この図は、生成AIを使う取締役の承認と方針の遅れとの隙間を描く。入口は決まりの無いまま生成AIを使う承認者。第一段は使用82%・方針6%という数字の差を示す。第二段は調査も決裁も、どの道具を使い何を入れたかを数えていないことを示す。第三段は道具が先に個人の手元に入り、方針が後を追う順序を示す。第四段は決裁欄に道具名・資料の範囲・却下案・確認者を足す対応を示し、出口は外部に問われても示せる記録になる。外枠にはEUの保存義務・取締役の監督義務・理解育成という既にある規制と義務を置いた。下段のカードには増えた速さや却下案の扱いなど、箱に書けなかった具体を添えている。
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2026年6月、米国の上場企業の取締役104人への調査で、82%が過去半年に取締役の仕事で生成AIを使い、取締役会向けの正式な方針があると答えたのは6%だったと公表された。承認する側が、自分の使う道具に決まりを持たないまま生成AIを使うとき、その承認は何を保証するのか。決まりの無いまま使われた道具は記録に残らないので、承認が保証できるのは可否という結論だけで、そこに至った道すじは保証できない。

01決まりのないままAIを使う取締役会が、八割を超えた

三つの数字が並んでいる。使った人が82%。会社に取締役のAI利用の指針が無いと答えた人が54%。取締役会向けの正式な方針があると答えた人が6%。監督する側が持っている道具のうち、最も監督されていないものが生成AIだということになる。

一年前はこうではなかった。2025年9月の同じ調査で、使ったと答えたのは66%である。九か月で十六ポイント上がった。方針の側が同じ速さで動いた形跡は、この調査には出てこない。

使っている割合

82%が過去半年に取締役の仕事で生成AIを使った。2025年9月は66%だった。

決まりの有無

54%が会社に取締役のAI利用の指針が無いと答え、取締役会向けの正式な方針は6%だった。

使われている道具

49%が、会社の承認した仕組みではない一般向けのAIを取締役の仕事に使う例を聞いたと答えた。

この記事が最後に置く提案は、方針を書けということではない。決裁の記録に四つの欄を足せ、ということである。

02調査が数えたのは使ったかどうかであり、使い方の中身ではない

82%という数字が何を数えたのかを決めないと、そこから言えることを取り違える。この調査は、Corporate Board Member と Diligent Institute が米国の上場企業の取締役104人に聞いたものである。標本は百人ほどで、母集団は米国の上場企業に限られる。

用途の内訳も出ている。およそ30%が会議資料の要約に使い、45%が会議の下調べや同業他社の調査に使ったと答えた。

聞かれていないことがある。どの道具を選んだのか。その道具に、どの資料を入れたのか。取締役会に出る資料には、公表前の決算も、買収の検討も、人事も含まれる。そこが空白のまま、使ったかどうかだけが数えられた。

空白を責める話ではない。調査票に入れたところで、正直な答えは返らない。自分が承認外の道具に未公表の決算を入れたと書ける人は少ない。数えられなかったのは、設問の設計が甘かったからというより、自己申告では数えられない種類の事柄だからである。この二段を数えるには、調査票の側ではどうにもならない。決裁の記録を変えるしかない。

図 1 調査が見た範囲と、見なかった範囲
資料を受け取る道具を選ぶ資料を入れる未調査使ったと答える資料を受け取る道具を選ぶ資料を入れる未調査使ったと答える
数えられたのは右端の一段だけである。真ん中の二段は誰も数えていない。

数えられた一段と、数えられなかった二段。あとで問題になるのは、たいてい真ん中である。

03資材審査の承認も、同じ記録の欠落を抱えている

どの道具にどの資料を入れたかが分からない。この欠落は、調査票だけの話ではない。決裁の文書にも同じ形で現れる。

決裁欄に残るのは、可否と日付と署名である。担当者がどの道具に原稿を入れ、出てきた案のどれを採り、どれを捨てたかは残らない。承認の一行の裏にある突き合わせの経路が書かれていなければ、半年後に同じ判断を再現できない。

記録に残るもの取締役会の決裁資材の承認
結論可否と日付が残る可否と日付が残る
署名出席者の名前が残る審査担当の名前が残る
使った道具残らない残らない
採らなかった答え残らない差し戻しの一行だけ残る

二つの場は、規模も法的な位置づけも違う。どちらも、同じ項目を記録に残し、同じ項目を落としている。残すのは結論で、落とすのは結論に至る過程である。

過程が残らないことの代償は、監査のときにだけ現れるわけではない。担当者が替わったときに現れる。前任者がなぜその判断をしたのかを、後任は記録から読み取れない。読み取れなければ、同じ論点をもう一度ゼロから議論することになる。

04道具が個人の持ち物である限り、方針はいつも後から作られる

取締役会でも資材審査でも経路が残らないのは、経路を残す決まりができる前に、道具のほうが先に入ってしまうからである。

調査には、この順序が数字として出ている。49%の取締役が、誰でも使える一般向けのAIを、会社の承認した仕組みの外で取締役の仕事に使う例を聞いたと答えた。一方で96%は、承認外の道具に取締役会の資料が入れられた例を知らないと答えている。

この二つは食い違って見える。理由は調査に書かれていない。誰かが隠していると決めつける材料も無い。確かなことが一つある。噂としては半数近くの取締役に届いている。それなのに、具体の事例を挙げられる人がほとんどいない。見えていないことが、数字の形で出ている。

図 2 道具が入る順と、方針が来る順
手元で起きること会社が動くこと個人が使い始める習慣になる表に出る事例を集める方針を書く周知する手元で起きること会社が動くこと個人が使い始める習慣になる表に出る事例を集める方針を書く周知する
上の段は許可を必要としない。下の段は上の段が表に出てからでないと始まらない。

手元の道具は許可を待たない。表に出るまで、会社の側は書くべき事例を持たない。だから方針は、いつも使用の後を追うことになる。

05残す項目を四つ決めれば、承認の道すじは再現できる

方針が使用の後を追うのなら、方針を待たずに、残す形のほうを先に決めるしかない。必要なのは四つの欄である。

使った道具の名前

製品名と版を書く。会社の承認した仕組みの内か外かも書く。

入れた資料の範囲

どの文書を入れ、どこまでを入れなかったかを書く。

採らなかった答え

出てきたが採らなかった案と、採らなかった理由を一行で書く。

最後に目を通した人

出力をそのまま通したのか、書き直したのかが分かる形で名前を書く。

調査で使用率が高かった二つの用途は、どちらもこの四項目で書き留められる。会議資料の要約なら、入れた資料の範囲が要約の範囲そのものになる。下調べなら、採らなかった記述のほうが後から効く。

四つとも、書くのに一分もかからない。方針文書を一本作るには、関係部署の合意が要る。欄を四つ足すだけなら、その合意は要らない。

06使用率・指針の不在・道具の私物化は、別々の宿題を残す

四項目を足しても、なぜそこが空いていたのかは片付かない。三つに分かれる。

① 使用率が82%であること

監督する側自身が、被監督の対象になる。取締役会は執行を監督する場であり、その監督の材料を作る過程に生成AIが入っている。監督者が自分の道具について説明できないとき、監督そのものの土台が薄くなる。

② 指針が無いと答えたのが54%であること

逸脱の定義が無いので、違反も検知できない。正式な方針があるのは6%である。何をしてはいけないかが書かれていない場所では、誰かが線を越えても、越えたという判定ができない。

③ 一般向けの道具の使用が49%であること

会社の記録に一切残らない経路がある。承認された仕組みの外で動く道具は、利用の履歴も入力の内容も会社の管理下に入らない。EUの規則が使う側に記録の保存を求めても、その記録がそもそも生成されない場所がある。

三つは、効く手が違う。使用率には記録の様式が効く。指針が無いことには、してはいけないことを書き出すことが効く。個人の道具を使うことには、会社が使える道具を先に用意することが効く。方針文書を一本作れば三つとも片付く、という話ではない。

07方針の有無ではなく、記録の有無が後から問われる

三つの宿題のうち、外から確かめられるのは記録が残っているかどうかだけである。方針があるかどうかは、文書を一枚見れば分かる。その方針が働いたかどうかは、その日の記録にしか出ない。

制度の側は、すでにそちらを向いている。EUの規則は、高リスクのAIを使う側に、自動で作られる記録を少なくとも六か月保存することを求めた。同じ規則は、使う側の組織に、使う人の理解を育てる措置も求めている。

この規則が日本の会社や資材審査に直ちに及ぶわけではない。ただ、争いになったときに提出を求められるのは、その日の記録である。この向きは読み取れる。米国では、重要なリスクについて報告の仕組みを作り、それを見張ることが取締役の義務とされてきた。仕組みがあったかどうかは、やはり記録で問われる。

資材審査の側から見ると、この向きはすでに馴染みのあるものだ。審査が働いていたことを社外に示す場面で、手元から出せるのは記録だけである。判断そのものは見せられない。生成AIが下書きに入ったことで、痕跡の取り方に欄がひとつ足りなくなった。足りない欄を足す作業は、規制が来る前でもできる。

図 3 四項目を書き足した後に回り始めるもの
道具と範囲を書く採らぬ答えも残す承認に署名する外から求められる次の判断に返る道具と範囲を書く採らぬ答えも残す承認に署名する外から求められる次の判断に返る
四番目で初めて外の目が入る。そのとき出せるのは、一番目と二番目で書いたものだけである。

方針を持つ会社の比率は、これから上がるだろう。比率が上がったあと、外から問われるのは、その方針が一件ごとの決裁にどう現れたかである。

Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 米国の上場企業の取締役104人のうち82%が取締役の仕事で生成AIを使い、取締役会向けの正式な方針があるのは6%だった。監督する側が、最も監督されていない道具を使っている。
  2. 49%が一般向けのAIを取締役の仕事に使う例を聞いたと答える一方、96%は承認外の道具に会議資料が入れられた例を知らないと答えた。見えていないことが、数字の食い違いとして出ている。
  3. EUの規則は高リスクのAIを使う側に、自動で作られる記録を少なくとも六か月保存することを求めている。制度が問い始めているのは方針の有無ではなく、記録の有無である。
結語

承認の一行が保証するのは、通したか戻したかという結論だけである。そこに至った道すじは、使った道具と採らなかった答えを書き残したときにだけ保証される。

方針を作る作業には、合意と調整と改定が要る。記録の様式に欄を四つ足す作業には、それが要らない。順序を逆にしたほうが早い。

調査が数えなかった真ん中の二段を、自分の決裁記録の中で数えられるようにしておく。それだけが、いま手元でできることである。

出典·参考文献
  1. Corporate Board Member(Diligent Institute と共同調査). As Board AI Use Rises, Rules And Oversight Remain Scarce. 2026年6月.(使用率82%、標本104人、用途の内訳、一般向けの道具49%、承認外環境を知らない96%)
  2. Diligent Institute. AI in the Boardroom: Q2 2026 Director Confidence Findings. 2026年6月.(指針の不在54%、取締役会向けの正式な方針6%)
  3. CLS Blue Sky Blog(Columbia Law School). Boards Need to Step Up on AI. 2026年5月8日.(重要なリスクについて報告の仕組みを作り、見張ることが取締役の義務とされていること)
  4. Regulation (EU) 2024/1689(AI Act)Article 26. Obligations of Deployers of High-Risk AI Systems. 2024年8月1日.(自動で作られる記録を六か月以上保存する義務)
  5. Goodwin Procter. Every Company Needs an AI Use Policy. 2026年9月17日.(承認された道具と禁じられた道具、入れてよいデータ、出力を人が見直す要件を決める必要)
  6. Regulation (EU) 2024/1689(AI Act)Article 4. AI Literacy. 2024年8月1日.(使う側の組織に、使う人の理解を育てる措置が求められていること)