01記録の 14 件の多くは、1〜2 回の発言で測れる要求に変わっていた
記録に残る 2026 年 2 月から 9 月までの Claude とのやり取りを数えると、もやもや語を含む依頼は 14 件あった。もやもや語とは「なんか」「もっと」「かっこよく」「冗長」「わからない」のように、感じたことは伝わるが、合格の線が引けない言葉を指す。
14 件の多くは、そのままでは終わらなかった。次の 1〜2 回の発言で、数で測れる属性か、順序や数を決めた構造の要求に置き換わっていた。すべてではない。ただ、置き換えが起きた件では、AI が何を直せばよいかが言葉の上で決まった。
この回では、その置き換えを一覧にする。結論は三つある。もやもや語は最初の発言で出してよい。次の発言で「何を何に変えれば合格か」に直す。直し先は、属性か構造のどちらかにほぼ収まる。
02もやもや語の行き先は、測れる属性と、決まった構造の二つに分かれる
記録から、もやもや語と、その次に出た要求を並べる。左がもやもや語、中央がその後の発言で言い直された中身、右が置き換え先の型である。
| 最初の言葉 | その後に言い直された要求 | 置き換え先 |
|---|---|---|
| 英語版の字を「かっこよく」 | 字と字の間が広い。詰まった字形にする | 属性(字の間隔) |
| 題が「ちょっと大きい」 | ポータルの題の文字を小さくする | 属性(大きさ) |
| 読み上げるだけの説明は「無意味」 | 各スライドで「なぜ重要か」「具体的にどういうことか」を語る | 構造(説明の順) |
| 報告が「何を言っているのかわからない」 | 読者の 100 人中 90 人が分かる水準にする | 属性(読者の水準を数で) |
| 初見で「よくわからない」記号と造語 | 初見の人が読めない記号と造語を残さない | 属性(残す数をゼロに) |
| 原稿が「冗長」で、AI の話まで「遠すぎる」 | 最初に問い、次に意味、7 節の順、要点 3 つ、結論、図 3 つ | 構造(順序と数) |
属性とは、一つの値で合否が決まる性質である。字の間隔、文字の大きさ、分かる人の割合、残る記号の数がこれにあたる。構造とは、部品の順序と数である。どの話を先に置くか、節をいくつにするか、要点をいくつ挙げるかがこれにあたる。
03もやもや語のまま止めると、AI は推測で埋め、直しが往復する
もやもや語は、言った人の受け止め方を表す。「かっこよく」は字の性質ではなく、字を見た人の感想である。AI が直せるのは字の性質のほうであり、感想そのものは直せない。
そのため、もやもや語だけを受け取った AI は、どの性質を変えるかを推測で選ぶ。記録の 9 月の例では、英語版の字を「かっこよく」と頼んだ時点では、書体の種類を変えるのか、太さか、間隔かが決まっていなかった。次の発言で、字と字の間が広いことだと言い直され、直す性質が一つに定まった。
推測が外れるたびに、読む、違和感を探す、言い直す、という往復が 1 回増える。往復の数は、もやもや語を測れる言葉に直すのが遅れた分だけ増える。
要求の書き方を扱う技術文書も、同じ点を戒めている。NASA の要求の書き方の手引きは、「易しい」「十分な」「適切な」のような、達成を確かめられない語を避けるよう求め、達成を測る手段があるかを確かめさせる。Anthropic の評価の手引きも、「良い性能」ではなく何をどこまで達成するかを、数か一定の尺度で書くよう勧めている。
04もやもや語とは、受け手が合否を決められない評価の語である
この回では範囲を決めておく。もやもや語とは、評価を表すが、受け手がその語だけでは合格か不合格かを決められない語である。「なんか」「もっと」「ちょっと」「センス」「冗長」「わからない」が典型である。
もやもや語は悪い言葉ではない。違和感があることを最も早く伝える合図である。問題になるのは、合図のまま次の発言まで残ることだけである。
置き換え先は、記録ではおおむね四つの形に分かれた。
見た目の属性
字の間隔、文字の大きさ、行の長さ。「広い」「大きい」を、どちらに動かすかで言う。
読み手の水準
「わからない」を、100 人中何人が分かればよいかに直す。
残してよい数
説明のない記号や造語を何個まで許すか。多くはゼロにする。
並びと数
「冗長」「遠い」を、何を先に置き、節や要点をいくつにするかに直す。
この範囲に入らないものもある。AI が使った言葉の意味が分からないとき、たとえば契約や処理の方式を指す専門語が出てきたときは、もやもや語ではない。そのときに要るのは置き換えではなく、意味を聞くことである。
05資材審査の指摘でも、「強い」「わかりにくい」を測れる言葉に直すと AI に任せられる
製薬企業の資材審査でも、もやもや語はよく出る。「表現が強い」「わかりにくい」「有効性と安全性のバランスが悪い」。人どうしなら、経験を共有しているので、これで通じることがある。AI には通じない。
AI に資材の下読みや書き直しを任せるなら、同じ指摘を属性か構造に直して渡す。「強い」は、どの文のどの形容詞・副詞が、添付文書や試験成績のどの記載を超えているか、に直せる。「バランスが悪い」は、安全性の情報を有効性と同じ紙面に、同じ大きさで置く、という並びと属性に直せる。「わかりにくい」は、想定する読み手と、その何割が分かればよいかに直せる。
直した言葉は、審査の担当者どうしでも使える。指摘の根拠が測れる形で残るので、作成者に差し戻すときも、なぜ直すのかを説明しやすくなる。
06違和感は比べる物があって初めて言葉になるので、置き換えは 2 回目に起きる
記録で置き換えが「次の 1〜2 回の発言」で起きていたことは、次のように説明できる。最初の依頼の時点では、比べる物がない。違和感はまだ、何かが違うという感覚でしかない。
AI が最初の案を返すと、比べる物ができる。字が並んだ画面、仕上がった原稿、読み上げの音声である。それを見て初めて、「間が広い」「前置きが長い」のように、どこがどう違うかを言える。
このことから、最初からもやもや語を消そうとする必要はない。消そうとして依頼が遅れるより、もやもや語のまま出して最初の案を受け取り、それと比べて言い直すほうが早い。大事なのは、2 回目の発言をもやもや語で繰り返さないことである。「もっとかっこよく」を 2 回言っても、AI の推測が増えるだけである。
Anthropic の指示の書き方の手引きは、文脈を知らない同僚に依頼文を見せ、迷うようなら AI も迷う、と書いている。2 回目の発言は、その同僚が迷わない言葉で書く。
07明日からは、2 回目の発言で「何を何に変えれば合格か」を言う
手順は四つある。
- 最初はもやもや語のまま出す。違和感を言葉にできるまで依頼を止めない。
- 最初の案と比べ、違う所を一つ指す。画面のどこ、原稿のどの段落かを決める。
- 属性か構造かを選ぶ。属性なら値か割合、構造なら順序か数で言う。「何を何に変えれば合格か」の形にする。
- 置き換えの対応を書き残す。「かっこよく → 字の間隔を詰める」のように、自分のもやもや語と行き先を一覧にしておく。次からは最初の発言で使える。
自分で置き換えられないときは、AI に手伝わせてもよい。「この依頼のあいまいな語を挙げ、それぞれ測れる言い方の候補を二つずつ出して」と頼めば、属性と構造の候補が返ってくる。どれを選ぶかは自分で決める。
- 記録では、もやもや語を含む依頼 14 件の多くが、次の 1〜2 回の発言で、測れる属性か、順序と数を決めた構造の要求に変わっていた。
- もやもや語は言った人の受け止め方を表すので、そのままでは AI は推測で直す。測れる言葉に直すのが遅れた分だけ、往復が増える。
- 最初はもやもや語で出してよい。最初の案と比べて違う所を指し、2 回目の発言で「何を何に変えれば合格か」を言い、その対応を一覧に残す。
この連載の第 1 回から第 9 回は、字の間隔、段の並び、読者の水準、語の意味など、一つひとつの置き換えを扱ってきた。14 件を並べると、それらは同じ形をしている。違和感を最初の発言で出し、AI の案と比べ、次の発言で属性か構造に直す。言語化とは、もやもや語を使わないことではなく、もやもや語を 2 回目まで持ち越さないことである。
- NASA. Appendix C: How to Write a Good Requirement. NASA Systems Engineering Handbook. https://www.nasa.gov/reference/appendix-c-how-to-write-a-good-requirement/
- Anthropic. Define success criteria and build evaluations. Claude Developer Platform Docs. https://platform.claude.com/docs/en/test-and-evaluate/define-success
- Anthropic. Prompting best practices. Claude Developer Platform Docs. https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/claude-prompting-best-practices