01依頼が増えるほど、順番を決める手間が使う人に積み上がる

2026 年 9 月、運営者が AI に頼む仕事は、記事の自動起案、動画の作り直し、日英の食い違いの洗い出し、長期の連載づくりと、同じ週のうちに次々と増えていた。記録の上では、その月だけで「作業予約」と付けた依頼が 17 回ある。

依頼を積むこと自体は、この連載の第 1 回で扱った。積んだ依頼が増えると、次の問題が出る。どれから手を付けるかを、誰が、どの決め方で決めるのか。

9 月 12 日、運営者はこの問題を AI に渡した。増える依頼を一定の間隔で整理し、タスクの管理と優先順位の決め方を仕組みにして、実行環境に覚えさせるよう求めた。

AI と話し合って残った規則は短い。依頼を載せる台帳は 1 つ。順番を決める採点式は 1 つ。いま手を動かす作業、つまり前景も 1 つ。この回では、なぜ「1 つ」に限ると順番を任せられるのかを確かめる。

02順番を AI に任せるとは、決め方を一度だけ人が決めることである

「優先順位を AI に任せる」と聞くと、AI が自分の判断で好きな順に進めるように聞こえる。運営者が求めたのは、その逆である。

任せたのは、順番を出す作業である。順番の決め方は人が決め、それを規則として書き残した。AI は依頼が来るたびに、その規則に当てはめて順番を出す。

この分け方には利点がある。使う人は依頼ごとに「これは急ぎか」を考えなくてよい。考えるのは、決め方そのものが合っているかどうかだけになる。決め方を直せば、それ以後のすべての依頼の順番が同じように変わる。

逆に、決め方を書かずに「うまく整理して」とだけ頼むと、AI はその場の会話から毎回あらためて順番を考える。昨日と今日で決め方が違っても、使う人には見えない。

03決め方が 2 つあると、同じ依頼の順番が日によって変わる

台帳・採点式・前景の三つを「1 つ」に限る理由は、どれも同じである。2 つあると、どちらを使ったかで結果が変わる。そして、どちらを使ったかは後から追えない。

見るところ2 つ以上あるとき1 つに限ったとき
台帳会話の中、メモ、別のファイルに依頼が散り、どこにも載っていない依頼が出る載っていない依頼は「頼んでいない」と言い切れる
採点式同じ依頼が、使った決め方によって上がったり下がったりする同じ材料なら同じ点になり、順番の理由を説明できる
前景二つの作業の途中結果が混ざり、どちらも終わらない1 件ずつ終わり、終わった時点で次を選び直せる
人が見るもの会話の流れ全体台帳 1 枚と、採点式 1 行

三つ目の行が、使う人にとって一番大きい差である。順番に納得できないとき、見るべき場所が決まっている。台帳の点数を見れば、なぜその順になったかが分かる。

04台帳・採点式・前景・整理の時点の四つで、規則は閉じる

この規則に出てくる言葉を、ここで定義しておく。

1

台帳

すべての依頼を載せる

依頼ごとに、中身、終わったと言える条件、期限、状態、点数を 1 行で持つ一覧。

2

採点式

順番を数で出す

すべての依頼に同じ式を当てて点を付け、点の高い順に並べる決まり。

3

前景

いま手を動かす 1 件

会話の中で AI が進めている作業。ほかの依頼は台帳の上で待つ。

4

整理の時点

点を付け直すとき

1 件が終わったとき、新しい依頼が来たとき、会話を始めたとき、と決めておく。

四つ目の「整理の時点」は、運営者の依頼にあった「一定の間隔で」にあたる。時計の間隔である必要はない。決まった時点で必ず点を付け直す、という意味である。

規則が決めないことも書いておく。依頼を引き受けるかどうか、依頼を消すかどうか、取り消せない作業に入るかどうかは、採点式では決めない。それは使う人が決める。採点式が決めるのは、引き受けた依頼の順番だけである。

同じ日、運営者が 3 か月かける連載を頼んだとき、AI はそれを長期の活動として台帳に載せた。急ぎの依頼がある間は止め、手が空いたときに進める、という扱いも整理の手順に足された。長い依頼も短い依頼も、同じ台帳と同じ決め方の中に入った。

図 1 依頼が台帳を回る流れ
依頼が届く会話・作業予約台帳に載せる中身・条件・期限採点式で点を付ける前景で 1 件を進める終わったら付け直す依頼が届く会話・作業予約台帳に載せる中身・条件・期限採点式で点を付ける前景で 1 件を進める終わったら付け直す
整理の時点は、1 件が終わったとき・依頼が来たとき・会話を始めたとき。順番はいつも同じ決め方で出る。

05資材審査では、審査待ちの資材の並べ方に同じ規則が使える

製薬企業の資材審査では、複数の製品の担当者から、審査の依頼が重なって届く。学会に合わせた資材、改訂の入った添付文書に合わせた差し替え、営業部門の急ぎの案件。どれを先に見るかは、担当者の声の大きさで決まりやすい。

医薬品の品質の分野には、すでにこの考え方がある。ICH Q9(R1) は、性質の違う多くのリスクを比べるために、いくつかの要素を 1 つの相対的な点数にまとめ、その点で順位を付ける方法を挙げている。同じ指針は、点数の付け方の設計が悪いと判断に主観が入ると注意している。

審査の依頼を AI と管理するなら、台帳には資材ごとの公開予定日、差し戻しの回数、新しい効能や安全性の記載を含むかどうかを載せられる。採点式は、たとえば「公開までの日数が短いほど高く、安全性の記載を含めば加点」と 1 行で決める。AI は届いた依頼をこの式で並べ、審査の担当者はその順に見る。

ただし、順番を変えるのは人である。担当者が順番を入れ替えるときは、理由を台帳に書く。理由が何度も同じなら、それは採点式に足すべき要素である。こうして、決め方そのものが記録を通じて直っていく。

社内の規程で AI に入れてよい情報の範囲は、台帳を作る前に確かめておく。資材の本文を載せなくても、題名と期限と状態だけで順番は付けられる。

06AI は会話のたびに記憶を持たずに始まるので、規則は書いて読ませる必要がある

決め方を書き残す必要があるのは、AI の作り方による。Anthropic の Claude Code の説明によれば、会話は毎回、前の内容を持たない状態から始まる。会話をまたいで残るのは、CLAUDE.md などのファイルに書いた指示で、これは毎回の会話の最初に読み込まれる。

書いていなければ、AI は目の前の会話から順番を考える。そのとき有利になるのは、直前に届いた依頼である。古い依頼ほど会話の外に押し出され、点数を付けられる機会もなくなる。

同じ説明には、読み込んだ指示は強制される設定ではなく、文脈として扱われるとある。指示が具体的で短いほど、守られやすい。「台帳は 1 つ、採点式は 1 つ、前景は 1 つ」という規則が短いことには、この点でも意味がある。

前景を 1 つに限る理由は、人の研究にもある。Rubinstein らの 2001 年の実験では、二つの作業を行き来すると、切り替えるたびに時間の損が出た。その損は、作業の決まりが複雑なほど大きかった。

Anthropic は 2025 年 11 月、長く続く作業を AI に任せる方法を公開している。そこでは、作るべき機能の一覧を 1 つのファイルに持たせ、AI に一度に 1 つの機能だけを進めさせた。各会話の最初に進み具合の記録と一覧を読ませ、まだ終わっていない機能のうち優先度の一番高いものを選ばせている。台帳・採点式・前景の三つと、同じ組み立てである。

図 2 「1 つ」でないと起きること
規則が書かれていない会話のたびに決め直す台帳が 2 つどこにも載らない依頼が出る採点式が 2 つ同じ依頼の順番が揺れる前景が 2 つ切り替えの損と途中結果の混ざり規則が書かれていない会話のたびに決め直す台帳が 2 つどこにも載らない依頼が出る採点式が 2 つ同じ依頼の順番が揺れる前景が 2 つ切り替えの損と途中結果の混ざり
どれも、どちらを使ったかを後から追えない点が共通する。書いて毎回読ませれば、三つとも 1 つに保てる。

07明日からは、三つの「1 つ」を決めて、AI が毎回読む場所に書く

手順は五つある。

  1. 台帳を 1 つ決める。表計算でも文書でもよい。列は、中身、終わったと言える条件、期限、状態、点数の五つにする。会話の中で頼んだ依頼も、必ずここへ移させる。
  2. 採点式を 1 行で書く。要素は三つまでにする。たとえば期限の近さ、影響の大きさ、待っている人の有無。点の付け方を言葉で書き、AI に点の理由も台帳に残させる。
  3. 前景を 1 件に限る。作業中に別の依頼が来たら、AI はそれを台帳に載せて点を付けるだけにし、いまの作業を続ける。
  4. 整理の時点を決める。1 件が終わったとき、会話を始めたとき、新しい依頼が来たときに、点を付け直して順番を出させる。
  5. 規則を、AI が毎回読む場所に書く。Claude Code なら CLAUDE.md、ほかの道具なら会話の最初に読ませる指示の欄に置く。

始めて 1 週間たったら、台帳の中で人が順番を入れ替えた行を読み返す。入れ替えの理由に同じものが二度出ていれば、それを採点式に足す。採点式を変えたら、変えた日と理由を台帳の上に書いておく。

図 3 明日からの 5 手順
台帳を 1 つ五つの列採点式を 1 行要素は三つまで前景は 1 件割り込みは台帳へ整理の時点を決める毎回読む場所に書く台帳を 1 つ五つの列採点式を 1 行要素は三つまで前景は 1 件割り込みは台帳へ整理の時点を決める毎回読む場所に書く
1 週間後、人が順番を入れ替えた理由を読み返し、二度出た理由を採点式に足す。
Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 優先順位を AI に任せるとは、決め方を人が一度だけ決め、順番を出す作業を AI に渡すことである。決めないことは、引き受け・削除・取り消せない作業として人に残す。
  2. 台帳・採点式・前景を 1 つに限ると、依頼の漏れ、順番の揺れ、作業の混ざりが起きにくく、順番の理由を台帳 1 枚で説明できる。
  3. AI は会話のたびに記憶を持たずに始まる。規則は短く書き、毎回読み込まれる場所に置き、人が入れ替えた理由から採点式を直す。
結語

依頼が増えたときに使う人が手放すべきなのは、判断ではなく、毎回の並べ替えである。決め方を 1 つの規則にして書いておけば、AI は同じ決め方で順番を出し続け、人は決め方が合っているかだけを見ればよい。次の回では、3 か月かかる依頼をこの台帳にどう置くかを扱う。

出典·参考文献
  1. Anthropic. How Claude remembers your project. Claude Code Docs. https://code.claude.com/docs/en/memory
  2. Anthropic. Effective harnesses for long-running agents. Anthropic Engineering, 2025. https://www.anthropic.com/engineering/effective-harnesses-for-long-running-agents
  3. ICH. Quality Risk Management Q9(R1). ICH Harmonised Guideline, 2023. https://database.ich.org/sites/default/files/ICH_Q9%28R1%29_Guideline_Step4_2025_0115.pdf
  4. Rubinstein, J. S., Meyer, D. E., Evans, J. E. Executive control of cognitive processes in task switching. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 27(4), 763-797, 2001. https://doi.org/10.1037/0096-1523.27.4.763
この回の材料 運営者(2023 年 3 月から生成 AI を使用)が 2026 年 2 月以降に Claude と交わした依頼と判断の記録を匿名化し、個別の事情を外して「型」として一般化しました。発言の引用はしていません。出典に挙げたのは、型の背景を確かめるための公開資料です。