伸びない働き手と、25%の生産性
主張の出発点は、働き手の母数がもう伸びないという現実にある。同社の試算では、米国の労働力は今後10年で約3.5%しか増えず、企業は今のペースで経済に追随するだけでも約25%の生産性向上が必要になるという。人の数で解決していた時代の終わりを前提に、人事の在り方を組み直す──それが HR 2030 だ。
Josh Bersin はこれを製品ではなく「オペレーティングモデル」だと強調する。「2030年までに、人事はサービス機能よりも、ビジネス成長のオペレーティングシステムのように見えるようになる」と述べ、多くの人が知る人事部とはまったく姿が違うと断る。
スーパーワーカー、スーパーマネージャー、スーパーエージェント
この模型の中心にいるのは、AIエージェントに仕事を任せて単独では不可能な価値を出す「スーパーワーカー」、人とエージェントの両方を編成する「スーパーマネージャー」、そして会社の歴史や文化、成功の型を学んで採用・異動・報酬の判断を導いたり実行したりする「スーパーエージェント」の3つだ。
人事部門自体も、小型で平たくなり、業務家族は12領域から6領域へ再編されるという。求められる能力はデータリテラシー、AIの運用力、事業理解へ移り、人事とITは技術の全体計画とガバナンスを一緒に担う。人事の使命は、従来の「人に関するあれこれ」から「成長のための動的な支援」へ置き換わる。
着手順序: 行列で4つの入口を見つけ、3段階で進める
プレイブックは、まず人事機能を2軸の行列に置くところから始まる。今どこに人の頭数が沈んでいて、どこでAIの伸びしろが大きいかを区切り、(1)HRサービス提供、(2)HRビジネスパートナー支援、(3)採用と社内移動、(4)全社学習と能力開発──の4領域を変革の入口に選ぶ。報酬や人材マネジメントは後から接合する。
進め方は3段階で、初めに共通のエージェント基盤に投資して4領域で試す。次に、採用が個別最適化された学習につながるといった、勝ちを大きな仕組みへ配線する。最後に、市場の変化を察知して人とエージェントを「四半期ではなく数日で」組み替える動的な計画へ広げる。
ここで繰り返し警告されるのが「エージェントの乱造」だ。つながりのない道具が各部門にばら撒かれると、2030年の人事は今の官僚制の「より速く、より高価な版」にしかならない、と著者は論す。
計測も入れ替わる
採用単価や埋まるまでの日数、頭数比率といった効率の物差しは、成長の物差しに置き換わる。従業員一人当たりの売上、能力を現場に届ける速さ、市場投入までの時間、高価値の仕事に解放された容量── HR 2030 では、これらが人事の成績表になる。
見通しは両刃だ。組織図をエージェントの能力を軸に描き直した会社は、5〜7年で従業員一人当たりの売上を倍にできる。一方、失敗する会社は速くて高い官僚制を抱えるだけ。CHRO はこの変化のただ中に置かれており、従業員・派遣・契約者・エージェントが混在する職場の編成を任される、とされる。
この特集を閉じる3つの問い
- 日本の人事部門は、この行列を自社に描いたとき、最初の4領域に何を選ぶのか。
- エージェントを「道具」として買うのではなく「基盤」として組むとき、最初の投資判断は誰がどう下すのか。
- 従業員一人当たりの売上を人事の成績表にするとき、人事は何を手放し、何を新たに担うのか。