予測は当てることより、外れ方から学ぶことに意味がある。この記事は前回の予測を、当たったもの、形を変えたもの、まだ分からないものに分ける。使うのは、出典の頁を開いて確かめられた事実だけだ。

前回の記事: 2027年の求人票を先読みする(2026年7月3日)

01答え合わせの作法 — 何を「当たり」とするか

判定は三つに分ける。「確かめられた」は、予測した方向を直接示す事実があるもの。「形を変えた」は、方向は合っていたが、担い手や時期が予測と違ったもの。「まだ分からない」は、判定に足る数字がまだ無いものだ。

限界も先に書いておく。特定の職名の求人件数は、多くが公開されていない。二次的な記事にしか出てこない数字や、元の頁を開けなかった数字は使わない。そのため、話題になった数字のいくつかは、この記事に載っていない。

02第一の系譜: AI出力の監査 — 責任は人に残った。担い手は経営層だった

前回は、AIが起案した成果物を監査し、署名に責任を持つ仕事が生まれると予測した。責任が人に残るという点は、規制と実務の両方で確かめられた。

EUのAI法(=2024年に成立した欧州のAI規制法)の第14条は、高リスクのAIを「自然人が実効的に監督できる」ように設計することを求めている。2026年1月には、米国食品医薬品局(FDA)と欧州医薬品庁(EMA)が、医薬品開発でのAI利用の指導原則を共同で出した。原則6は、データの出どころ、処理の手順、分析の判断を、追跡でき、検証できる形で記録するよう求めている。前回、監査証跡(=いつ・誰が・何を根拠に承認したかの記録)の設計が仕事になると書いたが、その根拠が当局の文書に入った。

監査法人の動きもある。EYは2026年4月、監査業務にエージェント型AI(=人の細かい指示なしに複数の手順をこなすAI)を世界の監査部門で使い始めると発表した。対象は監査の専門家13万人、監査業務16万件で、EYは「人の判断、懐疑心、洞察の根本的な役割を保つ」としている。PwCは2025年6月から、AIシステムそのものを独立に保証する業務を始めている。担うのはAIと機械学習の専門家のチームだ。

形を変えた点もある。KPMGが2026年5〜6月に米国の大企業の経営幹部を対象に行った調査(技術業界の報告)では、AIを使った判断の責任の置き場所として、61%が「名前のある経営幹部」を挙げた。中央のAIガバナンス委員会は6%だった。責任は人に残ったが、担い手は専任の監査人というより経営層だった。同じ調査では、AIエージェントの導入の壁として、67%が「人による監督の技能」を挙げている。監督する人は足りていない。

03第二の系譜: 文脈供給 — 仕事は語られ始めた。職名はまだ確かめられない

前回は、社内の知識をAIが読める形に整える仕事が、プロンプトエンジニアより長く続くと予測した。この予測は「まだ分からない」に置く。

データ管理の製品を売るAtlanは、2026年3月の記事でこう書いた。「多くの組織にはコンテキストエンジニアリングの作業が必要だ。その名前を職名に持つ人が必要な組織は少ない」。作業の必要は語られている。しかし、コンテキストエンジニア(=AIに渡す背景情報を設計する職)という職名の求人件数を示す公開のデータは、今回は見つけられなかった。

仕事が先に生まれ、名前が後から付く。前回書いたこの順序のとおりなら、いまは名前の付く前の段階にある。職名で数えられるようになるまでは、当たりとも外れとも言えない。

04第三の系譜: 橋渡し — いちばん強い証拠が出た

前回は、複数のAIの分担を設計する仕事、AIの判断を規制や監査に説明する仕事、医薬品の安全監視でAIと評価医師をつなぐ仕事を予測した。三つのうち、最初の仕事にもっとも強い証拠が出た。

KPMGが2026年9月24日に出した第3四半期の調査では、AIエージェントを構築・導入・開発している組織が62%になり、前の四半期の53%から増えた。複数のエージェントを組み合わせる仕組みを開発・導入している組織は25%で、その前の二つの四半期はどちらも6%だった。複数のAIの分担と差し戻しを設計する仕事の需要は、この数字の上に乗っている。

求人の数字も出た。Lightcastによると、米国の求人のうちエージェント型AIの技能を挙げる割合は、2024年の0.06%から2025年の0.23%に増え、米国だけで約9万件にあたる。Indeedのインドの集計では、フォワードデプロイドエンジニア(=顧客の現場に入り、AIを業務に組み込む技術者)の求人が、2025年6月から2026年6月に約19倍になった。ただし前年比は7月に約16倍、8月に6倍強と、伸びは夏に鈍っている。

ここにも形の変化がある。前回は「AIオーケストレーション担当」という名を挙げたが、数字で伸びが見えた職名は、現場に入ってAIを組み込む技術者のほうだった。

規制に説明する仕事は、根拠の法律が確かめられた一方で、時期が延びた。EUのAI法を改める「デジタル・オムニバス」が2026年7月27日に発効し、高リスク用途(附属書III)の義務は2026年8月2日から2027年12月2日に、規制対象の製品に組み込むAI(附属書I)は2028年8月2日に移った。前回の見通しの2027〜2029年の範囲には収まるが、需要が立ち上がる時期は1年以上後ろにずれた。

医薬品の安全監視については、国際医学団体協議会(CIOMS)の作業部会が2025年12月に報告書を出した。報告書は、効率と費用の目標だけで自動化を進めると、「人が工程に入っていることで生まれる価値を失う」おそれがあると警告している。一方で、安全監視の製品を売るArisGlobalのJason Bryant氏は、2026年8月の寄稿で「人の監督があるだけでは、出力の信頼性は保証されない」と書いた。同氏は、確信度の低い出力に人の確認を絞る考え方を挙げ、それにはまだ当局の受け入れが要るとしている。AIと評価医師をつなぐ仕事は、すべてを確かめる仕事から、どこを確かめるかを設計する仕事へ重心が移りつつある。

05資格 — 民間の認定が先に増えた。国の資格は別の国で生まれた

前回は、国の資格は2029年までに間に合わず、社内研修から民間の認定へ進むと予測した。民間の認定が先に増えている点は確かめられた。

情報システムの監査の団体ISACAは、2025年5月に「Advanced in AI Audit(AAIA)」を始めた。経験のある監査人向けの、AIの監査に特化した上級の認定で、受験にはCPA、CISA、CIAのいずれかが要る。同じISACAは、AIのリスク管理の認定「Advanced in AI Risk」を2026年4〜6月に始めると発表している。どちらも、取得者の数は公表されていない。

形を変えた点もある。台湾の経済部は2025年1月、国によるAI応用の企画者の認定試験を始めると発表した。国の資格が間に合わないという見立ては、国によって外れうる。また、EUのデジタル・オムニバスは、組織に求めるAIリテラシーの義務を「AIリテラシーを支える措置を取る」ことへ弱めた。研修と認定を規制が押し上げる力は、前回の想定より弱い。

06見えてきた空白 — 境界の仕事は経験者向けで、若手の入口が細った

前回の記事が書いていなかったことがある。境界に生まれる仕事に、誰がどう入るかだ。

スタンフォード大学のデジタル経済研究所は、給与計算のADPの匿名データで労働市場を毎月追う指標を2026年6月に公開した。Fortuneの報道によると、AIの影響を強く受ける職業での22〜25歳の雇用は、年3.8%の割合で減っている。データは730を超える職業の460万人分だ。

監督、監査、橋渡しの仕事は、どれも判断の経験を前提にしている。KPMGの調査で監督の技能が壁に挙がり、同時に若手の雇用が減っているなら、経験を積む場そのものが細っていることになる。前回は「判断の根拠を記録に残す習慣を今日から始める」ことを勧めた。この勧めは個人には今も有効だ。組織には、若手が判断の経験を積める仕事を意図して残すことが、新しい宿題として加わった。

Key Points ── 持ち帰る 3 つ
  1. 責任は人に残った。EUのAI法と、FDA・EMAの指導原則が人の監督と記録を求めている。ただし責任の担い手は専任の監査人より経営層で、KPMGの調査では61%が名前のある経営幹部を挙げた。
  2. いちばん伸びたのは橋渡しの仕事だ。複数のAIエージェントを組み合わせる組織は25%に増え、インドではフォワードデプロイドエンジニアの求人が約19倍になった。一方、EUの高リスクの義務は2027年12月と2028年8月に延びた。
  3. 文脈供給の職名と認定の普及は、まだ数字で確かめられない。確かになったのは、境界の仕事が経験者向けであり、AIの影響を強く受ける職業で22〜25歳の雇用が年3.8%減っていることだ。
出典
  1. EU AI Act, Article 14 Human oversight(Regulation (EU) 2024/1689) https://artificialintelligenceact.eu/article/14/
  2. Lewis Silkin「The Digital Omnibus on AI enters into force today」2026-07-27 https://www.lewissilkin.com/insights/2026/07/27/the-digital-omnibus-on-ai-enters-into-force-today-102nedo
  3. FDA・EMA「Guiding principles of good AI practice in drug development」2026-01 https://www.ema.europa.eu/en/documents/other/guiding-principles-good-ai-practice-drug-development_en.pdf
  4. CPA Practice Advisor「EY rolls out agentic AI in assurance…」2026-04-07 https://www.cpapracticeadvisor.com/2026/04/07/ey-rolls-out-agentic-ai-in-assurance-across-its-global-network-of-accounting-firms/
  5. Accounting Today「PwC offering independent assurance on AI systems」2025-06-04 https://www.accountingtoday.com/news/pwc-offering-independent-assurance-on-ai-systems
  6. KPMG「AI Quarterly Pulse Survey Q2 2026(Technology)」 https://kpmg.com/kpmg-us/content/dam/kpmg/pdf/2026/tech-aipulsesurvey-q2.pdf
  7. KPMG「Q3 2026 AI Pulse」2026-09-24 https://kpmg.com/us/en/media/news/q3-ai-pulse-2026.html
  8. Atlan「Do we need a new role called context engineer?」2026-03-17 https://atlan.com/know/do-we-need-context-engineer/
  9. Lightcast「Stanford AI Index 2026」2026-04-13 https://lightcast.io/resources/blog/stanford-ai-2026
  10. NewKerala(IANS)「India's forward-deployed engineer job postings surge 19-fold」2026-10-14 https://www.newkerala.com/news/a/indias-forward-deployed-engineer-job-postings-surge-19-fold-476.htm
  11. CIOMS Working Group XIV「Artificial intelligence in pharmacovigilance」2025-12-04 https://cioms.ch/working_groups/working-group-xiv-artificial-intelligence-in-pharmacovigilance/
  12. Pharmaceutical Commerce「Has AI forever changed governance around PV technology use?」2026-08-27 https://www.pharmaceuticalcommerce.com/view/has-ai-forever-changed-governance-around-pv-technology-use-
  13. CPA Practice Advisor「ISACA launches advanced AI audit certification」2025-05-21 https://www.cpapracticeadvisor.com/2025/05/21/isaca-launches-advanced-ai-audit-certification/161442/
  14. ISACA Now Blog「ISACA introduces Advanced in AI Risk credential」2025-12-05 https://www.isaca.org/resources/news-and-trends/isaca-now-blog/2025/isaca-introduces-advanced-in-ai-risk-credential
  15. Taiwan News「Taiwan to launch national AI application planner certification」2025-01-31 https://www.taiwannews.com.tw/news/6026862
  16. Stanford Digital Economy Lab「AI Economic Indicators」2026-06-10 https://digitaleconomy.stanford.edu/news/stanford-digital-economy-lab-launches-the-ai-economic-indicators-tracking-ais-impact-on-the-economy/
  17. Fortune「What is AI's impact on entry-level jobs?」2026-06-27 https://fortune.com/2026/06/27/what-is-ai-impact-entry-level-jobs-stanford-adp-canaries-brynjolfsson-richardson/

検証メモ: この記事の事実は、出典の頁で確かめた文と数字だけを使っている。二次的な記事にしか無い数字、元の頁を開けなかった数字は使っていない。事実が出典にあるかは Jev(TypeSafe の判定モデル)で点検した。