
2026 年 9 月 30 日、カリフォルニア州知事の Newsom が SB 951 という法律に署名した。この法律は、AI や自動化が原因の大量の人員削減について、会社に届け出の中身を増やすよう求める。会社は、削減する人数と職務と、原因になった技術の種類を書くことになる。AI による人員削減の届け出を義務にすれば、AI で失われた仕事の数は分かるのか。分かるのは、雇い主が自分で AI を原因と判断して書いた削減の数だけである。2027 年から州が出す集計は、AI で失われた仕事の実数を示さない。州が出す数は、本当の数より少なめに出ると考えて読むことになる。
01SB 951 の集計は、雇い主が AI を原因と書いた削減しか数えない
SB 951 は 2027 年 1 月から、AI が全部または相当部分の原因となる大量の削減について、人数と職務と技術の種類を届け出に書かせる。AI が原因かどうかを決めるのは、州の役所ではない。削減をする会社自身が決めて、届け出に書く。
ニューヨーク州は、AI による削減を尋ねる欄を先に設けていた。160 社を超える会社が削減を届け出たが、AI を理由に挙げた届け出は 1 件も無かった。
カリフォルニア州の集計も、会社が書いた分しか数えない。AI と雇用の数字を仕事で使う人は、州の数が本当の数より少なめだと考えて読むとよい。原因の判断は会社に任されているので、人事や経営の担当者は、自社が何を AI による削減と数えるのかを、届け出の前に文書で決めておくとよい。
02会社は、置き換える人数と職務と技術の種類を届け出に書く
AI が原因だと会社が判断した後、届け出に何を書くのか。法律事務所 Littler の解説から、SB 951 が加える項目を確かめる。
カリフォルニア州には、大量の人員削減を前もって知らせるよう会社に求める法律がある。WARN 法と呼ばれる法律で、SB 951 はこの WARN 法を改めた。新しい項目が要るのは、AI などの技術が削減の全部または相当部分の原因になる場合である。
人数と職種・勤務地
AI などで置き換える削減の人数を、職種と勤務地とともに書く。
自動化される職務
削減される人が担っていた職務のうち、自動化されるものを書く。
技術の種類
削減の原因となった AI や自動化の技術の種類を書く。
冒頭の一文
通知の最初に、技術による置き換えのための通知だと明記する。
SB 951 は、AI の意味も条文で決めている。入力から推し量って出力を生む機械の仕組み、というのが SB 951 の定義である。この定義なら、文章を作る生成 AI も、需要を予測する仕組みも入りうる。
この四つのうち、どの職務が自動化されたかの記録は、州が初めて集めるものだ。これまでの WARN 法の届け出は、何人を削減するかを中心にしていた。SB 951 の届け出では、どの仕事が機械に置き換わったのかが書かれる。
035 月の草案より、届け出の対象はずっと狭くなった
届け出に書く項目は分かった。次は、どの規模の会社と削減が届け出の対象になるかである。対象の広さは、5 月の草案から署名までの間に大きく変わった。
| 見るところ | 5 月の草案 | 署名された SB 951 |
|---|---|---|
| 対象 | 25 人か従業員の 25% の少ない方 | 既存の WARN 法の枠のまま(75 人以上の事業所) |
| 予告 | 90 日前 | 60 日前のまま |
| 原因の語 | 全部または主に AI など | 全部または相当部分が AI など |
法律事務所 Ogletree の解説によると、5 月の草案は 25 人か従業員の 25% の少ない方を対象にしていた。予告も 90 日前を求めていた。署名された法律は、既存の WARN 法の枠を変えなかった。対象は 75 人以上の事業所のままである。予告の期限も 60 日前のままで、違反した会社の罰は 1 日最大 500 ドルである。
SB 951 は業種を問わない。製造、小売、製薬など、どの業種の事業所も同じ枠で扱われる。
対象が狭いままなので、AI による削減の中にも、届け出に載らないものがある。75 人に満たない事業所の削減は、AI が原因でも届け出の対象にならない。会社が削減を何回かに分けて小さくすれば、どの回も枠に届かないことがある。この場合、会社は一度も届け出を出さない。
これは私の推測だが、AI の導入は、一度に大勢を減らすより、空いた席を埋めない形で進むこともありうる。退職した人の後に人を雇わなければ、削減の届け出は一度も出ない。後任を雇わずに減った仕事は、州の集計に入らない。
04ニューヨーク州では、AI を理由に書いた会社が 1 社も無かった
届け出の対象になる削減でも、AI が原因かどうかを書くのは会社である。会社に判断を任せた先例として、ニューヨーク州で何件の届け出が出たかを見る。
ニューヨーク州は 2025 年 3 月から、WARN 法の届け出の様式に新しい欄を加えた。削減の理由が技術の変化や自動化なら、会社がその欄に印を付ける。法律事務所 Hunton の 2026 年 5 月の解説によると、160 社を超える会社が届け出を出した。そのうち、AI を理由に挙げた届け出は 0 件だった。
| 見るところ | ニューヨーク州(2025 年 3 月〜) | カリフォルニア州 SB 951(2027 年 1 月〜) |
|---|---|---|
| 根拠 | 法律は変えず、届け出の欄を追加 | WARN 法の条文を改正 |
| 尋ね方 | 技術の変化や自動化の欄に印を付ける | 人数・職務・技術の種類を書き、冒頭に一文 |
| 判断する人 | 雇い主 | 雇い主 |
| 結果 | 160 社超の届け出で、AI を理由にしたもの 0 件 | 最初の集計は 2027 年 |
0 件という結果には、二通りの読み方がある。ニューヨーク州で、AI による大量の削減が本当に無かったのかもしれない。あるいは、AI による削減はあったが、会社が欄に印を付けなかったのかもしれない。どちらが正しいかを示す資料は、私の手元に無い。
Hunton は、印が付かなかった理由の候補を二つ挙げている。一つは、欄に答える義務があるのかがはっきりしないことだ。ニューヨーク州は、法律を変えずに、届け出の様式に欄だけを加えていた。もう一つは、何を AI による削減と呼ぶのかの定義がはっきりしないことである。
理由がどちらであっても、会社が書かなかった削減は、州の集計に載らない。
会社の側にも、AI を理由に書きにくい事情がありうる。AI のせいで人を減らしたと公の記録に残れば、残った社員や取引先の見る目が変わるかもしれない。これは私の推測で、Hunton は理由に挙げていない。
05州が出すものは三つ: 届け出の要約、四半期ごとの集計、2028 年の議会報告
集まる数は、雇い主が書くかどうかで決まる。では、集まった届け出を州はどう数え、いつ公表するのか。州の仕事は、報道機関 CalMatters がまとめた SB 951 の要旨に書かれている。
届け出の要約
州の雇用開発局(EDD)が、受け取った届け出の要約をサイトに載せる。
四半期ごとの州の集計
EDD が、AI などで置き換えられた仕事の数を、州全体で 3 か月ごとに出す。
議会への報告
2028 年 1 月 1 日までに、AI が企業の採用に与える影響を州議会へ報告する。
EDD は、カリフォルニア州で失業保険や職業紹介を扱う役所である。SB 951 が施行される 2027 年 1 月 1 日から、EDD が届け出を集めて数える。
Newsom 知事は SB 951 の前、2026 年 5 月 21 日に、N-6-26 という知事令にも署名している。法律事務所 CDF によると、知事はこの知事令で、削減の予告の法律を見直す案を出すよう、州の機関に求めた。期限は 180 日以内である。
州の仕組みでは、会社が届け出て、EDD が 3 か月ごとに数え、州議会が 2028 年に報告を受ける。EDD の 3 か月ごとの数は、会社が書いた届け出をもとに作られる。
06州の数は少なめに出るが、AI に置き換わった職務は初めて記録に残る
カリフォルニア州は、届け出と集計と報告の三つで AI による削減を数える。州の数字から言えることと言えないことを、私は三つに分けて考える。
州の集計は下限として読む
州の数に入るのは、会社が AI を原因と書いた削減だけである。ニューヨーク州の 0 件がそうだったかは分からないが、会社が書かなければ数は 0 になる。このため、集計の数が小さくても、AI の影響が小さいとは読めない。数が小さい理由は、AI の影響が小さいことかもしれないし、会社が書かなかったことや、削減が届け出の枠の外で起きたことかもしれない。どちらなのかは、州の数を見ても分からない。
どの職務が機械に移ったかが記録に残る
SB 951 は、削減の人数だけでなく、自動化された職務と技術の種類を書かせる。届け出が集まれば、会社が届け出た削減について、どの職種で AI による置き換えが起きたのかを、州の公の資料で見られるようになる。人数の集計は下限でも、職務の記録は、届け出られた範囲で、AI が人の仕事のどこに入ったかを示す具体の資料になる。
「相当部分」の線は会社ごとに違いうる
5 月の草案は、AI が「全部または主に」原因となる削減を対象にしていた。成立した法律では、「全部または相当部分」に言葉が変わった。私が読んだ Littler と CalMatters の引用の中に、「相当部分」の定義は見当たらない。定義が条文のどこかにあるかは、私は確かめていない。定義が無ければ、同じような削減でも、届け出る会社と届け出ない会社が出てくる。
072027 年の最初の集計が 0 件に近いかは、まだ誰にも分からない
州の数は、本当の数より少なめに出ると考えて読む。実際にいくつになるかは、2027 年の最初の集計まで分からない。
カリフォルニア州とニューヨーク州には、違う点が一つある。カリフォルニア州は記載を法律の条文で義務にした。ニューヨーク州は、法律を変えずに様式の欄を加えただけだった。義務がはっきりした分、カリフォルニア州では書く会社が増えるかもしれない。
同じ点もある。どちらの州でも、AI が原因かどうかを判断するのは雇い主である。カリフォルニア州の最初の集計がニューヨーク州と同じく 0 件に近くなるかは、今は分からない。私は、数を予測しない。
知事が求めた見直し案に、AI が原因かどうかを決める基準が入るかも分かっていない。見直し案が「相当部分」の意味を具体的に書けば、会社ごとの判断の差は小さくなる。書かなければ、差は残る。
AI と雇用の数字を使う人には、最初の集計が出る前にできることが二つある。一つは、州の数が少なめに出ると考えて読むことだ。もう一つは、何を AI による削減と数えるかを、自社で文書にしておくことだ。
- SB 951 は 2027 年 1 月から、AI が全部または相当部分の原因となる大量の削減について、人数と職務と技術を届け出に書かせる。原因かどうかを判断するのは、雇い主のままである。
- ニューヨーク州では、160 社超の届け出のうち AI を理由にしたものが 0 件だった。会社の申告に頼る集計に映るのは、申告された分だけである。
- SB 951 は、届け出の対象を広げなかった。対象は今も 75 人以上の事業所で、予告は 60 日前である。75 人に満たない事業所の削減と、枠に届かない小刻みの削減は、州の集計の外に残る。
AI による人員削減の届け出を義務にしても、AI で失われた仕事の数そのものは分からない。分かるのは、雇い主が書いた分である。
2027 年から州が出す数は、本当の数より少なめだと考えて読む。どんな削減を AI による削減として届け出るかは、会社の中で先に文書にしておく。私が人事の担当者なら、この二つを必ず守る。
- Littler Mendelson. California Amends Its WARN Act Again. 2026-10-02.(署名、記載項目、AI の定義、施行日、75 人・60 日・1 日 500 ドル)
- CalMatters Digital Democracy. SB 951 bill summary (2025–2026 Regular Session). 2026-09-30.(EDD の要約と四半期の集計、2028 年の議会報告)
- Hunton Andrews Kurth. New York WARN Act: No AI-Related Layoffs Reported in First Year of Adding AI-Related Disclosure to the System. 2026-05-18.(160 社超で 0 件)
- Ogletree Deakins. California Legislature Proposes 90-Day Layoff Notice Requirement Due to Employers' AI Use. 2026-05-01.(草案の 25 人・90 日)
- Reed Smith(Employment Law Watch). What's new in California's response to AI workforce disruption. 2026.(修正時点の草案)
- CDF Labor Law. Governor Newsom Signs Executive Order to Confront Economic Impacts of AI. 2026-05-29.(知事令 N-6-26)
- Bloomberg Law(Daily Labor Report). California Passes Bill Requiring Notices of AI-Related Layoffs. 2026-08-31.(州議会の可決)
