01運営者は前置きの一言で、別の依頼だと知らせた
2026 年 3 月の記録に、短い依頼が一つある。運営者は進行中の作業を抱えたまま、別のエラーの解消を AI に頼んだ。まず割り込みだと断り、エラーの内容を 20 行ほど貼り付け、それを解消するよう書いた。
この一通で伝わることは二つある。これが今の作業の続きではないこと。新しい仕事が、貼り付けたエラーの解消であること。
書かれていないことも二つある。進行中の作業を止めるのか、続けるのか。エラーが解消した後、元の作業にどう戻るのか。
この回の材料に残るのは依頼文だけで、AI の返答と結果は含まれない。したがって、この一通がうまくいったかどうかは言えない。ここで取り出すのは成否ではなく、書き方の型である。前置きはそのまま使い、足りない二つを補う。
02前置きは「ここから別の仕事」という境界を AI に知らせる
AI は会話の履歴を読みながら答える。断りのない新しい文は、それまでの作業の続きと受け取られる余地がある。エラーの解消だけを頼めば、今の作業で起きたエラーなのか、別の場所のエラーなのかを AI が推測することになる。
前置きは、この推測を減らす。ただし、前置きが伝えるのは「別件である」ことだけである。どこまで触ってよいか、元の作業をどうするかまでは決まらない。そこで、一通の中身を四つに増やす。
| 見るところ | 混ぜて渡す | 分けて渡す |
|---|---|---|
| AI が受け取るもの | 今の作業の続きかもしれない依頼 | 今の作業とは別の依頼 |
| 触ってよい範囲 | AI の推測に任される | 文で限られている |
| 元の作業 | 止まるのか続くのか分からない | 止める、続けるを指定してある |
| 後で読み返すとき | どの変更がどの依頼のものか追いにくい | 依頼ごとに追える |
03分けずに渡すと、AI の出力と人の再開の両方で誤りが増えやすい
一つ目は AI の側の問題である。2023 年の研究は、算数の文章題に無関係な情報を加えると、言語モデルの成績が大きく下がると報告した。同じ論文は、無関係な情報を無視するよう指示に加えることを、対策の一つに挙げている。これは文章題の実験で、仕事の会話を調べたものではない。それでも、関係のない情報を抱えたまま答えさせない理由にはなる。
二つ目は人の側の問題である。ある実験では、連続した手順を踏む課題を平均 2.8 秒中断しただけで手順の順序の誤りが 2 倍になり、平均 4.4 秒では 3 倍になった。割り込まれた人は、どこまで進めたかを見失いやすい。
医療の現場でも同じ方向の結果がある。看護師 98 人による 4,271 回の投薬を観察した研究では、中断が 1 回増えるごとに臨床上の誤りが 12.7% 増えた。誤りのあった投薬の割合は、中断なしで 25.3%、中断 3 回で 38.9% だった。これは関連を示す観察の結果で、中断が原因だと確定したものではない。
AI に任せた作業でも、結果を確かめて次を決めるのは人である。人が戻る場所を見失えば、AI の作業が正しくても確認が抜ける。戻り方を一通に書くのは、そのためである。
三つ目は費用である。Claude Code の公式文書によれば、依頼のたびに会話の全体が送られる。無関係な仕事を三つ抱えた会話では、四つ目の仕事でも毎回その三つを読み直すことになる。
04割り込みとは、目的の違う依頼を途中で差し込むことである
途中で送る文のすべてが割り込みではない。この回では、割り込みを次のように限る。新しい依頼を終えても元の作業の完成に近づかないなら、それは割り込みである。
割り込み
資材の修正の途中で、別の資材についての照会に答えさせる。四つを書いて渡す。
進め方の修正
AI が見当違いの方向へ進んだので止めて直す。元の作業の中の話である。
条件の追加
表に列を一つ足すよう伝える。これも元の作業の中で扱う。
待てる依頼
割り込ませない。第 1 回で扱った作業予約に積み、今の作業が終わってから始める。
紛らわしい場合が一つある。別のエラーが元の作業を止めているときである。この場合、エラーの解消は元の作業の前提になる。戻り方は「解消したら続ける」の一文で足りる。元の作業と無関係なエラーなら、再開の前に人が確かめる形にする。
05資材審査では、製品や資材をまたぐ急ぎの照会で効く
ここからは実務の想定である。製品 A の資材の改訂箇所を AI に洗い出させている途中で、製品 B の資材について急ぎの照会が届いたとする。同じ会話で続けて頼むと、製品 A の効能や用法・用量の記述が残った会話で、製品 B の答えを作ることになる。
答えに製品 A の条件が紛れていないかを、人が確かめる手間も増える。製品、資材、版のどれかが変わる依頼は、前置きを付けて同じ会話で頼むより、別の会話に分けたほうがよい。
記録の面でも分ける意味がある。審査では、どの指摘がどの資材のどの版に対するものかを、後から説明できなければならない。依頼が混ざると、AI の出力をその版に結び付けにくくなる。
同じ製品の中の短い質問なら、分けなくてよい。今の資料に出てきた試験の名前を尋ねる程度なら、同じ会話で足りる。メディカルの文献要約やマーケティングの原稿作りでも、分け方は同じである。
急いでいるときほど、貼り付ける前に中身を読む。照会の文面やエラーの内容に、患者の情報や未公開の情報が入っていることがある。AI に入れてよい情報かどうかは、社内の規程に従って判断する。
06作業中に送った文は、作業をすぐには止めない
割り込みを難しくするのは、書き方だけではない。道具の動きも知っておく必要がある。Claude Code の公式文書を 2026 年 11 月に確かめると、作業中に文を送っても、作業は中断されない。文は順番待ちに入り、実行中の操作が終わると、その回の応答の中で AI に渡される。
つまり、「止めて」と書いて送っただけでは、実行中の操作は止まらない。止めるには Esc キーを押す。作業はそこで止まり、そこまでの作業は残る。
| 手段 | 起きること | 向く場面 |
|---|---|---|
| 作業中に文を送る | 順番待ちに入り、実行中の操作が終わると渡される | 元の作業を止めなくてよい依頼 |
| Esc キーで止めてから送る | 作業が止まり、そこまでの作業は残る | 元の作業を止めて先に片付ける依頼 |
| /btw で尋ねる | 履歴に残らない。作業も止めない。ファイルの読み取りなどはできず、会話の中の情報だけで答える | 今の作業についての短い質問。エラーの解消には使えない |
| /clear に名前を付けて区切る | 次の作業が前の履歴を引き継がない。名前を付けた会話には後で戻れる | 元の作業と無関係で、長くかかる仕事 |
操作の名前は Claude Code のもので、ほかの道具では異なる。また、こうした動きは更新で変わることがある。自分の使う道具で一度試し、送った文で作業が止まるのかを確かめておく。別の会話を開くという手は、多くの道具で使える。
07明日からは、四つを書いた一通を送り、戻る前に報告させる
手順は四つある。
- 待てるかを決める。待てるなら積む。待てないものだけを割り込ませる。
- 分けるかを決める。製品、資材、版のどれかが変わるなら別の会話にする。同じ会話で頼むなら、次の手順に進む。
- 止めたら状態を書かせる。元の作業を止めるなら、まず止める操作をする。そのうえで、どこまで終わり、何が残っているかを AI に数行で書かせる。
- 四つを書いた一通を送る。割り込みであること、新しい依頼の範囲、元の作業の扱い、戻り方を入れる。
一通の例を示す。「割り込みです。元の作業は止めたままにし、変更はそのまま残してください。別件として、貼り付けたエラーを解消してください。元の作業で変更した部分には触らないでください。終わったら、変えた所と元の作業への影響を 3 行で報告し、私の返事を待ってください。」
最後の一文が戻り方である。AI が自分の判断で元の作業に戻ると、割り込みの変更を人が確かめる機会がなくなる。報告で止めれば、変更を確かめてから再開を指示できる。
再開するときは、割り込む前に書かせた状態を読み返す。そのうえで、続きから進めるよう伝える。割り込みの変更が元の作業に影響していれば、その分の見直しも一緒に頼む。
- 割り込みの一通には四つを書く。割り込みであること、新しい依頼の範囲、元の作業の扱い、戻り方である。前置きだけでは後ろの二つが決まらない。
- 製品、資材、版のどれかが変わる依頼は、前置きで済ませず別の会話に分ける。審査の記録も依頼ごとに追える。
- 送った文で作業が止まるとは限らない。止める操作を道具ごとに確かめ、戻る前には AI に報告させて、人が確かめてから再開する。
割り込みそのものを避ける必要はない。急ぎの仕事は実際に入ってくる。使う人に要るのは、元の作業の状態を残し、新しい仕事の範囲を限り、戻る時点を自分で決めることである。この三つが一通に書いてあれば、割り込みの後も、どの変更がどの依頼のものかを説明できる。
- Anthropic. Best practices for Claude Code. Claude Code Docs. https://code.claude.com/docs/en/best-practices
- Anthropic. Interactive mode. Claude Code Docs. https://code.claude.com/docs/en/interactive-mode
- Shi, F., Chen, X., Misra, K., et al. Large Language Models Can Be Easily Distracted by Irrelevant Context. ICML, 2023. https://arxiv.org/abs/2302.00093
- Altmann, E. M., Trafton, J. G., Hambrick, D. Z. Momentary interruptions can derail the train of thought. Journal of Experimental Psychology: General, 2014. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23294345/
- Westbrook, J. I., Woods, A., Rob, M. I., et al. Association of interruptions with an increased risk and severity of medication administration errors. Archives of Internal Medicine, 2010. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20421552/