
2026年10月5日、米ユタ州のAI政策室は医療AIの試験枠を広げ、外部の評価者6者を置いた。では、外部の評価者がいれば、AIに任せてはならない判断も決まるのか。評価者が確かめるのは、AIが開発者の主張どおりに動くかどうかだ。AIに禁じる判断は州が協定ごとに書いており、一般の規則はまだ無い。
01ユタ州の評価者は開発者の主張を確かめ、AIに禁じる判断は協定に書かれる
ユタ州が置いた外部の評価者6者は、AIが開発者の言うとおりに動くかを調べる。6者には、医療AIの基準づくりを進める団体 Coalition for Health AI が入った。Stanford 大学の臨床研究センターも、評価者6者に入った。
評価者の側には、AIに何を禁じるかを決める仕事が無い。処方の更新を扱う試験では、AIに新しい処方を書かせないと決めてある。用量の変更も禁じている。この決まりを書いたのは、州と開発会社が結んだ協定である。
評価と禁止事項は、別々の文書に載っている。紙が二枚あるということだ。AIを仕事に入れる人は、二つの文書を探すことになる。一つは評価の報告で、もう一つはAIに禁じることを書いた文書だ。評価の報告と禁止事項の文書は、ユタ州の発表でも別々に読む必要がある。
02州との協定は、罰金を軽くするなどの特例を最長12か月認める
ユタ州と開発会社が結ぶ協定は、2024年の州法 SB 149 に基づく。この州法はユタ州のAI政策法と呼ばれ、AI政策室を置いた。同じ州法は「学習ラボ」も作った。学習ラボは、AIの試験で分かったことを州の規制に生かす仕組みだ。
ユタ州の法律は、AIの試験で罰金などを緩めることを「規制の緩和」と呼ぶ。規制の緩和には、試験に参加している間の罰金を軽くすることが含まれる。期限もある。最初の協定は、12か月を超えて続けられない。
ユタ州には、罰金を軽くするだけでなく、処分そのものを止めた協定もある。1月に医療AIの会社 Doctronic は、処方の更新にAIを使う協定を州と結んだ。法律事務所の Polsinelli がこの協定を分析した。分析によると、Doctronic が条件を守る間は、違法な行為があっても州は処分しない。
医療AIの試験はいま、外部の評価者が確かめ始めた段階にある。試験の結果をもとに州が規則を書く段階には、まだ届いていない。
03ユタ州は薬の更新処方、ニキビ、産後の理学療法でAIを試す
ユタ州は今回、三つの診療でAIを試す。この試験でも、州は罰金や処分を緩める協定を結んだ。三つの試験を表に並べる。
| 見るところ | August AI | Nolla Health | Expect Fitness |
|---|---|---|---|
| 扱う診療 | 既に処方された医薬品の更新 | 軽い〜中等度のニキビの遠隔診療 | 産後などの骨盤の理学療法 |
| AIにさせないこと | 新しい処方・用量の変更・薬の置き換え | 報道に記載なし | 報道に記載なし |
| 人と外部の関与 | 外部評価者の確認を追加 | 州内の皮膚科医が監督 | 報道に記載なし |
AIに禁じる行為まで報道が伝えたのは、August AI だけだった。August AI は、処方の更新を受け持つAIを作っている。地元局の FOX 13 によると、このAIは新しい処方を書かない。薬の量を変えず、別の薬に置き換えることもしない。
AI Weekly によると、ニキビを扱う Nolla Health では、初めのうち臨床医がAIの判断を見直す。ただ、Nolla Health のAIが何を禁じられているかは、報道に出ていない。
製薬に関わるのは、August AI の試験だ。この試験では、AIが薬の更新処方を受け持つ。報道から言える製薬との接点は、この一つしかない。
04病院は、2035年に医療の担い手が最大4割減ると見込んでいる
ユタ州と病院は、10月5日の発表で、医療AIの試験を急ぐ理由を語った。下に、話した人ごとに理由を並べる。
担い手の不足
病院グループ Intermountain Health の幹部 Liljenquist は、医療提供者の最大40%が2035年までに去ると見込む。
低リスクから始める
Boyd室長は、ニキビをほかの病気に比べて多く、比較的低リスクだと説明した。
連邦への展開
州議会上院の院内総務 Cullimore は、ユタ州の方式を連邦でも使うことに関心を示した。
医療提供者が最大40%減るという数字は、病院グループ Intermountain Health の見込みだ。州が出した統計ではない。それでも、医師や療法士が足りなくなるという見方は、州の長官も共有している。
州商務局の長官 Busse は、うまくいけば受診しやすくなり、費用も下がると述べた。州は、医師が減っても患者が診察を受けられるようにしたい。
AI政策室の Boyd室長がニキビを選んだのは、患者が多く、危険が比較的小さいからだった。私の読みでは、危険の小さい病気から始めれば、AIが誤ったときの害も小さく抑えられる。ニキビを低リスクと決めた基準は、どの報道にも書かれていない。
05外部の評価者6者は、開発者の説明とAIの判断の記録を調べる
危険の小さい病気で始めた試験は、外部の6者が確かめる。AI Weekly によると、評価者の仕事は三つに分かれる。
一つ目に、評価者は開発者が出した技術の説明を検証する。二つ目に、AIが下した判断の記録を監査する。三つ目に、評価者は医学の基準に照らしてAIを評価する。
AI政策室の Boyd室長は、AI開発者の主張はすべて独立に確かめられると述べた。Vega Health は評価者の一つだ。Vega Health の代表 Sendak は、製品が州の求める証拠の水準に届くかを試すと述べた。
どの会社を試験に入れるかは、州が決める。医師の側も関わり方を変えた。ユタ州の医師免許委員会は、1月に始まった処方更新の試験を批判していた。州が委員会に意見を聞かずに試験を始めたことが、批判の理由だった。
ユタ州の医師免許委員会はいま作業部会を置き、医療AIの試験の審査を手伝っている。委員の Hamilton 医師は、作業部会ができてもAIの試験をまとめて認めはしないと述べた。
外部の評価者が行うのは、AIが主張どおりに動くかの検査だ。AIに何を禁じるかを書くのは、州と医師たちだ。
06評価の報告、AIの禁止事項、誤りの処分は別々の文書にある
外部の評価者が調べた後も、AIを入れる人には分からない点が三つ残る。三つの点は、どれもAIの評価の報告には書かれていない。
外部の評価を通っても、AIに任せてよい範囲は分からない
外部の評価者が確かめるのは、開発者の主張が正しいかどうかである。評価者の仕事は、説明の検証と記録の監査と医学の基準での評価だった。AIにどこまで任せるかを決める仕事は、評価者の仕事に入っていない。
評価済みという報告を読んでも、AIに任せてよい範囲は書かれていない。AIを入れる人は、AIに任せてよい範囲を評価の報告以外の文書で探す。
AIに禁じる判断は、会社ごとの協定に書かれる
州商務局の Busse長官は、AIにどこまで任せるかを問われて答えた。「AIの能力は速く変わっていて、その答えはまだ分からないと思う」。Busse長官は、AIを使う場面のどこかに必ず人を置きたいとも述べた。
新しい処方をAIに書かせない決まりも、August AI の協定の中にある。医療AIの新しい試験が始まるたびに、州はAIの禁止事項を新しく書く。
試験の間にAIが誤っても、州が会社を処分しないことがある
試験の間は罰金を軽くできると、ユタ州の州法は定めている。法律事務所の分析では、医療AIの Doctronic は条件を守れば州の処分を受けない。
試験の途中でAIが誤った判断をしても、州が会社を処分しない場合がある。AIが誤ったときにどうなるかは、協定の条項に書かれている。AIの評価の報告には、誤りへの処分は書かれていない。
評価は主張の検証
評価の報告を読んでも、AIに何を任せてよいかは分からない。
禁じる判断は協定ごと
Busse長官は、AIに任せる範囲の答えはまだ無いと述べた。禁止事項は、会社ごとの協定に書かれている。
処分の見送り
ユタ州の法律では、AIの試験に参加する会社の罰金を軽くできる。ユタ州は1月の処方更新の協定で、違法な行為への処分を条件付きで見送った。
評価の報告を読んでも、AIに任せる範囲や禁止事項は分からない。導入する人は、協定と州法の条項を読む必要がある。
07州の規則ができるかどうかは、12か月の試験が終わるまで分からない
いま医療AIの禁止事項は、会社ごとの協定に一つずつ書かれている。ユタ州が禁止事項を州の規則にまとめるかどうかは、まだ決まっていない。
試験の結果は、毎月と毎年の報告で州へ届く。試験に加わる会社は、毎月の数値を州に報告する。AI政策室は、毎年11月30日までに州議会の委員会へ報告する。
州の議員たちは、試験の結果を今後の法律づくりに使うと述べた。挙がった項目は、責任の所在や患者のプライバシー、免許を持つ専門職の役割などだった。州議会上院の院内総務 Cullimore は、ユタ州のやり方を連邦でも使うことに関心を示した。連邦での計画は、まだ何も決まっていない。
報道を見る限り、州の規則に禁止事項を書くと約束した人はまだいない。州商務局の Busse長官も、AIに任せる範囲はまだ分からないと述べている。12か月の協定の後に州が規則を書くかどうかは、まだ誰も約束していない。
州の規則ができる前でも、AIを仕事に入れるかどうかは決めなければならない。下の図は、ユタ州の例から考えた、AIを仕事に入れる前に読む文書の順番だ。
AIが評価を受けたかどうかは、最初に見る点にすぎない。AIの禁止事項が書かれていなければ、私はAIの導入をそこで止める。私はAIの開発会社に禁止事項を書いてもらい、それから次の文書へ進む。
- ユタ州は2026年10月5日、外部の評価者6者を置いた。評価者が確かめるのは、AIが開発者の説明どおりに動くかどうかだ。評価の報告には、AIにどの仕事を任せてよいかは書かれていない。
- 新しい処方や用量の変更をAIにさせない決まりは、August AI の協定の中にある。州の長官は、AIに任せる範囲の答えはまだ無いと述べた。AIを入れる人は、会社ごとの協定でAIの禁止事項を読む必要がある。
- 2024年のユタ州法では、AIの試験の間は罰金を最長12か月軽くできる。ユタ州は1月の処方更新の協定で、違法な行為への処分を条件付きで見送った。AIが誤ったときにどう扱うかは、評価とは別の条項に書かれる。
外部の評価者は医療AIを確かめる。しかし、AIに任せてはならない判断を決めるのは評価者ではなく州だ。AIに禁じることは、会社ごとの協定に書かれている。
AIを仕事に入れる人は、AIが評価を受けたかを確かめる。それとは別に、AIに禁じることを書いた文書を探す。AIが「評価済み」と聞いたら、私はAIに禁じることを書いた紙を探す。
- KPCW / Utah News Dispatch. Utah's new agreements could bring AI to more healthcare processes. 2026-10-06.(10月5日の発表、三つの試験、Intermountain Health の担い手不足の見込み、Cullimore の連邦への関心)
- AI Weekly. Utah expands health AI sandbox, names six outside auditors. 2026-10-06.(外部評価者6者と役割、Boyd室長の発言、毎月の数値報告と州議会への報告)
- FOX 13 News Utah. Utah launches health care AI push with new clinical pilots, outside evaluators. 2026-10-05.(August AI にさせない判断、Busse長官の発言、医師免許委員会の作業部会、州の権限)
- Route Fifty / Utah News Dispatch. AI may soon be in more healthcare processes in Utah under new state agreements. 2026-10-06.(ニキビを低リスクとして選んだ理由、先行した処方更新の試験への批判)
- Utah State Legislature. S.B. 149 Artificial Intelligence Amendments (Enrolled Copy). 2024.(規制の緩和の定義と、最初の協定の期間が12か月以内であること)
- Polsinelli. Utah Approves AI for Prescription Refill Process as States Test AI Governance Models. 2026-01-30.(1月の処方更新の協定で、条件を守る限り州が処分を見送ることの分析)
