2026年11月3日、英国の新聞Guardianは、英国検察庁の上級検察官が、11歳の少年の起訴をめぐる少年裁判所での主張で、実在しない判例を引いていたと報じた。判例は、インターネット検索の画面に出たAIの要約に載っていたものだった。AIの検索要約が示した判例を使う専門職は、何をしていれば「確かめた」と言えるのか?信頼できる原典でその判例を見つけ、本文を読んだときに初めて、確かめたと言える。英国の高等法院は2025年に、この照らし合わせを専門職の義務と書いた。AIが出した出典の責任は、使った人に残る。

01検察官が引いた判例は、報道ではAI要約に出たという、実在しない番号だった

英国検察庁の上級検察官が引いた判例は、どの判例集にも無い番号だった。英国検察庁は、イングランドとウェールズで、誰を起訴するかを決める役所である。Guardianの取材によれば、検察官がインターネットで調べたとき、検索の画面にAIの要約が出た。その要約に、架空の判例の番号と中身が載っていた。

原典で確かめる義務は、この件より前に、はっきり書かれていた。英国の高等法院は2025年6月の判決で、AIで調べた法律家には、信頼できる資料で確かめる職業上の義務があると述べた。高等法院は、イングランドとウェールズで重い事件を扱う裁判所である。

ここで言う確かめるとは、信頼できる資料でその出典に当たることである。だから、AIが示した出典を使う人は、原典でその出典を見つけるまでは、確かめたとは言えない。検索の画面の要約は、出典の形をしていても、原典ではない。私は、この件で抜けていたのは、要約から原典へ一歩進む作業だったと考える。

02検察官が引いた番号の判決は無く、高等法院は説明を不十分とした

検察官が引いたのは「CPS – R v J [2024] EWCA Crim 3529」という判例だった。EWCA Crim は、控訴院の刑事部が出した判決に付く記号である。Guardianによれば、この番号の判決は存在しない。

経緯は、Guardianの記事から追える。2026年4月、この検察官は少年の起訴を進めると決め、上席の検察官がその判断を確かめた。少年の弁護人は、起訴を続ける判断を争った。検察官は、少年裁判所でのその争いの中で、架空の判例を引いた。誤りを認めたのは10月で、検察官は、約15年前の本物の判決を引くつもりだったと説明した。

図 1 架空の判例が少年の裁判に入るまで
調べる写す4月 起訴を決める上席が確かめる検索のAI要約架空の番号を表示少年裁判所で引用10月 誤りを認める高等法院は説明を不十分と調べる写す4月 起訴を決める上席が確かめる検索のAI要約架空の番号を表示少年裁判所で引用10月 誤りを認める高等法院は説明を不十分と
検索の画面に出た番号は原典で引き直されないまま法廷に出て、誤りが認められたのは10月だった。

高等法院の2人の裁判官は、検察庁の説明を不十分とした。それでも、架空の判例は、起訴を続けるかという少年の側の争いの結果に影響しなかった、と判断した。少年の裁判は、少年裁判所で開かれる予定である。

一つ書き分けておく。出どころが検索のAI要約だという点は、Guardianが取材で知った事柄である。アイルランドのメイヌース大学の法学者ブライアン・フラナガンは、Guardianに対し、その法的な根拠は存在しない、それは重大な失敗だと語った。

03実在しない出典は法廷の外でも出ており、米国の政府報告書にもあった

実在しない出典が出たのは、英国の検察官一人ではない。英国の法廷では、2025年のAyinde事件で、見習い期間の法廷弁護士が出した書面に、実在しない判例が5件あった。高等法院はこの件を、弁護士を監督する当局に送った。

法廷の外でも、同じことが起きている。米国の政府が2025年5月に出した子どもの健康についての報告書、通称MAHA報告書には、522件の引用があった。NBC Newsは、そのうち4件の論文が実在しないことを確かめた。報告書はその後に直され、子どもへの広告や薬の使い方についての引用が差し替えられた。

見るところ英検察庁(2026年)英Ayinde事件(2025年)米MAHA報告書(2025年)
出した人上級検察官見習い期間の法廷弁護士米国の政府(書き手は非公表)
何が実在しなかったか判例1件判例5件論文4件(引用522件のうち)
その後内部調査と、引用の決まり監督する当局へ送付引用を差し替え

MAHA報告書の作成にAIが使われたかは、公式には確かめられていない。それでも、表の三つの例に共通する点はある。出典を引く文書を書いた人が、原典を開かないまま、存在しない判例や論文を載せた。法廷の書面でも、政府の報告書でも、出典を引く仕事には同じ照らし合わせが要る。

04生成AIは、判例番号の整った文を原典なしに作れる

出典の誤りは、法廷でも政府の文書でも出る。なぜ、存在しない番号が本物らしく見えるのか。2025年6月の高等法院の判決は、この点を書いている。

高等法院によれば、無料で使える生成AIは、信頼できる法律の調査ができない。生成AIは、質問に対して筋の通った、もっともらしい答えを返す。しかし、その答えがまったくの誤りであることもある、と判決は述べた。

図 2 AIの出典と、原典で確かめた出典
AIが示す出典原典で確かめた出典番号と題が整うもっともらしい文実在の保証なし判例集で引く本文を読む引用してよいAIが示す出典原典で確かめた出典番号と題が整うもっともらしい文実在の保証なし判例集で引く本文を読む引用してよい
上の段は形が整っても実在を保証せず、下の段だけが引用してよい根拠に行き着く。

判例の番号には、決まった書き方がある。年、裁判所の記号、通し番号が、いつも同じ順に並ぶ。生成AIはこの並び方を再現できるので、形の整った番号が出てくる。それでも、番号の形が整っていることは、その判決が存在する証拠にならない。

確かめる方法は一つだけ。判例集や裁判所のデータベースで番号を引き、判決の本文を読むことである。本文が見つかって初めて、その判例が存在し、主張を支えるかどうかを判断できる。

05検察庁は内部調査を行い、判例は信頼できる法律資料から引くと述べた

形の整った番号でも、本物とは限らない。英国検察庁は、誤りが分かった後の説明で、判例をどこから引くかに触れた。Guardianによれば、検察庁は、インターネットで法律を調べたことから誤りが起きたと認めた。そのうえで、次の三つを述べた。

①

他の事件の調査

誤りを正したうえで、庁の内部で調査を行った。

②

信頼できる資料から引く

判例は、信頼できる法律資料から引かなければならないとした。

③

AIを判断に使わない方針

AIを法律の判断に使わず、正確さは人が確かめる、厳しい方針があると説明した。

検察庁でこの種の誤りが出たのは、初めてではなかった。2026年2月、検察庁は、ルーマニア人2人の引き渡しをめぐる事件で、担当の法律家が実在しない判例を引いたと認めた。原因はAIだった可能性が高い、と検察庁は述べた。法律ニュースのLegal Cheekによれば、架空の判例2件は、まず検察庁が出した書面に現れた。その後、若手の法廷弁護士が書いた別の書面にも、そのまま引き継がれた。

二つの件に共通するのは、どこかに書かれた判例が、原典で確かめられないまま次の文書に写されたことだ。今回は検索の要約から法廷での主張へ、2月の件は検察庁の書面から別の書面へ写された。検察庁には、AIを判断に使わず人が確かめる方針が、すでにあった。それでも、架空の判例は法廷まで届いた。方針を定めても、一件ごとに原典を引く手間は省けない。

06AIが整えた出典も、覚えている判例も、原典で引き直す

検察庁の方針は、判例をどこから引くかを決めていた。その方針の下でも誤りは出た。ここまでの事実から、AIの出典を使う人が考えることは三つある。

一つ目に、AIの答えは出典の形を作れても、出典が存在することを保証しない。高等法院の判決が書いたとおり、生成AIの答えはもっともらしくても、まったくの誤りでありうる。出典の形が整っていることを、信じてよい理由にはできない。

二つ目に、原典で照らし合わせることは、すでに専門職の義務とされている。2025年の判決は、AIで調べた法律家に、信頼できる資料で確かめる職業上の義務があるとした。判決はこれを、見習いの仕事に頼る人が負う責任と同じだと書いた。英国の司法府が2025年10月に裁判官向けに出したAIの指針も、AIが誤った情報を作ることに注意を促し、自分の名で出す文書には自分が責任を負うと書いている。AIを使ったことは、誤った出典の言い訳にならない。

図 3 AIが示した出典を引用するまでの手順
引けた一致AIが出典を示す原典の資料で引く判例集・学術誌引き当てられたか本文と主張を照らす引用する引けた一致AIが出典を示す原典の資料で引く判例集・学術誌引き当てられたか本文と主張を照らす引用する
引き当てられない出典はそこで止め、引けた出典も本文が主張を支えるときだけ引用する。

三つ目に、覚えている判例でも、原典で引き直さなければ確かめたことにならない。今回の検察官は、約15年前の本物の判決を引くつもりだったと説明した。私は、検察官が記憶にある判例を検索で探し、画面に出た要約の番号を使ったと見ている。これは推測である。そうであれば、判例集で本物の判決を開いて読むだけで、この誤りは止まった。

07英国の誤りの記録は101件に達し、新しい決まりが再発を止めるかは分からない

三つの点が守られなかった例は、一件では終わっていない。法廷弁護士のマシュー・リーは、英国の法廷でAIに関わる誤りが出た事例を記録している。Guardianによれば、この記録は今回で101件に達した。確かな事例だけでなく、疑いのある事例や、争われている事例も含む。

リーが2026年2月に書いた記事では、記録は47件だった。ただし、二つの数は数え方が違う可能性がある。増え方の速さを、この二つの数から計算するのは無理がある。

①

どの検索の要約だったか

要約を出した検索サービスの名は、報じられていない。

②

101件が数えている範囲

記録は、公に報じられた事例の数である。見つからなかった誤りは、数に入らない。

検察庁の新しい決まりが、再発を止めるかはまだ分からない。決まりが働いたかどうかは、これからの書面と判決で確かめることになる。私は、検索の画面にAIの要約が出る限り、同じ誤りは法律以外の仕事にも出続けると考える。論文を引く研究の報告も、規則を引く社内の文書も、同じ形で誤りうる。

そのうえで、使う人にできることは決まっている。AIが示した判例や論文は、原典の資料で引き当てる。引き当てられなければ、引用しない。引き当てたら、本文が自分の主張を支えるかを読む。

Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 英国検察庁の上級検察官は、報道によれば検索のAI要約に出た実在しない判例を、少年の起訴をめぐる少年裁判所での主張に引いた。形の整った番号でも、原典で見つけるまでは確かめたことにならない。
  2. 2025年6月の高等法院の判決は、AIで調べた法律家に、信頼できる資料で確かめる職業上の義務があると書いた。AIを使ったことは、誤った出典の言い訳にならない。
  3. 検察官は、約15年前の本物の判決を引くつもりだったと説明した。覚えている判例でも、判例集で開いて読み直すまでは、確かめたことにならない。
結語

AIの検索要約が示した判例を使う専門職が、確かめたと言えるのは、信頼できる原典でその判例を見つけて本文を読んだときだけである。英国の高等法院は、これを2025年に専門職の義務として書いた。AIがどれほど整った出典を出しても、責任は使った人に残る。

出典·参考文献
  1. The Guardian. 'A serious failure': CPS prosecutor cites imaginary case to high court after AI search. 2026-11-03. https://www.theguardian.com/technology/2026/nov/03/a-serious-failure-cps-prosecutor-cites-imaginary-case-to-high-court-after-ai-search(実在しない判例の番号、AI要約という出どころ、4月の判断と10月の自認、高等法院の判断、検察庁の対応、2月の引き渡し事件、記録101件、フラナガンの評価)
  2. High Court of Justice, King's Bench Division, Divisional Court. R (Ayinde) v London Borough of Haringey; Al-Haroun v Qatar National Bank [2025] EWHC 1383 (Admin). 2025-06-06. https://www.judiciary.uk/wp-content/uploads/2025/06/Ayinde-v-London-Borough-of-Haringey-and-Al-Haroun-v-Qatar-National-Bank.pdf(生成AIは信頼できる法律の調査ができないこと、信頼できる資料で確かめる職業上の義務、Ayinde事件の判例5件)
  3. Courts and Tribunals Judiciary. Artificial Intelligence (AI) – Judicial Guidance (October 2025). 2025-10-31. https://www.judiciary.uk/guidance-and-resources/artificial-intelligence-ai-judicial-guidance-october-2025/(AIが誤った情報を作る危うさ、自分の名で出す文書への個人の責任)
  4. NBC News. Trump admin corrects RFK Jr.'s MAHA report citation errors. 2025-05-30. https://www.nbcnews.com/health/health-news/trump-admin-corrects-rfk-jrs-maha-report-citation-errors-rcna209913(引用522件、実在しない論文4件、引用の差し替え)
  5. Legal Cheek. CPS caught using fake AI cases in High Court. 2026-07-01. https://www.legalcheek.com/2026/07/cps-caught-using-fake-ai-cases-in-high-court/amp/(ルーマニア人2人の引き渡し事件、実在しない判例2件が書面から書面へ引き継がれたこと)
  6. Doughty Street Chambers Insights(Matthew Lee). 12 False Citations/AI hallucinations Incidents in UK Courts: The Complete Legal Timeline Before and After Ayinde. 2026-02-22. https://insights.doughtystreet.co.uk/post/102l04p/12-false-citations-ai-hallucinations-incidents-in-uk-courts-the-complete-legal-t(2026年2月時点の記録47件)