EU司法裁判所の法務官シュプナー氏は2026年11月3日、GoogleのAI「Gemini」の答えが新聞社などの権利を侵しうるとする意見を出した。ハンガリーの出版社 Like Company が Google を訴えた事件である。AIが記事をもとに答えるとき、権利の問題が生じるのは学習の段階か、答えの段階か?法務官が問題にしたのは答えの段階で、それも元の記事だと分かるほど言い回しが残る場合に限られた。事実だけを伝える答えと、AIの学習は、この権利の外に置かれた。

01EUの法務官は、Geminiの学習でなく答えが権利を侵しうるとした

シュプナー法務官は、Geminiの答えが出版社の権利を侵しうるとした。法務官とは、EU司法裁判所で判決の前に、事件の考え方を裁判官に示す役である。法務官は、AIが記事を読んで学ぶ段階を、出版社の権利の外に置いた。権利を侵しうるのは、答えに記事の言い回しが残り、元の記事だと分かる場合だとした。

この意見は判決ではない。裁判官は意見に従う義務を負わず、違う結論を出すこともできる。AFP通信によれば、判決は約6か月後に出る見込みだ。

この意見の基準はGoogleの責任についてのものだが、AIの答えを仕事に使う人にも、何を確かめればよいかの手がかりになる。Geminiが何を読んで学んだかは、使う人には調べようがない。答えに記事の言い回しが残っているかなら、使う人が自分の目で確かめられる。私は、この意見を読む実務上の意味はこの点にあると考える。

02出版社の権利が守るのは記事の書きぶりで、報じた事実は守らない

出版社の権利が守るのは、記者が書いた文の並びや言い回しである。この権利は、2019年に定められたEUの著作権の指令、DSM指令の15条にある。新聞社や雑誌社は、この権利によって、記事をネットで使わせるかどうかを決められる。

15条は、守らないものも文言で挙げている。個人が私的に、もうけを目的とせずに使う場合は外れる。記事へのリンクを貼ることも外れる。記事の中の一語や、ごく短い抜き書きにも、出版社の権利は及ばない。

法務官の意見も、指令と同じ線に立つ。AFPによれば、法務官は、出版社の権利が守るのは報じられた事実ではないと述べた。守られるのは、記事が事実を書き表した具体的な形だけである。英国の知的財産を扱うブログ IPKat は、法務官の基準を「システム的にそれと分かる」再現と紹介した。問われるのは、答えを読んだ人が元の記事の書きぶりを見て取れるかどうか。

図 1 記事が答えになり、権利に触れるまで
利用者の質問残る出版社が記事を公開Geminiが答えを作る記事の言い回しが残るか権利を侵しうるDSM指令15条利用者の質問残る出版社が記事を公開Geminiが答えを作る記事の言い回しが残るか権利を侵しうるDSM指令15条
出版社の権利に触れうるのは、答えに記事の言い回しが残り、元の記事だと分かるときだけである。

たとえば、ある日の地震の震度は事実である。どの新聞が報じても、震度という事実は出版社の持ち物にならない。出版社の権利に触れうるのは、記者が震度の記事に書いた文が、そのまま答えに残ったときである。

03出版社に対して責任を負うのはGoogleで、私的に読む人は外れる

記事の書きぶりを答えに残したとき、責任を負うのは誰か。出版社の権利で責任を問われるのは、ネットでサービスを出す事業者である。この事件では、Geminiを提供するGoogleがその事業者に当たる。

IPKatは、法務官の意見の要点として、チャットボットを出す会社は自分の行為に責任を負うと書いた。Geminiが答えを作って画面に出すのは、Googleの行為である。一方で、Geminiに質問した個人が答えを私的に読むだけなら、出版社の権利は及ばない。

法務官の意見が触れていない場面もある。会社の社員がGeminiの答えを、広報の文書や研究の報告、社内の資料に写す場面だ。15条は事業者がネットで記事を使う行為を定めている。社員が答えを紙や社内の文書に写す行為は、15条の外にある。

私は、社員が写す行為は、写しを作る権利を定めた別の規定の問題になると考える。ただし、これは私の推測である。法務官の意見も、報道も、この点を論じていない。答えを文書に写す人は、この意見を自分が許された証しと読まないほうがよい。

04AIの学習が外れたのは、出版社の権利がネットでの利用だけを扱うからだ

答えにはGoogleの責任が及び、学習には及ばない。同じ会社の行為なのに分かれた理由は、15条がネットでの利用だけを扱う点にある。IPKatによれば、法務官は、AIが大量の文章で学ぶことはネットでの利用に当たらないとした。だから、出版社の権利は学習には当てはまらない。

AIの学習には、同じ指令の4条が別に当てはまる。4条は、大量の文書を機械で読んで分析することを、例外として認めた。この作業を、テキスト・データ・マイニングと呼ぶ。4条で使えるのは、まず、資料を正しい方法で手に入れた場合である。そのうえで、権利者が「使うな」と機械で読める形で示していないことが要る。

見るところ学習の段階答えの段階
ネットでの利用か当たらない(法務官)当たる
主に当てはまる規定4条 テキスト・データ・マイニングの例外15条 出版社の権利
使える条件・侵す条件正しい方法での入手と、権利者が拒んでいないこと記事だと分かる言い回し、または有料記事の不正な取得
法務官の扱いこの事件では答えないよう勧めた侵しうると認めた

法務官は、学習についての問いには、この事件では答えないよう裁判所に勧めた。AFPによれば、Like Company の記事がGeminiの学習に使われた証拠は無い。法務官は、証拠の無いことを問うのは仮の話を問うのと同じだと考えた。

05権利を侵しうるのは、書きぶりを写す答えと、有料記事の不正な取得だ

学習が15条の外に置かれたので、この事件で15条の権利を侵すおそれが論じられるのは答えの側になった。法務官は、答えが権利を侵しうる場合を二つ挙げた。Reutersの報道をまとめた Resultsense が、そう伝えている。一つ目は、答えが記事の言い回しを、元の記事だと分かる形で使う場合だ。二つ目は、有料記事の壁を不正に越えて、記事を手に入れた場合である。

Resultsenseは、法務官がAIの答えのすべてを違法と言ったわけではない、とも書いた。事実だけを伝える答えは、二つのどちらにも入らない。記事のごく短い抜き書きも、指令がはじめから権利の外に置いている。

図 2 Geminiの答えの4つの型と権利
Geminiの答え事実だけを伝える権利の外ごく短い抜き書き15条が外す記事だと分かる言い回し侵しうる有料記事の不正な取得侵しうるGeminiの答え事実だけを伝える権利の外ごく短い抜き書き15条が外す記事だと分かる言い回し侵しうる有料記事の不正な取得侵しうる
四つの型のうち権利を侵しうるのは右の二つで、事実と短い抜き書きは出版社の権利の外にある。

この事件の日付も、資料で確かめられる。ブダペストの裁判所は2025年4月3日、この事件の問いをEU司法裁判所に送った。Googleの代理人の法律事務所によれば、2026年3月10日に大法廷で口頭弁論が開かれた。大法廷は、重い事件を多くの裁判官で審理する場である。

法務官の基準には、すでに疑問も出ている。IPKatは、記事だと「分かる」かどうかを、誰がどう見分けるのかと問うた。答えと記事の文がどこまで同じなら違法になるのか、法務官の意見は数で示していない。

06AIの答えを使う人は、元の記事と文面を見比べることになる

権利を侵しうる答えが二つの型に絞られた。そこで、AIの答えを使う人が考えることは三つある。答えの文面をどう確かめるか、どこから違法になるか、学習はどうなるかである。

①

答えの文面を元の記事と見比べる

権利を侵しうるのは書きぶりを写した答えに限られた。使う人が確かめるのは、答えの文面である。

②

どこまで同じなら違法かは決まっていない

記事だと「分かる」かの測り方は示されていない。法務官自身が、法律ではっきりさせるよう求めた。

③

学習が許されるかは、この事件では出ない見込みだ

記事が学習に使われた証拠が無く、法務官は学習の問いに答えないよう勧めた。

一つ目の点で、使う人は、答えを使う前に元の記事を読むことになる。AFPとResultsenseによれば、法務官は書きぶりを写した答えだけを問題にした。答えを文書に入れる前に、出典の記事を開いて文を並べる手間が要る。

二つ目の点では、どこまで似ていれば違法なのかを、使う人は前もって知りようがない。IPKatが基準の使い方に疑問を示し、法務官も法律で決めるよう求めた。迷う文は、自分の言葉で書き直すほうが早い。

三つ目の点で、AIの学習が許されるかどうかは、この事件では決まらない見込みだ。AFPによれば、法務官は、学習についての問いを仮の話として扱った。学習が許されるかは、別の裁判か、EUの新しい法律で決まることになる。

07判決は約6か月後で、裁判所が法務官と同じ線を引くかは分からない

判決で答えが出そうなのは、AIの答えの文面についての問いだけである。判決は約6か月後に出る見込みだ。大法廷が法務官の考えをそのまま採るかは、まだ分からない。EU司法裁判所は、法務官と違う判決を出すことがある。

判決が出ても、事件はそこで終わらない。EU司法裁判所が答えるのは、EUの法律をどう読むかという問いだけである。答えを受け取ったブダペストの裁判所が、Geminiの答えが記事を写したかを、事件の事実に当てはめて決める。国の裁判所がEUの裁判所に法律の読み方を尋ねるこの手続きを、先決裁定と呼ぶ。

図 3 付託から判決、国内の判断までの手順
当てはめ2025年4月付託ブダペストの裁判所2026年3月弁論大法廷11月3日 法務官意見従う義務なし判決(約6か月後)国内の裁判所が判断当てはめ2025年4月 付託ブダペストの裁判所2026年3月 弁論大法廷11月3日 法務官意見従う義務なし判決(約6か月後)国内の裁判所が判断
法務官の意見は判決の前の段階にあり、最後に事実へ当てはめるのはハンガリーの裁判所である。

Googleの代理人の法律事務所は、この事件を、EU司法裁判所が生成AIと著作権を扱う初めての事件と書いた。判決の言葉は、ほかの国の裁判所や、AI企業と交渉する出版社にも引かれるだろう。これは私の推測である。

①

大法廷が法務官の考えを採るか

意見に従う義務は無く、判決は約6か月後に出る見込みである。

②

会社が答えを文書に写す行為

15条はAIを出す事業者に向く。資料や社内文書への書き写しは、この意見で扱われていない。

判決を待つ間も、使う人にできることはある。AIの答えを文書に入れるときは、元の記事を開く。言い回しが残っていれば、自分の言葉で書き直す。事実だけを確かめて自分で書いた文なら、法務官の考えに照らしても、出版社の権利の外にとどまる。

Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 2026年11月3日、EUの法務官は、Geminiの答えに記事の言い回しが残り、元の記事だと分かる場合に、出版社の権利を侵しうるとした。AIの答えを使う人が見るのは、答えの文面である。
  2. 出版社の権利は、報じられた事実や、一語やごく短い抜き書きには及ばない。事実を確かめて自分の言葉で書けば、この権利の外にとどまる。
  3. 法務官は、AIの学習の問いには答えないよう勧めた。判決は約6か月後に出る見込みで、裁判所が勧めに従えば、学習が許されるかは別の裁判と法律に残る。
結語

出版社の権利の問題が生じるのは、AIの学習の段階より答えの段階である。それも、元の記事だと分かるほど言い回しが残る答えに限られる。これが法務官の答えだった。判決が同じ線を引くかはまだ分からない。この線はGoogleの責任についてのもので、社員が答えを文書に写す行為には答えていない。それでも、答えの文面を元の記事と見比べることは、AIの答えを仕事に使う人が自分でできる確かめ方である。

出典·参考文献
  1. AFP(The Post 掲載). Google AI chatbot may break press copyright rules: EU legal adviser. 2026-11-04. https://thepost.co.za/technology/big-tech/2026-11-04-google-ai-chatbot-may-break-press-copyright-rules-eu-legal-adviser/(意見の内容、事実は守られないこと、学習に使われた証拠が無いこと、判決の時期)
  2. The IPKat. AG Szpunar's Opinion in Like Company is here: a landmark take on several questions facing AI and copyright/related rights. 2026-11-03. https://ipkitten.blogspot.com/2026/11/ag-szpunars-opinion-in-like-company-is.html(学習がネットでの利用に当たらないこと、提供者の責任、「それと分かる」基準への疑問、立法での明確化)
  3. Resultsense(Reuters 報道の要約). EU court adviser: Gemini answers may breach press rights. 2026-11-04. https://www.resultsense.com/news/2026-11-04-eu-adviser-gemini-press-copyright-like-company/(権利を侵しうる二つの場合、すべての答えが違法ではないこと)
  4. EU. Directive (EU) 2019/790, Article 15 Protection of press publications concerning online uses. 2019-04-17. https://www.legislation.gov.uk/eudr/2019/790/article/15(15条の対象と、私的利用・リンク・一語・ごく短い抜き書きの除外)
  5. EU. Directive (EU) 2019/790, Article 4 Exception or limitation for text and data mining. 2019-04-17. https://www.legislation.gov.uk/eudr/2019/790/article/4(テキスト・データ・マイニングの例外と、権利者による拒否の表示)
  6. Hengeler Mueller. Hengeler Mueller represents Google in landmark AI copyright case before CJEU. 2026-03-13. https://hengeler-news.com/en/articles/hengeler-mueller-represents-google-in-landmark-aicopyright-case-before-cjeu(大法廷での口頭弁論の日付、生成AIの著作権を扱う初の事件)
  7. Digital Policy Alert. Lawsuit on unauthorised use of press publications in AI chatbot outputs (Like Company v Google Ireland). 2025-04-03. https://digitalpolicyalert.org/change/14798-lawsuit-on-unauthorised-use-of-press-publications-in-ai-chatbot-outputs-like-company-v-google-ireland(ブダペストの裁判所による付託、事件番号 C-250/25)