01運営者は人数も役割も書かず、チームを使うかどうかの判断ごと AI に渡した
2026 年 9 月 11 日、運営者は進めていた作業の依頼に、一つの許可を書き足した。必要ならエージェントのチームを動かしてよい、編成は任せる、という許可である。
ここでいうエージェントのチームとは、一つの AI が仕事を分け、ほかの AI に分担させる仕組みを指す。分けた仕事を受け持つ AI を、ここでは担当役と呼ぶ。
この一文には、書かれていないことが多い。何人で組むか。誰に何を受け持たせるか。どの順で動かすか。そもそもチームを使うかどうか。どれも書かれていない。書かれているのは、目的と、許可の範囲だけである。
確かめたいのは、この渡し方が手抜きなのか、それとも理由のある型なのか、である。答えを先に言えば、型である。ただし、許可の範囲を書かずに編成だけを任せると、型ではなくなる。
02任せたのは手段の組み立てで、目的と許可の範囲は使う人が握っている
AI への依頼は、三つの層に分けて考えられる。何を達成したいかという目的。誰が何をするかという手段。どこまでやってよいかという許可の範囲である。
運営者の一文は、このうち手段だけを AI に渡している。目的はそれまでの依頼で決まっている。許可の範囲は「必要なら」という条件つきで示されている。人が手放したのは、組み立ての部分だけである。
| 見るところ | 手段まで指定する | 目的と許可の範囲を渡す | 目的だけを渡す |
|---|---|---|---|
| 人数と役割 | 使う人が決める | AI が決める | AI が決める |
| 使ってよい道具と場所 | 使う人が決める | 使う人が決める | 決まっていない |
| 外れたときの原因 | 使う人の見込み違い | AI の組み方。範囲の中で起きる | どこまで広がるか分からない |
| 向く場面 | やり方が決まっている作業 | 分け方が事前に分からない作業 | 試しに案を出させる段階 |
表の右端との違いが大事である。目的だけを渡すのは、任せることではなく、放っておくことに近い。許可の範囲があって初めて、AI の判断が及ぶ場所が決まる。
03分け方は作業の中身を見るまで分からないので、人が先に決めると外れやすい
編成を人が決めにくい理由は、作業の中身を開くまで分け方が分からないことにある。ファイルが何件あるか。互いに関係するか。並べて進められるか。こうしたことは、作業を始めた側のほうが早く分かる。
Anthropic は 2024 年 12 月の文書で、AI の組み方の一つとして、指揮役の AI が仕事を分けて担当役に配る型を挙げている。この型が向くのは、必要な小さな仕事を前もって予測できない作業だという。分け方は前もって決めず、入力を見て指揮役が決める。
一方で、編成には費用がかかる。Anthropic が 2025 年 6 月に公開した調査用の複数 AI の仕組みでは、一つの AI で調べるより、内部の評価で 90.2% 良い結果が出た。その代わり、使う量は普通の会話の約 15 倍になった。一つの AI が道具を使う場合でも、約 4 倍である。
同じ報告には、初期の版が簡単な質問に 50 の担当役を立ち上げてしまった、という失敗も書かれている。チームは、使えば良くなるものではない。だから運営者の一文の「必要なら」は飾りではない。使わない判断も AI に任せる、という意味をもつ。
04編成を委ねる依頼は、目的・完了の条件・許可の範囲・止まる点の四つでできている
この連載では、編成を委ねる依頼を次のように決める。目的と完了の条件を書き、使ってよい範囲と、人の承認なしに越えてはいけない点を書いたうえで、人数・役割・順番を AI に決めさせる依頼である。
目的
担当役が迷ったときに立ち返る一文。全員に同じものが渡る。
完了の条件
全件を見終える、食い違いが 0 件になる、などの終わりの形。
許可の範囲
使ってよい道具、触ってよい場所、使ってよい量。チームを使うかどうかもここに入る。
止まる点
消す、公開する、外へ送るなど、元に戻せない動作の前。
境界も引いておく。任せるのは編成であって、判断の責任ではない。止まる点の先は、人が決める。OWASP という安全の専門家団体は、AI に機能・権限・自律を必要以上に与えることを危険の一つに挙げ、影響の大きい動作の前に人の承認を求めるよう勧めている。
このシリーズのほかの回とも分けておく。作業の項目を洗い出させる型は第 4 回、複数の依頼の順番を使う人が決める型は第 6 回で扱う。この回は、一つの作業の中で誰が何をするかを任せる話だけである。
05資材審査では、確かめる観点ごとの分担を任せ、判定は人に残せる
製薬企業の資材審査で考える。1 件の製品パンフレットには、確かめる観点がいくつもある。効能の表現が承認の範囲に収まっているか。数値が引用文献と一致するか。安全性の情報が十分か。英語版と食い違いがないか。
この観点ごとに担当役を立てるか、一つの AI で順に見るかは、資材の分量で変わる。数ページのものなら一つで足りる。大部の資材や改訂の差分なら、分けたほうが速いかもしれない。この判断は、資材を開いた AI に任せられる。
| 見るところ | AI に任せてよい | 使う人に残す |
|---|---|---|
| 分け方 | 観点ごとに分けるか、まとめて見るか | 確かめる観点そのもの |
| 読む資料 | 許可された文書の中で、どれを読むか | どの文書を読ませてよいか |
| 出すもの | 指摘の候補と、その根拠の箇所 | 指摘とするか、承認するかの判定 |
| 外への動き | なし | 差し戻し、社外への送付、記録の確定 |
メディカルの文献調査でも同じ型が使える。複数の検索の方向を並べて追う作業は、Anthropic の報告が複数 AI に向くとした、幅の広い調べものにあたる。マーケティングで複数の媒体向けに案を作るときも、媒体ごとに分けるかどうかを任せられる。
どの場面でも、許可の範囲を先に書く理由は同じである。社内の規程で AI に読ませてよい文書は限られる。担当役が何人になっても、その範囲は変わってはいけない。
06使う人の一文は、担当役それぞれへの指示に書き写されて広がる
編成を任せた依頼がどう動くかを、仕組みの側から見る。Claude Code という開発用の道具では、担当役は自分専用の会話の場、専用の指示、使える道具、権限をもって動く。指揮役は、担当役ごとの説明を読んで、どれに仕事を回すかを決める。
担当役が受け取るのは、使う人の元の依頼ではない。指揮役が書いた仕事の説明である。Anthropic の報告は、担当役ごとに目的、出すものの形、使う道具と情報源、受け持ちの境界が要ると書いている。説明があいまいだと、担当役は同じ仕事を重ねてやり、抜けを残すという。
ここから分かることがある。使う人が書いた目的と許可の範囲は、指揮役を通って、担当役それぞれの説明に書き写される。元の一文が明確なら、その明確さが全員に届く。あいまいなら、あいまいさが人数分に増える。
許可の範囲も同じ道をたどる。Claude Code では、担当役ごとに使える道具を限ったり、書き込みを禁じたりできる。使う人が範囲を書いておけば、指揮役はそれを担当役の設定に移せる。書いていなければ、移すものがない。
07明日からは、目的と範囲を書き、編成表を先に出させ、終わったら分担を報告させる
手順は四つある。
- 目的と完了の条件を書く。何のための作業で、どうなれば終わりかを、一つか二つの文で書く。
- 許可の範囲を書く。読んでよい資料、触ってよい場所、使ってよい量を書く。「必要なら」チームを使ってよい、と使わない選択も残す。
- 止まる点を書く。消す、公開する、外へ送る、の前には承認を求めさせる。
- 編成表を先に出させ、最後に分担を報告させる。始める前に、何人で誰が何をするかを一覧で出させる。終わったら、誰が何を見て、何を見ていないかを報告させる。
四つ目の手順には理由がある。編成表を先に見れば、50 人を立ち上げるような過剰な組み方を、始まる前に止められる。最後の報告を見れば、担当役どうしの抜けが分かる。編成を任せても、編成を見る機会は手放さない。
任せる範囲は、結果を見て広げればよい。最初は読むだけの作業から始め、報告が信頼できると分かってから、書き込みのある作業へ移る。Anthropic の 2024 年の文書も、最も簡単な形から始め、必要なときだけ複雑にするよう勧めている。
- 編成は、作業の中身を開いた AI のほうが決めやすい。使う人は人数や役割を書かず、目的と完了の条件を書く。
- 任せてよいのは手段の組み立てだけである。許可の範囲と止まる点を書かずに任せると、AI の判断が及ぶ場所が決まらない。
- 使う人の一文は、担当役それぞれへの指示に書き写される。編成表を先に出させ、最後に分担と見ていない所を報告させる。
AI に仕事を任せる範囲が広がると、手段を一つずつ指定するやり方は、使う人の見込み違いをそのまま持ち込む。目的と許可の範囲を書き、その中の組み立てを任せれば、分け方は作業の中身に合わせて決まる。次の回では、別の AI に作業を渡すときに、何をメモにして引き継がせるかを扱う。
- Anthropic. Building effective agents. Anthropic Engineering, 2024. https://www.anthropic.com/engineering/building-effective-agents
- Anthropic. How we built our multi-agent research system. Anthropic Engineering, 2025. https://www.anthropic.com/engineering/multi-agent-research-system
- Anthropic. Create custom subagents. Claude Code Docs. https://code.claude.com/docs/en/sub-agents
- OWASP Gen AI Security Project. LLM06:2025 Excessive Agency. OWASP, 2025. https://genai.owasp.org/llmrisk/llm062025-excessive-agency/