1978 年、心理学者の Clance と Imes は、成果を上げても自分は賢くないと感じ、周りをだましてきたと恐れる経験に「インポスター現象」という名を付けた。うまくいったのに「運がよかっただけ」と思う癖は、どこから来るのか?私の答えはこうだ。癖は、成功の原因を運や他人の助けといった自分の外に置く見方から来る。そして AI と組む仕事では、逆に自分を高く見積もる誤りも起きる。だから私は、どちらも自分が何をしたかの記録で確かめることを勧める。

01「運がよかった」は、成功の原因を自分の外に置く見方から生まれる

成功を運や他人の助けのおかげと考える癖は、心理学ではインポスター現象の一部として調べられてきた。インポスターは英語で「偽物」を意味する。Bravata らが集めた 62 の研究では、この現象が見られる人の割合は 9% から 82% まで大きく開いた。

AI と一緒に働く人には、逆向きのずれも起きる。これは、自分の力を実際より高く見積もるずれである。フィンランドの Aalto 大学の実験では、ChatGPT を使って論理問題を解いた人が、自分の成績を実際より高く見積もった。

自分の働きを低く見るずれも、高く見るずれも、感覚だけでは直せない。私が勧めるのは、自分が判断した箇所を書き残し、後で結果と照らすことだ。

02インポスター現象は 1978 年に名付けられ、62 の研究で 9〜82% の人に見られた

インポスター現象の定義と、この現象が見られた人の割合を、二つの論文で確かめる。

Clance と Imes は 1978 年の論文で、成果を上げた女性たちを取り上げた。周りから見れば、女性たちは十分に成功していた。それでも本人たちは、自分は本当は賢くない偽物だと感じていた。Clance と Imes はこの経験に名前を付けた。付けたのは現象の名前で、病気の診断名として出したものではない。

1978 年の後、多くの研究者がこの現象を測った。Bravata らは 2019 年に、それまでの研究をまとめて調べる系統的レビューを発表した。条件に合った研究は 62 本で、参加者は合わせて 14,161 人だった。この現象が見られる人の割合は、研究によって 9% から 82% までばらついた。

Bravata らは、この現象の中身も整理している。その一つは、成功を運や他人の助けといった外の理由のおかげだと考えることだ。成果が出ても本人は喜べず、いつか見抜かれると心配する。

図 1 成果を上げても自分を偽物と感じる流れ
成果を上げる原因を外に置く自分は賢くない見抜かれる不安周りをだました成果を上げる原因を外に置く自分は賢くない見抜かれる不安周りをだました
成果を運や助けのおかげと見ると、成果は自分の力の証拠にならない。周りをだましたという感覚が残る。

割合の幅が 9% から 82% と広いので、ふつうの人のうち何割に起きるとは言えない。言えるのは、成果を上げた人の中にも、自分の成功を信じられない人が少なくないということだ。

03AI に下書きを作らせると、自分で書いたという実感と、著者として名前を出すことが合わなくなる

成果を上げた人ほど、自分を低く見ることがある。AI と文章を一緒に書く人は、自分がどれだけ書いたかを別の形で見誤る。

Draxler らは 2024 年、AI が書いた文章を人がどう受け止めるかを実験で調べた。参加者は 30 人と 96 人の二つの組だった。参加者は、AI が作った文章を自分のものだとは感じなかった。それでも多くの参加者は、文章を公に出すとき、AI が書いたとは言わなかった。Draxler らはこれを「AI ゴーストライター効果」と呼んだ。ゴーストライターとは、本人に代わって文章を書く人のことである。

この効果は、仕事で AI に下書きを頼む人にも起こりうる。たとえば製品の資料を AI で下書きした担当者は、どこまでが自分の仕事かを答えにくい。

見るところインポスター現象AI での過大評価AI ゴーストライター効果
自分の出来の見方実際より低く見る実際より高く見る自分のものと感じない
外に向けた名乗り成果を運のおかげと言う測られていないそれでも著者として名を出す
測った研究Clance と Imes、Bravata らAalto 大学(246 人と 452 人)Draxler ら(30 人と 96 人)

三つの現象を並べると、人は自分の働きを実際より低くも高くも見積もることが分かる。AI が加わると、見積もりのずれ方の種類が増える。

04Weiner は、成功の原因がこの先も続くと思える人ほど、次の成功を期待しやすいと考えた

自分の働きの見積もりは、場面によって低くも高くもずれる。成功の原因をどこに置くかで何が変わるかを、心理学者 Weiner の理論で見る。

Weiner は 1985 年の論文で、人が成功や失敗の原因をどう見るかを三つの性質に分けた。一つ目は、原因が自分の内にあるか外にあるか。二つ目は、原因が長く続くものか、その時だけのものか。三つ目は、原因を自分で変えられるかどうかである。

図 2 成功の原因の見え方を分ける三つの性質
成功の原因所在自分の内か外か安定性次の見込みを変える統制自分で変えられるか成功の原因所在自分の内か外か安定性次の見込みを変える統制自分で変えられるか
Weiner の三つの性質のうち、次の成功の見込みを変えるのは、原因が続くと見るかどうかである。

Weiner によれば、次も成功すると思えるかどうかは、成功の原因がもつ二つ目の性質で決まる。原因が長く続くと見れば、次も成功すると期待できる。原因がその時だけのものだと見れば、期待は上がらない。

ここからは私の推論である。運や他人の助けは、次の仕事でも同じようにそろうとは限らない。だから成功を運や助けのおかげと考える人は、次も成功すると期待しにくい。この見方は Weiner の分類そのものではなく、Weiner の理論から私が引き出した読みである。

05ChatGPT を使った参加者は、上がった成績よりも高く自分を見積もった

04 の私の読みでは、成功の原因を外に置くと、次の成功を期待しにくくなる。ところが AI を使う場面では、見積もりは逆に高い方へずれる。Aalto 大学の実験がそれを測った。

Aalto 大学の Fernandes らは、二つの実験を行った。参加者は一つ目が 246 人、二つ目が 452 人だった。二つ目の実験は、一つ目の結果を確かめるためのものだ。参加者は ChatGPT を使って論理問題を解き、その後で自分の成績を見積もった。

ChatGPT を使うと、参加者の成績は上がった。研究の要旨には、成績が基準として比べた集団より 3 点高かったとある。ところが参加者の見積もりは、それよりさらに 4 点高かった。成績は上がったが、自分の出来を正しく見る力は上がらなかった。

①

246 人と 452 人

二つの実験の参加者の数。二つ目の実験で、一つ目と同じ結果が出た。

②

1 問に 1 回

多くの参加者は、1 問につき 1 回しか ChatGPT に尋ねなかった。

③

詳しい人ほど高く

AI に詳しいと答えた人ほど、自分の成績を高く見積もった。

Aalto 大学の実験には、もう一つの結果もある。ふつうは、成績の低い人ほど自分を高く見積もり、成績の高い人ほど低く見積もる。この傾向はダニング・クルーガー効果と呼ばれる。Aalto 大学の研究者は、AI を使うとこの傾向が消えたと述べている。

06自分を低く見る癖も高く見る癖も、自分が判断した箇所を書き残しておけば確かめられる

AI と組むと、自分の見積もりは高い方へずれる。一方で、成果を上げた人が自分を低く見る癖もある。ここでは、自分を低く見るずれと高く見るずれを並べ、それぞれを確かめる方法を考える。

自分を低く見るずれは、成果を上げた人にも起きる

Clance と Imes は、成果を上げた女性たちの中にこの現象を見つけた。Bravata らの 62 の研究でも、この現象が見られる人は 9% から 82% いた。だから、実績のある人が「運がよかった」と言っても、その言葉どおりに受け取れるとは限らない。

AI と組むと、自分を高く見るずれが起きる

Aalto 大学の実験では、ChatGPT を使った参加者が自分の成績を実際より高く見積もった。AI に詳しい人ほど、見積もりは高かった。AI と一緒に出した成果に自信があっても、その自信は確かめの代わりにならない。

判断した箇所を書き残すと、自分の働きを確かめられる

Draxler らは、参加者が文章に手を入れるほど、その文章を自分のものと感じたと報告した。自分のものという感じ方は手を入れた量で変わるので、感じ方より、手を入れた箇所そのものの方が働きを示す材料になる。Draxler らはまた、誰がどれだけ書いたかを示しやすい仕組みを求めた。そこで私は、自分が判断した箇所を、AI の出力と分けて書き残すことを勧める。たとえば、AI の下書きのどこを直し、なぜ直したかをメモに残す。

図 3 自分の働きを記録で確かめる手順
判断を書くどこを直したかAIの出力と分ける結果と照らす見積もりを直す判断を書くどこを直したかAIの出力と分ける結果と照らす見積もりを直す
自分の判断を書き残して結果と照らすと、低く見る癖も高く見る誤りも、記録の上で確かめられる。

ただし、記録を残すと見積もりが正確になると確かめた実験は、私が調べた範囲には無い。これは方法の提案であり、効き目はまだ測られていない。

07AI が多くを担うほど、成功を外のおかげと思う理由は増えうる

自分の判断を記録しておけば、自分の働きを事実で語れる。けれども AI が仕事の多くを担うようになると、記録の中身も変わりうる。

仕事の大きな部分を AI の出力が占めるなら、成功の原因を自分の外に置く理由も増えうる。成功のうち AI が担った部分は、実際に自分の外にあるからだ。これは私の推論である。

ただし、AI をどう使うかがインポスター現象とどう関わるかは、まだ直接には測られていない。少なくとも、私が確かめた範囲では見つからなかった。測られていない点は二つある。

①

AI とインポスター現象

AI をよく使う人ほど、自分を偽物と感じやすいのか。今回確かめた範囲では、これを直接測った研究は無い。

②

記録の効き目

判断を書き残すと、自分の見積もりは正確になるのか。実験で確かめた研究は見つからなかった。

私自身も、AI の下書きを直した後で「これは自分の仕事と言えるのか」と迷うことがある。迷ったときに頼れるのは、どこをなぜ直したかのメモだけだった。

この二つが測られれば、もっと具体的に言えることがある。AI と働く人が、自分の働きをどう見ればよいかだ。それまで私にできる確かめ方は、自分が何を判断したかを書き残しておくことである。

Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. Bravata らは 62 の研究と 14,161 人を調べた。インポスター現象が見られる割合は、9% から 82% まで開いていた。実績のある人が「運がよかった」と言っても、言葉どおりの意味とは限らない。
  2. Aalto 大学の実験では、ChatGPT を使った参加者が自分の成績を高く見積もった。AI に詳しい人ほど、見積もりは高かった。AI と組んで出した成果に自信があっても、確かめたことにはならない。
  3. Draxler らは、人は文章に手を入れるほど、それを自分のものと感じると報告した。自分が判断した箇所を AI の出力と分けて書き残せば、自分の働きを事実で示せる。
結語

「運がよかっただけ」と思う癖は、成功の原因を自分の外に置く見方である。運や助けのように、次も続くとは限らないものに置くのだ。そう見ると、一度成功しても、次の成功を期待する根拠になりにくい。AI と組む仕事では、逆に自分を高く見る誤りも加わる。

どちらのずれも、感覚では直らない。私は、AI の下書きに手を入れるたびに、どこをなぜ直したかを一行ずつ残すことにしている。

出典·参考文献
  1. Clance, P. R. & Imes, S. A. The Imposter Phenomenon in High Achieving Women: Dynamics and Therapeutic Intervention. Psychotherapy: Theory, Research & Practice, 15(3), 241–247, 1978. https://doi.org/10.1037/h0086006(インポスター現象の名付けと定義)
  2. Bravata, D. M. ほか. Prevalence, Predictors, and Treatment of Impostor Syndrome: a Systematic Review. Journal of General Internal Medicine, 35, 1252–1275, 2019 年 12 月オンライン公開. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7174434/(62 研究・14,161 人・有病率 9〜82%、成功を運や他人の助けに帰す見方)
  3. Weiner, B. An attributional theory of achievement motivation and emotion. Psychological Review, 92(4), 548–573, 1985. https://doi.org/10.1037/0033-295X.92.4.548(原因の三つの性質と、安定性が次の成功の見込みを変えること)
  4. Aalto University. AI use makes us overestimate our cognitive performance. 2025-10-29. https://www.aalto.fi/en/news/ai-use-makes-us-overestimate-our-cognitive-performance(ChatGPT 利用者の過大評価、AI に詳しい人ほど高い見積もり、多くが 1 回しか尋ねないこと、ダニング・クルーガー効果が消えたこと)
  5. Fernandes, D. ほか. AI makes you smarter but none the wiser: The disconnect between performance and metacognition. Computers in Human Behavior, 175, 108779, 2025. https://research.aalto.fi/en/publications/ai-makes-you-smarter-but-none-the-wiser-the-disconnect-between-pe/(二つの実験の参加者数、成績の向上と過大評価の大きさ)
  6. Draxler, F. ほか. The AI Ghostwriter Effect. ACM Transactions on Computer-Human Interaction, 31(2), 2024. https://doi.org/10.1145/3637875(AI が書いた文章への所有感と著者の名乗り、関与が大きいほど所有感が高まること)