01AI の報告が分からないとき、分からないと返すのは正しい対応である

2026 年 9 月、運営者は AI に解説動画づくりを任せていた。作業を終えた AI は、数字を並べた報告を返した。運営者はその報告に、何を言っているのか分からない、と一言だけ返した。

AI はすぐに謝り、普通の言葉で言い直した。やったことは一つで、動画の画面がずっと同じで退屈だったので、変わるようにした、という内容だった。

言い直された報告には、前と後も書かれていた。それまでの動画は、章ごとに文字の画面が 1 枚出るだけで、同じ画面が 1 分半ほど続いていた。音は流れているのに、画面は止まっていた。AI は人気のある解説動画 100 本の作りを調べ、少ない絵を話に合わせて動かし続けるやり方に作り替えた。

ここで確かめたいのは、運営者の一言が単なる不満だったのか、それとも AI と仕事をする人が誰でも使える手順なのか、である。

02分からないという返事は、報告に足りないものを示している

報告の役目は、読む人が次の判断をできるようにすることである。読んでも判断できない報告は、作業がどれほど正しくても、報告としては仕上がっていない。

分からないと返すことは、自分の知識が足りないと認めることではない。この報告では判断できない、と知らせることである。言い直しの前と後を並べると、足りなかったものが見える。

見るところ最初の報告言い直した報告
一文目にあるもの作業で扱った数字やったことは一つ、という全体の要約
なぜ変えたか書かれていない画面が止まっていて退屈だった
前と後読み取れない1 枚の画面が 1 分半続く → 絵が話に合わせて動く
読む人ができることうなずくか、黙るか採るか、戻すか、別の案を頼むかを決める

最初の報告の数字が間違っていたわけではない。欠けていたのは、その数字が何を意味するかという説明と、読む人に関係のある変化の要約だった。

03分からないまま承認すると、変わったことを知らずに責任だけを負う

AI の作業を採るかどうかを決めるのは人である。分からない報告にうなずいて先に進むと、何が変わったかを知らないまま、その変化を認めたことになる。

あとで動画の見え方に苦情が出たとき、何を変えたのかを説明できない。元に戻すにも、どこまで戻せばよいかが分からない。分かったふりの承認は、判断を省いた承認である。

図 1 分からない報告を受けたときの二つの道
分かったふりで進める言い直しを求める数字だらけの報告そのまま承認何が変わったか知らない後で困っても戻せない数字だらけの報告分からないと返す一文で言い直される何を・なぜ変えたか採るか戻すかを決める分かったふりで進める言い直しを求める数字だらけの報告そのまま承認何が変わったか知らない後で困っても戻せない数字だらけの報告分からないと返す一文で言い直される何を・なぜ変えたか採るか戻すかを決める
上の段では、判断したつもりで中身を知らないまま進む。下の段では、一言の返事で判断の材料がそろう。

分からないと返すのにかかる手間は、一行である。その一行で、判断の材料がそろう。聞き返さないことで省ける手間は、後で失うものに比べて小さい。

04求めるのは、何が変わったかを一文目に置いた四つの部品である

ここでいう普通の言葉での言い直しとは、専門の言葉を知らない人が読んで、採るか戻すかを決められる報告のことである。運営者が受け取った言い直しには、次の四つの部品があった。

1

何が変わったか

一文目に一文で

やったことは一つ、画面が変わるようにした、のように全体を先に言う。

2

何に困っていたか

変えた理由

画面が止まっていて退屈だった、という読む人に関係のある困りごと。

3

前と後

比べられる形で

1 枚の画面が 1 分半続いていた状態と、作り替えた後の状態。

4

数字

最後に根拠として

調べた動画の本数や切り替えの間隔など。意味を添えて置く。

この言い直しは、数字を捨てることではない。数字の置き場所を、要約の前から後ろに移すことである。数字は、要約が正しいかを確かめる根拠として残る。

この回で扱うのは、報告全体の要点が分からないときである。報告の中の一つの言葉が分からないときは、その場で意味を聞けば足りる。その方法はこの連載の第 8 回で扱う。

05資材審査やメディカルの報告でも、読む人が判断できる形を求める

製薬企業で AI に資材の下書きの見直しを任せると、修正した箇所の数、規程との一致の度合い、変えた表現の一覧といった報告が返ってくることがある。数字がそろっていても、審査の担当者が知りたいのは、この資材が何を言う資材に変わったかである。

メディカルの担当者が論文の解析を AI に要約させたときも同じである。数値の並びの前に、この結果で何が言えて何が言えないかを一文で書かせる。そうすれば、その要約を社内の判断に使えるかを決められる。

製薬の世界には、この考えを規則にした例がある。欧州連合の臨床試験規則(Regulation (EU) No 536/2014)は、試験の依頼者に、結果の要約とあわせて、専門家でない人に理解できる要約を出すことを求めている。数字の報告と、普通の言葉の報告を、別のものとして両方そろえる考え方である。

行政の文書にも同じ考えがある。米国では 2010 年の平易文書法(Plain Writing Act)が、市民向けの文書を読み手に合わせて書くよう求め、政府の Digital.gov がその手引きを公開している。日本では、文化審議会が 2022 年に示した「公用文作成の考え方」は、専門用語を、言い換える、説明を付けて使う、という形で読み手に合わせることを求めている。AI の報告に同じことを求めるのは、特別な要求ではない。

06AI の報告が数字で埋まるのは、作業の内側から書くからである

AI は作業の途中で、件数、秒数、設定の値などを次々に扱う。作業を終えたとき、報告はその値の記録から書かれやすい。報告が作業の内側の言葉で書かれ、読む人の側の変化が後回しになる。

人の側にも同じ傾向が知られている。ある事柄を知っている人は、知らない人がどう受け取るかを正しく見積もれない。経済学者の Camerer らは 1989 年の論文でこれを示し、後に「知識の呪い」と呼ばれるようになった。作業をした側は、読む側も同じ前提を持っていると見込みやすい。

AI の作りも関わる。Anthropic は Claude の使い方の公式文書で、最近のモデルは簡潔に書く設計で、ツールを使った作業の後に要約を省くことがあると説明している。同じ文書は、要約がほしければ、作業の後に何をしたかを短くまとめるよう指示すればよい、としている。

図 2 AI の報告が数字で埋まる三つの理由
AI が作業を終えて報告する作業中に扱った値をそのまま出す件数・秒数・設定の値読む人も同じことを知っていると見込む知っている側の思い込み短くまとめる設計で要約を省く求めれば書くAI が作業を終えて報告する作業中に扱った値をそのまま出す件数・秒数・設定の値読む人も同じことを知っていると見込む知っている側の思い込み短くまとめる設計で要約を省く求めれば書く
どれも AI の側で起きることで、読む人の知識とは関係がない。だから、読む人の一言で直せる。

どの理由も、AI の側で起きることである。読む人の知識が足りないから起きるのではない。だから、読む人の一言で直る。

07明日からは、分からないと返し、一文目に何が変わったかを書かせる

手順は四つある。

  1. 分からないと返す。どこから分からないかを添えると、言い直しが早い。報告全体なら、全体が分からないと書く。
  2. 一文目に何が変わったかを書かせる。「やったことを一文で、専門の言葉を使わずに」と頼む。
  3. 前と後と、困っていたことを書かせる。何に困っていて、何がどう変わったかを並べさせる。
  4. 数字は最後に、意味を添えて置かせる。その数字が何を確かめるためのものかを一言ずつ付けさせる。

一回の言い直しで分からなければ、もう一度返してよい。分かった報告の書き方は、次からの依頼の最初に書いておく。そうすれば、毎回聞き返す手間がなくなる。

図 3 言い直しを求める四つの手順
分からないと返すどこからかも添える一文目に何が変わったか前と後と困っていたこと数字は最後に根拠としてまだ分からないか分からないと返すどこからかも添える一文目に何が変わったか前と後と困っていたこと数字は最後に根拠としてまだ分からないか
一回の言い直しで分からなければ、もう一度返す。分かったら、その書き方をいつもの指示に足す。
Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. AI の報告が分からないのは、読む側の力不足ではなく、報告に要約と意味が欠けているからである。分からないと返してよい。
  2. 分からないまま承認すると、何が変わったかを知らずに責任だけを負う。一行の聞き返しで判断の材料がそろう。
  3. 言い直しは、何が変わったか、何に困っていたか、前と後、数字の順で求める。数字は捨てず、根拠として後ろに置く。
結語

AI の報告を読んで分からなかったとき、黙ってうなずく必要はない。報告は、読む人が判断できて初めて仕上がる。分からないと返し、何が変わったかを一文目に置かせれば、AI の作業を採るか戻すかを、人が自分で決められる。

出典·参考文献
  1. Anthropic. Prompting best practices(Communication style and verbosity). Claude Developer Platform Docs. https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/claude-prompting-best-practices
  2. 文化審議会. 公用文作成の考え方(建議). 文化庁, 2022. https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/93651301_01.pdf
  3. European Parliament and Council. Regulation (EU) No 536/2014 on clinical trials on medicinal products for human use. Official Journal of the European Union, 2014. https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2014/536/oj
  4. U.S. General Services Administration. Plain Language Guide Series. Digital.gov. https://digital.gov/guides/plain-language
  5. Wikipedia. Curse of knowledge(Camerer, Loewenstein, Weber, Journal of Political Economy, 1989 の解説を含む). https://en.wikipedia.org/wiki/Curse_of_knowledge
この回の材料 運営者(2023 年 3 月から生成 AI を使用)が 2026 年 2 月以降に Claude と交わした依頼と判断の記録を匿名化し、個別の事情を外して「型」として一般化しました。発言の引用はしていません。出典に挙げたのは、型の背景を確かめるための公開資料です。