OpenAIがGoogleのクラウドに並んだ日── 計算資源の逼迫、AIが見つけた弱点、創薬AIの買収
AIを選べる幅は、ずいぶん広がりました。けれども私には、選べるように見えて、実は少数の大手に頼る度合いが増しているようにも見えます。製薬の仕事の周りでも、研究から法務、採用まで、AIを使う場面が増えています。どちらの見方が当たっているのかは、私たちにとって他人事ではありません。AIを届ける側には、届ける側の事情があります。その事情は、どこで売るか、どの業界に入っていくかに表れます。
今日はいくつかの場面でその事情をたどり、受け取る側が何を備えておけばよいかを考えます。最後に、AIを誰から、どんな条件で受け取るのかについて、私なりの答えを出します。
01OpenAIがGoogle Cloudへ
出典 Google Cloud
最初の場面は、AIをどこで買えるかという話です。使う側にとって、どこで買えるかは、どこに縛られるかと同じ意味を持つと私は考えています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提供の場 | Google Cloudのモデルガーデン |
| そろったモデル | Gemini・Claude・GPT |
| そのほか | 自社・他社・オープンのモデル200以上を統合基盤で扱う |
| 報道の位置づけ | OpenAIがMicrosoft一社依存を離れ、主要クラウド3社に展開 |
3社すべてを使えるハイパースケーラーはGoogle Cloudだけ(同社の説明)
これまで、ある開発元のAIを使いたければ、その開発元と組む限られた会社の計算機の上で動かすのがふつうでした。その前提が崩れ、競い合う開発元のAIが、同じ一つの場所に並びました。使う側は、土台の仕組みを替えずに、AIだけを取り替えて比べられます。売る側が争っているのは、AIそのものの出来よりも、AIを選ぶ場所を誰が持つかになりつつあると私は見ています。
その場所を持っているのは、世界中に計算機を並べて貸し出す、ほんの数社です。開発元から見れば、置いてもらう場所が増えるほど、客に届きやすくなります。その代わり、どこで動かしても同じ品質を保つ手間を負います。どこを選んでも同じAIが使えるのなら、土台を選ぶ理由は、値段や管理のしやすさに移ります。
並ぶAIの数は、一人の担当者がすべてを試せる量を、とうに超えています。選択肢が増えるほど、何で選ぶかの基準を持たない会社は迷います。私なら、自社の仕事で試す課題を先に決めてから、候補を絞ります。
製薬の会社にとって大事なのは、どのAIがいちばん賢いかではありません。患者の情報や開発の記録を、どの土台の上で、誰の管理のもとで扱うかです。AIを取り替えられるようになった今、その線を引く責任は使う側にあります。社内の決まりが追いつかないまま、部署ごとに別のAIを使い始めれば、情報がどこを流れているのか、誰にも見えなくなります。
では、開発元はなぜ、AIを置く場所を一社から広げる必要があったのでしょうか。理由は、売る側が抱える事情のほうにありそうです。
02計算資源が足りない
出典 Sources | Alex Heath / Business Insider / New York Post
手がかりは、AIを動かす計算の力そのものが足りていないことにあります。置く場所を広げたのは、客を増やすためだけではないと私は見ています。足りないものを抱えた売り手は、少しでも多くの場所で売ろうとするからです。
| 人物 | 場 | 内容 |
|---|---|---|
| ピチャイ氏(Google) | 番組への出演 | 「Gemini 4 Argon」と計算資源の逼迫を語った |
| マスク氏(SpaceX) | SpaceXの決算説明会 | 計算資源の貸与を「あらゆるハイパースケーラーから執拗に迫られている」 |
| Meta | New York Postの報道 | AI投資の資金調達で新株を発行するとの観測 |
Metaの新株発行は観測の報道で、確定していない
検索の大手のトップも、宇宙ロケットの会社のトップも、同じことを口にしました。AIを動かす計算機が足りず、取り合いになっている、という話です。別の大手については、資金を集めるために株を新たに出すという観測まで出ました。ただし、これは確定した話ではありません。確かなのは、立場の違う経営者たちが、そろって同じ不足を語ったという一点です。売る側の不足は、そのまま買う側の不安になります。
計算の力は、建物と電気と半導体がそろって、はじめて増えます。どれも、思い立ってすぐに用意できるものではありません。求める声が急に増えれば、順番待ちが生まれるのは自然な成り行きです。
使う側にとって、これは値段と順番の問題です。不足が続けば、大口の客が先に枠を押さえ、小さな客は後回しにされるかもしれません。社内の研究や文書づくりをAIに頼るなら、一つの供給元が止まっても仕事が回る形にしておきたいところです。契約の前に、止まったときの代わりの手を確かめておく。値上がりや提供の遅れも、計画の前提に入れておく。地味ですが、私はこの二つを先に済ませておくべき仕事だと考えます。
そして、その計算の力で動くAIは、使い手の守りの弱さまで見つけ始めています。次は、守りの場面です。
03AIが見つけたWebの弱点
力の強いAIが、人の見落としを人より先に見つけたら、直すのは誰なのでしょうか。次の場面で、その問いは現実のものになりました。しかも守りの話は、AIを使っていない会社にも及びます。
開発元のAIが、ネットの仕組みの中に、攻撃に使える大きな欠陥を見つけました。開発元はそれを自社で抱え込まず、世界中の関係者と、直す作業の段取りをそろえる枠組みを始めています。こうした欠陥を見つける力は、これまで一部の専門家のものでした。それがAIに移れば、欠陥が見つかる速さが、直す速さを追い越すおそれがあります。今回、開発元は知らせて直す側に回りました。ただ、同じ力を持つAIを、誰もが善意で使うとは限りません。
欠陥は、見つけた人が善意なら、直すための手がかりになります。悪意なら、そのまま攻撃に使われます。同じ力がどちらにも使えるところに、この話の難しさがあります。だから私は、見つけた後の段取りを、見つける力と同じくらい重く見ています。
製薬の会社は、患者の情報や開発中の薬の記録など、狙われやすいものを抱えています。自社の仕組みに修理の知らせが届いたとき、誰が受け取り、いつまでに直すのか。その役割が決まっていなければ、AIの見つけた欠陥は、守る側より先に、攻める側に使われかねません。外から借りている仕組みであっても、知らせを受け取る窓口は自社に置く必要があります。
この開発元は、守りの仕組みだけでなく、薬を作る仕事そのものにも入り始めました。
04OpenAIが創薬AIを買収
出典 Chosunbiz / Unite.AI / GeneOnline / Business Wire
AIを作る会社が、薬を作る工程に入ってきます。製薬の側から見ると、相手が道具の売り手なのか、それとも同じ候補を探す競い手なのかが変わる話です。
どの業界にも同じAIを売ってきた開発元が、薬の候補を探すAIの新しい会社を買いました。研究の手順を自分で進めるAIを、生命科学向けの道具にまとめる狙いだと報じられています。これまで開発元は、道具を貸す立場にとどまっていました。今回は、一つの業界の仕事の中身にまで踏み込んできたことになります。
| 案件 | 報じられた額 | 額の性質 |
|---|---|---|
| OpenAIによるOrchestra Bioの買収 | 記載なし | 規模は不明 |
| 大手製薬と新興企業のミニプロテイン創薬の提携 | 4億ドル超 | 評価額。確定した支払総額ではない |
| 製薬バックエンド業務 | 4,000億ドル | 市場規模。特定企業の投資額ではない |
額の性質は、自サイト「AIと製薬産業」の判定による
同じ日には、薬づくりのAIをめぐる大きな額が、いくつも見出しに並びました。ただ、額の意味はばらばらです。ある額は契約が想定する価値で、別の額は業界全体の大きさを指しています。肝心の買収については、報道に額が見当たりません。見出しの額をそのまま投資の大きさと読むと、判断を誤ります。その額が見込みなのか、実際に払われた額なのかを、まず確かめるべきだと私は考えます。
研究の現場にとっての問いは、自社の実験データをこの道具に預けるかどうかです。便利さと引き換えに、自社の強みである知見が、相手の道具を賢くする材料に回らないか。契約の段階で、データの扱いを確かめておく必要があります。相手は道具の売り手であると同時に、同じ候補を探す競い手にもなりうるからです。
では、研究の外側、日々の仕事の現場では、AIはどこまで入り込んでいるのでしょうか。
05製薬の現場では
出典 Fierce Healthcare / Thomson Reuters Legal Solutions / 日刊薬業
AIの話は、研究所の中だけでは終わりません。製薬の会社にも関わる、目立たない仕事にも入り始めています。
Epic Connectors
Epicが、自社のAIツールと外部アプリをつなぐ「Connectors」を始めた(Fierce Healthcare、見出しのみ)。
100超の法域を調べる
Thomson ReutersのMultinational Agent。一つの法的な問いを100以上の法域で調べ、検証可能な出典が付く。
新卒採用にAI対話
医薬品業界の企業グループが、新卒採用でエントリーシートを廃止し、AI対話を導入した(日刊薬業)。
医療の記録を扱う会社は、自社のAIを外の仕組みとつなげ始めました。法律の調べものでは、国ごとに違う決まりを、出どころを付けてまとめて調べるAIが出ています。人を採る場面では、書類の代わりにAIとの会話で学生を知ろうとする会社が現れました。これまでAIは、聞かれたら答える相手でした。三つに共通するのは、AIが答えを返すだけでなく、仕事の流れの一部を受け持ち始めたことです。
薬の仕事は、国ごとに違う決まりに縛られます。その違いを調べる手間は、これまで人の時間を大きく食ってきました。出どころをたどれる形で調べられれば、確かめる作業も短くなるでしょう。規制の担当者は、浮いた時間を判断そのものに回せるはずです。
法務や薬事、人事の現場の担当者にとって、AIはもう遠い話ではありません。ただし条件があります。AIが出した答えの出どころを、人が確かめられることです。採用でも、AIの判断に何が入っているかを受ける側に説明できなければ、信頼は得られないでしょう。AIに任せた部分の誤りを誰が見つけ、誰が責任を負うのか。それも、使い始める前に決めておく必要があります。
けれども、AIを現場に入れれば、そのまま根づくとは限りません。同じ日に、その逆の例もありました。
06広がるAIと退くAI
出典 Microsoft Source / Wccftech / BigGo Finance
この日、AIが一気に広がった場所と、反対に引っ込められた場所がありました。その違いには、受け取る側の事情が表れています。
| 動き | 主体・内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 広がる | MicrosoftがVW従業員33万人超にCopilotを導入 | Microsoft Source |
| 減る | Windows 11のファイルエクスプローラーからCopilotの機能8つを削除 | Wccftech |
| 止められる | Muse・Dots・Doubaoなど個人向けエージェントがアプリ側に遮断された | BigGo Finance |
Windows 11の削除はユーザーの反発を受けたと報じられた
ある車の会社では、働く人の大勢にAIの助手が配られることになりました。一方で、同じ開発元のパソコンの基本ソフトでは、使う人の不満が強く、AIの働きが削られました。押しつけと受け取られた働きは、出来がよくても嫌われるのだと私は見ています。さらに、人の代わりに動くAIが、アプリの側から締め出される例も相次いでいます。広がるかどうかを最後に決めるのは、作る側ではなく、使う人と、場を持つ会社なのでしょう。作る側の勢いだけでは、AIは根づきません。
会社が一斉に配れば、数としては大きく見えます。けれども、配った数と、毎日使われる数は別物です。私が知りたいのは、配った後に、どの仕事で、どれだけ時間が浮いたかのほうです。
製薬の会社がAIを入れるときも、同じことが起きます。上から配るだけでは、現場は使い方に迷い、やがて離れていきます。何の仕事を、どこまで任せるのか。それを使う人と一緒に決めることが、定着へのいちばんの近道だと私は思います。うまくいった部署の使い方をほかの部署に広げていくほうが、一斉に配るより確かです。使う人が手応えを感じたとき、AIははじめて仕事の道具になります。
現場に根づくところまで見届けて、はじめてAIを選んだと言えるのかもしれません。では、今日の場面をつなげると、何が見えてくるでしょうか。
OpenAIによるOrchestra Bioの買収額と、Rosalind統合後の提供形態(製薬企業向けの課金方式を含む)が示されるか。
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導入
AIを選べる幅は、ずいぶん広がりました。けれども私には、選べるように見えて、実は少数の大手に頼る度合いが増しているようにも見えます。製薬の仕事の周りでも、研究から法務、採用まで、AIを使う場面が増えています。どちらの見方が当たっているのかは、私たちにとって他人事ではありません。AIを届ける側には、届ける側の事情があります。その事情は、どこで売るか、どの業界に入っていくかに表れます。
今日はいくつかの場面でその事情をたどり、受け取る側が何を備えておけばよいかを考えます。最後に、AIを誰から、どんな条件で受け取るのかについて、私なりの答えを出します。
CH 01 OpenAIがGoogle Cloudへ
最初の場面は、AIをどこで買えるかという話です。使う側にとって、どこで買えるかは、どこに縛られるかと同じ意味を持つと私は考えています。これまで、ある開発元のAIを使いたければ、その開発元と組む限られた会社の計算機の上で動かすのがふつうでした。その前提が崩れ、競い合う開発元のAIが、同じ一つの場所に並びました。使う側は、土台の仕組みを替えずに、AIだけを取り替えて比べられます。
売る側が争っているのは、AIそのものの出来よりも、AIを選ぶ場所を誰が持つかになりつつあると私は見ています。その場所を持っているのは、世界中に計算機を並べて貸し出す、ほんの数社です。開発元から見れば、置いてもらう場所が増えるほど、客に届きやすくなります。その代わり、どこで動かしても同じ品質を保つ手間を負います。どこを選んでも同じAIが使えるのなら、土台を選ぶ理由は、値段や管理のしやすさに移ります。
並ぶAIの数は、一人の担当者がすべてを試せる量を、とうに超えています。選択肢が増えるほど、何で選ぶかの基準を持たない会社は迷います。私なら、自社の仕事で試す課題を先に決めてから、候補を絞ります。製薬の会社にとって大事なのは、どのAIがいちばん賢いかではありません。患者の情報や開発の記録を、どの土台の上で、誰の管理のもとで扱うかです。AIを取り替えられるようになった今、その線を引く責任は使う側にあります。
社内の決まりが追いつかないまま、部署ごとに別のAIを使い始めれば、情報がどこを流れているのか、誰にも見えなくなります。では、開発元はなぜ、AIを置く場所を一社から広げる必要があったのでしょうか。理由は、売る側が抱える事情のほうにありそうです。
CH 02 計算資源が足りない
手がかりは、AIを動かす計算の力そのものが足りていないことにあります。置く場所を広げたのは、客を増やすためだけではないと私は見ています。足りないものを抱えた売り手は、少しでも多くの場所で売ろうとするからです。検索の大手のトップも、宇宙ロケットの会社のトップも、同じことを口にしました。AIを動かす計算機が足りず、取り合いになっている、という話です。
別の大手については、資金を集めるために株を新たに出すという観測まで出ました。ただし、これは確定した話ではありません。確かなのは、立場の違う経営者たちが、そろって同じ不足を語ったという一点です。売る側の不足は、そのまま買う側の不安になります。計算の力は、建物と電気と半導体がそろって、はじめて増えます。どれも、思い立ってすぐに用意できるものではありません。
求める声が急に増えれば、順番待ちが生まれるのは自然な成り行きです。使う側にとって、これは値段と順番の問題です。不足が続けば、大口の客が先に枠を押さえ、小さな客は後回しにされるかもしれません。社内の研究や文書づくりをAIに頼るなら、一つの供給元が止まっても仕事が回る形にしておきたいところです。契約の前に、止まったときの代わりの手を確かめておく。
値上がりや提供の遅れも、計画の前提に入れておく。地味ですが、私はこの二つを先に済ませておくべき仕事だと考えます。そして、その計算の力で動くAIは、使い手の守りの弱さまで見つけ始めています。次は、守りの場面です。
CH 03 AIが見つけたWebの弱点
力の強いAIが、人の見落としを人より先に見つけたら、直すのは誰なのでしょうか。次の場面で、その問いは現実のものになりました。しかも守りの話は、AIを使っていない会社にも及びます。開発元のAIが、ネットの仕組みの中に、攻撃に使える大きな欠陥を見つけました。開発元はそれを自社で抱え込まず、世界中の関係者と、直す作業の段取りをそろえる枠組みを始めています。
こうした欠陥を見つける力は、これまで一部の専門家のものでした。それがAIに移れば、欠陥が見つかる速さが、直す速さを追い越すおそれがあります。今回、開発元は知らせて直す側に回りました。ただ、同じ力を持つAIを、誰もが善意で使うとは限りません。欠陥は、見つけた人が善意なら、直すための手がかりになります。悪意なら、そのまま攻撃に使われます。
同じ力がどちらにも使えるところに、この話の難しさがあります。だから私は、見つけた後の段取りを、見つける力と同じくらい重く見ています。製薬の会社は、患者の情報や開発中の薬の記録など、狙われやすいものを抱えています。自社の仕組みに修理の知らせが届いたとき、誰が受け取り、いつまでに直すのか。その役割が決まっていなければ、AIの見つけた欠陥は、守る側より先に、攻める側に使われかねません。
外から借りている仕組みであっても、知らせを受け取る窓口は自社に置く必要があります。この開発元は、守りの仕組みだけでなく、薬を作る仕事そのものにも入り始めました。
CH 04 OpenAIが創薬AIを買収
AIを作る会社が、薬を作る工程に入ってきます。製薬の側から見ると、相手が道具の売り手なのか、それとも同じ候補を探す競い手なのかが変わる話です。どの業界にも同じAIを売ってきた開発元が、薬の候補を探すAIの新しい会社を買いました。研究の手順を自分で進めるAIを、生命科学向けの道具にまとめる狙いだと報じられています。これまで開発元は、道具を貸す立場にとどまっていました。
今回は、一つの業界の仕事の中身にまで踏み込んできたことになります。同じ日には、薬づくりのAIをめぐる大きな額が、いくつも見出しに並びました。ただ、額の意味はばらばらです。ある額は契約が想定する価値で、別の額は業界全体の大きさを指しています。肝心の買収については、報道に額が見当たりません。見出しの額をそのまま投資の大きさと読むと、判断を誤ります。
その額が見込みなのか、実際に払われた額なのかを、まず確かめるべきだと私は考えます。研究の現場にとっての問いは、自社の実験データをこの道具に預けるかどうかです。便利さと引き換えに、自社の強みである知見が、相手の道具を賢くする材料に回らないか。契約の段階で、データの扱いを確かめておく必要があります。相手は道具の売り手であると同時に、同じ候補を探す競い手にもなりうるからです。
では、研究の外側、日々の仕事の現場では、AIはどこまで入り込んでいるのでしょうか。
CH 05 製薬の現場では
AIの話は、研究所の中だけでは終わりません。製薬の会社にも関わる、目立たない仕事にも入り始めています。医療の記録を扱う会社は、自社のAIを外の仕組みとつなげ始めました。法律の調べものでは、国ごとに違う決まりを、出どころを付けてまとめて調べるAIが出ています。人を採る場面では、書類の代わりにAIとの会話で学生を知ろうとする会社が現れました。
これまでAIは、聞かれたら答える相手でした。三つに共通するのは、AIが答えを返すだけでなく、仕事の流れの一部を受け持ち始めたことです。薬の仕事は、国ごとに違う決まりに縛られます。その違いを調べる手間は、これまで人の時間を大きく食ってきました。出どころをたどれる形で調べられれば、確かめる作業も短くなるでしょう。規制の担当者は、浮いた時間を判断そのものに回せるはずです。
法務や薬事、人事の現場の担当者にとって、AIはもう遠い話ではありません。ただし条件があります。AIが出した答えの出どころを、人が確かめられることです。採用でも、AIの判断に何が入っているかを受ける側に説明できなければ、信頼は得られないでしょう。AIに任せた部分の誤りを誰が見つけ、誰が責任を負うのか。それも、使い始める前に決めておく必要があります。
けれども、AIを現場に入れれば、そのまま根づくとは限りません。同じ日に、その逆の例もありました。
CH 06 広がるAIと退くAI
この日、AIが一気に広がった場所と、反対に引っ込められた場所がありました。その違いには、受け取る側の事情が表れています。ある車の会社では、働く人の大勢にAIの助手が配られることになりました。
一方で、同じ開発元のパソコンの基本ソフトでは、使う人の不満が強く、AIの働きが削られました。押しつけと受け取られた働きは、出来がよくても嫌われるのだと私は見ています。さらに、人の代わりに動くAIが、アプリの側から締め出される例も相次いでいます。広がるかどうかを最後に決めるのは、作る側ではなく、使う人と、場を持つ会社なのでしょう。作る側の勢いだけでは、AIは根づきません。
会社が一斉に配れば、数としては大きく見えます。けれども、配った数と、毎日使われる数は別物です。私が知りたいのは、配った後に、どの仕事で、どれだけ時間が浮いたかのほうです。製薬の会社がAIを入れるときも、同じことが起きます。上から配るだけでは、現場は使い方に迷い、やがて離れていきます。何の仕事を、どこまで任せるのか。それを使う人と一緒に決めることが、定着へのいちばんの近道だと私は思います。
うまくいった部署の使い方をほかの部署に広げていくほうが、一斉に配るより確かです。使う人が手応えを感じたとき、AIははじめて仕事の道具になります。現場に根づくところまで見届けて、はじめてAIを選んだと言えるのかもしれません。では、今日の場面をつなげると、何が見えてくるでしょうか。
まとめ
AIを選べる幅は、確かに広がりました。けれども、動かす力には限りがあり、AIは大きな欠陥まで見つけ始め、作り手は薬の仕事にまで入ってきています。だから、AIに何を預け、何を任せ、誰が見張るのかを決めるのは、受け取る側の仕事だと私は考えます。誰から、どんな条件で受け取るのか。その条件を自分の言葉で書けることが、選べるということの中身です。この先は、薬の仕事に入ってきた開発元が、どんな条件で道具を差し出すのかに注目します。
- CH 01Google Cloud「Google Cloud expands model choice and flexibility, bringing OpenAI models to customers」 cloud.google.com
- CH 02Sources | Alex Heath「Sundar Pichai on Gemini 4 and the AI compute crunch」 sources.news
- CH 02Business Insider「AI Rivals Are Thirsty for SpaceX's Compute, Elon Musk Says」 businessinsider.com
- CH 02New York Post「Speculation — and anxiety — growing that Meta will issue new stock to pay for lavish AI spending」 nypost.com
- CH 03OpenAI「Patch the Planet: global response coordination as agents uncover critical vulnerabilities」 openai.com
- CH 03Forbes「OpenAI Says AI Found One Of The Biggest Web Weaknesses Ever」 forbes.com
- CH 04Chosunbiz「OpenAI acquires Orchestra Bio, accelerates AI-driven drug discovery - CHOSUNBIZ」 biz.chosun.com
- CH 04Unite.AI「OpenAI Acquires Orchestra Bio to Expand Rosalind Life Sciences Tools」 unite.ai
- CH 04GeneOnline「The $400B Pharma Backend Is Getting an AI Shakeup—and Hourly Billing Is Dead」 geneonline.com
- CH 04Business Wire「AI Proteins Announces Research Collaboration and License Agreement With Astellas Pharma to Discover and Develop Novel Miniprotein-Based Therapeutics Valued at Over $400 Million」 businesswire.com
- CH 05Fierce Healthcare「Epic launches Connectors to link its AI tools with third-party apps」 fiercehealthcare.com
- CH 05Thomson Reuters Legal Solutions「AI for cross-border legal research: the Multinational Agent」 legal.thomsonreuters.com
- CH 05日刊薬業「AI対話導入「自分の言葉で話して」 新卒採用でES廃止のシミックグループ | 日刊薬業 - 医薬品産業の総合情報サイト」 nk.jiho.jp
- CH 06Microsoft Source「Microsoft empowers more than 330,000 Volkswagen Group employees with Copilot」 news.microsoft.com
- CH 06Wccftech「Microsoft Scales Back Copilot In Windows 11, Removing Eight AI Actions From File Explorer Amid User Backlash」 wccftech.com
- CH 06BigGo Finance「Personal AI Agents Hit Platform Blockades: Meta's Muse, ByteDance's Doubao Bump Into App "No-Entry" Walls」 finance.biggo.com
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- 総字数
- 3,911
- 平均文長
- 33.7
- 最長文
- 59
- 章
- 6
- 平易度
- L1〜L7 合格