01運営者は「分かりやすく」の代わりに、読む人と割合を AI に指定した

2026 年 9 月 9 日、運営者は AI に新しい仕事を頼んだ。その日の AI の動きを一日ごとにまとめ、15 分の解説動画にする仕事である。依頼には、内容の水準も書き添えた。IQ100 の集団の 90% が理解できること、である。

AI は動画の前に、動画のページの考え方を返した。その中に、平易さの目標を満たしたものだけを公開する、という原則が入っていた。運営者が渡した数が、AI の側で公開の条件に変わったことになる。

2 日後の 9 月 11 日、運営者は設計のページについても同じ水準を指定し、書き直しを求めた。「分かりやすく」とは一度も書いていない。代わりに、誰が読むかと、そのうち何割が分かればよいかを書いた。

ここで確かめたいのは、この指定がなぜ AI に効くのか、そして資材審査やメディカルの文書でも使える型なのか、である。

02数で言うと、目標は「誰が読むか」と「何割が分かるか」に分かれる

「分かりやすく」は一つの形容詞である。数で言い直すと、二つの部品に分かれる。一つは読み手の集団、もう一つはその集団のうち理解できる人の割合である。

IQ は知能検査の点数で、集団の平均がちょうど 100 になるように作られている。だから「IQ100 の集団」は、特別に詳しくも苦手でもない、平均的な読み手の集まりを指す。「90%」は、その集まりの 100 人中 90 人が分かることを求める。外してよいのは 10 人だけである。

見るところ「分かりやすく」と頼む読み手と割合を数で渡す
読み手書かれていない。AI が自分で想定する平均的な読み手の集団と決まっている
合格の線無い。頼んだ人の印象で決まる100 人中 90 人
AI が直す範囲言い回しを少し柔らかくする程度で止まりやすい集団の大半が止まる語と文をすべて対象にする
やり直しの理由「まだ分かりにくい」と繰り返すしかない「この語は 90 人に届かない」と特定できる
図 1 形容詞で頼むときと、数で頼むとき
「分かりやすく」と頼む読み手と割合を渡す分かりやすくAI が読み手を想定まだ分かりにくい終わりの線が無い平均的な読み手の 90%届かない語と文を直す線に照らして合否「分かりやすく」と頼む読み手と割合を渡す分かりやすくAI が読み手を想定まだ分かりにくい終わりの線が無い平均的な読み手の 90%届かない語と文を直す線に照らして合否
同じ依頼でも、合格の線を先に渡すかどうかで、やり直しの理由が感想か箇所かに分かれる。

03形容詞の目標では、AI も人も「どこで終わるか」を決められない

「分かりやすく」と頼むと、AI は何かを直して「分かりやすくしました」と返す。頼んだ人は読み、まだ分かりにくいと感じる。もう一度頼む。この往復には終わりの線が無い。

終わりの線が無いと、二つの損が出る。一つは回数である。直すたびに、何が足りないかを人が言葉で探すことになる。もう一つは判断のずれである。AI は直したと考え、人は直っていないと考える。二人の間に、どちらが正しいかを決める基準が無い。

数の目標は、この基準を先に置く。「100 人中 90 人」と決まっていれば、AI は直した文書をその線に照らして見直せる。人も、残った語や文を「この部分は 90 人に届かない」と指して返せる。やり直しの理由が、感想から特定の箇所に変わる。

04数の目標は、読み手・割合・確かめ方・範囲の四つで決まる

数で言うといっても、割合だけを書けば足りるわけではない。読み手の集団が決まっていなければ、90% は何の 90% か分からない。目標は次の四つがそろって初めて使える。

1

読み手の集団

誰が読むか

平均的な一般の読者、病院の薬剤師、社内の新任者など。一文で言える集団にする。

2

割合

何割が分かればよいか

100 人中 90 人のように数で言う。外してよい人数がそこから決まる。

3

確かめ方

分かったと何で言うか

必要な情報を見つけられる、内容を自分の言葉で言える、正しく行動できる、のどれか。

4

範囲

どこまでに当てるか

本文だけか、題・図・注記も含めるか。動画なら話す言葉も含めるか。

この目標には境界もある。第一に、数は目標であって、測った結果ではない。AI が「90% が理解できる水準にしました」と返しても、それは AI の見積もりである。本当に 90 人が分かるかは、その集団に近い人が読んで初めて分かる。

第二に、読み手が専門家に限られる文書では、集団をその専門家に置き換える。医師向けの資料に平均的な読み手の水準を当てると、必要な専門語まで削ってしまう。数で言う型は残し、集団の中身を変える。

05製薬の文書には、すでに「90%」で合否を決める基準がある

読み手の理解を割合で決める考え方は、製薬では新しくない。欧州委員会が 2009 年に改訂した、医薬品の表示と添付文書の読みやすさに関する指針がその例である。患者向けの文書を、実際の利用者に近い人で試すよう求めている。

この指針が例として示す試験では、20 人以上の参加者に文書を読ませる。合格は、求められた情報を参加者の 90% が見つけ、そのうち 90% が理解を示せることである。20 人なら 16 人にあたる。しかも合格の線は質問ごとに満たす必要があり、全体の平均でごまかせない。

ウェブの文書にも似た基準がある。ウェブの利用しやすさについて W3C が定める指針 WCAG 2.1 は、読むのに中等教育の前期、つまり学校教育で 7〜9 年目の水準を超える力が要る文章には、より平易な版か補足を用意するよう求めている。

資材審査やメディカルの現場でも、文書ごとに読み手と割合を決めておける。

文書読み手の集団決めておく線の例
患者向けの説明資材その薬を使う患者と家族大事な注意を 100 人中 90 人が見つけ、自分の言葉で言える
医療従事者向けの資材処方する医師・調剤する薬剤師その職種の大半が、承認された範囲を取り違えずに読める
社内研修の資料配属されたばかりの担当者新任者の 9 割が、説明なしに手順をたどれる
AI に作らせた解説や報告それを読んで決める上司や他部署読む人の 9 割が、何が変わったかを一度で言える

AI に下書きを頼むときにこの線を一緒に渡すと、審査の場で「分かりにくい」と差し戻す回数を前の段階で減らせる。どの線を採るかは社内の規程と読み手で決まり、AI が決めることではない。

06読み手を知らされない AI は、作業の文脈に合わせた水準で書く

AI の文章が難しくなりがちなのは、読み手を知らないからである。依頼に読み手が書かれていなければ、AI は手元にある情報から読み手を推し量る。手元にあるのは、それまでの長いやり取り、専門的な資料、作業中の呼び名である。その文脈に合わせると、文章は依頼した人には通じても、初めて読む人には通じない水準になる。

Anthropic が公開している Claude への指示の書き方の指針も、望む出力と制約を具体的に書くこと、指示の背景や目的を伝えることを勧めている。読み手の集団と割合は、その制約と目的を一度に伝える情報である。

数の目標には、AI が自分の文書を見直すための手がかりが入っている。「平均的な読み手の 90%」と決まっていれば、AI はその集団が知らない語を書き出し、長すぎる文を分け、省いた前提を補える。形容詞の目標では、この見直しの物差しが無い。

図 2 読み手を知らない AI が難しく書く理由
依頼に読み手が無い作業の文脈で推し量る長いやり取り・専門資料初めて読む人に通じない読み手と割合を書く見直しの物差しになる依頼に読み手が無い作業の文脈で推し量る長いやり取り・専門資料初めて読む人に通じない読み手と割合を書く見直しの物差しになる
AI は手元の文脈に水準を合わせる。読み手と割合を書くと、その水準を依頼した側が決められる。

ただし、AI にできるのはここまでである。AI は読み手の頭の中を測れない。90 人に届くかの最終の確かめは、人が読み手に近い人に読ませて行う。

07明日からは、読み手を一文で、割合を数で書き、近い人に読ませる

手順は四つある。

  1. 読み手の集団を一文で書く。「この資料は、配属 1 年目の営業担当者が読む」のように、職種や経験で言える集団にする。
  2. 割合を数で書く。「その 100 人中 90 人が、説明なしに分かること」と添える。「分かりやすく」は書かない。
  3. 止まる箇所を AI に書き出させる。下書きのあとで、その集団が意味を取れない語と、二度読まないと分からない文を一覧にさせ、直させる。
  4. 読み手に近い人に読ませる。2〜3 人でよい。大事な点を自分の言葉で言えるかを聞き、言えなかった箇所を AI に戻す。

最初の二つは、依頼文に 2 行を足すだけで済む。三つ目は AI に任せられる。四つ目だけは人が行う。ここを省くと、AI の見積もりをそのまま結果として扱うことになる。

図 3 明日からの 4 手順
読み手を一文で割合を数で100 人中 90 人止まる語と文をAI に書き出さ…近い人 2〜3 人に読ま…届かない箇所をAI に戻す読み手を一文で割合を数で100 人中 90 人止まる語と文を AI に書き出させる近い人 2〜3 人に読ませる届かない箇所を AI に戻す
最初の三つは依頼文と AI で済む。四つ目の確かめだけは人が行う。
Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 「分かりやすく」と頼む代わりに、読み手の集団と、そのうち何割が分かればよいかを数で渡す。合格の線が先に決まり、やり直しの理由を特定の箇所で言えるようになる。
  2. 数の目標は、読み手・割合・確かめ方・範囲の四つで決まる。専門家向けの文書では、型を残して集団を専門家に置き換える。
  3. AI は数を手がかりに語と文を見直せるが、理解した人の割合は測れない。最後は読み手に近い人に読ませて確かめる。
結語

「分かりやすく」は、頼む人の頭の中にある基準を、言わずに AI へ渡す言い方である。AI はその基準を知らないので、自分の文脈で分かりやすくする。読み手と割合を数で言えば、基準は依頼文の上に出てくる。製薬の世界には、患者向けの文書を「100 人中 90 人」に近い線で試してきた前例がある。同じ線を、AI に頼む日々の文書にも引けばよい。

出典·参考文献
  1. European Commission, Enterprise and Industry Directorate-General. Guideline on the readability of the labelling and package leaflet of medicinal products for human use. Revision 1, 2009. https://health.ec.europa.eu/system/files/2016-11/2009_01_12_readability_guideline_final_en_0.pdf
  2. W3C. Understanding Success Criterion 3.1.5: Reading Level. Understanding WCAG 2.1. https://www.w3.org/WAI/WCAG21/Understanding/reading-level.html
  3. Anthropic. Prompting best practices. Claude Developer Platform Docs. https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/claude-prompting-best-practices
この回の材料 運営者(2023 年 3 月から生成 AI を使用)が 2026 年 2 月以降に Claude と交わした依頼と判断の記録を匿名化し、個別の事情を外して「型」として一般化しました。発言の引用はしていません。出典に挙げたのは、型の背景を確かめるための公開資料です。