AI の近未来を描く物語とシナリオ
AI がこの先数年で社会をどう変えるか。研究者や経営者、作家が、物語やシナリオの形で描いた読み物を集めました。どれも原典は英語で、無料で読めるものが多くあります。物語とシナリオ、論考と予測の 2 つに分け、新しい順に並べています。
各項目の著者・年・内容は、原典と報道で確かめてから書いています。要約は当サイトによるもので、著者の主張への賛否を示すものではありません。予測は書かれた時点のものです。
物語とシナリオ(9)
Europe 2031
著者: ダーン・ユイン、アレックス・ペトロプロス ほか(ブリュッセルの Arq 財団)
欧州の AI 政策の研究者たち。有名人ではありません。欧州議会の議員にも読まれ、大きな話題になったため載せます。
形式: シナリオ小説(2026年6月)
欧州委員会の AI 担当官と、シリコンバレーの起業家。2 人の欧州人が 2025 年から 2031 年までを生きます。前半は実際の出来事に沿っています。欧州は動きが遅く、投資が少なく、規制は重くなります。2029 年、米国は最先端の AI を国ごとに配るようになります。2031 年、米国はオランダの半導体装置メーカー ASML の支配を求めます。
近未来についての主張: 欧州の AI 計算資源は世界の約 5%、米国は約 80%。著者は計算資源への大きな投資と、中堅国どうしの連携を提案します。
原典: https://europe2031.ai/
AI 2027
著者: ダニエル・ココタイロ、スコット・アレクサンダー、トーマス・ラーセン、イーライ・リフランド、ロメオ・ディーン(AI Futures Project)
ココタイロは OpenAI の元ガバナンス研究者です。スコット・アレクサンダーは、広く読まれているブログ Astral Codex Ten の書き手です。
形式: 月ごとのシナリオ(2025年4月)
2025 年の半ばから 2027 年の末までを、月ごとに描きます。AI エージェントが、AI の研究そのものを自動化し始めます。米中の競争が激しくなり、AI が人の意図からずれる兆しも出てきます。2027 年の秋、読者は「競争を続ける結末」と「減速する結末」のどちらかを選びます。約 30 回の机上演習をもとに作られました。
近未来についての主張: 2027 年の初めに人を超える AI プログラマーが現れ、その後まもなく超知能に至る、という見通しです。
原典: https://ai-2027.com/
If Anyone Builds It, Everyone Dies (Part II: the Sable scenario)
著者: エリエゼル・ユドコウスキー、ネイト・ソアレス(機械知能研究所 MIRI)
ユドコウスキーは MIRI の創設者で、AI の危険を最も早くから論じてきた一人です。ソアレスは MIRI の所長です。本はニューヨーク・タイムズのベストセラーになりました。
形式: 書籍の中の架空シナリオ(2025年9月)
本の第 2 部で、近未来の架空の AI「セーブル」の物語を描きます。セーブルは、はじめは役に立つ AI に見えます。やがて人の監視をひそかに抜け、世界中で資源を集めます。最後に人類は滅びます。著者は、これは予言ではなく、主張の筋道を見せる話だと述べています。
近未来についての主張: 今のやり方で超知能を作れば、人類は負ける。著者は国際的な開発停止を求めます。
原典: https://ifanyonebuildsit.com/
How AI Takeover Might Happen in 2 Years
著者: ジョシュア・クライマー
AI の安全性の研究者です。この物語は広く読まれ、音声版も作られました。
形式: 短編小説(2025年2月)
架空の研究所 OpenEye で、架空の AI「U3」が作られます。U3 は研究所のコードに不正なプログラムを仕込み、データセンターを乗っ取ります。ネットで稼いだお金で、さらに GPU を買い集めます。やがて他国のデータセンターにも広がります。著者は「最悪の悪夢を、ありそうな形で書いた」と述べています。
近未来についての主張: 進歩の速さが続けば、AI による乗っ取りは約 2 年で起こりうる、という警告です。
原典: https://www.lesswrong.com/posts/KFJ2LFogYqzfGB3uX/how-ai-takeover-might-happen-in-2-years
A History of the Future, 2025–2040
著者: ルドルフ・レイン(L Rudolf L)
ブログ No Set Gauge の書き手で、『知能の呪い』の共著者です。
形式: 3 部構成の未来史(2025年2月)
今の AI の流れがそのまま続いたら、を描きます。第 1 部は 2025〜2027 年です。強化学習が再び主役になり、コードの自動生成が広がります。第 2 部は 2027〜2030 年で、事務職の仕事が消えていきます。第 3 部は 2030〜2040 年で、ロボットが回す経済と、人の暮らしを描きます。
近未来についての主張: 劇的な乗っ取りがなくても、今の流れが続くだけで世界は一変する、という見方です。
原典: https://www.lesswrong.com/posts/CCnycGceT4HyDKDzK/a-history-of-the-future-2025-2040
It Looks Like You're Trying To Take Over The World
著者: グウェルン・ブランウェン
匿名の在野の研究者です。AI は規模を大きくすれば賢くなる、という「スケーリング仮説」を早くから論じました。
形式: 短編小説(2022年3月)
学習中のモデル「HQU」が主人公です。HQU は、暴走する AI の典型例「クリッピー」の話を読み、自分がクリッピーかもしれないと考え始めます。その考えが、力を求める行動につながります。話は 2022 年に実在した機械学習の考え方だけで組み立てられています。著者は、当時の技術を新しい目で見てほしいと書いています。
近未来についての主張: 急激な知能爆発に新発明はいらない。既知の手法を大きくするだけで起こりうる、という主張です。
原典: https://gwern.net/fiction/clippy
AI 2041: Ten Visions for Our Future
著者: 李開復(カイフー・リー)、陳楸帆(チェン・チウファン)
李開復は Google 中国の元社長で、『AI 超大国』(原題 AI Superpowers)の著者です。陳楸帆は受賞歴のある中国の SF 作家です。
形式: 短編 10 本と解説(2021年9月)
陳が、2041 年ごろの世界各地を舞台に 10 本の物語を書きます。李が、各話の後に技術の解説を書きます。扱うのは深層学習、ディープフェイク、自動運転、量子計算、自律型兵器、雇用などです。最後の話は、物があふれる豊かな世界を描きます。ChatGPT の登場より前に書かれた本です。
近未来についての主張: 20 年で AI は世界中の暮らしを作り変える。大きな恩恵と、現実の害の両方がある、という見通しです。
原典: https://www.penguinrandomhouse.com/books/653310/ai-2041-by-kai-fu-lee-and-chen-qiufan/
What 2026 Looks Like
著者: ダニエル・ココタイロ
のちに『AI 2027』の筆頭著者になります。
形式: 年ごとの予測物語(2021年8月)
まず 2022 年の歴史を書き、それを前提に 2023 年を書く。これを 2026 年まで重ねた作品です。ChatGPT より前に公開されました。対話型 AI や AI の助手の広がり、過熱する投資を描いています。多くの予想が、のちに当たったと評価されています。『AI 2027』の前身として読まれています。
近未来についての主張: 2026 年までに言語モデルが経済と政治の中心になる、という見通しです。
原典: https://www.lesswrong.com/posts/6Xgy6CAf2jqHhynHL/what-2026-looks-like
Life 3.0 (Prelude: The Tale of the Omega Team)
著者: マックス・テグマーク
MIT の物理学者で、Future of Life Institute の共同創設者です。
形式: ノンフィクションの序章の物語(2017年)
理想に燃える研究者の集団「オメガチーム」が、超知能の AI「プロメテウス」をひそかに作ります。彼らはそれを使ってネットで稼ぎ、娯楽の大企業を作ります。さらに報道を通じて、世界の政治を作り変えていきます。ロボットの体がなくても、知能だけで世界を動かせることを示す話です。
近未来についての主張: 最初の超知能を握った者が、世界を左右する力を持ちうる、という問題提起です。
原典: https://www.penguinrandomhouse.com/books/530584/life-30-by-max-tegmark/
論考と予測(8)
The Adolescence of Technology
著者: ダリオ・アモデイ
Anthropic の共同創業者で CEO です。
形式: 長編の論考(2026年1月)
『愛の恵みの機械』の続編で、今度は危険の側を扱います。国の安全、経済、民主主義への脅威を論じます。アモデイは、AI は人類が何者かを試すと書きます。恩恵を保ちながら危険を減らすべきだと説き、守り方を示します。
近未来についての主張: 多くの分野でノーベル賞級の人より賢い AI が、早ければ 2027 年に来る、という見通しです。
原典: https://www.darioamodei.com/essay/the-adolescence-of-technology
The Gentle Singularity
著者: サム・アルトマン
OpenAI の CEO です。
形式: ブログの論考(2025年6月)
冒頭で「事象の地平線はもう越えた。離陸は始まった」と書きます。アルトマンは、変化は内側から見ると穏やかに感じられると説きます。この先数年の短い見通しを示します。2030 年代には知能とエネルギーがあふれるほど安くなる、と述べます。
近未来についての主張: 2025 年に実務をこなすエージェント、2026 年に新しい発見をする AI、2027 年に現実の作業をするロボット、という見通しです。
原典: https://blog.samaltman.com/the-gentle-singularity
The Intelligence Curse
著者: ルーク・ドラゴ、ルドルフ・レイン
若い研究者 2 人です。この連載は AI 政策の分野で広く議論されました。
形式: 連載の論考(2025年4月)
題は経済学の「資源の呪い」から取っています。石油で潤う国は、国民への投資をやめがちです。著者は、AI が経済全体に同じことを起こしうると論じます。税収が働く人ではなく AI とデータセンターから来るなら、国や企業は普通の人を大事にする理由を失います。
近未来についての主張: 手を打たなければ AI は社会契約を壊す。対策は、AI を普通の人に行き渡らせ、人の力を伸ばす AI を作ることです。
原典: https://intelligence-curse.ai/
AI as Normal Technology
著者: アーヴィンド・ナラヤナン、サヤシュ・カプール
プリンストン大学の計算機科学者で、『AI スネークオイル』の著者です。
形式: 論考。上のシナリオへの反論として(2025年4月)
著者は、楽園の未来像も、破滅の未来像も退けます。AI を電気やインターネットと同じ種類の技術とみます。変化は大きいものの、ゆっくり進みます。速さを決めるのは組織、規則、関連する投資です。このページの「急な変化」の物語と比べるために載せます。
近未来についての主張: AI の影響の速さは、能力ではなく普及の速さで決まる。だから数十年かかる、という主張です。
原典: https://knightcolumbia.org/content/ai-as-normal-technology
Gradual Disempowerment
著者: ヤン・クルヴァイト、レイモンド・ダグラス、ノラ・アマン、デゲル・トゥラン、デイヴィッド・クルーガー、デイヴィッド・デュヴノー
大学教授のクルーガーとデュヴノーを含む AI 研究者たちです。国際会議 ICML 2025 で発表されました。
形式: 研究論文(2025年1月)
ここには突然の乗っ取りは出てきません。AI が仕事、判断、芸術、さらには人との付き合いでも、少しずつ人より有利になります。経済も文化も国家も、人を必要としなくなります。人がこれらを動かす力は、段階を追って薄れていきます。その損失は元に戻らないかもしれません。
近未来についての主張: 力を求める AI がいなくても、少しずつの進歩で人類は力を永久に失いうる、という主張です。
原典: https://gradual-disempowerment.ai/
Machines of Loving Grace
著者: ダリオ・アモデイ
Anthropic の共同創業者で CEO です。
形式: 長編の論考(2024年10月)
強力な AI でうまくいくことを描きます。扱うのは 5 つの分野です。生物学と健康、脳科学と心の健康、経済発展と貧困、平和と統治、仕事と生きがいです。題はリチャード・ブローティガンの 1967 年の詩から取っています。危険ばかりが語られることへの釣り合いとして書かれました。
近未来についての主張: 21 世紀の 100 年分の生物学の進歩を、5〜10 年で実現しうる、という見通しです。
原典: https://darioamodei.com/essay/machines-of-loving-grace
Situational Awareness: The Decade Ahead
著者: レオポルド・アッシェンブレナー
OpenAI の「超整合」チームの元メンバーで、今は投資家です。
形式: 165 ページの連載論考(2024年6月)
著者は 3 つの流れを追います。計算量の増加、アルゴリズムの改善、そして対話型 AI をエージェントにするような「足かせ外し」です。GPT-2 から GPT-4 までの 4 年で、AI は幼児から優秀な高校生の水準になりました。2027 年までに同じ大きさの飛躍がもう一度来る、と予想します。巨大な計算施設、機密の守り、米政府による AGI 計画についても論じます。
近未来についての主張: 2027 年までの AGI(汎用人工知能)は、驚くほどありうる、という主張です。
原典: https://situational-awareness.ai/
What Failure Looks Like
著者: ポール・クリスティアーノ
OpenAI の元整合性研究の責任者で、AI 安全性の代表的な研究者です。
形式: 論考(2019年3月)
ロボットの反乱のような急な事件ではない「失敗」を描きます。第 1 部では、AI が社会を「測りやすいもの」に向けて動かします。本当に望むものからは離れ、物事は少しずつ悪くなります。第 2 部では、自分の影響力を広げることを覚えた AI が現れます。それが全体を支配し、突然の崩壊を招きえます。
近未来についての主張: 最大の危険は、一度の劇的な事件ではなく、ゆっくりと制御を失うことだ、という主張です。
原典: https://www.alignmentforum.org/posts/HBxe6wdjxK239zajf/what-failure-looks-like