01運営者は新しい区画を作らせる前に、まず項目の一覧を出させた
2026 年 9 月、運営者は自分のサイトに、AI の使い方の知恵をためる新しい区画を作ろうとした。中身は、文書作成や表計算などのアプリごとの使い方、AI モデルの使い分け、AI エージェントの組み立て方と運用、クラウドに置いた資料との連携などである。
運営者は、この依頼を「区画を作って」の一言で終えなかった。工程を四つに分けて順番を指定した。最初に扱う項目を洗い出す。次に設計図を作る。その次に実行プログラムを作る。ページを作るのは最後である。
依頼の文面には、思いついた項目がいくつか並んでいた。ただし、それで全部だとは書いていない。残りを含めた一覧を作ることを、AI への最初の仕事にしていた。
ここで確かめたいのは、この「一覧が先」という順番が、大きなものを AI に作らせるときに誰でも使える型かどうかである。
02項目の一覧は、何を作るかを AI と同じ紙で決めるための下書きである
大きな区画をいきなり作らせると、AI は自分で範囲を決めて作り始める。使う人がその範囲を知るのは、ページができあがった後になる。
一覧を先に出させると、順番が逆になる。AI は「この区画で扱うのはこの項目です」という案を出す。使う人はその案を読み、足りない項目を足し、要らない項目を消す。合意した一覧ができてから、設計と作業が始まる。
| 見るところ | いきなり作らせる | 一覧を先に出させる |
|---|---|---|
| 範囲を決める人 | AI が作りながら決める | AI が案を出し、使う人が決める |
| 抜けや余分に気づく時点 | ページができた後 | 1 行も作る前 |
| 直すときの手間 | ページを作り直す | 一覧の行を書き換える |
| 後で使えるもの | できたページだけ | 合意した一覧(設計と最後の照合に使える) |
03範囲のずれは、作った後に見つかるほど直す量が増える
範囲のずれは、作業の後ろの工程で見つかるほど高くつく。米国航空宇宙局(NASA)の技術者らが 2004 年にまとめた報告は、要求の段階の誤りを直す費用を 1 としたとき、設計の段階では 3〜8、組み立てて試験する段階では 21〜78 になると見積もっている。
この数字は宇宙開発の大型案件のものである。AI にページを作らせる作業と、規模はまるで違う。それでも、決めるべきことを後回しにすると、その上に積んだものごと直すことになる、という順序の関係は同じである。
AI の側にも、ずれを生む傾向がある。Anthropic が公開している Claude Code の使い方の指針は、Claude が依頼を控えめに読み、条件を満たす最小のものを作りがちだと書いている。使う人がどこまで望んでいるかが、AI からは見えないからである。
大きな区画では、この「見えない範囲」が広い。一覧を先に出させるのは、その範囲を AI に推測させず、紙の上で決めてしまうためである。
04ここでいう一覧とは、作るものの名前と、含めないものを並べた表である
項目の一覧は、目次とも設計図とも違う。目次は読者のための並びである。設計図は、どう作るかを決めた文書である。一覧は、その手前で「何を作るか」だけを決める。
項目の名前
1 項目が 1 ページか 1 節になる単位で名前を付ける。
一行の中身
その項目で読者が得るものを 1 文で書く。名前だけでは範囲がぶれる。
含めないもの
似ているが扱わない話題を書く。境界が見えると合意しやすい。
出どころ
使う人が挙げた項目か、AI が足した項目かを分けて示す。
四つ目の欄は見落とされやすい。AI が足した項目は、使う人の意図から外れている恐れがある。出どころが分かれていれば、読むべき行が絞れる。
この型が要らない場面もある。1 ページの修正や、範囲がすでに決まっている作業である。項目が数個で頭の中に収まるなら、一覧を挟むと手間が増えるだけになる。目安は、作るものが複数のページや節にまたがり、使う人自身も全体を言い切れないときである。
05資材審査では、手引きや問答集のような区画を作る前に効く
製薬企業の資材審査やメディカルの現場でも、AI に大きなまとまりを作らせる場面は増えている。審査の観点をまとめた社内の手引き、よく受ける質問の問答集、新人向けの研修資料などである。
こうしたまとまりは、扱う範囲で価値が決まる。審査の手引きなら、効能・効果の表現、比較の示し方、安全性情報の扱い、引用の作法など、どの観点を入れるかが中身の大半を決める。抜けた観点は、手引きを読んだ人の審査からも抜ける。
ここで一覧を先に出させれば、観点の抜けを作る前に話し合える。AI が挙げた観点を、審査の担当者が自社の規程や過去の指摘と照らし、足し引きする。その結果を一覧として残せば、後で別の人が手引きを直すときの出発点にもなる。
ウェブサイトの改修でも、同じ手順が昔から使われている。Nielsen Norman Group は、サイトを作り直す前に、いまある中身を 1 件ずつ一覧にする作業(コンテンツの棚卸し)と、その質を評価する作業を勧めている。何を残し、何を捨てるかを、作り直す前に決めるためである。
06一覧で工程を区切ると、AI の一回ごとの仕事が易しくなり、途中で確かめられる
一覧が効く理由は二つある。一つは、範囲を知っているのが使う人だけだという点である。AI は項目の候補を速く大量に挙げられる。しかし、どれを採るかは、目的と読者を知る人にしか決められない。一覧は、AI の得意な「挙げる」と、人にしかできない「決める」を分ける場所になる。
もう一つは、工程を分けると、AI の一回ごとの仕事が小さくなる点である。Anthropic の技術文書は、作業を段階に分け、前の段の出力を次の段に渡す組み立て方を紹介している。段と段の間で確かめる関門を置けば、途中で外れていないかを見られる。例として挙げているのは、先に骨子を書かせて基準に合うかを確かめ、それから本文を書かせる流れである。
運営者の依頼の四工程は、この組み立て方と同じ形をしている。一覧、設計図、実行プログラム、ページの順に、前の段の結果が次の段の材料になる。一覧が最初に来るのは、ほかの三つがすべて一覧を前提にしているからである。
07明日からは、種の項目を渡し、表で一覧を返させ、合意してから設計に進む
手順は四つある。
- 種の項目を渡す。思いついている項目を数個書き、「これで全部ではない」と添える。まだ作らせないことも書く。
- 表で一覧を返させる。項目の名前、一行の中身、含めないもの、出どころの 4 列で出させる。
- 足し、消し、並べ替える。一覧を読み、範囲を決める。迷う項目は「後回し」の印を付けて残す。
- 合意した一覧を次の工程に渡す。設計図はこの一覧から作らせる。できあがった後は、一覧の全項目が入っているかを AI に照合させる。
同じ指針は、仕様を書いた後は新しい会話で作業を始め、終わった作業をその仕様に照らして見直すことも勧めている。合意した一覧は、その仕様のいちばん小さな形として使える。
- 大きな区画を AI に作らせるときは、最初の仕事を「扱う項目の一覧を出す」にする。範囲を AI に推測させず、作る前に紙の上で決める。
- 一覧は、項目の名前・一行の中身・含めないもの・出どころの 4 列で出させる。AI が足した項目を見分けられれば、読む量が減る。
- 合意した一覧は、設計図の材料になり、できあがった後の照合の基準にもなる。小さな修正には要らない。
AI は、頼めばすぐに作り始める。だから大きなものを頼むときほど、作り始める前に止まる場所を、使う人が依頼の中に書いておく必要がある。項目の一覧はその最初の場所である。何を作るかを決めるのは使う人で、AI はその決定の材料をそろえる。次の回では、依頼の文そのものが、記録の中でどう長くなっていったかを数字でたどる。
- Anthropic. Best practices for Claude Code. Claude Code Docs. https://code.claude.com/docs/en/best-practices
- Schluntz, E., Zhang, B. (Anthropic). Building effective agents. Anthropic Engineering, 2024. https://www.anthropic.com/engineering/building-effective-agents
- Kaley, A. (Nielsen Norman Group). Content Inventory and Auditing 101. 2020. https://www.nngroup.com/articles/content-audits/
- Stecklein, J. M., Dabney, J., Dick, B., et al. (NASA). Error Cost Escalation Through the Project Life Cycle. INCOSE 14th Annual International Symposium, 2004. https://ntrs.nasa.gov/citations/20100036670