2026年8月に公表され、9月21日にも改めて報じられたCounterpoint Researchの主権AI LLM指数は、80か国超・170超の「自国のAI」のうち56%が、既存の基盤モデルを改変した適応モデルだと示した。既存モデルを改変して作った「自国のAI」の振る舞いについて、基盤まで遡って確かめる責任は誰に残るのか。答えは、改変した側でも基盤の提供者でもなく、そのAIを導入する組織である。

01主権AIの半数超は他者の基盤モデルの上に作られたAIである

リードの答えの根拠を、先に短く並べておく。出発点は56%という数字である。各国が自国のAIとして作った大規模言語モデルの半数超は、ゼロから訓練されたものではなく、誰かが作った基盤モデルに追加の学習をしたものだった。

この形のAIには、振る舞いに関わる者が三者いる。基盤を作った提供者、それを改変した者、改変されたAIを業務に入れる組織である。責任がどこにあり、どこで途切れるかを一枚ずつ示す。

基盤の提供者

利用許諾で損害への責任を退けている。

改変者

EUの指針では義務が改変部分に限られる。

導入する組織

基盤の名前・許諾・改変の規模を確かめる役が残る。

基盤の提供者は、利用許諾で損害への責任を退けている。改変した者の義務は、EU AI法のもとで欧州委員会が示した指針では、改変に使った計算量が大きくない限り、改変した部分に限られる。残るのは導入する組織である。

したがって、「国産」「自社専用」と名のついたAIを入れるなら、基盤の名前、利用許諾、改変の規模の三点を、導入の手順の中で自ら確かめる必要がある。以下、この結論を、指数の定義、使われる場所、制度と契約の仕組み、義務が切り替わる数字の線、そして今後の順に確かめる。

02適応モデルとは既存の基盤に追加の学習をしたもので、56%を占める

前節の56%が何を数えた数字かを確かめておく。Counterpoint Researchの指数は、80か国超にわたる170を超える最新のモデルを対象にした。評価の軸は四つあり、誰が所有しているか、基盤を自ら作ったか、現地の言語をどこまで深く扱えるか、実際に使われているか、である。

指数はモデルを二種類に分けて数えた。ゼロから訓練した基盤モデルと、既存の基盤に追加の学習をした適応モデルである。後者が56%を占めた。

図 1 主権AI LLMの内訳
主権AI LLM80か国超・170超適応モデル 56%既存の基盤を改変基盤モデルゼロから自作主権AI LLM80か国超・170超適応モデル 56%既存の基盤を改変基盤モデルゼロから自作
指数が数えた主権AIの半数超は、他者の基盤の上に作られている。

この定義から一つの境界が引ける。主権AIという呼び名は、所有や運用の主体が自国にあることを示すが、基盤が自国で作られたことまでは示さない。適応モデルでは、現地の言語への対応や業務への合わせ込みは自国で行われていても、知識の土台と振る舞いの多くは元の基盤から引き継がれる。

指数については、どの基盤が多く使われたかの順位も報じられている。ただ、私はその順位を指数の原文で確かめられなかったので、ここでは使わない。確かめられたのは、半数超が他者の基盤の上に立っているという点までである。

確かめられた範囲だけでも、問いを立てるには足りる。半数超のモデルで、基盤を作った者と、そのモデルを自国のAIとして届ける者が別人だということだからだ。

03改変モデルは行政や企業に入り、導入審査では基盤の違いが見えにくい

前節で定義した適応モデルは、各国の行政サービスや企業の業務に入っていく。そこで問題になるのは、使う側から基盤がどう見えるかである。最初の手がかりは名前だが、名前で基盤が分かるかどうかは、基盤の利用許諾によって違う。

見るところLlama 3.1 コミュニティ許諾Apache 2.0(Qwen2.5 など)
派生モデルの名前先頭に「Llama」を付ける決まりなし
表示の義務「Built with Llama」を表示許諾文と著作権表示の同梱
大規模利用者月間7億人超は別途許諾制限なし

MetaのLlama 3.1のコミュニティ許諾は、この基盤を使って作ったAIモデルを配布するとき、モデル名の先頭に「Llama」を付けることを求め、「Built with Llama」の表示も求めている。月間の利用者が7億人を超える場合は、別に許諾を得る必要がある。この基盤から作られたモデルは、名前を見れば基盤の系統が分かる。

一方、Qwen2.5のモデルの一部はApache 2.0で公開されている。Apache 2.0は、許諾文と著作権表示を同梱することを求めるが、派生したモデルの名前について決まりを置いていない。改変した者が別の名前を付ければ、名前からは基盤が分からない。

企業の導入審査は、多くの場合、製品名と提供元の説明から始まる。基盤の系統が製品名に出ているとは限らない以上、審査の場で基盤の由来を知るには、名前以外の資料を求める必要がある。

04責任が途切れるのは、改変者の義務が改変部分に限られ基盤側が免責しているからだ

前節で、名前から基盤が分からない場面があると見た。では、なぜ誰も基盤を説明しないのか。制度と契約という二つの仕組みが重なっている。

制度の側では、欧州委員会が2025年7月に公表した汎用AIモデルの指針が、改変した者の立場を決めている。改変に使った訓練の計算量が、元のモデルの訓練に使った計算量の3分の1を超えない限り、改変した者は新しい提供者とはみなされない。その場合の文書化などの義務は、追加した計算とデータの部分に限られる。

契約の側では、Llamaの利用許諾が、損害に対するMetaの責任を制限している。オープンに配られる基盤の許諾にもこうした責任の制限を置くものがあるが、すべてを確かめたわけではない。

図 2 基盤の説明が途切れる流れ
超えない基盤の提供者許諾で責任を退ける改変者義務は改変部分のみ3分の1を超えるか説明者がいない基盤の性質超えない基盤の提供者許諾で責任を退ける改変者義務は改変部分のみ3分の1を超えるか説明者がいない基盤の性質
改変の規模が線を超えない限り、基盤の性質を説明する義務は誰にも移らない。

二つが重なると、図の右端に行き着く。基盤の提供者は許諾で責任を退け、改変した者は改変した部分だけを説明する。基盤そのものが何を学習し、どんな偏りを持ちうるかを、導入する組織に向けて説明する義務を負う者が、導入の時点でいなくなる。

これは誰かが手を抜いた結果ではない。提供者は多数の利用者に同じ許諾で配るので、個々の使われ方に責任を負えない。改変した者に基盤全体の説明を求めれば、小さな改変にも重い義務がかかる。それぞれの線引きには理由があり、その理由の重なりが、導入する組織の前に空白を作っている。

05改変者が新しい提供者になる線は元の計算量の3分の1に引かれている

前節で、改変した者の義務は改変部分に限られると述べた。その限りが外れる線は、数字で書かれている。

見るところ改変が3分の1以下改変が3分の1超
改変者の立場元の提供者のまま(改変部分の義務)新しい提供者
文書化の範囲追加の計算とデータのみモデル全体
元の計算量が不明なとき10の25乗または10の23乗の3分の1で判断同左

改変の計算量が元のモデルの3分の1を超えると、改変した者は新しい提供者となり、モデル全体について義務を負う。元の計算量が分からないときは、10の25乗または10の23乗の3分の1を代わりの基準として使う。改変した者が、元の訓練の規模を知らないことがあるからである。

高リスクの用途には、別の規定がある。AI法25条は、市場に出た高リスクAIシステムに自分の名前や商標を付けた者や、実質的な改変をした者を、提供者として扱う。主権AIを高リスクの用途に使う場合は、名前を付けた時点で提供者の義務が生じうる。

逆に言えば、高リスクの用途ではなく、改変の計算量が線を下回るなら、改変した者の説明の範囲は追加の学習の部分にとどまる。現地の言語への対応や業務への合わせ込みが、元の訓練の3分の1を超える計算量を使うかどうかは、改変した者に尋ねなければ分からない。

06基盤の確かめ方は、名前・許諾・改変の規模の三点で決まる

前節の線から、線を下回る改変では基盤の説明が引き継がれないことが分かった。ここから、導入する側の判断を変える事柄を三つ取り出す。

名前で追える範囲

Llama系は名前の決まりで追えるが、Apache 2.0の基盤には決まりがない。

改変の規模

3分の1を下回る改変では、基盤の説明者がいない。

依存を減らす動き

指数の報告は、各国が外国の基盤への依存を減らす方向を記す。

一つ目は、名前で追える範囲である。Llama系は許諾の決まりによって名前から系統を追えるが、Apache 2.0の基盤から作られたモデルには名前の決まりがない。名前で追える範囲が許諾によって違う以上、導入する側は製品名ではなく、基盤のモデル名と版を提供元に尋ねる必要がある。

二つ目は、改変の規模である。3分の1を下回る改変では、EUの指針のもとで、導入する組織に向けて基盤の性質を説明する義務を負う者がいない。改変した者に基盤の説明を求めても、義務としては返ってこない。導入する側は、基盤の提供者が公開している文書を自ら読むことになる。

三つ目は、依存を減らす動きである。指数の報告は、各国が外国のオープンな基盤への依存を減らす方向に動いていると記している。基盤の由来が国の政策の項目になれば、調達の条件として基盤の開示が求められる日が来うる。ただし、これは報告の記述からの推論である。

図 3 導入する組織が基盤を確かめる順番
基盤の名前を聞くモデル名と版利用許諾を読む名前の決まり・免責改変の規模を聞く記録して採否導入の判断基盤の名前を聞くモデル名と版利用許諾を読む名前の決まり・免責改変の規模を聞く記録して採否導入の判断
名前・許諾・改変の規模を順に確かめ、記録してから採否を決める。

導入の手順は四段で書ける。基盤の名前と版を聞き、利用許諾を読み、改変の規模を聞き、それらを記録してから採否を決める。どの段でも、答えが得られなかったこと自体を記録に残す。答えの得られないAIを入れるかどうかは、その記録を見て決めればよい。

07外国基盤からの自立が進めば、56%という比率は下がりうるが確かめられていない

前節の三つ目で、依存を減らす動きに触れた。それが今後の比率と開示にどう出うるかを、分かっていることと分かっていないことに分けて述べる。

分かっているのは、指数の報告がその方向を記していることだけである。各国がどれだけの資金を基盤の自作に振り向けるか、その結果いつ基盤モデルの割合が増えるかは、報告からは読み取れない。

ここからは推論である。主な道として二つを挙げる(両者が混ざる道もありうる)。基盤を自作する国が増えれば、適応モデルの割合は下がり、基盤の由来は国の中で説明されるようになる。逆に、自作の費用が重ければ改変による主権AIは残り続け、基盤の由来を確かめる役は導入する組織に残り続ける。

どちらの道をたどるかは、次の指数で56%がどう動くかを見れば確かめられる。いまの時点で、比率の行き先を数字で言うことはできない。基盤の開示が調達の条件になるかどうかも、まだどの国の制度としても確かめられていない。

導入する側にとっては、比率がどう動いても、目の前のAIの基盤を確かめる作業は変わらない。

Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 主権AI LLMの56%は既存の基盤を改変した適応モデルであり、「自国のAI」の名は基盤が自国製であることを示さない。
  2. EUの指針は改変の計算量が元の3分の1を超えない限り改変者の義務を改変部分に限るので、線を下回る改変では基盤の性質を説明する義務を負う者がいない。
  3. 基盤の名前・利用許諾・改変の規模を確かめる役は導入する組織に残るので、この三点を導入の手順に入れておく必要がある。
結語

既存モデルを改変した「自国のAI」について、基盤まで遡って確かめる責任は、改変した側でも基盤の提供者でもなく、導入する組織に残る。名前・許諾・改変の規模の三点を確かめ、記録してから採否を決める。

「自国の」「自社専用の」という名は、誰が届けるかを示すが、何の上に立っているかは示さない。後者を尋ねるのは、使う側の仕事である。

出典·参考文献
  1. Counterpoint Research. NVIDIA Dominates With 92% Share in Counterpoint Research's Sovereign AI LLM Index. 2026年8月.(指数の発表元と発表時期)
  2. Communications Today. Middle East leads global sovereign AI race. 2026年9月.(適応モデルが56%、80か国超・170超のモデル、四つの評価軸、外国の基盤への依存を減らす動き)
  3. Meta. Llama 3.1 Community License Agreement. 2024年7月23日.(派生モデルの名前の決まり、表示の義務、月間利用者の条件、責任の制限)
  4. Qwen / Hugging Face. Qwen/Qwen2.5-7B-Instruct. 2024年.(Apache 2.0での公開)
  5. Regulation (EU) 2024/1689. Artificial Intelligence Act, Article 25: Responsibilities Along the AI Value Chain. 2024年.(名前を付けた者・実質的な改変をした者を提供者として扱う規定)
  6. European Commission(artificialintelligenceact.eu による概要). Overview of Guidelines for GPAI Models. 2025年7月.(改変の計算量3分の1の線と改変者の義務の範囲)