01「かっこよく」の次の発言で、運営者は字の間隔を名指した
2026 年 9 月、運営者はサイトの英語版について、書体をもっと新しく、格好のよいものに替えるよう AI に頼んだ。同じ依頼には、入口のページの題が少し大きいのではないか、という一言も付いていた。
次の発言で、頼み方が変わった。運営者は、字と字の間が開きすぎているので、詰まって引き締まって見える書体がよい、と言い直した。「かっこよく」という評価の言葉が、字間という目に見える性質の言葉に置き換わった。
記録に残るのはこの 2 つの依頼で、AI がそれぞれに何を返したかは残っていない。それでも、2 つの頼み方の差ははっきりしている。最初の頼み方では、何を変えれば成功なのかが決まらない。言い直した後は、変える場所と向きが決まる。
この回で言いたいことは一つである。形容詞で感じたもやもやは、測れる性質(属性)に言い換えたときに、AI が直せる依頼になる。
02形容詞は結果の評価で、属性はその評価を生む原因である
「かっこいい」「読みにくい」「重たい」は、見た人の評価である。評価は人によって違い、同じ人でも日によって揺れる。AI に渡しても、AI はその評価を自分で感じることができない。
属性は、評価を生んでいる性質である。字間、文字の大きさ、線の太さ、行の間、色の濃さ。どれも数で表せ、二つの案を並べればどちらが大きいかを誰でも言える。
| 見るところ | 形容詞で頼む | 属性で頼む |
|---|---|---|
| 例 | もっとかっこよく | 字の間隔を今より狭く |
| AI が変える場所 | AI が推測して選ぶ | 名指しした一か所 |
| 終わったかの判断 | 見た人の好みしだい | 値が変わったかで分かる |
| 外れたときの直し方 | もう一度、別の形容詞で頼む | 量を足すか戻す |
形容詞を捨てる必要はない。形容詞は「どちらへ向かいたいか」を伝える。属性は「どこを、どれだけ動かすか」を伝える。依頼には両方を書けばよい。
03測れる属性がないと、AI は直す場所も、終わる時点も決められない
形容詞だけの依頼には、二つの損がある。一つ目は、AI が変える場所を外すことである。「かっこよく」を満たす手は、書体を替える、線を細くする、大きさを変える、色を変える、と何通りもある。AI が選んだ手が、使う人の気にしていた所と違えば、やり直しになる。
二つ目は、終わりが決まらないことである。形容詞の依頼では、AI が直した後に「これでかっこよくなったか」を使う人が改めて評価する。評価が揺れれば、やり取りは何往復も続く。
Anthropic が公開しているプロンプトの指針は、望む出力を具体的に書くほど結果が良くなると述べている。同じ指針は、仕事の前提を知らない同僚に依頼文を見せ、その人が迷うなら AI も迷う、という確かめ方を勧めている。「かっこよく」は、その同僚が最も迷う種類の言葉である。
04言い換えとは、属性・向き・量の三つをそろえることである
この連載でいう言い換えは、形容詞を別の形容詞にすることではない。「締まった感じ」も形容詞だが、運営者の言い直しには「字と字の間が広い」という属性と向きが入っていた。だから AI が動ける依頼になった。
見えている事実
字と字の間が開いて見える。題が周りより大きい。
属性
字間、文字の大きさ、太さ、行の間など、数で表せる性質を一つ選ぶ。
向き
狭く、小さく、細く。形容詞の評価は、この向きに残る。
量
分からなければ「少し」でよい。結果を見て足すか戻す。
量は最初から決めなくてよい。属性と向きがあれば、AI は小さく動かした案を出せる。使う人はその案を見て、もっと、または戻して、と言える。量は二回目以降に決まる。
測れる属性に直せない形容詞もある。「信頼できる印象に」のように、複数の属性が組み合わさって生まれる評価である。この場合は一度で直そうとせず、まず AI に候補となる属性を並べさせ、どれを動かすかを人が選ぶ。
属性にしたことで、外の基準とも比べられるようになる。ウェブの読みやすさの国際的な指針である WCAG 2.1 は、利用者が字間を文字の大きさの 0.12 倍まで広げても内容が欠けないことを求めている。字間を詰める依頼は、この条件を崩さない範囲で行う、と書き添えることができる。
05資材審査の指摘でも、形容詞を属性に直すと修正が一回で済む
製薬企業の資材審査では、指摘が形容詞で書かれることが多い。表現が強い。安全性の情報が目立たない。全体に読みにくい。これらは審査者の正しい評価だが、そのまま AI に修正させると、AI は直す場所を推測することになる。
| 形容詞の指摘 | 言い換えた属性 | 向き |
|---|---|---|
| 表現が強い | 「最も」「唯一」など最上級の語の数、比較の根拠の有無 | 語を減らし、根拠を添える |
| 安全性の情報が目立たない | 有効性の情報と比べた文字の大きさ、置く位置 | 同じ大きさにし、同じ面に置く |
| 読みにくい | 一文の長さ、行の間、一画面に入る文字数 | 文を短く、行の間を広く |
属性で書いた指摘は、修正した人と審査した人が、同じ物差しで結果を確かめられる。最上級の語が 3 つから 0 になったか。安全性の文字が有効性と同じ大きさになったか。答えは、はい・いいえで出る。
マーケティングやメディカルの担当者が、生成 AI に下書きを直させるときも同じである。「もっと分かりやすく」と頼む前に、どの属性を動かせば分かりやすくなるのかを一行書く。それだけで、AI の返す案が一つの方向にそろう。
06AI は形容詞を平均的な解釈で埋めるので、気にしていない所まで変える
言語モデルは、与えられた言葉から、多くの文章で一緒に現れてきた続きを選んで答えを作る。「かっこよく」と言われると、その言葉と結び付きやすい変更を、もっともらしい順に並べる。そこに、使う人の目の前の画面が何を欠いているかという情報は入っていない。
結果として、AI は複数の属性を同時に変えやすい。書体も、太さも、大きさも変わる。使う人が気にしていたのが字間だけなら、変わらなくてよかった所まで変わり、良くなったかどうかの判断がさらに難しくなる。
要件を書く分野では、この問題は以前から知られている。NASA のシステム工学の手引きは、要件を確かめられる形で書くよう求め、「容易な」「十分な」「使いやすい」「速い」などの語を、確かめようのない言葉の例として挙げている。AI への依頼も、確かめられるかどうかという点で要件と同じ条件を負う。
運営者の最初の依頼にも、この差が表れていた。書体の「かっこよさ」は形容詞だったが、同じ依頼の題の大きさは、大きさという属性と「小さく」という向きを持っていた。後者は、最初から AI が一か所を直せる形になっていた。
07明日からは、形容詞の下に、見えている事実と属性を一行足す
手順は四つある。
- 形容詞はそのまま書く。「かっこよく」「読みやすく」は、向かいたい方向として残す。
- 見えている事実を一つ足す。「字と字の間が開いて見える」のように、何が気になったかを書く。
- 属性と向きを名指す。「字間を狭く」「題の文字を小さく」。分からなければ、AI に候補の属性を三つ並べさせて選ぶ。
- 一回に動かすのは一つの属性にする。結果を前と並べて見比べ、量を足すか戻すかを決める。
四つ目が守られると、良くなったか悪くなったかの原因が一つに絞れる。複数の属性を同時に動かすと、どれが効いたのかが分からなくなる。
- 形容詞は結果の評価で、属性はその原因である。AI に直させるには、字間や文字の大きさのように数で表せる属性を名指す。
- 言い換えは、属性・向き・量の三つをそろえることである。量は最初から決めなくてよく、結果を見て足すか戻す。
- 形容詞だけの依頼では、AI は平均的な解釈で複数の所を変える。属性を一つずつ動かせば、何が効いたかを確かめられる。
もやもやは、まず形容詞として出てくる。それは悪いことではなく、向かいたい方向を示している。ただ、AI に直させるには、その方向を、どこを・どちらへ・どれだけ動かすかという言葉に置き換える必要がある。運営者の二つ目の発言は、その置き換えを一行で済ませていた。次の回では、言い換えの対象を見た目の性質から文章の順序へ広げる。
- Anthropic. Prompting best practices(Be clear and direct). Claude Developer Platform Docs. https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/claude-prompting-best-practices
- NASA. Appendix C: How to Write a Good Requirement. NASA Systems Engineering Handbook. https://www.nasa.gov/reference/appendix-c-how-to-write-a-good-requirement/
- W3C. Understanding Success Criterion 1.4.12: Text Spacing. Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.1. https://www.w3.org/WAI/WCAG21/Understanding/text-spacing.html
- MDN Web Docs. letter-spacing. Mozilla. https://developer.mozilla.org/en-US/docs/Web/CSS/letter-spacing