01運営者は秘書 Bot を「探して据えて」と頼んだ
2026 年 3 月、運営者は AI に、予定管理・タスク管理・天気予報・時刻表の検索ができるプログラムを、公開されているものから探して設定してほしいと頼んだ。自分で書いてほしいとは言わなかった。既にあるものを見つけて、動くようにしてほしい、という依頼だった。
翌日、同じ話題で 2 回目の依頼が出た。内容は変わっていた。タスク管理には重要度と緊急度を組み合わせて優先順位を利用者に確認する機能がほしい、リマインダーの設定も利用者に確かめてから入れてほしい、と書かれていた。1 日で、漠然とした「秘書が欲しい」は、具体的な仕組みの要件に変わった。
この変化は偶然ではない。既存のものを探す依頼には、要件を育てる力がある。
02「探す」は選択肢と制約を同時に返す
「作って」と頼むと、AI はすぐに作り始める。「探して」と頼むと、AI は候補を並べ、それぞれの機能と制約を返す。候補の一覧は、何ができるかと何ができないかを同時に見せる。
この違いが、依頼する側の頭の中を変える。候補を見ると、自分が本当に欲しい機能と、あれば便利だが必須ではない機能が分かれてくる。運営者の場合、天気予報と時刻表は最初から挙げていたが、優先順位の仕組みは候補を見た後に出てきた。既存の候補には優先順位の機能が不十分だったか、あるいは候補を見たことで「自分の仕事にはこれが要る」と気づいたか、どちらかである。
| 見るところ | 「作って」と頼む | 「探して」と頼む |
|---|---|---|
| 最初に返るもの | 成果物(動くコード) | 候補の一覧と各候補の制約 |
| 依頼者が気づくこと | 完成品が期待と違うかどうか | 候補に足りない機能は何か |
| 要件が変わる時点 | 作り終えてから | 候補を見た直後 |
| やり直しの大きさ | 作り直し | 依頼の書き直し |
03ゼロから作ると、足りない機能の発見が遅れる
既存のものを探さずにゼロから作ると、依頼者は完成品を見て初めて過不足を判断する。完成までの時間が長いほど、気づきは遅れる。気づいた時点で、作り直しか追加の工数が発生する。
探す場合は違う。候補の一覧を読む時間は短い。読んだ時点で、ある機能が欲しいのに見当たらない、という気づきが起きる。運営者の記録でも、秘書 Bot の候補を見た翌日には優先順位の機能が明文化された。探すという行為は、頭の中にあった暗黙の期待を、言葉にされた要件に変えた。
Anthropic が公開している Claude Code の使い方では、実装に入る前にまず調べ、計画し、既存のパターンを参照するよう勧めている。既にある設計を参照して新しい部品を作れば、全体との一貫性が保たれる。この助言は「まず探す」と同じ方向を向いている。
04ここでいう「探す」とは、公開された解決策の中から自分の目的に近いものを選ぶことである
「探す」という言葉を限定する。この記事でいう「探す」は、公開されたプログラムやサービスの中から、自分の目的に最も近いものを見つけ、そのまま使えるか、足りない部分は何かを見極める行為である。
目的を伝える
予定管理、タスク管理、天気予報など、結果として欲しい機能を伝える。
候補を返してもらう
公開されたプログラムやサービスの中から、目的に近いものが列挙される。
差分を読む
候補ごとに、ある機能とない機能が分かる。ない機能が自分の要件の候補になる。
要件を書き直す
足りない機能を明文化すると、次の依頼は「何を作るか」ではなく「何を足すか」になる。
逆に「探す」にあたらないのは、既に手段が決まっていて、あとは書くだけの作業である。それは最初から「作って」と渡すほうが早い。
05資材審査では、過去の指摘一覧を探す行為が審査の要件を明らかにする
製薬企業の資材審査でも同じ型が使える。新しい審査の仕組みを作る前に、まず既にある指摘の一覧や過去の事例を AI に探させる。返ってくる一覧を読むと、頻度の高い指摘の種類、見落とされやすい項目、仕組みが対応していない領域が見えてくる。
たとえば、表現の適切さを確認する仕組みを考えているとする。AI に「社内に既にある確認の手順や記録を探して」と頼めば、何が整備されていて何が足りないかが返る。足りない部分は、次に作るべきものの要件になる。
この順序は、重要度と緊急度の分類にも通じる。元の記録では、運営者は翌日に優先順位の仕組みを求めた。重要度と緊急度で分類する考え方は、アイゼンハワー元米国大統領が 1954 年の講演で述べた「問題には二種類ある。緊急なものと重要なものだ」という区分に基づく。のちに経営学者がこれを四つの枠に整理し、仕事の優先順位を決める道具として広く使われている。AI に秘書 Bot を探させた運営者が翌日にこの分類を求めたのは、候補を見て「優先順位がないと使えない」と気づいたからである。
06「探す」が要件を育てるのは、候補が期待との差分を可視化するからである
なぜ「探す」が要件を育てるのか。候補の一覧は、依頼者がまだ言葉にしていない期待を映し出す鏡のように働く。候補 A に予定管理はあるがタスクの優先順位はない。候補 B にリマインダーはあるが天気予報はない。この差分を見ると、自分が本当に欲しいものがどれかが分かる。
2024 年の Stack Overflow の調査では、開発者の 76% が AI を開発に使っている、または使う予定だと回答した。AI の使い方として多いのはコードの生成だが、既存の解決策の検索や仕様の整理にも使われている。AI に「探させる」行為は、AI 利用の最初の段階として自然に位置づけられる。
候補を見て要件に気づく仕組みは、心理学では再認と呼ばれる。白紙の状態から思い出すより、選択肢を提示されたほうが記憶は引き出されやすい。探す行為が要件を育てるのは、この再認の効果が働くからである。
| 段階 | 依頼者の頭の中 | AI の返答 |
|---|---|---|
| 探す前 | 「秘書みたいなものが欲しい」 | (まだ依頼されていない) |
| 候補を見た直後 | 「優先順位がないと困る」 | 候補 A:タスク管理あり、優先順位なし |
| 2 回目の依頼 | 重要度と緊急度で確認する仕組み | 設計と実装に入る |
07明日からは「作って」の前に「探して」と一言加える
手順は三つある。
- 目的を伝えて「既にあるものを探して」と頼む。公開されたプログラムやサービスから、目的に近い候補を一覧にしてもらう。
- 候補の一覧を読み、足りない機能を書き出す。候補に含まれていない機能が、自分の要件の候補になる。
- 足りない機能を明文化して、次の依頼に入れる。「この機能を足して」または「この要件を満たすものを作って」と、具体的な依頼にする。
この三つは 1 時間もかからない。ゼロから作った後に足りない機能に気づくより、はるかに手戻りが小さい。Anthropic の公式文書も、最初にプロンプトを磨くより先に、成功の基準を決めておくことを勧めている。「探す」が返す候補の差分は、その基準を決める材料になる。
- AI に「作って」と頼む前に「探して」と頼むと、候補の一覧と各候補の制約が返り、自分の要件が何であるかに気づきやすくなる。
- 候補を見ると、頭の中の暗黙の期待が具体的な要件に変わる。運営者の記録では、秘書 Bot の候補を見た翌日に、重要度と緊急度で優先順位を確認する仕組みが要件として現れた。
- 「探す→差分を読む→要件を書き直す」の順は、ゼロから作って気づくより手戻りが小さく、製薬の資材審査でも同じ型が使える。
AI に仕事を任せるとき、最初の一手を「作って」にすると、完成品を見るまで自分の要件が分からない。「探して」にすると、候補の一覧が足りないものを映し出し、次の依頼が具体的になる。思いつきは、まず探すことで要件に育つ。
- Anthropic. Best practices for Claude Code. Claude Code Docs. https://code.claude.com/docs/en/best-practices
- Anthropic. Prompt engineering overview. Claude Developer Platform Docs. https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/overview
- Eisenhower, D. D. Address at the Second Assembly of the World Council of Churches, Evanston, Illinois, August 19, 1954. The American Presidency Project. https://www.presidency.ucsb.edu/documents/address-the-second-assembly-the-world-council-churches-evanston-illinois
- Asana. Eisenhower Matrix: How to prioritize your to-do list. Asana Resources, 2024. https://asana.com/resources/eisenhower-matrix
- Stack Overflow. 2024 Developer Survey. https://survey.stackoverflow.co/2024/