AIが組織と診断の前提を変える
AI への投資は、いま三つの場所で同時に結果を出している。イスラエルの HoneyBook は AI 主導の再編で従業員の 14% を削減し、米国の FOMC 議事要旨は物価を動かす要因が関税から AI 投資へ移ったと伝えられた。一方で、診断モデルの研究や AI が感情を説明するという報告には、何が検証され何が未検証かという限界がなお残っている。導入の速さを競う話は目立つが、それだけでは判断の材料にならない。この半日の記事を通して浮かぶのは、AI に何ができるかよりも、人の仕事、判断、関係のうちどこまでを任せ、どこから人が持ち続けるかという線引きの問題である。以下の各節は、その線をどこに引くかを考えるための事実を並べている。
イスラエルのHoneyBookは、AI主導の再編で従業員の14%を削減した(Calcalist)。米国ではゴールドマン・サックスが「AIが中間管理職を消す」と雇用の先行きに警告した(NDTV)。さらに英国の専門誌Technology Recordは、エージェント型AIが銀行の業務見直しの契機になるかを論じている。3件に共通するのは、削減や警告の対象が現場の作業にとどまらず、指示を受けて伝え、進捗を取りまとめるという組織の中間の層に及び始めている点だ。ただし、ここで挙げた数字は削減率が一社分あるだけで、ゴールドマンの警告も先行きについての見方にすぎない。確定した全体像として受け取るのは早い。
読者の判断に関わるのは、AI導入の効果を人件費の圧縮という一つの指標だけで測れなくなることだ。HoneyBookのように会社全体の再編としてAIを位置づける場合、削る人数より先に、どの判断や調整をAIに渡し、どれを人に残すかを決めなければならない。銀行業務の見直しについても、Technology Recordは既存の手順にAIを足すのではなく、手順そのものを組み直す機会として扱っている。中間管理職への警告が正しいかどうかは今後の結果で分かる。それでも自社の管理職が担っている仕事を、調整、判断、育成に分けて棚卸ししておくことは、結果を待たずに始められる。
一方で、同じ時期に新しい仕事と学び直しの動きも出ている。ITサービス大手のKyndrylは、米テキサス州フリスコにAI革新ラボを開設し、300人超を雇用する計画だ(Community Impact Newspaper)。ブラウン大学は、AIを前提に授業を作る教員向けのAIリテラシー講座を開いた(Brown Daily Herald)。前者は削減と同じ時期に別の場所で雇用が生まれていることを、後者は教える側が先に学び直しを始めていることを示す。ただし、Kyndrylの300人超が削減された職の人数を埋めるかどうかは、材料からは分からない。減る仕事と増える仕事が同じ人、同じ地域に当たるとも限らない。




