01運営者は、書き直しの指示と一緒に、指摘そのものの分析を AI に頼んだ

2026 年 9 月、運営者は AI が下書きしたコラムを読み、書き直しを指示した。理由は二つあった。文が冗長であること。そして、AI の話に入るまでの前置きが長すぎることである。

指示には、直し方の注文が並んでいた。最初に本質的な問いを立てる。意味づけをしてから、何が・どこで・なぜ・どう、の順に組み立てる。持ち帰る要点を三つにまとめ、最後に結論を置く。その骨組みは読者に見せない。図形を組み合わせた流れの図を三つ入れる。題をもっと具体的にする。

ここまでは、普通の差し戻しである。違ったのは最後の一文だった。運営者は、自分のこのコメントの本質を AI に言葉にさせ、同じ指摘を二度受けないための振り返りをして、それを記憶に残すよう求めた。

結果として、この指摘は一回きりの直しで終わらなかった。後のコラムの下書きが必ず従う書き方の決まりの、最優先の節として書き残された。この連載の各回が、最初の 2 文で AI の出来事と問いに入るのも、その決まりに従っている。

ここで確かめたいのは、指摘を規則に変えるこの一手が、誰でも繰り返せる型なのかどうかである。

図 1 指摘が規則に変わるまで
指摘冗長・前置きが長い本質を言葉にさせる何が変わるか・なぜか一文の規則にする次の原稿指摘の前に規則に沿う指摘冗長・前置きが長い本質を言葉にさせる何が変わるか・なぜか一文の規則にする次の原稿指摘の前に規則に沿う
直して終えるのではなく、指摘そのものを分析させると、次の原稿が指摘の前に変わる。

02直しは一件で終わり、規則は次の作業に先回りする

指摘への対応には二つの終わり方がある。目の前の原稿を直して終える方法と、指摘を規則にして終える方法である。

前者は早い。AI は言われた箇所を直し、その原稿は良くなる。ただし、次の原稿は同じ癖を持ったまま生まれる。後者は一手間かかる。そのかわり、次の原稿は指摘を受ける前から規則に沿って書かれる。

見るところ直して終える規則にして終える
効く範囲いま直した 1 本これから書かれるすべての原稿
次に同じ癖が出たときまた同じ指摘をする規則に反するかを確かめるだけ
指摘する人の頭の中毎回、言葉を探し直す一度書いた言葉を使い回す
かかる手間その場では小さいその場では大きく、2 回目から小さい

規則にするとは、指摘の宛先を「この原稿」から「これから書かれる原稿」に変えることである。

03同じ指摘を繰り返すたびに、指摘する人の時間が減っていく

同じ指摘を何度もするのは、思うより高くつく。一回ごとに、原稿を読み、違和感を探し、言葉にし、直った原稿をもう一度読む。直す量が同じでも、指摘する人の時間は回数の分だけ使われる。

もう一つの損は、言葉が回ごとにぶれることである。「冗長」と言った日と「前置きが長い」と言った日で、AI が受け取る中身は少し違う。指摘のたびに表現が変わると、AI はそれぞれを別の注文として扱う。

この連載の第 1 回から第 8 回では、もやもやした違和感を、AI が直せる言葉に変える方法を扱ってきた。字の間隔、段の並び、読者の水準、語の意味である。どれも一回の指摘を正確にする工夫だった。今回の主題は、その正確になった言葉を一回で使い捨てにしないことにある。

04規則とは、いつ・何をするか・なぜか、の三つを持つ一文である

指摘を規則に変えるには、指摘を二つの問いで割る。一つは「この指摘で、次の原稿の何が変わるのか」。もう一つは「なぜそう変えるべきだと言えるのか」。前者が規則の中身になり、後者が規則の理由になる。

1

指摘

何が嫌だったか

冗長だ、AI に行くまでが遠い、題がぼんやりしている、など、その場で出た言葉。

2

変わること

次の原稿で何を変えるか

最初の 2 文で出来事と問いに入る。題に固有名か数字を入れる。

3

理由

なぜそう言えるか

読者は最初の数文で読み続けるかを決める。具体的な題でないと中身が予想できない。

4

規則

いつ・何をするか・なぜか

コラムを書くときは、最初の 2 文で AI の出来事と問いを出す。読者が早く本題に入れるからである。

規則にしなくてよい指摘もある。その原稿にしか当てはまらない事実の誤り、一度だけの好みの変更などである。目安は二つある。同じ指摘を 2 回したとき。あるいは、その指摘が今後の原稿にも当てはまると分かったときである。

規則は、条件と行動と理由を一文に収める。条件が無いと、当てはまらない場面にまで広がる。理由が無いと、書いていない場面で判断がつかない。

05資材審査では、差し戻しの理由を規則にすると次の資材で効く

資材審査の現場は、同じ指摘を繰り返しやすい場所である。効能の書き方、比較の示し方、副作用の扱いなど、指摘の多くは資材をまたいで似た形で出る。審査の担当者が AI に資材の下書きや見直しを任せ始めると、AI に対しても同じことが起きる。

例として、AI が書いた下書きに「この形容は誇張に読める」と三度返したとする。三度目で止まり、AI にその指摘を分析させる。次の原稿で何を変えるのか。程度を表す形容は、根拠となるデータの範囲に合わせる。なぜか。根拠を超える表現は、読み手に効果を大きく見せるからである。この形にすると、次の資材の下書きは、指摘の前に規則に照らして書かれる。

製薬企業の品質の仕組みには、もともとこの考え方がある。医薬品の品質システムの国際指針である ICH Q10 は、苦情や逸脱の調査から是正措置と予防措置を導く仕組みを求め、調査では根本原因を見つけることを目的にせよと書いている。指摘を規則にするのは、AI との仕事に同じ順序を持ち込むことである。

ただし、規則にした後も、最後に判断するのは人である。規則に沿って書かれた原稿でも、規則が想定していない表現は出てくる。規則は見直しの手間を減らすが、見直しそのものを消しはしない。

06AI は指摘を次の会話へ持ち越さず、理由のない規則は場面が変わると外れる

同じ指摘が繰り返される理由は、AI の仕組みにある。Anthropic の Claude Code の説明書によれば、作業の会話は毎回、何も覚えていない状態から始まる。前の会話で受けた指摘は、どこかに書き残されていない限り、次の会話には届かない。

同じ説明書は、会話をまたいで知識を運ぶ方法として、利用者が書く指示のファイルと、AI が利用者の訂正から書き残す記録の二つを挙げている。どちらも毎回の会話の始めに読み込まれる。そして、指示が具体的で短いほど、AI はそれに一貫して従う、と書いている。

理由を添えることにも根拠がある。Anthropic のプロンプトの指針は、指示の背景や理由を説明すると、AI が目的を理解しやすくなると書いている。例に挙がっているのは、省略記号を使うなという指示である。回答が読み上げ用の音声に変換されるので省略記号は読めない、と理由を添えた形のほうが効く。AI はその説明から一般化できる、とも書いている。

研究でも同じ方向の結果が出ている。2023 年の Reflexion という研究では、言語モデルの作業者が失敗の後に振り返りを文章で書き、それを記憶に残して次の試行で読むようにした。モデル自体は作り変えていない。それでもプログラムを書く課題で、最初の答えの正答率が 91% に達した。比べた GPT-4 の値は 80% だった。

図 2 指摘の残し方で、次の会話が変わる
指摘を受けた AI直すだけ次の会話で消える理由のない規則場面が変わると外れる理由つきの規則を保存新しい場面にも当てはめられる指摘を受けた AI直すだけ次の会話で消える理由のない規則場面が変わると外れる理由つきの規則を保存新しい場面にも当てはめられる
AI は会話をまたいで覚えていない。毎回読み込まれる場所に、理由つきで残したものだけが次に効く。

07明日からは、同じ指摘を 2 回したら、AI に分析させて規則にし、置き場所を決める

手順は四つある。

  1. 2 回目で止まる。同じ種類の指摘を 2 回したら、原稿を直させる前に、指摘そのものを分析させる。
  2. 二つの問いで割らせる。「この指摘で次の原稿の何が変わるか」と「なぜそう言えるか」を、AI に書かせる。
  3. 一文の規則にさせる。いつ・何をするか・なぜか、の三つを入れる。読み返し、自分の意図とずれていれば直す。
  4. 置き場所を決める。毎回読み込まれる指示のファイルや、作業の決まりを書いた文書に書き足させる。会話の中に残しただけでは、次の会話に届かない。

規則は増やしすぎない。説明書も、指示のファイルが長くなるほど従われにくくなると注意している。同じ趣旨の規則が増えたら、一つにまとめさせる。守られない規則があれば、条件か理由が足りないかを確かめる。

図 3 明日からの 4 手順
2 回目で止まる二つの問いで割らせる何が変わるか・なぜか一文の規則にさせるいつ・何を・なぜ置き場所を決める毎回読み込まれる所2 回目で止まる二つの問いで割らせる何が変わるか・なぜか一文の規則にさせるいつ・何を・なぜ置き場所を決める毎回読み込まれる所
規則は増やしすぎない。似た規則はまとめ、守られない規則は条件と理由を見直す。
Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 同じ指摘を 2 回したら、原稿を直させる前に、指摘そのものを AI に分析させる。直しは 1 本で終わり、規則はこれからの原稿すべてに効く。
  2. 指摘を「次の原稿で何が変わるか」と「なぜそう言えるか」に割り、いつ・何をするか・なぜか、を持つ一文の規則にする。理由があると、AI は書いていない場面にも当てはめられる。
  3. 規則は、毎回読み込まれる場所に書き残させる。AI は会話をまたいで指摘を覚えていないので、置き場所が無い規則は次の会話で消える。
結語

AI への指摘は、一回ごとに使い捨てると、同じ言葉を何度も探し直すことになる。指摘の中身と理由を AI に言葉にさせ、規則として残せば、次の原稿は指摘の前に正しく書かれる。指摘する人の仕事は、直すことから、決まりを育てることに移る。次の回では、この連載で言葉にしてきたもやもやが、記録の中で何に変わったかを数えて振り返る。

出典·参考文献
  1. Anthropic. How Claude remembers your project. Claude Code Docs. https://code.claude.com/docs/en/memory
  2. Anthropic. Prompting best practices. Claude Developer Platform Docs. https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/claude-prompting-best-practices
  3. Shinn, N., Cassano, F., Berman, E., et al. Reflexion: Language Agents with Verbal Reinforcement Learning. arXiv:2303.11366, 2023. https://arxiv.org/abs/2303.11366
  4. ICH. Pharmaceutical Quality System Q10. ICH Harmonised Tripartite Guideline, 2008. https://database.ich.org/sites/default/files/Q10%20Guideline.pdf
この回の材料 運営者(2023 年 3 月から生成 AI を使用)が 2026 年 2 月以降に Claude と交わした依頼と判断の記録を匿名化し、個別の事情を外して「型」として一般化しました。発言の引用はしていません。出典に挙げたのは、型の背景を確かめるための公開資料です。