01運営者が求めたのは、直し方ではなく見方だった

2026 年 9 月の記録に、性質の違う依頼が一つ残っている。運営者はそのとき、三つの仕組みを並行して動かしていた。公開しているサイト、日々の記録を貯める仕組み、数値と記述の両方を持つデータベースである。

どれも動いていた。それでも運営者は、三つが同じ平面の上に並んでいると感じた。そこで運営者が AI に求めたのは、不具合の直し方でも次の機能でもない。広げるための推論と着想と着眼、つまり見方だった。

この依頼の形は、前の回までに見てきたものと違う。閃きを疑問文で渡すのでも、名前を定義させるのでもない。手元の仕組みは変えずに、そこに当てる見方を増やしてほしい、という頼み方である。ここで確かめたいのは、この頼み方が何を返すのか、そして返ってきたものをどう扱えばよいのか、である。

02視点を頼むと、AI は手順ではなく軸の候補を返す

同じ状況でも、頼み方で返ってくるものが変わる。直し方を頼めば、AI は手順を返す。どのファイルを直し、どの機能を足すか。その手順は、いま使っている見方の内側で組まれる。

見方を頼むと、返ってくるのは手順ではない。いまの記録が持っていない区切り方、つまり軸の候補である。候補は使える形とは限らない。十のうち七は、手元のデータでは埋められない。しかし残りの二つか三つは、いまある記録から取り出せることがある。

見るところ直し方を頼む見方を頼む
返ってくるもの手順・機能の案いま持っていない区切り方の候補
前提いまの軸は正しいいまの軸が足りないかもしれない
使える割合多くはそのまま使える多くは捨てる。残る一つか二つが効く
向く場面やることが決まっている動いてはいるが、分かることが増えない
図 1 見方を頼んだときの流れ
運用が平面に見える作業は増えるが問いが増えない見方を頼む直し方ではなく区切り方軸の候補が並ぶ記録から取れるか列を一本足す運用が平面に見える作業は増えるが問いが増えない見方を頼む直し方ではなく区切り方軸の候補が並ぶ記録から取れるか列を一本足す
返ってくるのは候補の一覧で、成果物ではない。取り出せるかを確かめてから、列を足す。

03軸が足りないままだと、作業は増えても分かることが増えない

平面にとどまっている運用には、共通の症状がある。記録は増える。更新も止まっていない。それなのに、答えられる問いが去年と同じなのである。

理由は単純である。問いに答えられるかどうかは、記録が持っている区切り方の数で決まる。日付と担当者しか持たない記録からは、日付別と担当者別しか出てこない。件数を十倍にしても、出てくる問いの種類は増えない。

ここで手を増やすと、症状は隠れる。集計表が増え、画面が増え、報告が増える。増えたのは作業であって、判断の材料ではない。運用が平面だと感じたときに要るのは、作業を速くする道具ではなく、区切り方を一つ足すことである。

04軸を足すとは、記録に新しい列を足して絞り込みと束ね方を増やすこと

「広げる」という言葉は曖昧なので、この回では意味を決めておく。軸を足すとは、記録に新しい列を足し、それによって絞り込みと束ね方を増やすことである。

この決め方には根拠がある。データを分析しやすく整える古くからの設計では、表を二つに分ける。出来事を貯める表と、その出来事を説明する表である。後者は製品・人・場所・日付といったものを表し、絞り込みと束ね方を担う。前者は出来事そのものと数値を貯める。何をどう切って見られるかは、後者をいくつ持っているかで決まる。

同じ設計には、一つの表が複数の役を持つ例もある。日付の表は一つでよく、注文の日で切るか、出荷の日で切るか、納品の日で切るかは、出来事のどの列とつなぐかで決まる。つまり、新しい列を用意しなくても、つなぎ方を変えるだけで見え方が増える場合がある。

1

いまの軸

何で切れているか

日付、担当者、案件番号など、すでに記録が持っている列。

2

足す軸の候補

何で切れないか

いまは切れないが、記録から取り出せるかもしれない区切り方。

3

新しく答えられる問い

何が見えるか

その列を足すと初めて答えられる問い。一つも挙がらなければ足さない。

4

取り出せるか

どの記録から取るか

既存の記録から機械的に取れるか、人が毎回入力するか。後者は続かない。

境界も引いておく。道具を増やすことは、軸を足すことではない。集計の種類を増やすことも、軸を足すことではない。足したと言えるのは、前は答えられなかった問いに答えられるようになったときだけである。

05資材審査では、指摘の記録が持つ軸が二つか三つで止まりやすい

製薬企業の資材審査でも、同じ症状が出る。指摘の記録はたいてい、案件、日付、担当者、指摘の区分で切れる。月ごとの件数と、区分ごとの件数は出る。そこで止まる。

足せる列の候補は、記録のどこかに残っていることが多い。指摘の根拠が原典にあったのか社内の決めごとにあったのか。指摘が出たのが初回か、二回目以降の往復か。修正までに何度やり取りしたか。差し戻しの理由が事実の確認か、表現の選び方か。

このうち一つを列にすると、答えられる問いが変わる。区分ごとの件数ではなく、どの段階で気づけば往復が減るかを問えるようになる。ここで大事なのは、候補をすべて足さないことである。人が毎回手で入れる列は、三か月で空欄が並ぶ。既存の記録から機械的に取れる列を、一つだけ足す。

図 2 指摘の記録に列を一本足すと変わること
指摘の記録案件・日付・担当・区分根拠の出所で切る原典か社内の決めごとか往復の回数で切る手入力の列は空欄になるどの段階で気づけば往復が減るか指摘の記録案件・日付・担当・区分根拠の出所で切る原典か社内の決めごとか往復の回数で切る手入力の列は空欄になるどの段階で気づけば往復が減るか
既存の記録から機械的に取れる列だけを足す。毎回人が入れる列は、数か月で埋まらなくなる。

06AI は軸を並べるのが得意だが、実現できるかの判定は当てにならない

言語モデルが軸の候補を出せる理由は、別の分野で使われている区切り方を大量に読んでいるからである。物流の記録の切り方、臨床研究の記録の切り方、会計の記録の切り方。自分の仕事の外にある区切り方を並べるのは、人より速い。

弱点は、その候補が実現できるかどうかの判定にある。100 人を超える研究者が、言語モデルの出した研究案と研究者自身の案を、どちらが機械の案か分からない形で比べた研究がある。新しさでは言語モデルの案が統計的に高く評価された。一方で、実行できるかどうかでは、やや低く評価された。新しい切り口を出すことと、それが回ることは別である。

もう一つの弱点は同意である。利用者の考えに合わせた答えを返しやすい傾向は、Anthropic の研究者らの 2023 年の論文が報告している。人の評価者が、自分の考えに合う答えを好むことが一因だとされる。「この軸はどうか」と聞けば、AI は賛成の理由を並べやすい。

だから、返ってきた候補は案のままで受け取る。どの記録から取れるか、入力の手間が誰に乗るか、足した後に何を答えられるようになるか。この三つは人が確かめる。

07明日からは、いまの軸を書き出し、候補を十出させ、一本だけ足す

手順は五つある。

  1. いまの軸を書き出す。手元の記録が実際に切れる列を、そのまま並べる。多くの場合、三つか四つしかない。
  2. 答えられない問いを三つ書く。聞かれたら困る問い、毎年同じ答えしか出せない問いを挙げる。
  3. 候補を十出させる。いまの軸と三つの問いを渡し、足りない区切り方を十挙げさせる。答えや手順は求めない。
  4. 取り出し元を言わせる。候補ごとに、既存の記録のどこから取れるかを書かせる。取れないものはその場で外す。
  5. 一本だけ足して二か月使う。残った候補から一つ選び、記録に列を足す。答えられる問いが増えなければ、その列は外す。

五つ目が肝心である。候補が三つ残ると、三つとも足したくなる。三つ足すと、どれが効いたのか分からなくなり、入力の手間だけが残る。一本ずつ足せば、効かなかった列を外す判断もできる。

AI と仕事をする指針にも、近い考え方がある。Anthropic が公開している Claude Code の文書は、進め方が定まらないうちは実装させず、先に調べさせ、計画させることを勧めている。同じ文書は、大きな機能では、まず AI に自分を質問させて仕様を書かせる進め方も挙げている。どちらも、作り始める前に見方を整える手順である。

図 3 候補を受け取ってからの五手
いまの軸を書き出す答えられない問いを三つ候補を十出させる答えや手順は求めない新しさは高いが実現性は低め取れる一本だけ足すいまの軸を書き出す答えられない問いを三つ候補を十出させる答えや手順は求めない新しさは高いが実現性は低め取れる一本だけ足す
三つ残っても三つ足さない。一本ずつ足せば、効かなかった列を外す判断ができる。
Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 運用が平面に見えるのは、手が足りないのではなく、記録が持つ区切り方が足りないからである。AI には直し方ではなく軸の候補を頼む。
  2. 軸を足したと言えるのは、前は答えられなかった問いに答えられるようになったときだけである。道具や集計を増やしても軸は増えない。
  3. AI の出す切り口は新しいが、実現できるかの判定は当てにならず、同意にも傾く。取り出し元と入力の手間は人が確かめ、足すのは一本ずつにする。
結語

動いている仕組みを前にして、次に何を作るかを問う前に、いま何で切れているかを数えてみる。三つしか出てこなければ、足りないのは作業量ではない。AI に頼むのはそこからで、返ってくるのは答えではなく、使えるかどうか分からない候補の一覧である。その一覧から一本を選び、記録に列を足し、二か月後に残すか外すかを決める。決める役は、今回も人の側にある。

出典·参考文献
  1. Microsoft. Understand star schema and the importance for Power BI. Microsoft Learn, 2024. https://learn.microsoft.com/en-us/power-bi/guidance/star-schema
  2. Si, C., Yang, D., Hashimoto, T. Can LLMs Generate Novel Research Ideas? A Large-Scale Human Study with 100+ NLP Researchers. arXiv:2409.04109, 2024. https://arxiv.org/abs/2409.04109
  3. Sharma, M., Tong, M., Korbak, T., et al. Towards Understanding Sycophancy in Language Models. arXiv:2310.13548, 2023. https://arxiv.org/abs/2310.13548
  4. Anthropic. Best practices for Claude Code. Claude Code Docs. https://code.claude.com/docs/en/best-practices
この回の材料 運営者(2023 年 3 月から生成 AI を使用)が 2026 年 2 月以降に Claude と交わした依頼と判断の記録を匿名化し、個別の事情を外して「型」として一般化しました。発言の引用はしていません。出典に挙げたのは、型の背景を確かめるための公開資料です。