題は「AIが作業を担っても、決定と責任は人に残る」。凡例は、解を出すAIと、責任を負う人と組織。全体を「4つのAIマネジメント能力」(業務設計、指示出し、解釈と選定、最終決定と責任)が外から包む。本線は入口「定型の作業」から始まり、第一段はAIが反復業務を担うこと、第二段は責任が人の側に固定されること、第三段は自ら動ける範囲が広がるほど決定の件数が増すこと、第四段は若手を一次評価者に、熟練者を基準の作り手に置き直すこと。出口は決定と責任で書き直した職務の定義。迂回路は採否を決めずに外へ出す道で、架空の判例と誤った運賃案内の二件が並ぶ。下段の六枚のカードが具体を補い、結びは「目的の設定 × 採否の決定 × 結果への責任 = 人に残る仕事」。
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2026年4月、野村総合研究所の藤中崚と西野貴弘が、『知的資産創造』でAIを部下と定義し、ホワイトカラーの職務を「作業」から「意思決定と責任」へ書き換えるべきだと論じた。AIが自ら動く範囲が広がるほど、人が担う仕事は小さくなるのか。小さくならない。作業は減るが、目的の設定と採否の決定、そして結果への責任は人に残り、AIの自律する範囲が広がるほど、その負担はむしろ重くなる。

01AIに作業を渡した組織ほど、人が決める場面の重みは増している

論考の主張は単純である。AIが作業工程を引き受けるほど、人に残るのは三つになる。何を目指させるかという目的の設定、出力を採るか捨てるかの決定、そしてその結果への責任である。だから職務の定義を、こなした作業の一覧から、下した決定と負う責任の一覧へ書き換えよ、と二人は求めた。

この主張が効くのは、道具を入れ替える場面ではない。職務記述と評価基準を書く場面である。生成AIを入れた組織の多くが期待したほどの効率を得ていないのは、モデルの性能が足りないからではなく、誰が何を決め、何に責任を負うかを書き直していないからだ、というのが論考の診断だった。

読者がまず動かすべきものも、そこにある。研修の題目でも、契約するAIの種類でもない。自分と部下の職務記述に、作業ではなく決定を書けるかどうかである。

02NRIの2人は、AIを部下と定義し、4つの能力を全社員に求めた

まず、論考が何を定義したかを押さえる。二人はAIを道具ではなく「AIという部下を指揮するマネジャー」の側から捉え直し、人が回すべき工程を四つに分けた。①業務設計、②指示出し、③解釈と選定、④最終決定と責任。この四つをまとめて「4つのAIマネジメント能力」と呼んでいる。

中身はそれぞれ違う工程を指す。業務設計は、業務全体を見渡し、データの有無やルールの明確さやリスクの許容度を基準に、どの工程をAIに任せどこを人が担うかを仕分けること。指示出しは、目的・前提・品質要件を言葉にして伝えること。論考はこれを、プロンプトの技法ではなく、上司が部下に仕事を任せるときのブリーフィングに近いと書いている。解釈と選定は、複数の出力を根拠の確認と文脈への適合という面から評価し、なぜそれが妥当かを説明できる形で選ぶこと。最終決定と責任は、選んだ結果をどう加工し、どの経路で誰に渡すかを決め、その結果に責任を負うことである。

重要なのは、この四つを誰に求めたかである。従来、これらは管理職やプロジェクトリーダーに期待されてきた行為だった。論考はそれを、入社1年目を含む全社員の要件だと言い切った。AIが工程の実行部分を引き受けるほど、一人ひとりがこの四つを回せるかどうかが組織の生産性を左右する、という理屈である。

図 1 AIが作業を担った後に人へ残るもの
AIが下書きを作る要約・原稿・議事録作業の価値が下がる採否の決定が残る責任は人と組織に誤りの結果を引き受ける職務定義を書き換えAIが下書きを作る要約・原稿・議事録作業の価値が下がる採否の決定が残る責任は人と組織に誤りの結果を引き受ける職務定義を書き換え
作業の代替は工程の消滅ではなく、人が担う工程の移動である。右端が、職務定義を書き換える位置を示す。

境界も引いておく。この論考は提言であり、四つの能力を鍛えた組織とそうでない組織を比べた対照実験ではない。示されているのは、労働市場の統計と国内外の事例から組み立てた筋道であって、訓練の効果そのものの実証ではない。

03求人は事務から技術へ動き、承認の責任は社内に残されている

四つを全社員に求めよという提言が出てきた背景には、職種の動きがある。全国求人情報協会が集計した2026年7月分の求人広告では、事務が前年同月比で25.2%減った一方、専門のうちIT技術者は206.6%伸びていた。同じ月の同じ集計の中で、二つの職種が逆方向へ動いている。

採用の見通しも同じ向きを指す。IDCが2025年にまとめた調査では、今後3年でエントリーレベルの採用が減速すると見込む組織が3社に2社に上った。入口の席が減り、AIと技術を前提とした職の席が増える。ただし求人広告の数字は一か月分の集計であり、減少の原因をAIだけに帰す根拠はない。

見るところ事務・エントリーの職務AIを使う側の職務
求人広告の件数(2026年7月分・前年同月比)事務は −25.2%専門(IT技術者)は +206.6%
今後3年の採用見込み3社に2社がエントリー採用の減速を見込む採用の時点からAIと技術の基礎が要件に入る
職務に残るもの定型の作業目的の設定、採否の決定、承認の責任

作業と責任が同じ職務の中で別々に扱われることを、規則の条文として書いている分野もある。医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインは、資材の審査について、作業を適切に行える機関へ外部委託することは差し支えないが、承認に関する責任は監督部門、ひいては経営陣が負うと定めている。作業は外へ出せる。承認の責任は出せない。この線引きは、生成AIが実務へ入る前から明文で存在していた。

04確率で解を出せるAIに、結果の責任を負わせる制度はまだ無い

承認の責任が社内に残るのは、ある分野の規則がそう書いているからだけではない。論考はこれを確率と責任の非対称として説明する。AIができるのは、過去のデータに基づいて最も確からしい解を自ら導くこと。人がすべきは、その解がもたらす結果に法的・社会的・経済的な責任を負うことである。

この二つは交換できない。AI自体に法人格や責任能力を持たせる法制度が整わない限り、誤りの結果を引き受けるのは人と組織のままだ。だから、何を目指させるかという目的の設定と、出力を採るか捨てるかの決定は、人の側に固定される。性能が上がっても、固定されている側は動かない。

図 2 確率を出せるAIと、責任を負う人の分かれ方
確率と責任の非対称法的責任は人にAIに法人格は無い目的の設定は人に何を目指させるか採否の決定は人に根拠を確かめて選ぶ自律が広がるほど重い確率と責任の非対称法的責任は人にAIに法人格は無い目的の設定は人に何を目指させるか採否の決定は人に根拠を確かめて選ぶ自律が広がるほど重い
AIが出せるのは確からしい解であり、結果を引き受ける側は動かない。動かない側に工程が集まる。

非対称が現実の紛争としてどう現れたかは、二件の決定が示している。

存在しない判例

生成AIが作った架空の判例を引用した書面に対し、ニューヨーク南部地区連邦地裁は2023年6月22日、弁護士2名と事務所に5,000ドルの制裁を科した。裁判所は、提出物の正確さを担保する役割が弁護士にあると述べている。

誤った運賃案内

航空会社のウェブ上のチャットボットが誤った運賃条件を案内し、利用者が不利益を被った件で、ブリティッシュコロンビア州の紛争解決機関は2024年2月、会社側の責任を認めた。

どちらも、AIが誤ったこと自体が咎められたのではない。根拠を確かめて採否を決める工程が人の側で欠けていたこと、出力をそのまま外へ出したことが、責任の所在を決めた。ただし前者は米国、後者はカナダの制度下の判断であり、日本の法制度へそのまま置き換えられるものではない。

05顧客対応で生産性は14%上がったが、人の配置を変えなければ下書き作りで止まる

責任が人の側に固定されるなら、次に決めるべきは人をどこに置くかである。生成AIが作業時間を縮めること自体には、実測がある。顧客対応の現場を対象にした研究では、支援を受けた担当者の生産性が一時間あたりの解決件数で平均14%上がり、経験の浅い層ほど改善が大きかった。文章作成の課題を使った実験では、処理にかかる時間が約37%短くなり、評価点も上がっている。どちらも特定の職務で測った数字であって、全職種の平均ではない。

それでも、多くの組織で生成AIの価値は便利な下書き作りにとどまっている。論考が現場の声として拾うのは、AIに書かせてみたが結局は自分で大幅に手直ししている、という言い方だ。二人はこの手戻りの原因を、モデルの性能ではなく、業務設計と指示出しがなおざりだった点に求めている。任せてよい範囲を仕分けず、目的と制約を伝えずに投げれば、一般論としては正しそうで自社の業務には合わない文章が量産される。速さは出るが、成果にならない。

では人をどこに置き直すか。論考が示すのは三つの役割である。

一次評価者

若手にAIの出力を最初に選別させ、上司へ回す前に、使えるもの・使えないものとその理由を言わせる。

開拓者

手が回らなかった小規模な顧客や休眠顧客、後回しにされてきた企画へ、AIで試行の回数を稼がせる。

指示と基準の作り手

熟練者は、誰より速く正確に作業する立場から、自分の判断を指示文と評価基準に書き出す立場へ移る。

この配置には育成の意味もある。若手はAIに指示を出し、複数案を一次評価し、選んだものを簡単に整えて上司へ回す。この三つを日常業務に組み込むと、学ぶ対象が作業のやり方から良しあしの判断基準へ移る。従来なら数年かけて身につけた判断の勘どころを、早い段階で擬似的に経験させる仕組みだと論考は述べている。熟練者の側も同じで、暗黙のまま持っている基準を文章にできなければ、AIに渡す形にならない。

064つの能力は一つでも欠けると、速さがそのまま損失に変わる

ここまでの定義と範囲と仕組みと実測から、読者の判断が変わる点を三つ取り出す。

第一に、四つはセットでしか働かない。指示の書き方だけを教える研修は、速く誤る組織を作る。そう言えるのは、前半の欠落と後半の欠落で失敗の型が違うからだ。業務設計が欠ければ、任せるべきでない曖昧な判断やデータの足りない領域まで丸投げし、何度出させても使えない出力しか返らない。指示出しが弱ければ、人がゼロから書き直すことになる。ここまでは遅いだけで、誤りは外に出ない。一方、解釈と選定、最終決定と責任が欠けたときは、速いまま誤りが外へ出る。前節の二件は、後半の二つが欠けたときに何が起きるかを示している。

図 3 指示から責任まで、一巡して初めて成果になる
業務設計AIと人の分担を決める指示出し目的と制約を伝える解釈と選定最終決定と責任結果を引き受ける業務設計AIと人の分担を決める指示出し目的と制約を伝える解釈と選定最終決定と責任結果を引き受ける
一巡のうち一つでも欠けると、出力は速いまま誤る。法務と航空の二件は、後半の二つが欠けたときに何が起きるかを示す。

第二に、下積みの消滅は若手の配置換えでしか埋まらない。若手の職務記述を「作る」から「選んで理由を示す」へ書き換える必要がある。根拠は自動化の順序にある。AIが真っ先に引き受けるのは、規則が明確で反復できる定型業務、つまり請求書の処理やデータ入力や簡易な調査や下書きの作成である。それは若手が手を動かしながら学んできた範囲とそのまま重なる。手を動かす場が縮む以上、判断を学ぶ場は別に用意しなければ戻らない。

第三に、職務定義を書き換えない限り、採用も評価も作業量の基準のまま回り続ける。作業で書かれた求人票は、候補者がAIへの姿勢を測る材料として不利に働く。ある調査では、学生の46.7%が志望企業選びで生成AI活用の有無を考慮したとされ、企業側では3社に2社がエントリー採用の減速を見込んでいる。ただし、この調査が示すのはAI活用の有無を考慮する学生の割合までであり、求人票の書き方と応募数を結んだ数字ではない。評価の側も同じで、こなした作業の量で測り続ける限り、決定を下す訓練に誰も時間を使わない。

07AIエージェントが増えるほど、採否を決める人の負担は増える

四つがセットで働くという性質を、AIの自律する範囲が広がった先へ延ばすと、負担の向きが見える。自律的にタスクをこなすAIが増えれば、指示出しも選定も要らなくなるのではないか、という受け取り方がある。論考の答えは逆だった。AIが自ら動ける範囲が広がるほど、事前に目的を定める工程と、事後に採否を決める工程は数を増す。一件あたりの手間が減っても、件数の増え方がその減り方を上回れば、結果に責任を負う側の負担は軽くならない。

同じ理屈は職務の書き方にも及ぶ。論考は、書き換えの前と後を具体的に並べている。

見るところ作業で書かれた定義決定と責任で書かれた定義
若手の職務資料や議事録を作るAIの出力を一次評価し、選んだ理由を示す
熟練者の職務誰よりも速く正確に作業する指示文と評価基準を書き出し、AIが使える形にする
評価の対象こなした作業の量下した決定と、その結果への責任

ここから先は、まだ確かめられていない。論考は提言であって、四つの能力を鍛えた組織が実際に生産性を上げたという比較は示されていない。求人広告の数字は一か月分の集計にすぎない。生産性の二つの実測は特定の職務で測ったものだ。二件の決定は米国とカナダの制度下の判断である。確かなのは、作業が移った先で決定の件数が増えること、そしてその決定に責任を負える主体が、いまのところ人と組織しかいないことだけである。

Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 業務設計・指示出し・解釈と選定・最終決定と責任の四つは、どれか一つが欠けただけで速さが誤りに変わる。指示の書き方だけを教える研修は、速く間違える組織を作る。
  2. AIが最初に引き受けるのは定型業務であり、それは若手が手を動かして学んできた範囲と重なる。育成の場は、若手をAIの出力の一次評価者に置き直さない限り戻らない。
  3. 求人広告では事務職が減って専門職が伸び、3社に2社がエントリー採用の減速を見込む。作業で書かれた求人票を出し続ける組織は、AIへの姿勢を測る候補者に不利に読まれる。
結語

AIが自ら動く範囲が広がっても、人が担う仕事は小さくならない。作業は減る。残るのは、目的の設定と、採否の決定と、結果への責任である。

この三つを職務の定義に書き込めるかどうかが、AIの速さを成果に変えるか損失に変えるかを分ける。書き込まない組織でも、作業は同じように速くなる。ただ、採否を決める工程を置かないまま速くなれば、誰も確かめないまま外へ出る量が増える。

確かめる方法は難しくない。自分と部下の職務記述を開いて、そこに何が書いてあるかを読めばいい。作業の一覧しか並んでいなければ、その職務は、いずれAIに渡せる部分だけで書かれている。

出典·参考文献
  1. 藤中崚・西野貴弘. AIをマネジメントする ── 新たなホワイトカラー職の開発と育成. 野村総合研究所『知的資産創造』2026年4月号. 記事ページ(nri.com)PDF(4つのAIマネジメント能力の定義、全社員への拡張、確率と責任の非対称、職務定義の書き換え)
  2. 全国求人情報協会. 求人広告掲載件数等集計結果(2026年7月分). zenkyukyo.or.jp(職種別の前年同月比。事務 −25.2%、専門(IT技術者)+206.6%)
  3. International Data Corporation(Deel 委託). AI at Work: The Role of AI in the Global Workforce. InfoBrief, 2025年11月. deel.com(今後3年でエントリーレベル採用の減速を見込む組織が3社に2社)
  4. Erik Brynjolfsson, Danielle Li, Lindsey R. Raymond. Generative AI at Work. NBER Working Paper No. 31161, 2023年4月. nber.org(一時間あたりの解決件数で平均14%の向上。経験の浅い層ほど改善が大きい)
  5. Shakked Noy, Whitney Zhang. Experimental Evidence on the Productivity Effects of Generative Artificial Intelligence. ワーキングペーパー 2023年3月(査読版は Science 381巻6654号、2023年7月13日). economics.mit.edu(文章作成の課題で所要時間が約37%短縮)
  6. United States District Court, Southern District of New York. Mata v. Avianca, Inc. — Opinion and Order on Sanctions. 2023年6月22日, 678 F. Supp. 3d 443. law.berkeley.edu(提出物の正確さを担保する役割が弁護士にあること。弁護士2名と事務所に5,000ドルの制裁)
  7. Barry B. Sookman. Moffatt v. Air Canada: A Misrepresentation by an AI Chatbot. McCarthy Tétrault TechLex, 2024年2月19日. mccarthy.ca(2024 BCCRT 149。チャットボットの誤案内について会社側の責任を認定)
  8. PR TIMES(株式会社Chapter Two). 【AI時代の認識調査】現役学生の46.7%が志望企業選びでAI導入を既に考慮. 2025年8月5日. prtimes.jp(志望企業選びで生成AI活用の有無を考慮する学生の割合)
  9. 厚生労働省医薬・生活衛生局(薬生発0925第1号). 医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインについて. 2018年9月25日. mhlw.go.jp(審査の作業は外部委託できるが、承認に関する責任は監督部門ひいては経営陣が負うこと)