01「冗長」と返した同じ依頼で、運営者は六つの段の並びを指定した
2026 年 9 月、運営者は AI が下書きしたコラムを数本まとめて読み、内容が冗長で、AI の話にたどり着くまでが遠い、と AI に返した。もっと西洋の人が考える筋道に沿ってほしい、とも書き添えた。
その中の一本は、人類が火を手にした話から始まり、農耕や印刷の話を経て、終わり近くでようやく AI に触れていた。題も、謎かけのような短い句だった。一文ずつ読めば誤りはない。それでも読み終えたとき、何の話だったかが残りにくい原稿だった。
運営者は同じ依頼の中で、望む並びを具体的に書いた。最初に本質的な疑問を一つ立てる。それが何を意味し、なぜそう言えるかを示す。何が、どこで、なぜ、どう動くかの四つで組み立てる。要点を三つにまとめ、最後に結論を置く。そのうえで、この骨組みは読者に見せないこと、図形を組み合わせた流れ図を三つ入れること、題をもっと具体的にすることを足した。
「冗長」「遠すぎる」という感じ方の言葉が、六つの段とその並びという、構造の言葉に置き換わった。この回で扱うのは、この置き換えである。読後の違和感は、問題が分量ではなく順序にあるとき、順序の言葉にすれば AI が直せる依頼になる。
02「冗長」は長さへの不満に見えて、多くは順序への不満である
冗長と感じた原稿を、字数だけで評価すると判断を誤る。同じ字数でも、結論が一段落目にあれば短く感じ、終わりにあれば長く感じる。読み手が感じているのは、本題に届くまで待たされた時間である。
運営者のもう一つの言葉「遠すぎる」は、その待ち時間を直接言っている。遠さは数えられる。本題の語が何文目に初めて出るか、結論が何段落目にあるか、である。
| 見るところ | 違和感の言葉 | 順序の言葉 |
|---|---|---|
| 例 | 冗長だ、本題まで遠い | 最初の二文で主題と疑問を出し、三文目で答える |
| AI がすること | 文を削って短くする | 段を並べ替え、足りない段を足す |
| 直ったかの判断 | 読んだ人の印象しだい | 主題が何文目に出るかで分かる |
| 次の原稿への効き方 | 同じ指摘をもう一度する | 並びを書き残せば毎回効く |
前の回では、「かっこよく」という形容詞を、字の間隔という測れる性質に言い換えた。この回の言い換えも同じ向きだが、対象が違う。見た目の性質ではなく、文章の中で何をどの順に置くか、である。
03並びを名指さないと、AI は削るだけで、遠さは残る
「冗長」とだけ返すと、AI は多くの場合、文を削る。前置きを縮め、言い換えを消し、段落を詰める。それでも並びが変わらなければ、本題はやはり後ろにある。短くなっただけで、遠さは残る。
削り方によっては、残すべきものまで消える。根拠の数字や出典の説明は、前置きと同じく「本題でない部分」に見えやすい。長さを指標にした修正は、論証の材料を先に削ることがある。
もう一つの損は、同じ指摘が繰り返されることである。感じ方の言葉は、その一本の原稿にしか効かない。次の原稿で AI はまた自分の選んだ並びで書き、使う人はまた「冗長」と返す。
運営者は、この繰り返しを避ける手も同じ依頼で打っていた。自分の指摘の要点を AI に言葉にさせ、同じ指摘を受けないよう記憶に残すよう求めた。その日のうちに、六つの段の並びは、AI が執筆に使う仕様書の最優先の節として書き込まれた。並びが言葉になっていたから、書き残すことができた。
04順序の言葉とは、段の役割と並びと見せ方の三つを決めることである
この回でいう順序の言葉は、「もっと論理的に」のような別の評価語ではない。どの段が何を担い、どの順に置き、読者にどこまで見せるかを決めた言葉である。運営者が指定した並びは、次の六つの段からなる。
| 順 | 段の役割 | 読者がそこで得るもの |
|---|---|---|
| 1 | 本質的な疑問を一つ立てる | この文章が何に答えるのか |
| 2 | それが何を意味するかを言う | 答えによって何が変わるのか |
| 3 | なぜそう言えるかを示す | 主張を支える理由 |
| 4 | 何が・どこで・なぜ・どう動くかで組み立てる | 定義、場面、仕組み、具体的な動き方 |
| 5 | 要点を三つにまとめる | 持ち帰る内容 |
| 6 | 結論を置く | 最後に残す一つの主張 |
見せ方も順序の言葉に含まれる。運営者は、この骨組みを見出しに書かず、読者には見えない形で組むよう求めた。見出しは「なぜ重要か」のような段の名前ではなく、その段の主張を言い切る文にする。並びは守り、ラベルは出さない、という指定である。
順序の言葉で直らないものもある。事実の誤りは、並べ替えても誤りのままである。初めて読む人に分からない記号や造語、読者の水準に合わない語の難しさも、別の言葉で指摘する必要がある。また、随筆や物語のように、情景から入ること自体に意味がある文章には、この並びは合わない。この型が向くのは、読み手が判断や行動のために読む、報告や解説の文章である。
05製薬の文書は、結論を先に置く並びをすでに求めている
製薬の実務家にとって、結論を先に置く並びは新しいものではない。治験の総括報告書の構成を定めた ICH E3 ガイドラインは、報告書の初めのほうに、通常 3 ページまでの要約を置くよう求めている。その要約には、文章や p 値だけでなく、結果を示す数値を入れるよう書かれている。
ところが、資材審査やメディカルの現場で AI に下書きを頼むと、この並びが崩れやすい。製品の背景、疾患の歴史、市場の状況から入り、伝えたい主張が後ろに回る。審査する人が「冗長」「要点が見えない」と返しても、AI は削るだけで、並びは変わらないことがある。
| 場面 | 違和感の指摘 | 順序の言葉に直した指摘 |
|---|---|---|
| 社内向けの説明資料 | 長くて分かりにくい | 1 枚目に結論を一文で置き、根拠は 2 枚目以降に回す |
| 論文の要約を AI に作らせる | 何が分かったのかが遠い | 結論、対象と方法、主な数値、限界の順に並べる |
| 審査の指摘への回答文 | 話が散らかっている | 指摘ごとに、結論、修正した箇所、理由の三つをこの順で書く |
順序で書いた指摘は、直した人と見直す人が同じ物差しで結果を確かめられる。結論が 1 枚目にあるか。指摘ごとに三つの要素がそろっているか。答えは、はい・いいえで出る。
06並びを指定されない AI は、頼まれた文章の種類によくある入り方を選ぶ
言語モデルは、与えられた言葉から、多くの文章で続いてきた形をもっともらしい順に選んで文を作る。「コラム」や「随筆」と頼まれれば、その種類の文章によくある入り方、つまり情景や歴史や身近な話から入る形を選びやすい。読者が何のために読むかという情報は、頼まれなければ入らない。
Anthropic が公開しているプロンプトの指針は、手順の順番や抜けの無さが大事なときは、指示を番号付きの手順として書くよう勧めている。同じ指針は、指示の理由も添えると、AI が目的をつかみやすくなると述べている。運営者の依頼には、本題に届くまでが遠いという理由が付いていた。
読む側にも理由がある。ウェブの使いやすさを研究する Nielsen Norman Group は、最も大事な情報、つまり結論を最初に置く書き方を、ウェブの文章に勧めている。画面の文章は飛ばし読みされやすく、最初の一段落しか読まれないことがあるからである。
AI が長い文章を読む側に回るときも、置き場所は効く。2023 年の研究は、言語モデルが長い入力の中の情報を使うとき、その情報が初めか終わりにあると成績が高く、中ほどにあると大きく下がることを報告した。結論を中ほどに埋めた文章は、人にも AI にも拾われにくい。
07明日からは、違和感を「何文目に何を置くか」の一文に直して渡す
手順は四つある。
- 違和感はそのまま書く。「冗長」「遠い」は、どこに不満があるかの手がかりとして残す。
- 遠さを数える。伝えたい主張が何文目、何枚目に初めて出るかを確かめ、一行で書き添える。
- 望む並びを番号付きで書く。「1. 疑問 2. 答え 3. 理由」のように段の役割を並べ、段の名前を見出しに出すかどうかも決める。
- 並びを書き残し、次の依頼にも付ける。一度言葉にした並びは、指示の雛形として保存し、毎回の依頼に貼る。
直った原稿は、二つの数で確かめる。主題と疑問が最初の二文に入っているか。結論が最初の段落にあるか。運営者の仕組みでも、主題が最初の二文に入っているかは、公開前に機械で確かめる項目になった。
- 「冗長」「遠い」は、多くの場合、長さではなく順序への不満である。本題が何文目に出るかを数えると、どちらかが分かる。
- 順序の言葉は、段の役割と並びと見せ方の三つを決める。感じ方の言葉と違い、書き残して次の原稿にも効かせられる。
- 並びを指定されない AI は、頼まれた文章の種類によくある入り方を選ぶ。並びは番号付きで、理由を添えて渡す。
読後の違和感は、まず「冗長」や「遠い」という感じ方の言葉で出てくる。その言葉は、どこに不満があるかを正しく指している。ただ、AI に直させるには、何をどの順に置くかという構造の言葉に置き換える必要がある。運営者の依頼は、その置き換えを六つの段で済ませ、書き残すところまで進めていた。次の回では、AI の返答そのものが分からないときに、分からないと返してよい理由を扱う。
- Anthropic. Prompting best practices(Be clear and direct). Claude Developer Platform Docs. https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/claude-prompting-best-practices
- Schade, A. Inverted Pyramid: Writing for Comprehension. Nielsen Norman Group, 2018. https://www.nngroup.com/articles/inverted-pyramid/
- ICH. E3: Structure and Content of Clinical Study Reports. ICH Harmonised Tripartite Guideline, 1995. https://database.ich.org/sites/default/files/E3_Guideline.pdf
- Liu, N. F., Lin, K., Hewitt, J., et al. Lost in the Middle: How Language Models Use Long Contexts. Transactions of the Association for Computational Linguistics, 2024(arXiv:2307.03172, 2023). https://arxiv.org/abs/2307.03172