AI著作権訴訟と国のAI選び、値打ちは賢さか── 学ばせた素材、仕事を回す先、創薬AIのお金を出どころで読む
AIの値打ちは、賢さだけで決まるのか。答えは、いいえです。賢さのほかに何が選ぶ決め手になるのか、この動画で分かります。歌の権利を持つ人たちが、AIの会社に著作権訴訟を起こしました。
同じ日の報道では、ある国の役所が使うAIを絞り込んでいました。製薬の会社がAIを選ぶときも、同じ問いが自社に返ってきます。では、何を確かめればよいのでしょうか。学ばせた素材、仕事を回す先と処理の場所、創薬AIに集まるお金。そのAIが何から学び、どこを通って答え、誰のお金で動いているのか。それを説明できるかどうかで、選ばれ方が変わり始めています。
六つの出来事を、この順に見ていきます。
01AIに楽曲の著作権訴訟
出典 Billboard / Law Commentary
最初は歌の話です。AIが何から学んだのかが、いよいよ裁判の場で問われ始めました。
| 報道 | 訴えられた側 | 内容 |
|---|---|---|
| Billboard | Anthropic | Elvis Presleyの楽曲をAIの訓練に無断で使ったとして提訴 |
| Law Commentary | SunoとAnthropic | Madonna、Johnny Cashらの楽曲で約3.4億ドル規模の請求 |
いずれも見出しに基づく報道。記事本文の詳細はサイトでは未確認
訴えたのは、歌の権利を持つ側です。報道の見出しから読む限り、言い分は、許しを得ないまま歌をAIに学ばせた、という点にあります。これまで、何を学ばせたかは作る側の内部の事情で済んでいました。それがいま、外に向けて説明を求められる事柄に変わりつつあります。訴えた側が守ろうとしているのは、お金だけではないと私は思います。自分たちの作品が、どこで、どう使われたのかを知ることです。
見出しから筋をたどると、争われているのはAIが返す答えの中身ではなさそうです。学ばせる前に許しを取ったかどうか、その手前の手続きです。請求の額は、一つの会社が払うには重いと私は読みます。額が重いほど、ほかの開発元も素材の集め方を見直さざるを得なくなるでしょう。作る側は、性能を上げる競争を続けながら、何をどこから集めたかの記録も残さなければならなくなります。
学ばせる素材をきちんと集めたかどうかは、これからAIを評価するときの項目の一つになる、と私は考えています。
製薬の会社も、この問いと無縁ではありません。社内の文書や論文を読ませて自社向けのAIを育てるなら、同じ問いがそのまま自社に返ってきます。読ませる文書を使う権利が自社にあるのかは、育て始める前に確かめておくべきことです。逆の向きも見ておく必要があります。自社の資料が、知らないうちに外のAIに読まれていないか、という点です。
学ばせる素材が問われるなら、使う側のAIの選び方も変わってきます。次は、使う側である国が動いた場面です。
02国がAIを選び始めた
出典 Yahoo / Unite.AI / The Daily Tar Heel
作る側の責任が問われたのと同じ日に、使う側の動きも報じられました。国の役所が、どのAIなら使ってよいかを、自分たちで決め始めたのです。
| 主体 | 動き | 対象 |
|---|---|---|
| スウェーデン政府機関 | ChatGPTとClaudeを遮断 | Microsoft Copilotは継続して許可 |
| 英国 | 1億ポンドのAIバイオセキュリティ研究所 | OpenAI、Anthropicと共同 |
| ノースカロライナ州など25州 | 連邦議会にAI規制を要請 | 州が足並みをそろえた |
ある国の役所は、広く使われている対話型のAIを止め、事務の道具に組み込まれたAIだけを残しました。残った方が賢いから選ばれた、とは私は考えていません。役所がすでに使っている仕組みの中にあって、管理しやすいからだろうと読んでいます。別の国は開発元と組んで、危ない使われ方を防ぐ研究にお金を出します。米国では多くの州が、国の議会にAIの決まりを作るよう求めました。対話型のAIを止めた理由は、報道からは分かりません。ここからは私の推測ですが、扱う情報の行き先を自分たちで見張れるかどうかが、分かれ目だったのではないでしょうか。
開発元を研究の場に招くのは、悪用を、AIを作る段階で抑えたいからでしょう。国は使う道具を選ぶだけでなく、作り方にも関わり始めています。作る側と使う側のあいだに国が立つ、という形が見えてきました。
製薬の会社でも、社員がめいめい好きなAIを使えば、患者の情報や、まだ公表していない試験の結果が外へ出るおそれがあります。だから会社として使ってよいAIを決め、なぜそれを選んだのかを記録に残しておく必要があります。役所の選び方は、その参考になると私は考えます。選んだ後も、使い方の決まりを見直す担当者を置いておけば、判断がぶれにくくなります。
ただ、会社が選んだAIの裏で、別のAIが答えていたとしたらどうでしょう。次は、頼んだ仕事が実際にどこで処理されているのか、という話です。
03仕事を振り分けるAI
出典 Forkast News / https://tech-insider.org/
画面の向こうで話しているAIと、実際に答えを作っているAIが、同じとは限らなくなってきました。
ある会社の窓口に頼んだ仕事が、裏で別の会社のAIに回されている、という報道がありました。利用者から見れば、話している相手は何も変わりません。けれども、答えを作っているのは別の会社です。報道は、AIの強みが頭の良さから、仕事をどこへ回すかを決める側へ移ったと見ています。そうだとすれば、どのAIがいちばん賢いかを比べる意味は、少しずつ薄れていくはずです。
| モデル | 価格 |
|---|---|
| DeepSeek | 0.15ドル |
| Claude | 4ドル |
tech-insider.orgの比較。サイトの記事は価格面でDeepSeekの大幅な優位が強調されていると記述
回す先を決めるとき、値段も大きく効いてくるはずだと私は考えます。比べた二つのあいだには、一桁を超える開きがあります。これだけ差があれば、窓口は安い方へ回したくなるでしょう。答えの質ではなく値段で回す先が決まるなら、利用者は、誰が答えたのかを知らないまま使い続けることになります。安い方へ回すこと自体が、悪いわけではありません。困るのは、利用者がそれを知ることも、選ぶこともできない点です。
製薬の仕事で困るのは、預けた文書がどの会社のAIを通ったのか、後から分からなくなることです。患者に関わる情報であれば、どの国のどの会社が扱ったのかを説明できなければなりません。契約の前に回す先を明かしてもらい、変えるときは前もって知らせてもらう、という約束が要ります。値段の安さだけで窓口を選ぶと、この確認がつい後回しになります。
回す先と値段でAIの値打ちが揺らぐ一方、薬を作るAIの会社には、大きなお金が集まっています。次は、その額が何を意味するのかです。
04創薬AIに入ったお金
出典 Wowtale / Kingy AI / BioSpectrum Asia
見出しに載った大きな額が、そのまま動いたお金だとは限りません。
| 案件 | 金額 | 額の性質 |
|---|---|---|
| Pathos AIのシリーズE | 2億3,700万ドル | 調達額。米国の大手製薬企業が主導 |
| Pathos AIの評価額 | 約30億ドル | 企業価値の評価額。投じられた額ではない |
| Warp Sciencesの始動 | 2億1,500万ドル | 調達額。AI創薬をラボに持ち込むと発表 |
| AI Proteinsと日本の製薬企業 | 4億ドル | ミニプロテインの創薬契約。確定額か総額かは不明 |
金額は報道の原文から抜き出したもの。通貨の換算はしていない
並んでいる額は、性質がまったく違います。実際に払い込まれたお金もあれば、投資家が会社全体につけた値段もあります。条件を満たしたときに払われる分まで含めた額かもしれない、というものもあります。いちばん大きく見える数字が、実際に動いたお金だとは限らないのです。大きな額が並ぶと、市場が勢いづいているように見えます。けれども、額の性質をそろえずに比べれば、話を実際より大きく受け取ってしまいます。
会社につけられた値段は、会社の手元にあるお金ではありません。その値段と、実際に払い込まれた額との差は、先への期待の大きさだと私は読みます。期待は、成果が出なければ縮みます。大きな値段が付いたこと自体を、成果と取り違えないようにしたいものです。
製薬の会社が提携を結ぶとき、発表される額は、社内でも社外でも受け止め方を大きく左右します。額の性質を取り違えると、相手の力も、自社が負う負担も読み誤ります。提携を担う人は、最初に払う分と、成果に応じて後から払う分を、分けて読まなければなりません。相手が薬を作るAIの会社なら、なおさらです。成果が出るまでに長い時間がかかるので、後から払う分が大きくなりやすいと私は考えます。発表された額だけを社内の報告に載せれば、読む人の見込みを誤らせることになります。
お金の行き先を追っていくと、もう一つの流れが見えてきます。会社ではなく、データそのものにお金が付き始めたのです。
05製薬が結ぶデータ契約
出典 www.tokenpost.com / marketscreener.com / Indian Pharma Post
薬を作るAIの力は、何を読ませたかで決まります。だから、読ませるデータそのものが取り引きの対象になりました。
神経領域のデータ
Tempus AIとPathos AIが神経領域のデータ契約を結んだ。金額は最大5,500万ドルで、上限であり確定額ではない。
腫瘍学データの許諾
Tempus AIが米国の大手製薬企業と、マルチモーダルな腫瘍学データをライセンスする複数年契約を結んだ。金額は報じられていない。
心電図からAIケアへ
Tricog Healthが欧州の製薬企業とOMRON Healthcareとともに世界展開を広げると報じられた。金額は見出しに無い。
並んだ契約の多くは、データを手に入れるための話です。額に上限を設けた契約もあれば、額を明かしていない契約もあります。額よりも目を引くのは、病気の種類を絞って、深く集めようとしている点だと私は読みます。契約の相手には、薬を作る会社が並びます。AIの会社を持つことより、AIに読ませる材料を押さえることに、価値を置いているのかもしれません。同じ会社の名前が、出資とデータの両方に出てくることも見逃せません。お金とデータを一緒に押さえる動きだと、私は受け止めています。
画像や検査の値のように、形の違う記録を重ねて読むと、一つの記録だけでは見えなかった関係が見えてきます。だから、まとまって集められたデータほど値打ちが上がります。問われているのはデータの量より、組み合わせの幅だと私は考えます。
製薬の会社は、薬の効き目を確かめる試験や販売後の調査を通じて、多くの記録を持っています。その記録は、患者が同意した範囲の中でしか使えません。売る側に回るにせよ、買う側に回るにせよ、同意と匿名化を確かめることが先に来ます。自社の記録にどれほどの値打ちがあるかを知っておくことは、守るためにも、生かすためにも役に立ちます。
データとお金がいくら集まっても、最後に判断するのは人です。最後の章では、専門家の仕事でAIが何を変えたのかを見ます。
06AIと専門家の判断
出典 The Decoder / World Trademark Review / Washington Times
AIが作業を速くすればするほど、人が下す判断の重さが目立ってきます。
若手の特許弁護士
研究で、AIは若手の特許弁護士の成果をすぐに高める一方、職業上の成長を妨げ得ると指摘された(The Decoder)。
商標調査と法的判断
AIは商標の調査に強いが、法的な判断は不得手だと研究が警告した(World Trademark Review)。
AIを使った連邦判事
AIを使用した連邦判事が、DEI関連の訴訟の担当から外されたと報じられた(Washington Times)。
報じられた例は、どれも専門家の仕事にかかわるものです。AIは、経験の浅い人の仕事ぶりを短い間に引き上げますし、調べる作業も得意です。一方で、法に照らした判断は苦手だと警告する研究もあります。さらに、判断を下す立場の人がAIに頼ったことで、その事件から退くことになった例も出ました。これからは、AIに頼ったかどうかを、後から説明できることが求められます。
私が気になるのは、人が育つ機会が失われるかもしれない点です。若い人は、自分で調べ、迷い、先輩に直されながら、判断の力を身に付けていきます。その過程をAIが肩代わりすれば、目の前の仕事は良くなっても、何年か先に判断できる人が残りません。ただし、これは研究が示した心配であって、まだ確かめられた結果ではありません。
製薬の会社でも、資材の審査や安全性の評価は、最後に人が責任を持つ仕事です。AIを使うなら、どこまでを任せ、どこから人が見るのかを先に決めておく必要があります。若い人が自分で判断する場を残しておくことも、同じくらい大切です。AIの答えをそのまま採るのではなく、誰が確かめたのかを記録に残しておきたいところです。
AIに任せる範囲を決める仕事は、出どころを確かめる仕事と同じ種類のものです。では、今日の問いに戻ります。
10月28〜29日のAlphabet、Microsoft、Amazonの決算で、設備投資の規模とAI収益の回収が示されるかに注目する。
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導入
AIの値打ちは、賢さだけで決まるのか。答えは、いいえです。賢さのほかに何が選ぶ決め手になるのか、この動画で分かります。歌の権利を持つ人たちが、AIの会社に著作権訴訟を起こしました。
同じ日の報道では、ある国の役所が使うAIを絞り込んでいました。製薬の会社がAIを選ぶときも、同じ問いが自社に返ってきます。では、何を確かめればよいのでしょうか。学ばせた素材、仕事を回す先と処理の場所、創薬AIに集まるお金。そのAIが何から学び、どこを通って答え、誰のお金で動いているのか。それを説明できるかどうかで、選ばれ方が変わり始めています。
六つの出来事を、この順に見ていきます。
CH 01 AIに楽曲の著作権訴訟
最初は歌の話です。AIが何から学んだのかが、いよいよ裁判の場で問われ始めました。訴えたのは、歌の権利を持つ側です。報道の見出しから読む限り、言い分は、許しを得ないまま歌をAIに学ばせた、という点にあります。これまで、何を学ばせたかは作る側の内部の事情で済んでいました。それがいま、外に向けて説明を求められる事柄に変わりつつあります。訴えた側が守ろうとしているのは、お金だけではないと私は思います。
自分たちの作品が、どこで、どう使われたのかを知ることです。見出しから筋をたどると、争われているのはAIが返す答えの中身ではなさそうです。学ばせる前に許しを取ったかどうか、その手前の手続きです。請求の額は、一つの会社が払うには重いと私は読みます。額が重いほど、ほかの開発元も素材の集め方を見直さざるを得なくなるでしょう。作る側は、性能を上げる競争を続けながら、何をどこから集めたかの記録も残さなければならなくなります。
学ばせる素材をきちんと集めたかどうかは、これからAIを評価するときの項目の一つになる、と私は考えています。製薬の会社も、この問いと無縁ではありません。社内の文書や論文を読ませて自社向けのAIを育てるなら、同じ問いがそのまま自社に返ってきます。読ませる文書を使う権利が自社にあるのかは、育て始める前に確かめておくべきことです。逆の向きも見ておく必要があります。
自社の資料が、知らないうちに外のAIに読まれていないか、という点です。学ばせる素材が問われるなら、使う側のAIの選び方も変わってきます。次は、使う側である国が動いた場面です。
CH 02 国がAIを選び始めた
作る側の責任が問われたのと同じ日に、使う側の動きも報じられました。国の役所が、どのAIなら使ってよいかを、自分たちで決め始めたのです。ある国の役所は、広く使われている対話型のAIを止め、事務の道具に組み込まれたAIだけを残しました。残った方が賢いから選ばれた、とは私は考えていません。役所がすでに使っている仕組みの中にあって、管理しやすいからだろうと読んでいます。
別の国は開発元と組んで、危ない使われ方を防ぐ研究にお金を出します。米国では多くの州が、国の議会にAIの決まりを作るよう求めました。対話型のAIを止めた理由は、報道からは分かりません。ここからは私の推測ですが、扱う情報の行き先を自分たちで見張れるかどうかが、分かれ目だったのではないでしょうか。開発元を研究の場に招くのは、悪用を、AIを作る段階で抑えたいからでしょう。
国は使う道具を選ぶだけでなく、作り方にも関わり始めています。作る側と使う側のあいだに国が立つ、という形が見えてきました。製薬の会社でも、社員がめいめい好きなAIを使えば、患者の情報や、まだ公表していない試験の結果が外へ出るおそれがあります。だから会社として使ってよいAIを決め、なぜそれを選んだのかを記録に残しておく必要があります。役所の選び方は、その参考になると私は考えます。
選んだ後も、使い方の決まりを見直す担当者を置いておけば、判断がぶれにくくなります。ただ、会社が選んだAIの裏で、別のAIが答えていたとしたらどうでしょう。次は、頼んだ仕事が実際にどこで処理されているのか、という話です。
CH 03 仕事を振り分けるAI
画面の向こうで話しているAIと、実際に答えを作っているAIが、同じとは限らなくなってきました。ある会社の窓口に頼んだ仕事が、裏で別の会社のAIに回されている、という報道がありました。利用者から見れば、話している相手は何も変わりません。けれども、答えを作っているのは別の会社です。報道は、AIの強みが頭の良さから、仕事をどこへ回すかを決める側へ移ったと見ています。
そうだとすれば、どのAIがいちばん賢いかを比べる意味は、少しずつ薄れていくはずです。回す先を決めるとき、値段も大きく効いてくるはずだと私は考えます。比べた二つのあいだには、一桁を超える開きがあります。これだけ差があれば、窓口は安い方へ回したくなるでしょう。答えの質ではなく値段で回す先が決まるなら、利用者は、誰が答えたのかを知らないまま使い続けることになります。
安い方へ回すこと自体が、悪いわけではありません。困るのは、利用者がそれを知ることも、選ぶこともできない点です。製薬の仕事で困るのは、預けた文書がどの会社のAIを通ったのか、後から分からなくなることです。患者に関わる情報であれば、どの国のどの会社が扱ったのかを説明できなければなりません。契約の前に回す先を明かしてもらい、変えるときは前もって知らせてもらう、という約束が要ります。
値段の安さだけで窓口を選ぶと、この確認がつい後回しになります。回す先と値段でAIの値打ちが揺らぐ一方、薬を作るAIの会社には、大きなお金が集まっています。次は、その額が何を意味するのかです。
CH 04 創薬AIに入ったお金
見出しに載った大きな額が、そのまま動いたお金だとは限りません。並んでいる額は、性質がまったく違います。実際に払い込まれたお金もあれば、投資家が会社全体につけた値段もあります。条件を満たしたときに払われる分まで含めた額かもしれない、というものもあります。いちばん大きく見える数字が、実際に動いたお金だとは限らないのです。大きな額が並ぶと、市場が勢いづいているように見えます。
けれども、額の性質をそろえずに比べれば、話を実際より大きく受け取ってしまいます。会社につけられた値段は、会社の手元にあるお金ではありません。その値段と、実際に払い込まれた額との差は、先への期待の大きさだと私は読みます。期待は、成果が出なければ縮みます。大きな値段が付いたこと自体を、成果と取り違えないようにしたいものです。製薬の会社が提携を結ぶとき、発表される額は、社内でも社外でも受け止め方を大きく左右します。
額の性質を取り違えると、相手の力も、自社が負う負担も読み誤ります。提携を担う人は、最初に払う分と、成果に応じて後から払う分を、分けて読まなければなりません。相手が薬を作るAIの会社なら、なおさらです。成果が出るまでに長い時間がかかるので、後から払う分が大きくなりやすいと私は考えます。発表された額だけを社内の報告に載せれば、読む人の見込みを誤らせることになります。
お金の行き先を追っていくと、もう一つの流れが見えてきます。会社ではなく、データそのものにお金が付き始めたのです。
CH 05 製薬が結ぶデータ契約
薬を作るAIの力は、何を読ませたかで決まります。だから、読ませるデータそのものが取り引きの対象になりました。並んだ契約の多くは、データを手に入れるための話です。額に上限を設けた契約もあれば、額を明かしていない契約もあります。額よりも目を引くのは、病気の種類を絞って、深く集めようとしている点だと私は読みます。契約の相手には、薬を作る会社が並びます。
AIの会社を持つことより、AIに読ませる材料を押さえることに、価値を置いているのかもしれません。同じ会社の名前が、出資とデータの両方に出てくることも見逃せません。お金とデータを一緒に押さえる動きだと、私は受け止めています。画像や検査の値のように、形の違う記録を重ねて読むと、一つの記録だけでは見えなかった関係が見えてきます。だから、まとまって集められたデータほど値打ちが上がります。
問われているのはデータの量より、組み合わせの幅だと私は考えます。製薬の会社は、薬の効き目を確かめる試験や販売後の調査を通じて、多くの記録を持っています。その記録は、患者が同意した範囲の中でしか使えません。売る側に回るにせよ、買う側に回るにせよ、同意と匿名化を確かめることが先に来ます。自社の記録にどれほどの値打ちがあるかを知っておくことは、守るためにも、生かすためにも役に立ちます。
データとお金がいくら集まっても、最後に判断するのは人です。最後の章では、専門家の仕事でAIが何を変えたのかを見ます。
CH 06 AIと専門家の判断
AIが作業を速くすればするほど、人が下す判断の重さが目立ってきます。報じられた例は、どれも専門家の仕事にかかわるものです。AIは、経験の浅い人の仕事ぶりを短い間に引き上げますし、調べる作業も得意です。
一方で、法に照らした判断は苦手だと警告する研究もあります。さらに、判断を下す立場の人がAIに頼ったことで、その事件から退くことになった例も出ました。これからは、AIに頼ったかどうかを、後から説明できることが求められます。私が気になるのは、人が育つ機会が失われるかもしれない点です。若い人は、自分で調べ、迷い、先輩に直されながら、判断の力を身に付けていきます。
その過程をAIが肩代わりすれば、目の前の仕事は良くなっても、何年か先に判断できる人が残りません。ただし、これは研究が示した心配であって、まだ確かめられた結果ではありません。製薬の会社でも、資材の審査や安全性の評価は、最後に人が責任を持つ仕事です。AIを使うなら、どこまでを任せ、どこから人が見るのかを先に決めておく必要があります。若い人が自分で判断する場を残しておくことも、同じくらい大切です。
AIの答えをそのまま採るのではなく、誰が確かめたのかを記録に残しておきたいところです。AIに任せる範囲を決める仕事は、出どころを確かめる仕事と同じ種類のものです。では、今日の問いに戻ります。
まとめ
AIの値打ちは、賢さだけでは決まりませんでした。何から学び、どこを通って答え、誰のお金で動き、最後に誰が判断するのか。その出どころを説明できるAIだけが、製薬の現場で使われ続けると私は考えます。この先の数日で、大手のIT企業が相次いで業績を発表します。注ぎ込んだお金をどう取り戻すのかが示されるかどうかが、注目されています。お金の出どころと行き先を確かめるつもりで、その発表を見ていこうと思います。
- CH 01Billboard「Anthropic Sued For Stealing Elvis Presley Music to Train AI: ‘Deeply Protective of These Iconic Songs’」 billboard.com
- CH 01Law Commentary「Suno and Anthropic Face Nearly $340 Million in Copyright Claims Over Songs by Madonna, Johnny Cash」 lawcommentary.com
- CH 02Yahoo「Sweden's Government Offices Block ChatGPT and Claude, Keep Microsoft Copilot」 yahoo.com
- CH 02Unite.AI「UK Establishes AI Biosecurity Lab Backed by OpenAI and Anthropic」 unite.ai
- CH 02The Daily Tar Heel「North Carolina joins 25 states in urging Congress for AI regulation」 dailytarheel.com
- CH 03Forkast News「Grok Bot Will Route Your Tasks to Claude. The Moat Just Moved to the Switchboard.」 forkast.news
- CH 03https://tech-insider.org/「DeepSeek vs Claude: $0.15 vs $4 Per 1M Tokens [2026]」 tech-insider.org
- CH 04Wowtale「Pathos AI Raises $237M Series E at ~$3B Valuation, Led by Bristol Myers Squibb」 en.wowtale.net
- CH 04Kingy AI「Warp Sciences Launches With $215 Million to Bring AI Drug Discovery Into the Lab」 kingy.ai
- CH 04BioSpectrum Asia「Japan's Astellas Pharma inks $400 M deal with AI Proteins to develop novel miniprotein-based therapeutics」 biospectrumasia.com
- CH 05www.tokenpost.com「Tempus AI and Pathos AI Sign Neurology Data Deal Worth Up to $55 Million」 tokenpost.com
- CH 05marketscreener.com「Tempus AI, Inc. Enters Into Multi-Year Agreement With Bristol Myers Squibb To License Multimodal Oncology Data」 marketscreener.com
- CH 05Indian Pharma Post「From ECGs to AI-powered Care: Tricog Health scales global ambitions with Sanofi & OMRON Healthcare」 indianpharmapost.com
- CH 06The Decoder「AI makes junior patent attorneys instantly better but may quietly stunt their professional growth」 the-decoder.com
- CH 06World Trademark Review「AI excels at trademark clearance but falls short on legal judgement, study warns」 worldtrademarkreview.com
- CH 06Washington Times「Federal judge who used AI gets booted off DEI case」 washingtontimes.com
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- 章
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