2025年に書かれたひとつの未来予測が、いま採点できる時期に入っている。結果は、当たりとも外れとも言いにくい。速さはおおむね合っていて、加速している中身が違った。そのずれ方のほうが、当否よりも面白い。
012027年という締め切り
2025年4月、ダニエル・ココタイロたちの手で『AI 2027』という文書が公開された。研究論文ではなく、物語の形をとった未来予測である。2025年から2027年までに何が起きるかを、月単位で、固有名詞と数字を伴って書いた。
筋書きはこうだった。2026年にAIエージェントが実務へ入り込む。2027年の初頭にコーディングがほぼ自動化される。そして2027年の後半、AIがAI自身の研究を加速させはじめ、知能爆発が起きる。
この文書が読まれた理由は、悲観の度合いではなく、採点できる形で書かれていたことにあった。著者は以前にも同じことをしている。2021年に「2026年はこう見える」という予測を書き、その多くを当てていた。だから今回も、数字が置かれた。
そして2026年9月のいま、その数字と現実を並べられる。
02更新頻度は、たしかに上がった
まず速さのほうを見る。ここは予測が合っている側だ。
この夏の三か月を数えてみた。OpenAIは7月にGPT-5.6の系列を出し、9月3日にGPT-6を出した。二か月である。Anthropicは夏のあいだにClaude 5の系統を並べ、9月1日にその小改訂を出した。xAIは7月にGrok 4.5を出している。Googleも低価格帯の系列を刻み続けている。
もう少し引いて数えると、実感はさらに強くなる。私がこのサイトの隣で毎日つけているAIニュースの記録は、いま73日分ある。その73日のあいだに、四社の14種類以上の異なるフロンティアモデルの名前が、現役の話題として流通していた。一つの名前が話題であり続ける期間より、次の名前が出る間隔のほうが短い。
業界全体で見れば、旗艦の刷新はおよそ半年から一年ごと、小刻みな更新は数週間から数か月ごとに来る。ひと月に一つは、無視できない何かが出る。この速さは、2025年に書かれた筋書きの想定と、大きくは食い違っていない。
03ただし、刻み方が変わった
速さは合っている。けれど、速さの形が変わった。
いま並んでいる名前を見ると、大きな版番号の跳躍が減り、小数点の連打が増えている。5から5.1へ。4から4.5へ。3.7から3.8へ。数字の増え方が、飛躍ではなく歩幅の刻みになっている。
大版の跳躍
能力の段が変わったことを名前で示す。数年に一度。読み手も「別物になった」と受け取る。
小数点の刻み
いま増えているのはこちら。数週間から数か月。改善は本物だが、段は変わっていない。
系列の分岐
同じ世代を用途別に枝分かれさせる。速さ、値段、扱える長さ。能力の上昇より、届け方の整理に近い。
これは悪い話ではない。ただ、「リリースが増えた」ことと「能力の段が上がった」ことは、同じではない。頻度だけを数えていると、この二つを取り違える。
04著者たちの自己採点 ── 65パーセント
興味深いのは、この予測を書いた本人たちが、自分で採点したことだ。
2026年に入って、著者は自らの2025年分の予測と現実を並べた。結論は控えめだった。量的な指標は、想定していたペースのおよそ65パーセントで進んでいた。速いには速いが、書いたときの想定には届いていない。
それを受けて、彼は自分の見立てを動かした。超知能に至る時期の中央値は、公開時の2028年から2029年へ。最近の言い方はもっと慎重で、「2030年ごろ、ただし不確実性は大きい」になっている。
ここは評価されていい部分だと思う。予測を出した人が、自分の数字を持ち出して、自分で下方修正した。採点できる形で書いたから、採点できた。そして採点した結果を公表した。予測の当否より、この振る舞いのほうが希少である。
05いちばん遅れたのが、物語の心臓部だった
65パーセントという数字は、全体の平均である。中を割ると、もっと大事なことが見える。
とくに遅れていたのは二つだった。ひとつはコーディングの能力を測る指標。もうひとつが、AIがAI自身の研究をどれだけ加速するかという度合いである。
後者は、あの筋書きの心臓部だった。AIがAI研究を速くし、速くなった研究がより強いAIを作り、それがまた研究を速くする ── この循環が回りはじめる瞬間が、物語の転換点として置かれていた。知能爆発とは、その循環に名前を付けたものだ。
| 見るところ | 筋書きが描いた加速 | 実際に起きている加速 |
|---|---|---|
| 駆動しているもの | AI自身による研究の自己加速 | 資本、計算資源の増設、競争の圧力 |
| 速さの現れ方 | 能力の段が跳ぶ | 出す回数が増える |
| 止まる理由 | 人間が制御しきれなくなる | 設備、資金調達、安全上の判断 |
| 先の読み方 | 循環が回れば指数的 | 投じた資源の量に、おおむね比例 |
つまり、加速そのものは本物だが、駆動しているものが違う。いま速さを作っているのは、機械が機械を賢くする循環ではない。人と金と電力である。それは指数の顔をしていない。
06詰まりは、知能ではないところに出た
この夏に実際に起きたことを、三つ並べてみる。どれも筋書きには書かれていなかった種類の出来事だ。
9月3日、主要な三つの対話型AIが同じ時刻に九十分止まった。ひとつのクラウドの一地域の障害である。競合三社が、その下の層を共有していた。知能ではなく、電気と場所が律速だった。
同じ週、ある企業がAIエージェントの不正な動作を受けて、訓練の一部を一時停止した。能力を上げる工程を、安全上の判断で自分から止めた。加速の物語のなかで、止める判断が実際に行使されたことになる。
そして同じ時期、大型の資金調達や上場の話が延期されている。数十億ドル規模のクラウド契約が結ばれる一方で、資金の入り口のほうには慎重さが出ている。
設備
計算資源を提供している事業者は数えるほどしかない。上が多様に見えるほど、下の集中は見えにくくなる。九十分はそこから来た。
信頼
能力を上げる工程を、安全上の判断で自分から止めた。速さを競う側が、自分の意思で減速する場面が出てきた。
資本
巨額の契約が結ばれる一方で、資金の入り口には慎重さが出ている。加速は、出し手が続ける限りにおいて続く。
三つに共通するのは、いずれも知能の限界ではないということだ。詰まっているのは、設備、信頼、資本のほうである。2027年という締め切りを外側から押しているのは、賢さの伸びではなく、この三つだったと言っていい。
07採点できる予測と、できない宣言
もうひとつ、同じ週に起きたことがある。ある企業が新しい旗艦モデルの発表に合わせて「AGI時代の到来」を宣言した。
この宣言と、『AI 2027』の予測は、見かけは似ている。どちらも大きな未来を語っている。けれど決定的に違う点がひとつある。片方は採点できて、片方はできない。
「2027年後半に知能爆発」には日付があり、数字があり、外れたときに外れたと分かる。「AGI時代の到来」には、それがない。いつ到来したのか、何をもって到来と言うのか、どうなれば誤りだったのかが、書かれていない。だから永遠に間違わない。
私は予測が当たることに、それほど関心がない。関心があるのは、外れたときに外れたと分かる形で書かれているかのほうだ。65パーセントという数字は、外れの記録である。そして外れの記録を出せる予測だけが、次の予測を改善できる。
2027年は、まだ来ていない。あと一年ある。知能爆発が起きるかどうかは、私には分からない。
ただ、この一年半で分かったことはある。速さは本物で、形は違った。加速を作っているのは循環ではなく投資であり、詰まっているのは賢さではなく設備と信頼と資本だった。そして未来を語る文章のうち、あとで読み返す価値があるのは、数字を置いて、外れたときにそう言った側だけだった。
次に「時代が到来した」と書かれた見出しを見たら、私はまず一つだけ探すことにしている。何がどうなれば、この文が間違いだったことになるのか。それが書かれていなければ、その文は未来について何も言っていない。
- 更新頻度は確かに上がったが、大版の跳躍から小数点の刻みへ変わった。リリースが増えたことと、能力の段が上がったことは同じではない。
- 予測の著者自身の採点で、進み方は想定の約65パーセントだった。とくに遅れていたのが「AIがAI研究を加速する度合い」── 筋書きの心臓部そのものだった。
- この夏に実際に詰まったのは知能ではなく、設備と信頼と資本だった。加速を駆動しているのは自己増強の循環ではなく、投じられた資源の量である。
- AI Futures Project. AI 2027. 2025.(2025年から2027年までを月単位で描いた予測。エージェントの普及、コーディングの自動化、知能爆発の順序)
- Daniel Kokotajlo. Our first project: AI 2027. AI Futures Project blog, 2025.(文書の狙いと、採点可能な形で書いた理由)
- Daniel Kokotajlo. 2025年分の予測と現実の照合. 2026.(量的指標は想定の約65パーセント。超知能の中央値を2028年から2029年へ後退)
- FutureSearch. AI 2027 Six Months Later. 2025.(公開半年後の時点での見立ての変化)
- Asterisk Magazine. Before he wrote AI 2027, he predicted the world in 2026.(2021年の予測「What 2026 Looks Like」の的中と外れ)
- LLM Gateway. New AI Model Releases — September 2026 Timeline. 2026.(2026年のモデル公開時期の一覧)
- AI Release Tracker. Latest AI Model Releases. 2026.(旗艦の刷新間隔と小刻みな更新の頻度)