものとしても、買う側の判断を守るためのものとしても説明している。知事は、自分に物を売っている相手が人ですらないとき、カリフォルニアの人々にはそれを知る権利がある、という趣旨を述べた。
二つの目的が一つの条文に入った。そして開示の位置づけも、表示上の作法にはとどまっていない。合成された出演者をめぐる規定は州の欺瞞的取引行為の一覧に加えられ、違反は軽罪として扱われる。また、違反すると判断された広告は、その後の使用そのものが禁じられる。
つまり開示は、見栄えを整える表示上の作法ではなく、その広告を出してよいかどうかの条件になった。条件を満たさない広告は、直して出し直すのではなく、使えなくなる。表示を足せば済む話と、出せるか出せないかの話では、制作の前に決めておくべきことの量が違う。
05範囲・責任者・除外の三つを、公開前に確かめられる
適法性の条件になったのなら、では何を確かめれば足りるのか。条文は開示の文言として、この演技は合成された出演者によるものである、人の出演者は登場しない、といった趣旨の表現を例として挙げている。分かりやすさは、媒体と文脈に照らして判断される。文字なのか音声なのか、どれだけの時間表示されるのかによって、同じ文言でも分かりやすさは変わる。
実務に落とすと、公開前に残すべき記録は三つになる。
どこまでAIで作ったか
姿・声・表現のどれを生成したのかを、範囲として記録する。一部だけの生成も条文の定義に入る。
誰が公表させたか
作成と公表の決定を、工程ごとに誰が担ったかで残す。義務を負うのはこの人だからである。
除外に当たるか
翻訳とアクセシビリティのためだけの使用か、表現作品の宣伝かを、公開の前に判断しておく。
三つとも、公開の後では作り直せない性質の記録である。範囲は制作の中にしか残らず、決定は決めた時点にしか残らず、除外の判断は目的を説明できる人がいなければ再現できない。開示が不要だったと後で主張する場合にも、必要なのは同じ三つになる。
06開示は表示の作業ではなく、制作の記録を要求している
公開前に確かめられる三点は、そのまま判断が分かれる三つの論点になる。
第一に、責任が制作の側に置かれた以上、確かめる場所は配信の後ではない。媒体が止めるのは裁判所の命令を受けた後だから、それまでの期間の責任は作った側に残り続ける。命令が出るまでに時間がかかるほど、作った側だけが負う区間は長くなる。
第二に、線引きは技術ではなく目的で引かれている。同じ生成物でも、翻訳のために使ったか、人に見える出演者を作るために使ったかで、扱いが変わる。そう言えるのは、除外の二つがどちらも用途で書かれているからだ。出力だけを見ても、どちらの用途で作られたかは分からない。
第三に、開示の可否は公開後の表示ではなく制作時の記録で決まる。開示が不要だったことも、記録がなければ後から証明できない。義務の有無は、何をどこまで生成したかという事実に依存し、その事実を保持しているのは制作の工程だけだからである。
審査は公開前に動く
責任が制作の側にある以上、確かめる場所は配信の後ではない。
線引きは目的で決まる
同じ生成物でも、何のために使ったかで扱いが変わる。出力だけでは判断できない。
記録がなければ示せない
開示が不要だったことも、記録がなければ後から証明できない。
07州ごとの開示規則が積み上がり、制作側の記録が先に要る
開示の可否が制作時の記録で決まるのなら、その記録の重みは、規則が増えるほど増していく。ニューヨーク州では同趣旨の法が6月9日に施行され、同州で初めてこの種の表示が義務づけられた。制裁は初回の違反に1,000ドル、以降の違反に5,000ドルと定められ、開示のない広告をめぐる四件の申立てが州司法長官の下で審理されている。カリフォルニアの施行は2027年1月1日である。
二つの州で、施行の時期も、求められる文言も、制裁の形も違う。同じ広告を両方の州で配信するなら、条件の厳しい側に合わせるか、州ごとに版を分けるかを選ぶことになる。どちらを選ぶにしても、判断の材料は同じで、何をどこまで生成したかという記録である。
確かめられていないことも書いておく。複数の州にまたがる配信で、どの州の文言が求められるのかは、いまの材料では分からない。カリフォルニアの条文が定める制裁の金額と、それを執行する主体についても、ここでは確かめていない。連邦の段階で同種の開示義務が置かれるかどうかも、見通しを述べられる段階にない。確かなのは、開示の要否を後から示すために要る記録が、いま作っている広告の工程の中にしか残らない、ということだけである。
- SB 1050 は、合成された出演者を目立つ形で含む広告を開示なしに公表させることを違法とし、生成そのものは制限していない。義務を負うのは、作って公表させた者である。
- 除外は、翻訳とアクセシビリティのためだけの使用と、表現作品の宣伝でその作品と整合する使用の二つに限られる。線引きは技術ではなく、使った目的で引かれている。
- ニューヨーク州の同趣旨の法は6月9日に施行され、初回1,000ドル・以降5,000ドルの制裁と四件の申立てがある。州ごとに文言と制裁が異なる状態が当面続く。
広告に生成AIの出演者を使ったとき、開示の責任は、作って公表させた側が負う。配信する側は裁判所の命令を受けた後に動くにすぎない。
この置き方が求めているのは、表示を足す作業ではない。何をどこまで機械に作らせ、誰がそれを世に出すと決めたのかを、公開の前に書き残しておくことである。開示が要るという結論も、要らないという結論も、同じ記録からしか出てこない。
施行は2027年1月1日で、まだ時間がある。ただし、間に合わせるべきものは表示欄の文言ではなく、制作の記録の残し方のほうだ。そちらは、いま作っている広告から始めなければ、施行日には間に合わない。
- Office of Governor Gavin Newsom. Governor Newsom signs new law to protect workers, require disclosures on AI-generated advertising. 2026年9月16日. gov.ca.gov(署名の事実と、創作の仕事の保護と買う側の判断の保護という二つの目的)
- California Legislative Information. SB-1050 False advertising: synthetic performers. 2026年9月16日. leginfo.legislature.ca.gov(条文本文、合成された出演者の定義、開示の例示文言、二つの除外)
- ContentGrip. California SB 1050: AI actor ad rules. 2026年9月18日. contentgrip.com(責任は作って公表させた者にあり、媒体の義務は条件を満たす裁判所の命令の後に生じること。施行日と除外の整理)
- Bloomberg Law. California Enacts Synthetic Performer Advertising Disclosure Law. 2026年9月16日. news.bgov.com(違反と判断された広告の継続使用が禁じられること)
- Hoodline. Newsom signs law forcing California ads to reveal hidden AI actors. 2026年9月17日. hoodline.com(軽罪としての位置づけ、ニューヨーク州の6月9日施行と1,000ドル・5,000ドルの制裁)
- U.S. Food and Drug Administration. Basics of Drug Ads (Office of Prescription Drug Promotion). 2026年9月20日閲覧. fda.gov(販促物の審査が既存の監督の下で別に動いていること)
